ハドラー子育て日記 コーセルテル編   作:ウジョー

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地竜家のターン

現地竜家の補佐竜ユイシィ

今回のランバルスとヴィアンカの親子再会に最も尽力し

望んでいたはずなのだがその表情は冴えない

ヴィアンカの発言に随分と振り回されているようだ

・ ・・ここまでは完全にヴィアンカのペースだが

風竜術士ミリュウやマシェルたちも家に帰りここからは

地竜家の中でのこと ・・・そしてオレも動く

現在地竜家の中にいるのは住人である地竜術士ランバルス

その子竜たち 先代地竜家補佐竜ノーセ 

地竜の里の守長トウレン ヴィアンカ

そしてオレとジゼル

 

『私もいますよ』

 

おまえは数に入らない

 

―――

ユイシィのいれた茶を飲み 一息ついた後

オレが用意した紙芝居を披露するときがきた

本来ならコーセルテルの里の外にある古代の竜の遺跡調査を

ヴィアンカに任せるに足るか 資質を試す予定だったが

その前にくり上げる形となった

トウレンやノーセもオレを見極める材料になると判断したのか

おとなしく見ているようだ 知恵の竜の好奇心かもしれんがな

内容は序盤の一~三話 魔王と勇者の最初の話と城での

直接初対決のみだが 今回だけは内容を一部改変し

魔王編は竜を配下にするところを遺跡で卵を拾い孵したことにし

さらに勇者編の内容を大きく変更した

 

・・・

・・・・・・

「ついに我が軍に竜の配下ができ まさに最強の軍団となった

オレはこれより魔王を名乗る!

全世界に宣戦布告をせよ!! 世界征服に乗り出す!!!

つづく!」

 

     パチパチパチ!!

 

オレが魔王編一話を読み終え客席からの拍手がおこる

初披露だったヴィアンカたちからの反応はまずまずか

・・・さてここからだ

ヴィアンカの隣でじっと聞いていたランバルスが立ち上がる

 

「あとは任せたぞ」

 

〔・・・ああ〕

 

勇者編の紙芝居の読み聞かせをランバルスと交代した

 

今回は勇者の設定を大きく変えた

・竜学者の青年が探検した遺跡で竜化術と人化術を発見した

・竜化術をその場で試し遺跡は崩壊 人化術で元に戻る

・その罪で人間の社会ではお尋ね者となり逃避行をしながら

 他の竜の遺跡を調査する日々を送っていた

・そんなとき人里から遠く離れた竜の遺跡で出会った少女

 それは溢れる好奇心を抑えきれず単身で遺跡の調査にきた

 人化術で人の姿をした竜の都の姫だった

・ともに遺跡を調査するうちに意気投合し青年は学者として

 竜の都に招かれる

といった内容だ

元々アバンの過去を子竜向けに脚色したものだったが

コーセルテルで得た知識を下敷きにさらに踏み込んだ物にした

ランバルスがこのコーセルテルに来た顛末は知らんが

似たような経緯があったとしても不思議ではないというほどに

 

『上手ですね ランバルスの読み聞かせ

軽妙にして 重いシーンの演出も巧みです』

 

まったくだ オレも参考にする部分が多い

僅かな指導で魔族言語の解読もこなし練習以上の出来だ

流石竜術士としてマシェル以上の古株であり

4人の子竜と娘を持つ男

オレの隣のヴィアンカも童心に帰ったかのような

ぽわっとした目で紙芝居に引き込まれていた

 

『ランバルスも紙芝居を挟んで娘に相対しているせいか

いつもの調子をとりもどしているのでしょうか』

 

かもしれんが やはりオレとは経験が違うのだろう

さて そろそろ・・・

子竜たちに合図をだし 紙芝居にキリがつく前に

オレは次の用意にとりかかった

 

     パチパチパチ!!!

