ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第二話

前回のあらすじ

コーホー

 

騒々しい朝が過ぎ去り日が落ち始めた頃、俺は那月ちゃんに連れられてある研究施設の前にいた。

 

「ここに黒死皇派の賛同者(シンパ)がいる訳?」

「ああ、そうだ」

 

俺の問い掛けに、何時もの日傘を差しドレスをなびかせながら答える那月ちゃん。

 

「南宮教官準備はよろしいですか?」

 

一緒にいた黒い背広を着た二人組みの男の一人が、こちらに確認を取ってくる。

彼らは特区警察局攻魔部。国際魔導犯罪を担当する国家攻魔官である。

 

「こちらは何時でも構わんぞ」

「わかりました。勇君にアスタルテ君もよろしく頼む」

「了解。いいねアスタルテ」

「はい」

 

俺の後ろに控えているアスタルテに確認すると、簡潔に答えてくる。

彼女が我が家にやって来てそれなりに経つが、今だ眷獣の影響もあり感情の起伏は薄いが、初めて会った時よりは変わってきていると俺は思う。

 

「勇さんは後ろにいて下さい。あなたが暴れると余計な被害が出ますので」

「…了解」

 

うん、元気になってくれて俺は嬉しいよ…。

俺の前に出て歩き出すアスタルテに続いてトボトボと着いて行く。

 

「にしてもこうゆう時にも、その服はどうなのよ」

「?何か問題でも」

 

現在彼女が着ているのは、露出度が高いエプロンドレスのメイド服である。

那月ちゃんが「家に住むならこれを着ろ」と着せているのである。

 

「選んだのはあなたですが?」

「選んだつーか、選ばされたんだけど…」

 

複数ある種類から好きなのを選んで欲しいと頼まれたので、仕方なく今着ているのを選んだんだ。どれも露出度が高かったので仕方なくである。

 

「任務の遂行には支障ありません」

「まあ、ならいいけど」

 

本人がいいなら、構わんが。いままでも問題無かったし。

 

「お前達、そっちに行ったぞ」

「ん?」

 

先行していた那月ちゃんに呼びかけられたので、前を向くと一人の人狼がこちらへ向かって来ていた。

 

「どけぇ!ガキ共!」

 

人狼が進路を塞いでいる俺達を排除しようと、襲い掛かって来たので迎え撃とうとすると、アスタルテが手で俺を制しながら前へ出た。

 

薔薇の指先(ロドダクテユロス)

 

アスタルテが呟くと背中から虹色の翼が生え出す。撒き散らされた衝撃が、研究室内の大気を歪め人狼の動きを止める。

 

「ぐぁっ!?

 

そして、翼が巨大な腕へと変わり人狼を押さえつけた。何とか抜け出そうともがくが、眷獣の力には叶わず完全に押さえつけられている。

 

「け…眷獣だと!?馬鹿な…どうしてホムンクルスが眷獣を…!?」

 

驚愕しながら、人狼がうわごとのように弱々しくうめく。

無理も無い本来眷獣は、吸血鬼以外には扱えないのが常識だからな。

 

「お前が、槙村 洋介(まきむら ようすけ)だな観念しな。ネタは上がってんだからよ」

「糞っ!人間がこんな化け物まで作り出していたか!」

「失敬だな。人様の迷惑を考えないお前らより、遥かに人間だよ彼女は」

 

下手に暴れられても面倒なので、顔面に軽く蹴りを入れて意識を刈り取る。

 

「済まない勇君にアスタルテ君、助かった」

 

攻魔部の男性が、槙村の首に獣人化を阻止する対魔族用の拘束具を嵌める。

 

「いえいえ、アスタルテもお疲れ様」

「いえ、それにありがとうございます」

「ん?何が?」

 

不意に何故かお礼を言われたでござる。

 

「私のことを人間と言ってくれたことです」

「え、当たり前のことを言っただけなんですが?」

「躊躇い無くそう言える人は限られています」

「そうかねぇ」

 

まあ、アスタルテが喜んでるからいいか。

 

