前回のあらすじ
内臓が飛び出ちゃうよぉぉぉぉ!!
分厚い装甲に覆われた六本の脚で装甲車の残骸を踏み潰し、周囲に立ち並ぶクレーンをなぎ倒すナラクヴェーラ。
頭部から放たれる真紅の閃光は、鋼鉄で覆われたサブフロートを易々と切り裂き、凄まじい爆発を引き起こしている。
俺が到着する前に姫柊が古城に電話で伝えた内容によると、現在のナラクヴェーラは危険と判断した物を無差別に攻撃する状態らしく、浅葱が制御コマンドを解析するまで時間を稼いで欲しいそうだ。
「足止めって言われてもなぁ。別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「何か嫌な感じがするからやめろ!」
冗談を言っている間にもナラクヴェーラが俺達を焼き払おうと閃光を放ってきた。
そしてそれを防いだのは何故か一緒に着いて来た煌坂だった。
姫柊と同じ未来視によって先読みしていた彼女は、手に持っていた剣で閃光を切り払った。
すると、閃光は見えない壁にぶつかったように遮られて消滅した。
「私の
「つーか、何でお前が着いて来るんだよ!?」
「雪菜が時間を稼いで欲しいって言ってるんだから、私が協力するのは当然なんだけど!」
「いや、その理屈はおかしい」
彼女の任務はヴァトラーの監視なんだから、本来は奴の側にいるのが普通なんだが…。
そんなことお構い無しにナラクヴェーラへ肉迫し、彼女が持つには巨大過ぎる両手剣を脚へと叩きつけていく。
一撃とはいかないが、連続で切りつけていくうちに脚の一本がちぎれそうになると、同じ側にある脚を攻撃していく。
レーザー砲の死角に回り込まれたナラクヴェーラは、反撃できずに一方的に攻撃されている。
「んじゃ、俺もやりますか!」
獅子王を大剣にするとナラクヴェーラへと駆け出す。
接近する俺に反応したナラクヴェーラが閃光を放ってきたが、獅子王を横薙ぎに振るい打ち払う。
「今の
「あんまりかよ!?」
古城がツッコンでくるが、完全な状態じゃないから仕方ないんだよ。
攻撃後の隙を突いて肉迫すると、煌坂が攻撃している脚の反対側を三本纏めてすれ違い様に両断する。
するとナラクヴェーラがだるま落としのように地面に這いつくばった。
「トドメだ!」
胴体を両断しようと獅子王を振り下ろした瞬間、手に違和感を感じると獅子王が装甲に達する前に弾き返された。
「何!?」
ナラクヴェーラの装甲に奇怪な文様が浮かび上がり、淡い魔力の輝きが機体を覆った。
「斥力場の結界!?」
俺と同じように攻撃を弾かれていた煌坂の呻き声が聞こえてきた。
斥力場ってことは、俺達の刃が届く前に弾き返すように進化したってことかよ!?
「自己学習機能だと!?チィッ!やっかいな!」
そうしている間にもナラクヴェーラが、自身の周囲を焼き払うようにレーザーを照射してきた。
俺はバク転しながら避けたが、動揺していた煌坂は逃げ遅れてしまっていた。
思わず逃げろ!と叫ぶが、恐怖で固まってしまった煌坂は煌華鱗で防ぐことも出来ずに焼き払われる寸前に、古城が煌坂を突き飛ばした。
煌坂を庇った古城は左の太ももを抉り取られてしまっていた。そんな古城を煌坂が心配しているが、その間にもナラクヴェーラあの背中の装甲がゆっくりと開いていく。
どことなくカブトムシが飛び出そうとする姿を連想させる。
「野郎、飛ぶ気か!アスタルテ抑えろ!」
「はい」
装甲内部のスラスターが火を噴き、徐々に上昇していくナラクヴェーラ。ここから市街地まではほんの数キロ。一度飛び立てば一瞬で到達されてしまう。
ここで食い止めねばならないので、アスタルテに押さえ込むように指示すると、
対するナラクヴェーラはアスタルテを排除しようと触覚からレーザーを放とうとする。
「させるかよ!」
大剣形態の獅子王をブーメランのように投げつけ触覚を切断し、戻ってきた獅子王を掴む。
そして古城が右腕を頭上に掲げると、その右腕が鮮血を噴出した。
「―叩き落とせ、
古城の呼びかけに応えた雷光の獅子が宙を駆け、獲物であるナラクヴェーラの頭上から襲い掛かる。
アスタルテがナラクヴェーラを離して離脱し、天災にも匹敵する一撃が炸裂した。
だが、ナラクヴェーラの機体はその一撃に耐えていた。左右の翅は砕け散り、脚は完全にちぎれ、装甲の大半は吹き飛ばされても、爆発せずにどうにか原型を保っていた。
一撃で粉砕出来なかったのが不満だったのか、咆哮を上げながら
中空構造のサブフロートが耐え切れない程の衝撃と共に、ナラクヴェーラが砲弾のように地下深くめり込んでいった。
無論そんなことになれば俺達もただで済む訳がなく―
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
俺達の立っている地面が陥没し始めたので、アスタルテを抱えると全速力で安全圏まで離脱する。
「うおおおっ!?」
「バカーっ!?」
崩落していく地面と共に落下していく、古城と煌坂の絶叫がやけに鮮明に聞こえた。
まあ、あの二人なら大丈夫だろうけど。
「こらぁ!やりすぎだろお前!たまには加減しろよな!ん?「そんなの関係ねぇ!」ってお前ねぇ!あ、こら!逃げんなぁ!」
事態の元凶である
「と言うかナチュラルに眷獣と会話出来るんですね」
「古城のとはね。ちょいと前に色々とあってね。とにかく、これでナラクヴェーラも大人しくなるだろうさ」
そんな話をしていると、サブフロート内で轟音が鳴り響いた。
「ぬお!何だ!?」
「勇さん、あれを」
アスタルテが海面を指差した方を見ると、徐々に盛り上がっていっており、やがてナラクヴェーラが盛大な水しぶきを上げながら姿を現した。
「うげっ!?何であいつが海から現れるんだよ!」
「恐らく、サブフロート内の壁を破壊して脱出したのだと思われます」
「泳げんのかよあれ…。ホント面倒臭いなぁ」
余りの万能さに嫌気が差している間にも、ナラクヴェーラが迫って来る。
迎え撃とうと構えた瞬間、絶叫にも似た獣の遠吠えと共に地面が吹き飛び体が宙へと舞い上がった―
「ぎょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
吹き飛ぶ直前に抱きしめたアスタルテと共に空中に投げ出されると、暫く慣性によって上昇し、重力に引き寄せられ落下していく。いやいやいや!死ぬっ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「ぬどらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
自身の周りに舞っている瓦礫や鉄骨を足場にして、減速しながら着地する。あっ生きてるって素晴らしいね。
「あ、あの勇さん」
「む?どしたアスタルテ?」
生を実感していると、頬を赤らめながら恥ずかしそうに声を掛けてきた。
「その、そろそろ降ろして下さい」
「ああ、悪い悪い。よっと」
お姫様抱っこしていたアスタルテを降ろすと、状況を確認するために周りを見渡す。
まず目に付くのは緋色の
「やっぱりお前か!
