ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

19 / 63
書いてたら無駄に長くなってしまったでござる。


第十話

前回のあらすじ

小さいと言うな

 

「ひ…姫柊?」

 

古城が突然現れた姫柊の名前を呼ぶと、無感情な冷たい瞳で小首を傾げる姫柊。怖いです、はい。

 

「はい。何ですか?」

「え、と…どうしてここに?」

「監視役ですから。私が、先輩の」

 

倒置法で強調しながら、槍の穂先を古城に向ける姫柊。無表情で古城と煌坂と緋色の双角獣(バイコーン)を見比べている。

 

「新しい眷獣を掌握したんですね、先輩」

 

抑制のない冷たい声で姫柊が訊くと、古城と煌坂が目を合わせる。

 

「あ、ああ。何故か、色々とあってこんなことに」

「そ、そう。不慮の事故と言うか、不可抗力的な何かがあって」

 

互いにそう言い訳すると、助けを求めるようにこちらを見てくる。こっち見んな。

 

「だそうですが、神代先輩」

 

何で止めなかったんですか?と目で訴えながら俺に槍を向けてくる姫柊さん。オラは悪くねぇだ。

 

「当方の感知しない場所で行われたことなので、責任は負いかねます」

 

両手を挙げながら無実を訴えると、判って下さったようで槍を古城へ向け直す姫柊さん。た、助かった…。

 

「浮気が発覚した夫婦と浮気相手の言い訳に巻き込まれた友人、ですか。興味深いです」

 

俺の背に隠れていたアスタルテがじーっと、古城達のやり取りを観察していた。

 

「楽しそうに見なくてよろしい。何を期待しているんだ」

「略奪愛と言う言葉を知っていますか?」

「…お前は昼ドラの見過ぎだ。つーかそんなドロドロしたものだったか昼ドラって?」

 

そういうことは学習しなくていいんだが。てか無表情の筈なのに、獲物を定めた野獣のような目で見られたような錯覚を覚えたぞ。

とか話している内に姫柊が溜め息を吐くと、ナラクヴェーラに雪霞狼を構え直していた。

 

「では、その話はまた後で。まずは彼らを片付けましょう」

「あ、ああ」

 

そうしようそうしよう、と頷く古城。妻の追及を一先ず逃れて安堵している夫の図である。

 

「んじゃま。こっからはクライマックスといきますか、アスタルテ!」

 

アスタルテに合図すると、薔薇の指先(ロドダクテユロス)の手の平に飛び乗る。

そして宙高く放り投げられると、女王型目掛けて落下していく。

それを阻もうと小型がレーザーを放ってくるが、大剣形態の獅子王を盾にして受け流す。

そのまま落下し、女王型を間合いに捉え獅子王を振り下ろすが、後方に飛び退かれて避けられてしまう。

 

「チッ!思ったより素早いな」

 

思わず舌打ちしていると、女王型から戦輪(チャクラム)が飛んできたので、獅子王を横薙ぎに振るい風圧で吹き飛ばす。

 

「さすがにやるではないか、アルディギアの英雄!」

 

薙ぎ払った戦輪(チャクラム)の爆発音が響く中、女王型からガルドシュの感心したような声が聞こえてきた。

やはり女王型には奴が乗り込んでいるようだが―

 

「感心するのは結構だが、俺ばかり気にしてると怪我するぜ」

「何?」

 

ガルドシュが疑問の声を挙げていると、俺の頭上を雷光の獅子が飛び越えて来る。

小型を薙ぎ払いながら、"獅子の黄金"(レグルス・アウルム)が女王型に突進し、一緒に海へとダイブする。ってそんなことしたら―

 

「うおっと!?」

 

"獅子の黄金"(レグルス・アウルム)を電流が水蒸気爆発を起こし、巨大な水柱が巻き起こり、豪雨となって降り注いだ。

 

「冷て!?おい古城何やってんだ!気をつけやがれ!」

「わ、悪りぃ!でも、こいつら加減ってのを知らねぇんだよ!」

「泣き言いうな!男ならやってみせい!」

「無茶苦茶だ!」

 

古城と言い合ってると女王型が海面から起き上がり始めた。

 

「寝てろボケェ!」

 

女王型目掛けて飛び上がり、踵落としで再び海に沈める。

 

「古城!」

「行け!"双角の深緋"(アルナスル・ミニウム)!」

 

古城が双角獣(バイコーン)へ命ずると、衝撃波で海を割っていく。

続いてあらわになった女王型へと衝撃波の弾丸を叩き込んだ。

直撃した女王型は海底に押し込まれて巨体の半分が埋もれ、割っていた海が元に戻りその姿を覆い隠していった。

 

