ハドラー子育て日記 コーセルテル編   作:ウジョー

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木竜家のお茶会

                  ドン

 

木竜家の家の前に無事着地した

さらしで胴に服ごと巻きつけた卵のジゼルにも異常はない

さらしは慣れが必要だが使ってみればなかなか便利なものだな

卵を固定する際に 胸に抱く 腹に抱える 背中に背負う、

と自由に変えることができるのがいい

地獄の鎖(ヘルズ・チェーン)で巻ければもっと便利だったが 卵はともかく

折角用意した産着がズタズタになりそうで使えぬ。

先ほどのトベルーラ(飛翔呪文)に驚いたのか目的の人物がやってきた。

 

「出前だ 木竜術士、たしかカディオだったか」

 

〔ハドラーさんでしたか わざわざありがとうございます

例の卵 まだ孵ってないみたいですね〕

 

「ああ ずっとこんな調子だ それよりこれが頼まれていた菓子だ」

 

〔ああ その大きい石の玉が武術訓練で活躍したという石釜ですか〕

 

「そうだ 木竜家から提供のリンゴを使った菓子ということだったからな

こいつは石焼釜アップルパイだ このままオレが持っていこう 案内してくれ」

 

〔成る程 アップルパイでしたか

あ こちらです いっしょにお茶いかがですか?

うちの子を紹介しますよ〕

 

「・・・まあよかろう パイの出来が気になる 邪魔するとしよう」

 

大きめのテーブルがある部屋に通された

ひとまず石釜を置いたが 補佐竜のロイとノイの様子を見るに茶の準備中のようだな

早く来すぎたか・・・ それに急に一人増えれば面倒もふえるだろう

だがオレのパイは冷まさずに熱いうちに食わすために釜ごと運んだのだ

 

「湯が沸いていないな その水瓶ごと貸してみろ」

 

ロイが持っていた水瓶をうけとり・・・

 

「ギラ(閃熱呪文)」

 

         ・・・・・・ポコ ポコポコ

 

魔法力の集中にも随分慣れたものだ 水を静かに沸かすことに成功した 

 

<ありがとうございます もうお湯が沸いたんですね

火竜術はこういうとき便利ですね

あれ? でもまだ卵ちゃんですよね 竜術使えるんですか?>

 

「今のは竜術というより魔術だ まあオレにも細かい理屈はわからぬこともあるが

これはほとんどオレの自力だ」

 

ロイの質問に適当に答え 茶の準備をロイらに任せ 

オレは石釜をあけアップルパイをとりだした

 

「・・・ウム 上出来の焼け具合だな 後は適当に切り分けておいてくれ」

 

・・・釜に僅かに残っていたパイの欠片を味見した

まあ こんなものか 小麦粉の質次第でまだ完成度はあげられるだろうが・・・

 

<ハドラーさん こちらのお席にどうぞ>

 

席を用意され 座ると茶と例のパイをだされた

・ ・・ウム やはりここの茶はなかなかのものだな

流石 木竜家 コーセルテルで茶葉の出所はおそらくここだろう

次は この茶に合わせた味に仕上げるのも一興だろうが

何の茶が出るか特定が難しいか

 

              \\いただきまーす//

 

茶を飲みながら木竜家の子竜たちを紹介された

ロイとノイは武術訓練で面識があるが もう三人子竜がいるのか

 

<美味しいねこのアップルパイ リンゴの味も香りもそのままよりもずっとおいしい

流石マシェルさんね>

 

四番竜カラナの感想に気を良くしつつも ひとつ訂正した

 

「いや これはオレがつくった まあ材料を用意したのはマシェルだが」

 

『あなたのお菓子作りも磨きがかかってきましたね』

 

<ハドラーさんがつくったんですか?!

