今晩の夕飯はこのオレがひとりでつくることになった
『はじめてですね いつもは術の練習も兼ねてマシェルが主導になってやるのに
あなたに全て任せるなんて』
「そのマシェルが補佐竜を全員連れて外出中だからな
竜術士のあつまりらしいが これは好機だ
あのマシェルが子竜が食べる食事をオレに任せたのだ
このオレの真の実力を見せる時がきたようだな」
『それは楽しみですね できることなら私も一度食べてみたいですが』
材料は揃っている・・・
「パン！！！
食卓の主食！！
子竜たちの術練習のためにかまどを使わずに焼いたもので
子竜ごとにパンの焼き加減に個性がでているのが興味深い
いちばんマシなのが火竜ハータが焼いたものだろう」
「野菜！！！
獣人二アキス族や木竜術士たちの手によりつくられたものである！！
子竜たちの健康を支える上で欠かせないが調理次第で味が大きく変わるため
子竜の好き嫌いが別れるため注意が必要だ！！」
『アータは生野菜が苦手でしたね』
「卵！！！
底知れぬパワーを秘める子竜たちにとって貴重なタンパク源である
ニワトリの調子でもよかったのか今日はずいぶんと多い
明日の分もあるとはいえ 使いがいがあるな！！」
『デザートもつくりましょう 子竜たちはみんなお菓子が大好きですから』
「ミルク！！！
飲んでよし 調味料によしと 便利なうえに発酵させれば更に可能性が広がる食材である
料理に幅をつけるにはこれが使えるのは大きく
その気になれば食卓を純白に染める！！」
『さっきの卵とあわせてプリンがつくれますね』
「薬草！！！
野菜よりも栄養の補給にむいているが その分味にクセが強く
量が過ぎれば毒にもなる
タータや木竜家の協力で驚くほどに多種多様なものがそろっていて
いかなる人間の王宮の厨房であろうとその多彩さにはたちうちできないだろう」
『あのアバンは特に薬草の扱いがうまかったですね』
・・・フン こやつめ オレのプライドをくすぐるのがうまくなったな
「砂糖！！！
子竜を魅了する甘味のもと 菓子に限らずその用途は多岐にわたるが
摂取が過ぎればまずいのは竜も例外ではない！！」
『マシェルも甘やかし放題というわけではないのですね』
「塩！！！
植物由来の砂糖はともかく 海から離れたこのコーセルテルでこれほど使えるとは
これも竜術のなせるわざか
生物には欠かせない要素であり 食材の味を引き出す重要なものだ
フフフッ これらを組み合わせ食卓を彩るとしよう」
『あなたは力押しが好きなイメージですが 意外とこういうのも楽しそうにやりますね』
「かつてのオレが魔王や魔軍司令の地位にこだわったのは個性ある軍団を統括し
指揮するのが面白かったのもあったからな
まあアクが強すぎて難儀していたが・・・
味と栄養のバランスをとる連携の妙、料理で味わえるとは考えたこともなかったがな・・・」
さて・・・はじめるか
見ていろ！ 我が全霊をあげてでも・・・
必ずやマシェルの子竜どもを満足させ完食させてやるわ！！
木竜の主な特徴
好奇心旺盛な性格で術を使った手の込んだいたずらで知的さを発揮するが堅物な地竜よりも柔軟な思考力をもつ ある意味もうひとつの知恵の竜
竜の歴史においてもっとも誕生が遅く数も少ないが変種が生まれる例がもっとも多い
植物全般を司り 発芽や成長促進 複製など植物を扱う術に竜族で最も長けているが武術や荒事は苦手
木竜・タータ
五番補佐竜
おだやかでおしとやかな女の子 四番竜マータと同時に卵の状態でマシェルに預けられたが孵化のタイミングで五番竜になった
マシェル中心に考えるあまり視野が狭まりやすい一番竜ナータや
面倒や束縛を嫌う二番竜サータ 生真面目で慎重な三番竜アータを説得できる思慮深さを幼竜の頃から磨いていた
いたずら好きで要領がよく まわりに気付かれにくいがナータやアータにはバレていたりする