「やったか…」

 

古城が脱力しながら呟く。さすがに二体の同時制御に疲れたようである。

 

「残念だが、まだ終わりじゃないぞ」

「え?」

 

古城が間抜けな声を挙げていると、真紅の閃光が飛来して来た。

 

「ボサッとしてんじゃないわよ、暁古城!」

 

油断していた古城の前に煌坂が立ち、持っている剣で閃光を防ぐ。

"獅子の黄金"(レグルス・アウルム)に破壊されたはずの小型が、再び動き出していたのである。

さらに最初に"双角の深緋"(アルナスル・ミニウム)が破壊した一機も立ち上がっていた。

 

「自己修復…!?あんな状態でも復活出来るのか!?」

「それだけじゃないわ。破損した装甲の材質を変化させて、振動と衝撃への抵抗を増してる。あなたの攻撃を解析して対策してるのよ」

「さすが"天部"が造っただけのことはあるねぇ。面倒くさいことこの上ねぇな」

 

しかも他の機体同士で情報をやり取りして共有してるみたいだ。たとえ一機壊しても他の機体がその情報を元に進化し、自己修復によってやがて自身も進化するか、マジ面度くせぇな。

 

"獅子の黄金"(レグルス・アウルム)の攻撃に耐えたのも、すでに学習を終えてたせいか。攻撃を受けるたびに強くなる…って、そんなものどうやって倒せばいい!?」

「いや、対策はある。そうだろう姫柊?」

 

そういって視線をう姫柊へと移す。

先程から落ち着いている様子から、何かしらの対応策を知っているのだろう。

 

「はい、あります」

「本当か姫柊!?」

「さっすが私の雪菜!」

 

力強く頷く姫柊に歓喜の声を挙げる古城と煌坂。つーか「私の」は関係無いだろう煌坂よ…面倒だからツッコまんが。

 

 

「―そうですよね、モグワイさん」

 

姫柊が取り出した薄桃色のスマートフォンに呼びかけると、機械的な声で返事があった。

 

『おう。浅葱嬢ちゃんが、逆襲の段取りをきっちり済ませておいてくれたからな』

「浅葱が…?」

 

告げられた名前に唖然としている古城に構わず、姫柊が説明を続ける。

 

「藍羽先輩は、ナラクヴェーラの制御コマンドを解読しながら、こっそり新しいコマンド(・・・・・・)を作ってたんです」

『ナラクヴェーラの自己修復機能を悪用して、連中を自滅させる―一種のコンピューター・ウィルスだな。名付けて『おわりの言葉』ってところか』

「ウィルスって…そんな簡単に作れるものなのか?」

「普通なら無理だが…」

 

人が造った物ですらないのだから、そもそも石版の解読すら出来る筈が無いのだが…。

 

『それを作っちまうのが、あの嬢ちゃんのおっかねえところでな…"電子の女帝"を本気で怒らせたのが、テロリスト共の運の尽きってやつだ。お前さんもせいぜい嬢ちゃんの機嫌をそこねないように気をつけるんだな。ククク…』

 

モグワイがからかうような口調で言うと、古城は黙って肩をすくめ。

 

「それで、俺達は何をすればいいんだ、姫柊?」

「ナラクヴェーラは音声コントロールです。女王ナラクヴェーラの中に入って、藍羽先輩が作った音声ファイルを流せば、すべての機体が停止するはずです」

 

そう言って姫柊が海へと視線を向けると、海底に沈んでいた女王型が自己修復を終えて這い上がってきていた。

 

「あのでかい奴の中に入る…って、どうやって?集中砲火の餌食だぞ。せめてあいつらの動きを止めないと…」

「ちっこい方は俺が引き受けるから、その間にデカ物を止めな古城」

「それじゃお前が危険過ぎるだろう。それなら俺がやるよ」

「いらん心配すんなっつうの。陽動なら小回りのきく俺が適任だろうよ」

 

回復力なら古城が上だが、陽動なんて細かい作業は俺の方が向いてるから、現状それが最善なんだよ。

 

「いいえ、ナラクヴェーラの動きは私が止めるわ」

 

そう言って煌坂が前へ歩み出る。

 

「出来るのか煌坂?」

「ええ。"煌華鱗"のもう一つの能力見せて上げるわ」

 

俺が問い掛けると自身満々に答えた煌坂が剣を前に突き出すと、刀身が前後に割れた。さらに、鍔に当たる部分を支点ににして、割れた刀身の半分が百八十度回転し、銀色の強靭な弦が張られた。西洋式の弓へとその姿を変える。