第四真祖9番目の眷獣であり、身体そのものが振動であるため、常に高周波振動を撒き散らす能力を持っているのだ。
この惨状は、コイツがサブフロート内の壁を破壊まくった結果であろう。
「久しぶりに出てきたと思ったらこれだよ!ほんっとお前らは周りの迷惑を考えないな!あ?「いちいち騒ぐな。だから小さいんだ」だと!?身長のことは言うなよ!すげー傷つくから!」
こっこの野郎!人が気にしていることを言いやがって!俺にも我慢の限界があるぞ!
「待て待て!お前らが喧嘩してもしょうがないだろう!落ち着けって!」
「離せ古城!人にはやらねばならんことがあるのだ!」
くっ!こうも軽々と持ち上げられてしまうとは屈辱なり!
「身長くらいで怒るなよ!きっと直ぐに伸びるって!」
「気休めを言うくらいなら牛乳を寄越せぇ!」
こちらとら、身長が伸びなくなってから毎日1パックは飲んでんだよ!那月ちゃんに「勇、いい加減に現実を見ろ。もういいんだ」って優しく諭されても諦めねえぞ俺は!
「そんなことどうでもいいから、早く戦いなさいよあんた達!」
「いいかげんにしないと海に投げ捨てますよ?」
と言い争っている間、ナラクヴェーラのレーザーを防いでいた煌坂とアスタルテから、お怒りの言葉が飛んできた。
「畜生ォ!俺にとっては大事なこと何だよキィィィィィィィィック!!」
跳躍してナラクヴェーラを蹴り飛ばすと、直ぐに追いかけて脚を掴むと回転しながら勢いをつけると、空中へと放り投げる。
「古城!」
「ああ!
古城が
宙を舞っていて身動きの出来ないナラクヴェーラに弾丸が命中する。装甲が砕け散り、骨格がへし折れ、急激に圧縮された周囲の空気が、数千度の高温となって機体を焼き尽くした。
そのまま空高くはじき出され、地面に叩きつけられたナラクヴェーラは見るも無残な姿になっていた。
「やば…中の操縦者は…死んだ、か?」
叩き潰したナラクヴェーラを見て慌てている古城。
そう言えばあれって人が乗り込めるんだっけね。海から出てきてから動きが人間臭くなってたし。
「獣人の生命力なら、あの程度で死にはしないわ。当分は身動き出来ないけどと思うけど」
動揺している古城に煌坂が叫ぶ。
「それよりも、あっちの五機を!操縦者が乗り込む前に潰して!」
「お、おう」
煌坂が指した先に俺達が戦っている間に、接舷していた"オシアナス・グレイブ"から五機のナラクヴェーラが運び出されていた。
まだ、誰も乗り込んでいない状態なので、今なら容易く破壊できるだろう。
と思って
どうやら
「あれは―」
後部甲板を突き破って現れたのはナラクヴェーラに似ているが、脚が八本と、三つの頭。そして女王アリのように膨らんだ胴体を持ったデカ物だった。
突進を邪魔されて怒り心頭の
それに対抗して
さらに爆炎で目標を見失った
「野郎無茶苦茶しやがるな!」
「なんて…ことを…」
ここら周囲の避難は完了しているはずだが、気分のいいものではないな。隣にいた古城も怒りに任せて地面を殴っていた。
そして、動き出した女王ナラクヴェーラがサブフロートに上陸すると、残るナラクヴェーラも動き出し俺達を包囲しだす。
「ふぅ。さすがに疲れたし、そろそろ終わりにするか古城?」
「ああ、どいつもこいつも好き勝手にしやがって、いい加減こっちも頭にきてるんだよ!」
煮えたぎるような本気怒りが古城の体を包み込んでいた。それが古城の闘争心に火をつけ、真祖の"血"を滾らせている。
「相手がテロリストだろうが、古代兵器だろうが関係ねぇ。ここから先は、
禍々しい覇気を纏った古城の左隣に煌坂が立つ。
そして右隣には、当然そこにいるべきというような自然さで小柄な影が歩み出る。
「―いいえ、先輩。
雪霞狼を構えた姫柊が拗ねたように古城を見上げていた。