「お前達、イチャつくのはそれくらいにしておけ。浮気していると、アルディギア王国の王女に呪い殺されるぞ」

「さらっと怖いことをいわないでよ。それにイチャついて無いし、彼女とはその、そう言う関係じゃ…」

「ああ、そうだな。相手の気持ちに応えるのが怖くて逃げ出したヘタレだからなお前は」

「グフッ…!」

 

女の敵を見るような目で吐き捨てられた言葉に、崩れ落ち両手を地につく俺。

 

「いや、あれはですね。一度ゆっくりお互いに考える時間が必要だと考えましてね。若さゆえの過ちを犯さぬためにもね」

「ようは、お前の心の準備が出来たいなかったんだろうヘタレ」

 

轟沈したお。

 

「そうですか、私は遊びなんですね。都合がいい女なんですね」

「どこでそんな言葉を覚えた!?いや、違うつーかなんて言うかねごめんなさい!!」

 

無表情で俺を見下ろしながら、昼ドラに出てくる女優のようなことを言ってくるアスタルテ。そういえば熱心に見てたっけね、休みの日とか。

 

「冗談です。手に入らぬなら奪い取るまでです」

「どこからどこまでが冗談ですか!?」

 

淡々と告げている筈なのに、楽しそうに聞こえてくる不思議!

 

「で、那月ちゃんは何を見てるのさ」

 

強引話題を変えねば俺が死ぬ!精神的に!

 

「逃げたな」

「逃げましたね」

「わー写真がいっぱいだぁ」

 

二人の言葉を受け流しながら。槙村が使用していたたデスクを見ると、そこには複数の写真が散らばっており、何やら古い石板が写っていた。

 

「こいつが黒死皇派の連中が西域から持ち込んだもんか、現物(オリジナル)は?」

「対象確認不能。既に持ち出されたものと思われます」

 

アスタルテが部屋の隅に置かれた空っぽの金属製の輸送ケースを指さす。

呪術的処理が重ねられた特殊な物だが、その封じは破られており。もう、持ち出された後らしい。

 

「出遅れた、と言う訳か」

 

不機嫌な声で自問しながら、那月ちゃんが部屋に設置されているモニタに映し出された映像を見上げた。

 

「にしても”ナラクヴェーラ”ねぇ。大層な物を持ってきてくれたもんだよ」

「!?勇、お前その字が読めるのか?」

 

写真に写し出されている文字を口に出してみると、那月ちゃんが驚愕したような表情をしていた。

 

「全部じゃないけど。那月ちゃんは読めないの?」

「ああ、アスタルテお前はどうだ?」

解読不能(ノットレヂャブル)

 

那月ちゃんがアスタルテに問い掛けると、首を横に振る。

 

「俺にしか読めないってことは、もしかして”天部”関係か?」

 

”天部”俺の先祖や第四真祖を生み出した太古の昔の文明。現代より高度な科学力を持っていたと言われる亜神種族だ。

 

「こりゃ、楽に済みそうにないねぇ」

 

どちらにせよ立ち塞がるなら潰すだけだ。

 

『ぐああっ!ク、クライン・・・アッー!』

 

「ん?電話か」

「相変わらずその着信か…」

 

俺のスマフォの着信音を聞いて、呆れたような表情をする那月ちゃんを尻目に、ディスプレイを確認すると父さんからだった。

 

「どしたの父さん」

『ああ、お前に会ってもらいたい人物がいるんだ」

「えらく急だね。誰なの?」

 

父さんにしてはえらく躊躇っているな。そして無性に嫌な予感がするんだけど。

 

「ディミトリエ・ヴァトラーだ」

 

バギンッ

 

その名を聞いた瞬間、持っていたスマフォを握り潰してしまったよ。

 

「ごめん、那月ちゃんスマフォ貸して」

「あ、ああ。潰すなよ」

「大丈夫、大丈夫。気をつけるから」

 

仕方ないので、那月ちゃんのを使わせてもらおうとすると、怯えたようにスマフォを差し出してくる。

 

「どうしたのさ?そんなに怯えて」

「い、いや何でも無い。スマフォは家のテーブルにでも置いておいてくれ」

 

まるで逃げるように空間魔術で姿を消してしまう那月ちゃん。どうしたんだろうね?

