進撃のほむら   作:homu-raizm

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 サブタイに妙な縛りを入れたせいで内容は出来上がってるのにサブタイが決まらない、なんて阿呆な事態に陥っていたり。
 前話で少し触れたタグについてのご意見ありがとうございます。原作沿いにしろ独自展開にしろ相当曖昧だけど展開示唆に繋がるので、どっちも付けないことにします。

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・マジカル☆ショットガン レミントンM870MCSほむほむカスタム。ポンプアクションが渋い一品。間違っても反動を使って空を飛ぶための代物ではない。


第5話 Exodus slashing

 シガンシナが陥落してから三日後の、月がちょうど真上に差し掛かった頃。どうにかウォール・ローゼの傍――直線距離でおよそ二キロほど――までたどり着いた私は、近くの木の上で休憩しつつ軍用の暗視スコープで壁の様子を伺っていた。向かう途中であの大型も筋肉も姿を見かけなかったからもしかしたらすでに破られているかもと思っていたが、どうやらそんなことは無かったようで一安心である。

 しっかし遠かった、どうせすぐに見えてくるだろうと思っていたウォール・ローゼがまさかウォール・マリアからこれほどまでに離れていようとは思ってもいなかった。ハンネスから正確な距離を聞いておけばよかったと本気で後悔したが、まあそれはともかく。

 

「……さすがにかなり警戒してるわね」

 

 遠距離からのスコープ越しにも見てもはっきりと分かるほどに篝火が焚かれ、さらにびっしりと配備された大砲と、夜も更けたというのにその間を縫うように多くの兵士が巡回している。一瞬、朝を待ってから壁に近づいたほうがいいかとも思ったが、巨人を引き連れていって大砲の巻き添えを食らうのもお断りしたいし、そもそも誰かに引っ張り上げてもらう必要もないわけで、闇に紛れて気付かれないように壁を乗り越えたほうが楽なのは間違いないと思い直す。

 

「ふぅ……」

 

 盾に収納しておいたペットボトルで喉を潤しつつ、ここまでのことを思い出す。結局あの日どうしても動く気になれずに壁の上で一日を明かしてしまった私は、朝になると同時に一人ウォール・ローゼを目指して歩き始めたわけだけれど、これが中々にしんどかった。

 盾にバイクなりバギーなりジープなりを収納しておけばよかったとこれほどまでに思ったことは無かった。どういう理屈でこちらを察知しているのかは知らないが、これだけだだっ広い平地だというのにきちんと私めがけてくるのだからたまったものではない、おかげで初日は殆ど先に進めなかった。もっとも、使い魔がやたら寄ってくるものだから、周囲に人の目が無いことをこれ幸いとばかりに色々と実験をしつつ進んでいたために進行速度が遅かったというのも多分にあるのだけれど。

 そういう面では一人で行動してたのも悪くは無かったと言える、周囲に人がいたなら銃火器をぶっ放すことも出来なかっただろうし。

 

「弾薬をかなり消費してしまったけれど、見合った成果はあったわね」

 

 手足を斬ったり撃ったりした程度の傷では深さ大きさにもよるけれど、概ねかかって三十秒で快癒してしまう。あの美樹さやかに匹敵、あるいは局所的には上回りうるほどの再生能力だ。けれども、さすがに体の一部を完全にもぎ取るレベルでの傷は一分から二分程度かかっていた。そんな傷が高々分単位で治ることがまず凄いのは間違いないのだが、足を吹っ飛ばされての一分なんて無限と一緒だ、その隙にうなじを抉り斬るのに時間停止すら必要なかった。

 ただ、うなじを刀で削ぎ落とせるのはいいとしても、所詮はヤクザ事務所からパチった安物、刀身の傷み方が少し度を超えていて、手入れの出来ない状況で酷使していたらあっさりへし折れてしまうだろう。けれど、その対応策として銃器で綺麗にというのもやはり中々難しかった。当初の予想通り密着からの散弾銃ならばほぼ確実に一撃で抉れたけれど、それ以外の銃だとどうしても吹き飛ばすよりは貫通してしまうことのほうが多く、銃弾の消費量が看過できないレベルであった。