 

ちょうど準備を終えた頃

オレのとき以上の拍手が聞こえた

 

   \ ハドラー様~♡ /

 

ジゼルを含む子竜たちがやってきた

 

「来たか こちらの準備は済んだ

ユイシィはさっさと一張羅に着替え

他の子竜たちは配置につけ

本番はここからだ」

 

    \\ はい! //

 

『キビっとした よいお返事ですね

特にユイシィは練習のときよりもよいテンションですね』

 

ああ ヴィアンカを意識してのことだろう

 

・・・

・・・・・・

魔王対勇者の初対決の三話目は紙芝居ではなく演劇仕様だ

配役は 魔王がオレ 勇者をランバルス そして

 

《またせんせいはいないんですか!?》

 

騎士団長を二番竜で守長候補見習いのロービィ

 

《いいのですよロービィ》

 

《よくないですよ! せんせいのいるところはわかってるんです

ぼくが呼んできます姫!》

 

姫役をユイシィがやっている

一張羅に着替えいつもの地竜の深緑の服ではなく

シンプルだが明るい色調とガラスの髪飾りは姫を表現する

衣装としてちょうどよかった

 

『あの衣装はジゼルにも似合いそうですね』

 

サイズがまるで合わん 流石にまだオレには作れんぞ

オレは火竜の服を着たジゼルとともに出番を待つ

 

リドとクレットと遊ぶランバルスに

騎士団長役としてロービィがやってきた

 

《せんせいは姫の護衛と教育のために招かれたんですよ

ちゃんと仕事をしてください!》

 

〔護衛なら守長であるおまえさんがいるだろう

文武両道、剣の腕も国一番でオレよりしっかりしてるんだ

オレはこうやってちびたちと遊んでた方が国のためになるさ〕

 

《姫はこの国の病気の王様に代わって魔王との戦いの

矢面に立ってるんです!

子守よりも姫の側にいてください!》

 

〔その言いかたはちびたちに失礼だぞ

おまえさんも いずれ嫁さんができて子供が生まれて

その世話をするようになるんだ〕

 

《ぼ、ぼくはまだエリーゼとそこまでの約束は?!》

 

ロービィの顔が真っ赤だ

あやつ練習のときから同じようにからかわれているな

 

『かわいいからいいではないですか』

 

たしかに面白いし ヴィアンカにもウケているようだ

 

〔それに王の子だから次の王にならなければならない

なんてことはないぞ 危険なことなら尚更だ

なりたいものになり 行きたいところに行けばいいんだ〕

 

む? 予定にない台詞だ

 

『そうですね 練習でもなかったはずです』

 

ランバルスの目線はあくまでロービィに向き頭をなでているが

それを見ているヴィアンカが明らかに動揺している

 

『親として伝えたいこと・・・ですか』

 

〔・・・私のなりたいもの 行きたいところ

・・・・・・一緒に いつか―――〕

 

ヴィアンカのささやくような声が聞こえる

どうやら肝心の相手にも届いているようだな

 

『あなたの耳は本当に便利ですね』

 

そして場面は変わる・・・

 

《・・・ロービィ せんせいはどうしたのです?》

 

《魔王の襲撃予告がありましたから

城外の安全な場所にリドとクレットを送りに行きました》

 

《城外に?》

 

オレが部屋の外で待機しているリドとクレットに合図を送る

 

 \ \うわああああ モンスターの軍団だッ!!!/ /

 

《ええっ! いったいどこから?!》

 

ロービィが声のした側のドアに向かったのを見計らい

その逆 ユイシィの近くのドアに手をかける

さてオレの出番

・・・いや オレ達の出番だ

 

「いくぞジゼル」

 

  \ ハイ!ハドラー様♡ /

 

オレは暗幕に少し手を加えて間に合わせた

黒のローブをまといジゼルを肩に乗せ登場した

 

                  ガラッ!!

 

《ああっ!?》

 

「動くな小僧 姫の命が惜しければな・・・

さて・・・姫よ・・・魔界の神へのいけにえとするため

この魔王みずから来てやったぞ ククククッ」

 

《魔王よ あなたの企みは読めています

私を奪うことで竜たちの動揺を誘い 

世界征服を早めようというのが目的でしょう!》

 

「見抜いておるとはな ・・・さすが まだ子竜とはいえ

力と知恵を兼ね備えた地竜の国の主よ

ならば貴様にはこの言葉を贈ろう・・・

地竜の姫ユイシィよ このオレの部下になれ!

