ハドラー子育て日記 コーセルテル編   作:ウジョー

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地竜術士の憂鬱

〔ハドラー 今夜酒に付き合ってくれないか?

カディオから果実酒の新作がきたんだ〕

 

「よかろう ジゼルはマシェルかフェルリに預ければいい」

 

  \え!?ハドラー様!?/

 

地竜術士ランバルスが酒に誘いにきた

珍しいことだな

 

『昨日娘さんが旅立ったことで寂しいのでしょうか』

 

      ~その日の夜~

 

竜術士の家ではなく無人の遺跡の家で飲み会をすることになった

 

「なぜ わざわざこんなところに?」

 

〔相談したいことがあってな

ここなら会話を聞かれることもない

まあ まずは一杯〕

 

「ほう ならばこのグラスを使おう

火竜のハータが作ったものだ」

 

〔へー いい出来じゃないか

よし じゃあこれに〕

 

     トクトクトク・・・

 

「ほう・・・ 

琥珀色の酒がグラスを通して

さらに深みを感じさせるな

これが火竜術で作れるとは中々興味深い」

 

〔ガラス細工も火竜家のお家芸だからな

そういえばハータが代替わり前の火竜家に通って

色々習っていると聞いたことがある

そんじゃ 乾杯〕

 

   グイ・・・  

 

ふむ出来立ての物足りん味だ

口当たりはいいがな

 

・・・しばらくは大した会話もなく飲んでいたが

酒瓶が半分ほどになったあたりで

 

〔若い味、か   はあああああ~・・・ 

なあ ハドラー 娘にたよりにされる父になるには

どうすればいいだろうか〕

 

「それが本題か

---たよりに、か

ジゼルは依存に近いが・・・」

 

『昨日旅立った娘さんとなにかあったのでしょうか?』

 

この男 普段は飄々としているが

かなりの闇を抱えているな

今はただのしょぼくれた親父だ

 

『娘さんにこの姿を見られたら頼りにはされないでしょうね

アバンさんもこんな姿をするのでしょうか?』

 

あやつが敵であるオレの前で弱みをさらすことはあるまい

 

『・・・そういうものですか』

 

「お前の娘がコーセルテルを旅立つときはオレも見送りに行ったが

ああ そういえば娘を送りに来た風竜術士ミリュウがあの場で

プロボーズじみたことを言っていたな」

 

   ピク! 

 ゴクゴクゴク! カァン!

 

どうやらこれか

 

『そんなこともありましたね』

 

〔あのときはいきなりのことで呆気にとられた上

問いただそうにもユイシィに『だまってて』って言われた挙句

すぐに飛び立って行かれちまった

もう何が何だかわからねえ・・・〕

 

「お前のところの補佐竜はある程度事情を分かっていたようだがな」

 

〔そうなんだよな・・・ だがユイシィに聞いても

『帰って来られたら聞きましょう』と笑うだけで教えてくれないし

はあ・・・ もう若い娘たちの考えることがわからねえ・・・〕

 

「ああ そっちの娘にも頼りにされてない、と」

 

〔ぐっ ・・・はあ~~・・・・・・〕

 

『ミリュウとヴィーカのことはお昼に来た

風竜家補佐竜のジェンが持ってきた話のことですよね?』

 

ああ 風竜術士としての進退に関わる話だと言っていたな

マシェルはやつらが一番望む幸せを応援すると言っていたが

この男はそのときにもいなかった

どうやらこの件に関してまったく話を聞いていないようだな

 

『どうしましょうか?』

 

まあ 見ているがいい

 

「ランバルスよ この酒を見ろ」

 

      ズズズ・・・

 

〔ん? なんだ 琥珀色がだんだん黒くなっていくぞ〕

 

「これは今おまえがためいきとともに吐き出した悪感情だ

オレの魔術でとりこみ酒に溶かし込んだ」

 

     グイ 

 

「ククク

お前の中で熟成された悪感情が酒の味に深みをもたらすのだ

さあ存分に吐き出すがいい

まだまだ酒はある」

 

〔へー 魔族にはそんな術があるのか

じゃあ遠慮なく聞いてもらおうか〕

 

空になったグラスにランバルスが酒を注ぐ

 

〔カップか・・・

俺がかつて盗賊だったのは言ったか?〕

 

「ああ 聞いたような

そういえばお前や娘の足運びは遺跡を傷つけのを嫌う学者か

気配を隠す盗賊のしのびあしかと思っていたが・・・

後者だったか」

 

『【知恵の竜】の地竜術士ですから学者よりなのでは?』

 

〔学者は俺の妻の方だな

あいつは元々領主の娘なんだが

遺跡の調査のために当時そこを根城にしていた盗賊団の長

つまり俺のところに押しかけ女房してきたんだ〕

 

「それはなかなかの胆力だな

なんという名前だ?」

 

〔妻の名はウィンシーダ

最初は反対していた盗賊仲間ともうまく付き合い

ヴィーカが生まれてからもみんなで楽しくやってたんだ

娘は仲間の人気者アイドルだったな〕

 

いかにも楽し気に話すランバルスだったが

その声に含まれる闇はますます濃くなっていく

新しく注いだオレの酒もたちどころに黒く染まりまた飲み干した

 

   カン トクトクトク・・・

 

ランバルスも飲み干したグラスにさらに注ぎ足した

今日は竜術士の寄り合いの時よりも飲むペースがかなり速い

 

〔こうやって楽しい思い出を語っていても

娘の笑顔を見ながら飲んでいるときですら

頭に浮かぶのは・・・あの最期の日の悲しみばかり〕

 

ここだ!

