ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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どうも、Mk-Ⅳといいます。
別の作品を書いているのですが、息抜きも兼ねて初めてみました。



聖者の右腕
プロローグ


絃神島(いとがみじま)

太平洋上に浮かぶ小さな島はそう呼ばれていた。

魔族特区とも呼ばれ、絶滅の危機に瀕した魔族の保護とともに彼らの肉体組織や特殊能力に関する研究が行われている。

そのため魔族も多く暮らしており、彼らによる犯罪も多発していた。

 

「ハァ、ハァ」

 

時刻は深夜で、月が照らす路地裏をある一人の男が、息を切らしながら走り回っていた。

その男は絃神島のあり方に異をを唱える過激派グループの一員で、俗に言うテロリストである。

今回、組織が計画している”あることの”準備のために潜伏していたが、絃神島を警備している”アイランドガード”に、潜伏地が発覚し検挙に乗り出してきたのである。

多くの仲間が捕まっていく中、命からがら逃げ出し、“空隙の魔女(くうげきのまじょ)”と呼ばれる国家攻魔官の追撃を受けながら、この路地裏まで逃げて来たのである。

 

「くそっ!なんで!」

 

どうしてこうなったのか、何故こんな目に合わなければならないのか?

我々は人間に虐げられている同胞のために立ち上がっているのに。

自分の正当性を心の中で訴えながら逃げる男。

もっとも自分本位の主張であるが…。

 

「ハァ、ハァ」

 

どれくらい逃げただろうか、もはや時間の感覚すら無くなった男だが、ふと後ろを振り返ると追いかけて来る者はおらず、視線の先には雲によって月の光が遮られたため暗闇が広がっていた。

 

「に、逃げ切ったのか?」

 

今まで張り詰めていた緊張の糸が切れ、壁にもたれ掛かる男。

 

「は、ハハ。何が空隙の魔女の魔女だ大したこと無かったな」

 

高位の魔術師として、欧州で恐れられていたと言われているが、存外噂とは当てにならないもんだと安堵する男。

 

 

 

 

 

コツン

 

 

 

 

「!?」

 

静寂だった空間を打ち破るように、何者かの足音が響き渡る。

咄嗟に壁から離れ、何時でも逃げだせるように身構える男。

そうしている間にも足音は近づいて来る。

男の体が震えだし、冷や汗が溢れ出す。

やがて月を覆っていた雲が晴れ、路地裏に光が差し込むと一人の人間が暗闇から映し出される。

 

「空隙の魔女じゃ、無い?」

 

てっきり空隙の魔女が追いかけて来たと思っていた男は、安堵の溜め息を吐く。

何故なら目の前にいる人間は、空隙の魔女よりは背が高いが同年代の人間より低く華奢な体つきをしており、はっきり言って脅威を感じないからである。

良く見ると整った顔立ちをし、腰まで伸びている艶やかな黒髪を根元でまとめており、美少女と言ってもいいだろう。

左肩に竹刀袋を掛けており、着ている服は黒のジャージという色気も無い格好であるが。

 

「おーいたいた。やっと見つけたよ」

「何?」

 

目の前の少女が発した言葉に耳を疑う男。

まさか自分を追って来た等と言うつもりだろうか?

 

「いやー那月ちゃんに「面倒だからお前に任せる」って丸投げされちゃって、まいっちゃうよねー」

 

頭を掻きながら困ったような表情を浮かべる少女。

どうやら聞き間違いではないようである。

 

「まさか一人で俺を捕まえるつもりかい、お嬢ちゃん」

「ん?そだけど」

「ふ、ハハ。あははははは!」

 

思わず腹を抱えて笑い出す男。

常識で考えれば、人間より遥かに強靭な肉体を持つ獣人をたった一人で、しかもこんな幼い女の子に出来る訳が無いと思うだろう。

 

「ふーいるよねぇ、そうやって見た目だけで判断する奴ってさぁ」

「ああ!?」

 

少女が呆れたように放った一言が癪に触ったようで、笑うのを止め睨みつける男。

 

「何て言ったガキィ!」

「だから雑魚だって言ってんだよ。言ってる意味解る?OK?]

 

おちょくるように左手を腰にあて、右手を耳にあてる少女。

その仕草に男の額の血管が浮き彫りになっていく。

 

「殺すぞガキィ!」

 

そう叫ぶと男の体が膨れ上がり、上半身の服を破りさりながら全身が毛で覆われ爪が鋭くなり、熊のような顔つきになる。

 

「おーおー凄い凄い」

 

常人なら腰を抜かして逃げ出す状況でも、少女は楽しそうに拍手している。

それが益々男の神経を逆撫でする。

 

「グゥォォォォォォォォォオオオ!!」

 

咆哮を上げながら少女を爪で切り裂こうと、右腕を振り上げながら迫る男。

対する少女は恐れた様子も無く微動だにしていない。

少女の目の前まで迫った男の右腕が振り下ろされる。

殺ったと確信した男の思惑は裏切られることとなる。

何故なら男の腕が少女の手前で止まっているからである。

いや、少女によって右手のみで受け止められているのである。

 

「なぁんだこんなもんかぁ」

 

期待外れといったように溜め息を吐く少女。

だが、男にはそれを気にしてられる余裕は無かった。

このまま押しつぶそうと力を入れても右腕が掴まれたまま動かないからである。

 

「ば、馬鹿なこんなことが!?」

「ホレホレ頑張れー」

 

必死に力を入れて押そうとも引こうとも、微動だにしない少女に男は困惑していく。

 

「お、お前は何者だ!?人間なのか!?」

「あ?どっからどう見ても人間だろうが」

「お前のような人間が…」

「あーもう、うるせえなぁ」

 

いい加減飽きたのか少女が、左腕を弓を引くように引き絞っていく。

 

「ま、待て!」

「やだね」

 

少女が右腕を振り払った反動で、体制を崩した男の腹部へ左腕を打ち込む。

まるで、鉄を叩き付けられたかのような打撃音と共に、男の体がくの字に曲がり胃の内容物が吐き出される。

白目を剥いた男が、力無く少女に圧し掛かって来るが、右手で軽々と持ち上げる少女。

意識を失ったため人間の姿へと戻る男。

 

「つーか俺、男なんだけどなぁ」

 

がっくりとうな垂れながら溜め息を吐く少女、ではなく少年は男を地面に降ろすと、スマフォをズボンのポケットから取り出すと、ある人物へと通話する。

数コールすると女性の声が通話口から聞こえてくる。

 

「私だ」

「あ、那月ちゃん。終わったよー」

「…ちゃんは止めろと言っているだろうに」

「えーいいじゃん。いまさらだしさぁ」

「…もういい、さっさと戻って来い”勇”」

 

改める気が皆無の少年に、諦めたように溜め息を吐くと通話が切られる。

 

「ふぁーぁ、眠いなぁもう」

 

欠伸を掻きながら、男の襟を掴んで引きずっていく少年、”神代(かみしろ)勇(いさむ)”は暗闇へと消えていくのであった。

 

 

 




一人でも多くの人に楽しんでもらえるように頑張りますので、ご意見、ご指導あればよろしくお願い致します。

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