そして自らの太腿に巻いていた革製のホルスターから、金属製のダーツを取り出した。それを右手で一閃すると、銀色の矢へと伸び変わる。

 

六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)。これが"煌華鱗"の本当の姿よ―」

 

新しい玩具を自慢する子供のような表情で、煌坂が笑う。

それを見た古城がドキッとしたような顔をし、姫柊に冷めた目で睨まれていたが…。

そんな二人を置いて、流れるような美しい仕草でやをつがえ、力強く弓を引き絞っていく煌坂。

 

「――獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る」

 

姫柊とは違った祝詞を紡いでいくと、"煌華鱗"が彼女の呪力を増幅し矢へと装填している。

 

「極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり―!」

 

祝詞を紡ぎ終わると、矢を空へと撃ち出す。

大気を引き裂く甲高い飛翔音が、慟哭の声にも似た忌まわしい遠鳴りへと変わった。音を武器とする能力、つまり―。

 

「鏑矢、か。あの音は詠唱だな」

「そう、人体では唱えられない喪われた秘呪を詠唱するために開発されたのが"煌華鱗"よ」

 

鏑矢が唱えた呪文がサブフロートを覆う魔法陣を形成し、そこから膨大な"瘴気"がナラクヴェーラへ降り注ぐ。

すると機能を阻害された古代兵器が地面に伏せていく。

 

「先輩!」

「勇さん」

 

姫柊が銀の槍を閃かせ、アスタルテが眷獣を身に纏い駆け出し、俺と古城がその後に続く。

俺や古城の体でも耐え切れるか判らない瘴気を、雪霞狼とその能力をコピーしている薔薇の指先(ロドダクテユロス)で無効化しながら女王型目掛けて突き進んで行く。

ちなみに獅子王は持ち主が断てると思ったものを切断する能力なので、獅子王で瘴気を薙ぎ払っても分断するだけで無力化出来ないのである。

 

疾や在れ(きやがれ)"獅子の黄金"(レグルス・アウルム)双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

 

古城が呼び出した雷光の獅子と緋色の双角獣(バイコーン)が左右から女王型へと襲い掛かる。

雷撃でも無い。衝撃波でも無い、左右からの同時攻撃が生み出した膨大な爆圧が女王型を粉砕した。

女王型が機能停止したので、小型の方も動かなくなった。

 

「眷獣二体による同時攻撃かやるじゃないの」

「ああ、ヴァトラーの奴の真似をしてみたんだが、上手くいったぜ」

 

なるほど、あの蛇の合成眷獣を見て思いついた訳ね。単体での攻撃は学習されたけど、二体の力を合わせれば通用するって踏んだのか。

 

「んじゃ。後は俺に任せて貰いますか!」

 

そう言って女王型のコックピットに視線を向けると、獣人化したガルドシュが姿を現す。

体が血まみれで右腕に切断された後があるが、おそらく姫柊が合流前につけた傷だろう。

 

「やられた借りは返させてもらうぜ、オッサン!」

「来い!アルディギアの英雄よ!」

 

ガルドシュ目掛けて駆け出すと、呼応するように女王型から飛び降り左手でナイフを引き抜いてきた。

 

「ふん!」

 

加速した勢いのまま日本刀形態の獅子王を振り下ろすが、体を軽く捻っただけで避けられてしまう。

そして左手のナイフが喉元を裂こうと振るわれるが、刀を振り下ろした勢いを殺さずに前転して回避する。

 

「―はははっ!戦争は楽しいな、アルディギアの英雄よ!」

 

狂ったように笑いながらナイフを突き出してくるガルドシュ。

暴風のような猛攻を慌てることなく見切りながら、ナイフを切り落とそうとするが、読まれているようで簡単に切り結ばせてくれない。

さすがに数多くの戦場を渡り歩いてはいないようだな。だが―。

 

「負ける気は無いんだよ!!」

 

負けじと獅子王を繰り出していく。互いの闘志がぶつかり混じり合っていった―。

 

 

 

 

 

「ねえ、暁古城」

「何だよ煌坂?」

 

目の前で繰り広げられている激闘を見ながら、紗矢華が古城へ問い掛ける。

 

「いや、あれって加勢しなくていいの?」

 

そう言って勇とガルドシュの方を指差す紗矢華。

 

「あー、アイツが『任せろ』って言ってたし、大丈夫だろう」

 

頭を掻きながら答える古城にふぅんと納得した様子の紗矢華。

実際に割って入れと言われても、遠慮願いたいので別にいいのだろう。

 

「先輩こちらは終わりました」

「ああ、お疲れ姫柊」

 