 

『話の核心ですか?』

 

ああ こいつのもっとも弱いところ

娘に頼られない根幹に関わる部分だろう

 

『ここまで来るのに随分飲みましたね

持ってきたお酒、残り少ししかありませよ』

 

〔カップ・・・か、〕

 

ハータがつくったグラスを見ていたランバルスが歯を食いしばり口が歪む

 

〔祖父 大盗賊ランバルスの名を継ぎながら

はじめて自分で盗みを働いたのは盗賊団を解散し逃亡中のときだった〕

 

『それって 本当に盗賊だったのですか?』

 

盗賊職は盗むばかりが能ではない

オレの前に立った盗賊にも腕の立つやつがいた

 

〔盗み出したのはたった一つのカップ

流行り病に苦しむ妻にきれいな水を飲ませてやりたい一心だった

だがその一杯の水をくんでいる間に・・・〕

 

「手遅れだったか」

 

〔ああ 妻の最期の瞬間に俺はいてやれなかった

今でも鮮明に思い出すのさ

妻に泣いてすがる娘の顔が 息を引き取った妻の顔が

最期まで俺と一緒にいたいと願った妻の顔が!

一方的に娘を妻の実家に置いていき

川に飛び込んだときの俺を呼ぶ娘の声が!!〕

 

後悔と悲しみの念・・・か

 

『これはどうにかなるのですか?』

 

どうにもならん たとえ娘が許しても

自分が自分を許すことはあるまい

 

      グイ

 

新月の夜よりも黒く染まった酒を飲みながら

ランバルスの昔語りを黙って聞く

 

〔俺は果報者だ・・・

あんなことがあって病の身で半ば自暴自棄になりながら

このコーセルテルに辿り着いた

妻の望んだ光景に近いところで死にたいだけだったんだがな

それが竜術士になって・・・

今になって娘に再会できて・・・

俺なんかを・・・・・・〕

 

      !?

 

『今 ランバルスの顔がこころなしか穏やかになったような』

 

言葉を口に出していると ふと何かを思い出すのはよくあることだ

互いに最後の一杯を飲み干す

 

〔面白いな あんたの術は

酒を酌み交わすたびに 不思議と何かこう、

うまくいえないが・・・〕

 

「・・・そうか」

 

ランバルスの表情がまた変わる

 

『あら この顔でしたら 娘さんも頼りにしたのでは?』

 

さて どうだろうか

 

「お前たち夫婦によく似た娘が風竜術士ミリュウと組めば

好奇心旺盛な虎に翼が生えるようなものだ

いったいどれほどの大冒険をすることか 

ククク 見ものだな」

 

〔うっ!?〕

 

「今のおまえならば

大盗賊の名を継がせたおまえの親の思いも

そんな盗賊に娘が嫁いでいった親の思いも少しはわかるだろう

ククク これはますます酒がすすみそうだ」

 

〔あー・・・

ぐう・・・・・・・〕

 

『余計に悩んでしまったのでは?』

 

勘違いするな聖母竜よ

こいつを支えるのはオレではない

こいつの子竜ユイシィやロービィの役割だ

やつらなら喜んでやるだろう

オレはこいつを肴に酒をのむだけだ

 

『でもその術 ただの染色魔法で

悪感情を味付けにすることなんてできないのでしょう?』

 

ククク たしかに悪感情云々は嘘だが

他人事を面白がりながら飲む酒がうまいのは事実だ

こやつもいつもならこんなニセ魔術すぐに見抜いただろうが

それに気づかぬようではまだまだ楽しめそうだ

 

『悪い趣味ですね 流石元魔王』

 

「つまみはまだあるぞ

酔いつぶれた顔ではユイシィにしめ出されるのではないか?」

 

〔あー、どうだろう

流石にそれは困るなあ・・・

もうちょっとおちつくまで食っていくか〕

 

たとえどれほど重く辛くてもこいつの過去は変えようがない

 

『竜術で忘れることはできるかもしれませんよ』

 

そんなことをすればこいつはこいつでなくなる

だが多少成り行きによるものもあるが 周りの協力もあり

こいつが自分で娘に会い語り合うことができ

ミリュウとの仲という新しい問題もできた

もうこいつがここまで飲みつぶれた姿を見せることはないかもしれぬな

 

『あなたは見せてくれないのですか?』

 

・・・お前と出会ってからも何度か醜態をさらしたはずだが

 

『?あなたが醜態をさらしたことなどなかったですが』

 

・・・そうか

 

〔そういえばヴィーカは高いところが苦手だって言ってたのに

コーセルテルを旅立つときは空を飛ぶのに不安そうな顔をしてなかった

そんなにミリュウを信頼してるってことか!?〕

 

「あの娘、風竜家に一泊したこともあったな」

 

〔あああーー!!?〕

 

「ククク   フハハハハハッ」

 

結局ランバルスをしばらくからかった後解散し やつは歩いて帰った

しかし存外楽しめたものだ これはほかの竜術士も誘って、

いやそれよりも竜術士の寄合の後の宴会に参加してみるか

 

『あまりジゼルを置いてお酒の席に行くのはどうかと・・・』

 




前話から2年以上たっていることに驚いてるウジョーです
その間にダイの大冒険のアニメ化と同時にコーセルテルの竜術士の連載終了と2年前には想像もしていなかったことが現実になってます
しかもダイの大冒険のビックリマンチョコが売ってたり(マァムのキラシールがでた)
Vジャンプで「ダイの大冒険勇者アバンと獄炎の魔王」の新連載がはじまり魔王ハドラー様に現役時代のバルトスにブラス老の雄姿がおがめるとは
これが令和か・・・

立冬をむかえグッと冷え込んでまいりましたがおつかれのでませんように

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