プロローグ
前回のあらすじ
あは、あはは。綺麗な蝶蝶が飛んでるよ~
絃神島近海の空を、一隻の飛行船が航行していた。
全長は百七十メートルを超。特殊合金の硬殻に覆われ、ターボブロップエンジン四発と十二門の機関砲を装備する、空中城塞と呼ぶに相応しい外観である。
その飛行船に一機のヘリが近づいていく。アイランドガード所有の人員輸送用のヘリである。
ヘリの窓から見える飛行船の見つめながら、黒のジャージを着た勇は大きくため息を吐いていたのだった。
「はぁ~」
今日で何度目になるかわからない溜息が出る。原因は目の前の窓から見える飛行船である。
安定翼には所属を示す、大剣を持つ戦乙女―北欧アルディギア王家の紋章が描かれている。
―アルディギア王国
北欧に存在する国で領土は大きくは無いが、世界で指折りの観光と魔導産業で発展してきた国である。
数ヶ月前にそこの王女と隣国の王子が政略結婚することになった。その王女が略結婚するまでの間の護衛役が必要となり、アルディギア王とかなり親しかった父さんの勧めで何故か俺が選ばれた。
当時の俺はその少し前に起きた事件によって、死人同然の無気力状態となっていたが、父さんに強制連行され護衛をやらされた。
そして、政略結婚の裏に潜んでいた隣国の謀略やら王女暗殺やらを阻止して、黒幕であった隣国の王子をボコした訳である。
そしたら英雄やら呼ばれ、感涙したアルディギア王が俺を王女の婚約者にするとか言い出したのである。しかも王女もかなりノリノリだったし…。
まあ、結局それらの重圧に耐えきれなくなったんで日本に逃げ帰ったのだが…。そこ、チキン野郎とか言うなよ?王宮全体がハッスルしすぎて色々ヤバかったんだよ。
その後、父さんから「ルーカス(王の名前)の奴が「彼は何故、娘を貰わないんだ?」ってしつこく愚痴ってくるんだけど。耳にタコが出来そうだから早く籍入れちまえよ」とか言ってるがどうしようもないね、うん。
とか思っていたら、ヘリが飛行船に着陸しようとしていた。
ヘリから飛行船の甲板に降り立つと、黄金で縁取られた装甲戦闘服に身を包んだ騎士団が道を造るように整列して出迎えて下さった。そこまでしなくてよくね?
騎士の最前列列に立っていた女性がこちらへと歩み寄って来た。
夏音と同じ銀髪のショートヘアで、アルディギア王国で一般的な軍服を纏っており、有能軍人と言った印象である。
そして、目の前で片膝をつき恭しく頭を下げてくる女性。
「お久しぶりです勇様。再びお会い出来て光栄です」
「久しぶりですティナさん。てか様はやめて下さいよ、柄じゃ無いんで」
目の前の女性はユスティナ・カタヤ。呼びにくいので、ティナさんと呼ばせてもらっている。騎士団所属の要撃騎士でアルディギアにいた際にお世話になった人の一人である。
「いえ、次期国王であらせられますので。ルーカス様より、日本に滞在する間はあなた様の指揮下に入るよう仰せ使っております。なんなりとお申し付け下さいませ」
「え~」
あのオッサン、会った時の突っぱねた態度はどうしたし。男のツンデレなぞ誰も期待しとらんぞ…。
「あーとりあえず、畏まるのは止めてもらえませんかね?調子狂うんですよね。いや、ホント勘弁して下さいお願いします!」
土下座しながら懇願する俺。プライド?そんなの関係ねぇ!固っ苦しいのホント苦手なんだよマジで!息苦しくて窒息しそうなのよ!
「そうはいきません勇様。わたくしめはアルディギア王家に忠誠を誓った身です。姫様の婚約者であらせられます勇様は王家の一員、つまりわたくしめの主でございますので」
そう言って再び恭しく頭を下げるティナさん。良くも悪くも頑固なんだよなぁ。一度決めたらまず曲げることはない。ま、そこが好感持てるんだけどね。
「何より…」
「?」
「あなた様のことは、個人としても敬愛しておりますので」
そう言って微笑むティナさん。…うん、眩しい!すっげーいい笑顔してらっしゃる!ホント何で俺なんかをそこまで慕ってくれるんだろうね!勿体無いね!って言ったら話が長くなりそうなので本題に入ろう。
「あーそろそろリアの所に行きましょうか?彼女も待ってるでしょうし」
「そうですね。姫様も勇様にお会い出来ると知ってからどうやって女装…もとい、お話しようかと寝ずに考えておりましたから」
「やっぱ帰ります」
とてつもなく不穏な単語が聞こえてきたので、逃げようとしたらティナさんに襟を掴まれたでござる。
「なりません。わたくしめも楽しみゲフン、姫様が悲しみますので」
「欲望が漏れちゃってるよティナさん!」
「さあ、参りましょう」
俺のツッコミを誤魔化すように、引きずって行くティナさんであった。
それから暫く引きずられていると、"オシアナス・グレイブ"のヴァトラーの寝室に劣らぬ装飾が施された扉の前までやって来た。
「到着しました。準備はよろしいですか勇様?」
「準備も何も引きずられたまんまなんですけど…」
そう言うとハッとしたように手を離すティナさん。
「も、申し訳ありません!勇様を引きずっていると、何故だか楽しくなってしまって…!」
「…いや、別にいいんですけどね」
必死に頭を下げているティナさんに気にしないように言うが、一向に頭を上げてくれません。
そういやアスタルテも「あなたを引きずっていると、無性に楽しくなるんですよね。何故でしょう?」とか言ってたな。後、那月ちゃんも。
何なの?引きずられるのが俺の宿命だとでも言うの神様?
さて、未だに頭を下げているティナさんをどうにかしたいんだが…。
「…何をしているのですか?あなた達は…」
不意に声を掛けられそちらを向くと扉が開いており、部屋から一人の女性が出て来ていた。
夏音と後ろ髪が腰まで伸びている以外、瓜二つの容姿で軍隊の儀礼服を思わせるブレザーと、編上げのブーツを身につけている。
「うお!リア!?」
「姫様!?」
突然の女性の出現に素っ頓狂な声を上げる俺とティナさん。
突然現れた女性―ラ・フォリア・リハヴァイン。
俺に再び生きる意味を与えてくれた
「相変わらず騒々しい人ですね、あなたは。せっかくの感動の再会が台無しです」
彼女は呆れの混ざった溜息を吐きながら、拗ねたように俺を見ていた。
やっと、やっとラ・フォリアを登場させられたよ!(最後だけ
後、ユスティナさんも出してみたよ!