ハドラー子育て日記 コーセルテル編   作:ウジョー

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父となった日

オレは地竜術士ランバルスの助言を受け 新作の紙芝居にとりかかっていた

今回は特に絵に力をいれているだけに 地竜家だけでは終わらず

未完成のまま持ち帰り 家事が終わった後 術部屋にて徹夜で仕上げている

 

「フェルリ おまえが寝ているジゼルを見てくれるのは非常にありがたい」

 

‘いえいえ ジゼルちゃんがぐっすり眠れるのは 

ハドラーさんが背中を貸してあげてるからですよ’

 

たしかにジゼルはオレの背中で寝ているが それだけだ

紙芝居が完成するまで ジゼルや他の子竜に中身を見られるわけにはいかん

結果 仕上がるまでジゼルから目が離れるのだが 

その間フェルリが面倒を見ているから 作業に集中できるわけだ

 

『私は残念ながらハドラーの目に映るものしか見えないですからね』

 

まったく 役に立たんな

 

『フェルリは幽霊とはいえ生前に 母として 竜術士として

二人も立派に育てていたのですから 頼りになりますね』

 

「まったくだな」

 

‘いえ そんな’

 

聖母竜がフェルリと会話している間もオレは作業を続けていた

こやつらはよく毎晩毎晩 話が続くものだ

・・・紙芝居がほぼ完成した 地下にいるのでわかりにくいが そろそろ夜が明ける頃だろう

 

「朝食の支度がある フェルリ その間 絵の出来をみてもらえるか?」

 

‘ええ よろこんで ジゼルちゃんは背負ったままですか?’

 

「ああ これもレベル上げの一環だからな」

 

オレは出来上がった紙芝居をひろげたまま台所へむかった

 

・・・

・・・・・・・朝食を終え 紙芝居の披露となった 

ジゼルや他の子竜たちも行儀良く座って待っている間に 紙芝居をとりに地下の術部屋へもどった

 

「フェルリよ どうだ?」

 

‘ハドラーさん 素晴らしかったです 今までのどの絵よりもあたたかい感じです’

 

「登場しているのは ほとんどが人間とはかけ離れた姿の怪物たちだぞ」

 

紙芝居に書いてある文字は魔族言語にしてあるので話の内容はわからないはずだが

 

‘ふふ おはなしの中身はまだわかりませんが みなさんいいお顔ですよ’

 

・・・絵だけを褒められているわけではないような感覚だ

 

「これからこいつのお披露目だ 見に来るか?」

 

‘ええ ご一緒いたします 子竜ちゃんたちの隣で楽しませてもらいます’

 

―――――――

「魔族の男は魔道を学ぶうち ひとつの術に出会った

それは核となる無生物に命を与え自らの子を生み出す伝説の禁呪法

子は術者の精神的影響を受け その魔力により生き続けることができる

男はさらなる力を求める一環として その術に手をだした

自らの強さとは違うタイプとして その姿は・・・

力よりも速さを求め軽くし 軽さを補うために手数を増やし 

更に武器を持たせるために手を魔族や人間に似せた

・・・ここでおまえたちに想像してもらいたい 

このとき生まれたこの子はどんな姿をしていたかを」

 

オレはいったん 紙芝居の進行を止め 皆に考える時間を作った

この時点で 子の姿を知っているのはフェルリだけ 皆色々な想像をしていた

適当な頃合を見て 次の一枚を出した

 

        ドン

 

       ざわ・・・

 

子竜たちの顔から驚きと恐怖が見える 

オレにとって最初の子 バルトスの姿に圧倒されているようだ

 

「その姿は軽さを求め皮も肉もなく骨のみ

六本の腕と握られた武器が敵を圧倒する

核となった頭の骨を守る為の兜 唯一命を感じさせる大きな目

この後 魔王軍の最強の門番となる 地獄の騎士の誕生である」

 

その異形な姿に子竜たちが凍りつく

バルトスはオレの子の中でも最も長く生きオレに仕えていたことから

その姿を正確に再現することはたやすく 子供向けの絵本とは一味違う

誇張なく描いたその一枚を見る子竜たち おそらく想像とはかけ離れていたのだろう

あのナータですら表情が暗い

 

『ナータは元々あのような表情では?』

 