こちらに駆け寄って来る後輩に労いの言葉を掛ける古城。

勇が戦っている間に、女王型のコックピットに乗り込み『おわりの言葉』を流していたのである。

弱弱しい泣き声が流れ出すと、すべての古代兵器が朽ちた木のように地面に転がっていった。

自己修復機能の暴走によって、自分自身を砂へと変換していくナラクヴェーラ。

だが、ガルドシュにとっては最早どうでもいいことなのだろう。ひたすらに勇との戦いに没頭していた。

 

「あの、本当に私達見ているだけでいいんでしょうか?万が一と言うこともありますし…」

 

勇が心配なのだろう。先程紗矢華が質問したことを古城する姫柊。

そしてそれに答えたのは古城ではなくメイド服を着た少女だった。

 

「問題ありませんミス・姫柊。あの人は必ず勝ちます」

 

勇の従者アスタルテは主の勝利を確信した目で見守っていたのだった。

 

 

 

 

 

「ぬおらぁ!」

 

何回目になるか判らない斬撃を避けられる。

お返しと言わんばかりに突き出されるナイフを紙一重で避けると、どちらともなく距離を置いた。

互いの体には無数の切り傷が出来ており、そこから流れ出る血でその身を赤く染めていた。

 

「おい、ナラクヴェーラが壊されたがいいのか?」

 

チラッと視線を横に逸らすとナラクヴェーラが砂となって風に流されていく。古城達がやってくれたようだ。

 

「ふはは!もう、そんなことはどうでもいい!今、この瞬間を楽しめればなぁ!」

 

そう言って狂ったように笑うガルドシュ。最早奴にとって第一真祖打倒やら何やらはどうでもいいらしい。随分楽しそうである。

 

「そう言えばさっき、戦争は楽しいっていってたなあんた」

「ああ、そうだ!命のやり取り以上に心躍ることがあるか!そうだろうアルディギアの英雄!戦っている時のお前の顔は実に楽しそうだぞ!」

「ま、否定はしねぇな」

 

実際に戦っている時は言いようの無い高揚感に包まれるし、強敵に会えれば心躍るさ。

 

「けどよ。そんな人生つまんねえし、戦わずに済むならそれが一番だって俺は思う」

 

戦いで得られる幸せ何て一瞬だ。次の快楽を得るために戦たって自分を傷つけてやがて壊れちまう。そんな生き方俺は嫌だね。

 

「ならば、何故お前は戦う!何のために命を掛ける!」

「戦い以外だって、楽しいことはいっぱいある。家族や友達、好きな人と笑っていたい人がいるんだ。でも、世界はそんな当たり前の幸せを理不尽に奪おうとする奴らがいる。そんな理不尽に抗いたくても抗えない人達がいる。だから、そんな人達のために俺は戦う!」

 

そう言って上段の構えを取る。正直体力の限界なので、次の一撃で終わらせる。

 

「ハッハッハァッ!面白いことを言う!ならば見せてみろお前の覚悟をッ!」

 

受けて立つと言わんばかりにナイフを構えるガルドシュ。どうやら向こうも限界らしい。

静寂が場を包む、どちらも仕掛けるタイミングを伺っているのだ。

そして砂となったナラクヴェーラが、俺たちの間を通り過ぎると同時に互いに地を蹴った。

 

「チェストォォォォォォォォオオオ!!!」

「ヌオォォォォォォォォォォオオオ!!!」

 

互いの刃が交差し、駆け抜けたまま時が止まったように動かなくなる。

少しの間の後、ガルドシュの体が崩れ落ちた。

 

「ふぅ…」

 

残心を解き刀を鞘に納めると、ガルドシュへと歩み寄る。

ちなみに殺してはいない。獅子王は持ち主が断つと思ったものだけを切断する刀、逆に断たないと思えば切断することは無い、つまり峰打ちが簡単に出来るのだ。便利だね。

 

「敗れ、たか…」

 

仰向けに倒れているガルドシュが掠れた声で語りかけてきた。つーかまだ意識があったのか、タフだねぇ。

 

「よっと。どうだい満足したかい?」

 

ガルドシュの隣に座り込んで問い掛けると、はははっと笑うが先程までの狂気じみたものではなく、憑き物が落ちたような晴れやかさだった。

 

「ああ、十分だ。最早思い残すことは無い」

「そうかい。で、一つ聞いておきたいんだが」

「何だ?」

「学校で俺を撃った時、何で俺を生かしたんだ?」

 

そう、あの時俺を殺すことが出来たのにしなかった。その理由を知っておきたかった。

 

「…お前を見ていると、昔を思いだして、な」

「昔?」

 

よっと体を起こして胡坐をかいて、懐かしむように告げてくるガルドシュ。

え、もう起き上がれるの?マジでタフ過ぎね?