すごいです! ハドラーさん何でもできるんですね!>

 

卓を囲む子竜たちの賛辞に気分を良くしていると

 

                  ///

 

「どうしたジゼル?」

 

殻ごしにジゼルの感情の起伏を感じた

もっともその中身まではわからんがな

 

<ハドラーさん ジゼルちゃんがしゃべったんですか?>

 

「いや 直接声が聞こえるわけではない ただ 何となく感じただけだ」

 

ジゼルは時折こういった反応を示すが

オレの呼びかけ以外では その傾向がよくわからん

 

『まあ あなたでは難しいでしょうね

・・・まあ私にもわかりませんが』

 

役に立たんな・・・ まあ たとえこの卵が口が利けてもわからぬことだらけだろうが

 

                ///

 

<カラナやロットたちの卵ちゃんだったのを 思い出すね

いちばんちっちゃいロットでも もう3年くらい前だっけ?>

 

三番竜キーニの言葉に この中で唯一の幼竜 五番竜のロットが首をかしげる

 

         \わかんない でもおいしいー/

 

〔うちに来た子は みんな卵の状態できたんだよなあ・・・

最初にノイとロイがいきなり二人同時にきて

あのときは 二人分の名前を考えるのが大変だった・・・

それから キーニ カラナ ロット みんなクルヤが連れてきたんだよな・・・

本当に にぎやかになったんだな・・・・・・〕

 

子竜たちをみつめてつぶやいたカディオが 茶を煽るように飲んだ後

上を向いていた・・・ あの目 おそらく涙をこらえているのだろう

 

『涙・・・ですか そういえば あなたが流したところは見たことないですね

鼻水なら何度も見ましたが』

 

・・・・・・そういえば あの時 見られたのはポップだけだったか

しかし こやつはつまらんことを気にするな 

 

              じー・・・

 

キーニがオレを・・・ いやジゼルの方をじっと見ている

 

「どうした キーニ? この卵がそれほど気になるか?」

 

<ええっ! い いや そういうわけじゃ!?>

 

見るからに動揺しているキーニをフォローするかのようにノイが

 

<ハドラーさん 卵ちゃんをあたしたちで抱っこさせてもらえませんか?>

 

「ああ よかろう 持っていけ」

 

さらしを外し ジゼルを服ごと渡した

受け取ったノイだけでなくキーニやカラナも抱いてみていた

マシェルのところの子竜たちと同じくやはり直接触ってみたくなるのだろう

 

「木竜術というのは 便利なものだな

このリンゴのように季節外れのものを収穫するだけでなく

本来は育ちそうにないものをつくることさえ可能ときく

ジゼルに術資質があれば習わせたいところだったが・・・

どうだ おまえたち ジゼルやこのオレから木竜術の資質は感じぬか?」

 

マシェル家の木竜タータは感じとれなかったようだが この木竜家ならと僅かに期待したが・・・

 

<・・・・・・うーん 

直接さわってみても卵ちゃんから木竜の術資質は感じないかな>

 

〔残念ながら あんたからも感じられないな

たしか はじめて会ったときにも言った気がするが〕

 

補佐竜のノイと竜術士のカディオがいうのであれば 間違いないのであろう

 

「無念だが仕方あるまい こればかりはどうにもならん」

 

〔竜術を使わなくても畑仕事はできますよ 本来作物を育てるのに竜術はいらないんです

このリンゴはたしかに術研究の一環でうちの子が竜術で作ったものですが

うちの畑では術を使いません

なんでもかんでも竜術を使っていたら自分の手でできることがわからなくってしまうと、

この子たちに教えていますから〕

 

成る程 たしかにそうであろう

 

『立派なお考えですね さすが竜術士』

 

「そういうことなら その畑仕事を見せてもらおうか 無論おまえたちの都合のよいときでいい」

 

〔そうですね このおやつの お礼もありますし お茶の後で畑に来て見ますか?

うちの子たちも来ますから 卵を預けておけば 農具を実際使ってもらうこともできますし〕

 

「そうか では邪魔をするとしよう まあまずは茶を飲むとしよう・・・」

 

ジゼルを預けたまま 茶をすすった

卵自体はオレにとって大した重さではないはずだが・・・

 

『いないと・・・ 軽すぎますか?』

 

フン、何を馬鹿な・・・

ロイに茶のおかわりを要求した・・・

 

 

 




アバン先生の修業の成果か ハドラー様がクッキングパパになってしまいそう(あれはあれで好きです)
まあ心配しなくても ああいう満点パパにはまだまだレベルが足りないし
卵が孵ったらハドラー様にこんな余裕は・・・

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