たしかにな ・・・ジゼルも多少は驚いているようだがあまり怖がってはいないか

 

その後は主にバルトス視点でオレが魔王として勢力を伸ばしていく過程の内容だ

魔王軍が大きくなるにつれ紙芝居を彩る怪物たちも増えていった

オークやギガンテス がいこつ剣士 ボストロールと新顔を出すたびに子竜たちやマシェルが

 

     ビクッ  ひっ  わッ

 

と反応するのが面白い フェルリは笑顔を絶やさないがな

そして バルトスにとって 後々はオレにとっても重大な出会いをむかえた

 

「魔王軍の攻撃により焼かれた町の中に 人間の赤子の声がひびく

それは殺気立った怪物たちを刺激し その小さな命も消える寸前だった

だが それを見た地獄の騎士は武器をはなし手で赤子を抱き上げた

 

    ・・・親に見捨てられたか・・・ 哀れな・・・

 

地獄の騎士に拾われた赤子はそのまま魔王の城で育てられた

魔王にとって自軍最弱のスライムよりも弱い人間の赤子に興味などなく

魔王軍最強の騎士の酔狂として城から出さないことを条件にそれを許した・・・」

 

子竜たちの表情が変わった いや見る目が変わったというべきか

 

「武器を持つはずだった六本の腕 そしてその手で赤子を抱き

部下に命令を下していた声で子に名前をつけその名を呼んだ

冷たい骨だけの身体が確かに赤子に父としてのぬくもりを与えていた

世界を覆う邪悪な魔王の気配 そのもっとも濃厚な城内の一室

魔王軍の最精鋭が集う中 赤子がむける笑顔に その子をあやそうと必死な最強の騎士に

他の怪物たちも笑顔になっていった」

 

子竜だけではなく マシェルもフェルリも 紙芝居に見入っていた

バルトス含め怪物たちの絵自体にはあまり変わりはないはずだが

だれもその顔に 恐怖の色は感じない

 

「かつて魔界を牛耳ったという伝説の剣豪の名前をつけられた赤子は

何の疑問も抱かず大きくなっていった

少年となったその手がはじめて握った刃物が生み出したもの・・・

それは父への贈り物 星型の首飾りだった

 

     おお これをワシにか?

 

少年の手により父の首にかけられた

 

     おおう ワシがもらったはじめての勲章じゃ

 

それは 紙と布で作られた 何の守備力も持たない装備品だった

だがそれは 地獄の騎士にとってどんな武器や防具よりも価値があるものだった

地獄の騎士はレベルが上がった・・・」

 

今回の紙芝居はこれで終わりだ オレの最初の子バルトス そしてその子

後に宿敵アバンの使徒として オレの心臓をも貫いた戦士ヒュンケル・・・

 

『あなたよりよっぽど 父親をやっていますね』

 

ああ大したやつだ 今なら心からそう思う・・・

 

その後 マシェル家をはじめとして この紙芝居を披露した家では

竜術士や親に手作りの贈り物をするのが流行した

ジゼルもその例に漏れず・・・

 

     \ はい!ハドラー様♡ これを食べてください!! /

 

アグリナの家で焼いてきたらしいパンをもってきた

 

「ほう 星型か」

 

とりあえず一口で半分ほど食ってみた

 

「・・・うむ 悪くない」

 

まあ味はアグリナの手柄だろうが パンを焼くときにはジゼルも火竜の力を貸したらしい

ジゼルがオレ以外の竜術士に力を貸すとはこれも成長ということか・・・

 

『ハドラー 私も是非食べたいのですが!!』

 

「やれやれ・・・ ドラゴラム」

 

術部屋の中で竜化した分 本来よりは小さいものの 竜の姿では食べにくい聖母竜に

フェルリに耳打ちされたジゼルが食べさてやっていた

バルトスよ・・・ 見ているか・・・ オレはお前に近づけているだろうか

 




書いているうちに内容的に母の日までに投稿できればいいな と思ってたら結果的にこんなギリギリになりました。
母の日補正かフェルリさんと聖母竜さんが当初の構想より出番が多くなったりしましたが折角の子供の日を綺麗さっぱり忘れてました。
5月5日はハーメルンで面白い作品に出会ったので一気読みに費やしてましたよ・・・

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