 

「?アスタルテ顔色悪いよ大丈夫?」

「も、問題ありません」

 

アスタルテも怯えたように、俺から離れた壁に背を張り付くように立っていた。

 

「そう?なら、いいんだけど」

 

スマフォを操作して父さんに電話しなおすと、ワンコールもせずに出てくれた。

 

『い、勇か?突然通話が切れたからビックリしたぞ』

「ごめんごめん。スマフォを握り潰しちゃってさ」

『あ、あれゾウに踏まれても平気なはずなんだけどな…』

「おかしいね、何でだろう?」

『(こえー!マジこえー!声が冷えきってるよ!!)』

 

父さんの声が震えてるけど、皆してどうしたのかな?

 

「で、さっきの話だけど、それはアイツをぶっ殺してもいいってことだよね?」

『違う!そうじゃない、落ち着け!』

「え、違うの?じゃあどうしてアイツに会わなきゃいけないのかな?」

 

それ以外の用事なんて無いはずだよねぇ。

 

『え、えっとだな、ディミトリエ・ヴァトラーがここ(絃神島)に来ていてだな…』

「そっかぁ。じゃあ三枚に卸しに行かなきゃねぇ」

『待て待て待て!早まるな!話をちゃんと聞きなさい!つーか声が怖い!マジ怖い!ドスが効き過ぎだから!!』

 

必死の声音で止めてくる父さん。何時も通りに話してる筈なんだけどおかしいね。

 

『いいか!奴が黒死皇派に関する有力な情報を持っているらしい!それで、今夜奴が開くパーティで聞き出してくれ、いや下さい!お願いします!』

 

泣き叫ぶように早口で捲し上げる父さん。そんなに怖がらないでよ傷つくなぁ。

 

「チッ!仕方がない。情報を聞き出したら、さっさと帰っていいよね?」

『あ、ああ。もちろんだ』

「つーか、俺パーティ用の衣装なんて持ってないんだけど。ジャージでいい?」

『昔の俺じゃないんだから駄目だ。衣装は那月ちゃん家に送ってあるから、それを着なさい』

 

正装とか固っ苦しいのは苦手なんだけどなぁ。そういえば父さん昔、ジャージでパーティに出ようとして母さんにしばかれたんだっけ?

 

『ああ、それと異性のパートナーを連れていけよ』

「そう言われてもねぇ」

 

独り身なんですけど俺。

 

『那月ちゃんか、アスタルテちゃんに頼みなさい。駄目ならこっちで用意するから』

「うーん、那月ちゃんは仕事があるだろうし。ねぇアスタルテ」

「は、はい!」

 

アスタルテを呼ぶと、ビシッ!と姿勢を正す。怯えすぎだって…。

 

「俺、今夜パーティーに出るんだけどさ、一緒に来てくれない?」

「パーティーですか?」

 

俺の問い掛けに少し迷った様子のアスタルテ。

 

「無理には言わないけど、嫌なら断っていいから」

「いえ、嫌ではありません。ですが私が行ってもよろしいのでしょうか?」

 

どうやら自分がホムンクルスであることを気にしているようだ。

 

「大丈夫だよ傍から見ればわからないし、気にしない気にしない」

「では、命令受諾(アクセプト)

 

嬉しそうに頷くアスタルテ。彼女にもいい経験になるだろうしね。

 

『決まったな。では、彼女の衣装も送っておこう。後、時間がきたら迎えがくるそうだから、よろしく頼むぞ。くれぐれも暴れんでくれよ』

「了解。一応頑張ってみるよ」

 

そう言って通話を切る。あー面倒なことになったな…。

 

「じゃ、一旦家に帰るよアスタルテ」

「はい」

 

これから起こる面倒ごと(パーティー)の準備のために、アスタルテを連れて帰宅するのであった。


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