我が片腕となればこの世界の半分を与えてやるぞ・・・!!」

 

客席がざわつくのを感じた

 

「このジゼルは生まれたばかりの幼竜でありながら

かなりの力を秘めている 貴様ら竜にはそれだけの価値がある」

 

オレの肩の上で胸を張るジゼル

 

「世界の半分 貴様らの好きにすればよい

人化術などという半端なもので人間の目から隠れ

このような猫の額のような土地で暮らすことはない

竜の力と姿を 竜として生きていけるぞ」

 

ここが今回の見せ場のひとつだ

 

『練習のときにユイシィに与えた宿題

魔王の誘いに どう答えるか

フローラ姫や勇者アバンではなく

地竜家の一番竜 補佐竜ユイシィとしての答え・・・

楽しみですね』

 

《お断りします!!》

 

キビッ とした声で答えるユイシィ

 

《人化術は 人から隠れるための術ではありません

人と共に生きるための術です!

同じ家に住み留守を守り“おかえりなさい”をいってあげる

私の知恵と力はそのためのもの

人を傷つけ奪うだけの魔王軍に従うつもりはありません!!》

 

「・・・フッ なかなかの答えだ

竜の力 従わぬとなれば何よりの脅威となる

ならばこの場で・・・!!」

 

〔そこまでだ 魔王さんとやら

うちの子たちを誘うってんなら もっと優しくしないとな

・・・それと外の怪物たちはもう皆のびちまってるぜ〕

 

ランバルスがロービィのいるドアからあらわれた

 

「なんだァ 貴様ぁ 人間か!!?」

 

ランバルスが踏み込み 一瞬でオレとの距離を詰め

大剣を模した術杖を一閃!

奇しくも 先にヴィアンカがランバルスとの再会に見せたものと

同じ太刀筋だった やはり親子だな

オレは後ろに避けユイシィから離れその間にランバルスが入った

 

「おろか者めがッ!!

まさかこのオレに戦いをいどもうというのではあるまいなッ!!!」

 

〔うちの子が気合みせてんだ 俺だってたまには本気になるさ〕

 

ランバルスは鉢巻をしめ戦闘態勢にはいる

 

『やはりランバルスにはメガネを使うより

この方が似合いますね』

 

地竜術士の正装にあった鉢巻と術杖をもってきたユイシィたちの

眼力のたしかさよ

 

「さがれジゼル!」

 

オレはジゼルをつかみ客席に放り投げた・・・が

 

   \ ジゼルダーイブ♡ /

 

ブーメランのような軌道をえがきもどってきたジゼルが

オレに体当たりをしてきた

 

        ボスッ!

 

『先ほどのヴィアンカとランバルスが抱き合っていたのを見て

感化されたのでしょうか?』

 

いつもとどう違う?!

 

「えーい! ならばジゼルよ おまえに命じる

外でのびてる部下どもをつれて地底魔城に帰り手当てをしろ

オレはこやつら片付けてから帰る」

 

オレはジゼルをひき剥がし もう一度客席に投げる

 

    \ ハーイ! ハドラーさまーー♡ /

 

ガシッ と客席のノーセがジゼルを受け止めたのを確認し

ランバルスに視線をもどす

 

オレはランバルスが振るう剣術を紙一重でかわしつづけるが・・・

 

こやつ 練習のときよりも太刀筋がするどい

練習から大して日がたったわけでもないはずだが

 

『やはり娘が見ているとはりきるのでしょうか』

 

たしかに客席からヴィアンカからの ぽわっとした

熱い視線がランバルスに注がれていた

意外と現金なやつだ

 

オレは少し距離をとり

 

「なかなかやるが・・・・・・

しょせんは人間の力!

魔王の力にくらべれば・・・ まだまだ幼稚!!」

 

この台詞を合図にロービィが後から

 

 スッ    バスッ!!