 

「ああ、私も昔は多くの人の幸せを守りたくて軍人となったのだ…」

「そう言えば元は軍人だったけか、あんた」

「そうだ。だが、聖域条約が締結されてからは同族が虐げられていくのが許せなかった」

「だからテロリストになったのか?」

「少しでもこの世界を変えたくてな…。だが、戦っていく内に何のために、だれのために戦っているのか判らなくなってな。やがて戦いの快楽に溺れて、自分がどこに向かっているのかすらも判らなくなってしまった」

 

自嘲気味に笑うガルドシュ。その姿は許しを請うているようだった。

 

「自分で自分を止められなくなっていく、そんな中お前と出会った。その真っ直ぐな目を見て、お前なら私を止めてくれるかもしれんと思ってな」

「迷惑極まりないなオイ」

 

おかげで死に掛けたんだぞこっちは。

 

「自覚している。許せとは言わん、私の我がままにつきあわせてすまなかったな」

「ま、もう終わったことだし、別にいいけどさ」

 

肩を竦めてそう告げるとはははと、どちらともなく笑っていた。

 

「楽しそうに話している所悪いけど、お邪魔させてもらうヨ」

「ん、ヴァトラーか、てか今まで何してたんだよお前」

 

背後から声がしたので振り返ると、いつの間にか近づいてきていたヴァトラーがいた。戦い始めてから姿を見ていなかったなそういや。

 

「何、君の戦う姿に見取れていただけさ」

 

うっとりとした表情で優雅に前髪を掻き上げるヴァトラー。キモイとしか言いようがなかった。

 

「…何か用か?」

 

コイツとは関わりたくないので、さっさと消えてもらいたい。

 

「黒死皇派の身柄は、ボクが引き取らせてもらうけどいいよね。彼らは戦王領域の法で裁く。船も沈められてしまったし、せめてそのくらいの働きはしないとボクの沽券に関わるからね」

「お前の沽券が今更どうなろうが知ったこっちゃ無いが…。どうせ断っても無駄だろうけどよ」

 

そう言って視線をガルドシュに移す。とりあえず本人の意見も聞いておきたい。

 

「構わんさ。この男が日本政府に引渡しを要求することも出来るのだからな」

 

肩を竦めて自力で立ち上がりるガルドシュ。最初からこうなるって判ってた訳か。

 

「そうそう。彼らを処刑したりはしないから、安心してくれ。ボクの命を狙ってくれる貴重な強敵(とも)を、殺したらつまらないからね」

「言っておくが、私はもうそんなつもりはないぞ」

「それは残念。ま、いいさ勇が悲しむことはしたくないからね」

 

ガルドシュがそう告げると、残念そうに肩を竦めるヴァトラー。

 

「だったら、早くこの島から出ていけや」

「それは出来ないな。君と式を挙げて連れ帰るまではね。いや、ボクがこの島に住むのもありか…」

「もういいから、さっさと逝けやボケェ!」

 

不吉過ぎることを言っているヴァトラーを殴り飛ばすと、海面に着水し沈んでいった。

 

「もう二度と上がってくるんじゃねえぞ」

「勇」

「ん?どしたオッサン」

「友を大切にしろよ。そうすればお前が道を外すことはあるまい」

 

古城達を見ながら告げてくるガルドシュ。ちなみに姫柊さんの事情聴取が再会され、必死に言い訳している古城と煌坂だった…。

 

「ああ、しっかりと罪を償ってこいよオッサン」

「うむ。さらばだ"友"よ」

 

そう言って、やって来たアイランド・ガードに連行されていくガルドシュ。

一先ず日本側で確保して戦王領域に送られるのだろう。

 

「勇さん」

「アスタルテ、君もお疲れ様」

「はい、では行きましょうか」

 

隣にやって来ていたアスタルテに労いの言葉を掛けると、何故か襟を掴まれて引き摺られていく。

 

「え?行くってどこにですかアスタルテさん?」

「無論、病院です。しっかりと療養してもらいます」

「いや、大丈夫だって家一晩寝れば「ならMARの研究所にお連れしますが?」判りました!行きます!病院に行きますから、あそこはやめてぇぇぇぇ!!」

 

深森さんの所に行ったら確実に女装させられちゃうから!それだけは嫌じゃぁぁぁぁぁ!

 




何か最後ら辺ガルドシュさんのキャラ変わり過ぎたかも…。
とにかく次回で戦王の使者編終了予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。