 

オレの腕に木剣で会心の一撃を加えた

 

「この――――――」

 

オレはロービィの腕をつかみジゼルのときよりも勢いよく

客席のトウレンに向かって投げつけた

 

〔ロービィ!!〕

 

練習ではうけとめる相手がいないため

軽くランバルスの元に転がしていただけだったから

ランバルスも動揺して 緊張感のあるいい声をだしている

 

がっしりとトウレンが難なくロービィをキャッチしていた

さすがは現役の地竜の里の守長 口だけではなかったな

ロービィはあの跡継ぎと期待されているそうだが・・・

むっ!?

オレがみがまえるより はやく

ランバルスは おそいかかってきた

 

 ダッ!!     ブォン!!!

 

練習ではここでランバルスがアバンストラッシュの構えで

オレに斬りつけ オレがそれをよけ退却する流れだったが

今はランバルスの一段と速い踏み込みと予定外の剣筋に

対応が一瞬遅れ 避けきれそうにない

片手ではじけば大剣の形をしているだけの杖など簡単に折れる!

 

「くっ!!?」

 

    バシィィ!!

 

「見事! まさか人間がこのオレに防御で

両手を使わせるとはな・・・!!」

 

オレは両手でつかみ止めた術杖から手をはなし

大きく距離をとった

 

「今の剣と 姫の啖呵 それにそこの騎士の一撃に免じ

今日のところは まず退いといてやろう

だがこのくらいの力ではオレは倒せん! 絶対になッ!!

フハハハハハハッ!!!」

 

オレは退場し 最後の場面 勇者の旅立ちとなる

オレも客席でジゼルやリド、クレットらと共に見ることにした

 

《せんせいが魔王を倒し世界を救うその日まで

私はここで待っています せんせいはこれからどこへ?》

 

〔世界中にある 竜の遺跡を調べてみようと思う

魔王があれだけ警戒する竜の力・・・

そこにきっと魔王を倒すヒントがある

それに魔王にそれを悪用されるわけにもいかないからな〕

 

《できるだけ遺跡を壊さないでくださいね》

 

〔そんな もったいないことは最後の手段だ

せっかくの貴重なもの まあ俺が言っても説得力ないか

はっはっは  なるべく早く帰ってくるさ

じゃあ いってくる〕

 

笑いながら旅立つランバルスと

 

《はい いってらっしゃい せんせい》

 

いつものように送り出すユイシィ そして・・・

 

《ぼくはせんせいと一緒にいきますよ

せんせいが本当に大変なことをやろうとしているなら

ぼくはこの大地の上ならどこへだってついて行きます》

 

〔あの魔王に勝てるとは限らないぞ〕

 

《ぼくはあの魔王がひるんだあの剣に希望を見ました!

それにせっかく竜の術をおぼえても

竜がいなければ使えないでしょ?》

 

〔まったく 俺よりしっかりした たよりになる子ばっかりだな〕

 

ロービィの頭に ぽんと手を乗せ 

そして旅立つ二人 その背中への客席トウレン達の拍手に

われに返ったヴィアンカ どうやらすっかり見入っていたようだ

初期の内容から随分と改変したがランバルスや

ユイシィたちの熱演は だれよりもこの娘に響いたようだ

 

『これでこの親子は大丈夫でしょうか?』

 

そんなことはわからん・・・だがこの家には野暮なことであろう

 




ドラゴンクエスト名言集しんでしまうとはなにごとだ!が
思いのほか面白かったのでその勢いで書き上げたウジョーです。
どうでもいいですがラダトーム王ラルス16世とエジンベア王ひどい

地竜術士ランバルスはコーセルテルの原作を読む限りでは
今回の紙芝居よりはるかにハードで重たい事情で娘と別れ
コーセルテルに辿り着いたようですが拙作では
ハドラーがそれを知らないため無意識で地雷を踏んでいきます。

暑さのピーク突入 ここで台所兼居間のエアコンが不調になる事態発生
 おお えあこん! しんでしまうとは なにごとだ!
とならないように大事にしなければ

みなさまも お体も冷房器具もお大事に

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