 そして、そんな多量の銃弾を消費して色々実験した結果、吹っ飛んだ手足や目、頭などを修復している間は倒れてようがそうでなかろうが動きが止まる、あるいは随分緩くなる――まあ、私から見れば止まったも同然だけれど――いうこと、そして実験とは関係ないけれど、なぜか夜は動きが止まる、あるいは凄く緩慢になるということだ。

 何も無い平地だけに夜は本当に月明かりしかない真っ暗闇だったが、とある目的のために軍用の各種スコープを持っていた私に隙はなかった。おかげで二日目以降は殆ど戦闘も無くここまでこれたのだが、それは置いておく。赤外線スコープで見たときの使い魔の色に吹いたこともあったが、それも置いておく。

 

「やっぱりあの装置、というよりも使い捨ての剣が欲しいわね」

 

 以上のことから、何がしかの行動は基本夜に行って使い魔との戦闘は極力避けるべきという結論が出た。仮に戦わなければならない場面――超大型や筋肉達磨を相手にしているとき――がこの先あったとしても、余程の事情がない限りは目か足首を狙って一時的に動きを止め、その隙にさっさと先に行ったほうがいい。こちらの消耗品は補給が効かないのだから、無限湧きする使い魔なんか理由もなく相手にするのが間違っている。

 ただ、いつ現れるとも分からない大型を待つ間に腕が鈍るのは死活問題なので、訓練の意味も兼ねて定期的に戦っておく必要はあるだろう。だからこそハンネスたちが装備していたあの使い捨ての剣をいかに入手するかが重要になる。実戦の際にも街の外に出て戦えば誰かに迷惑をかけることもないし、補給の効く剣ならば幾ら使ったところで問題は無い。

 

「こんなことならシガンシナのどこかにあるのを探しておけばよかったわ……今更詮無いけど」

 

 無人のシガンシナならば、多少の物品がなくなろうが誰が分かるわけもない。これは完全に失態だった、だがまあ今回は初回だから仕方ない。次回までに装置の使い方をマスターし、次回は襲撃の開始と同時にシガンシナで装置を入手する方向に動けばいいだろう。

 

「まあ、色々考えるのはあの中に入ってからでも遅くは無いわね」

 

 くぅ、とお腹がなる。誰も見ていない聞いていないとはいえ、中々に恥ずかしい。持っていたレーションを昨日食べきってしまったのが悔やまれる。大分節約しながら食べたのだが、もともと量が少なかったから仕方ない。

 究極のところ人間的な生理現象を全て魔法でどうにでも出来てしまうのが魔法少女であるが、それには当然魔力が必要となってくるわけで、魔力の無駄遣いなんて死に直結するような真似は出来ない。餓死寸前まで行ったらさすがに考えるが、一日程度抜いたところで死にはしないというのは分かっている。もっとも、今の時間に街に入ったところで何か食べるものを手当てできるとも思えないが。

 どの道明日まではお預けか、と私は小さく溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が早いということは、必然的に朝も早いということ。まだ日が出てからそんなに時間も経っていないというのに、早くも人々が動き出す気配が街中のいたるところから発生し始めた。夜も遅く――大事を取って日付変更ぐらいまで粘った――街に侵入し、そこから一息つける場所を探して巡回中の兵士に見つからないように細心の注意を払って街中を彷徨い、漸く腰を落ち着けたのはついさっき、二時間ほど前。あれだけ浴びたかったシャワーすら諦めて寝始めた私が取れた睡眠時間は二時間、当たり前だが機嫌は急降下していく。

 

「……ちっ」

 

 ごわごわする髪に舌打ちしながら、潜んでいた路地裏の荷材置き場から離脱する

、前に外に出していたヘルメットを含む各種装備を盾に収納し、目立たないように魔法少女の服装から見滝原の制服へと着替える。

 さすがに真っ暗闇の中幾ら赤外線や暗視スコープがあるとはいえ、どこぞの民家に忍び込んで眠るなんていう博打は出来なかった。打ち捨てられた家の一軒や二軒あってもよさそうなものだが、シガンシナからの難民が大挙して押し寄せた今ではそんな空き家など簡単に見つかるはずもないということか。夜の上に時間もあまりなかったために大した捜索はできなかったから断言は出来ないが、セーフハウスを探すのは中々に難儀しそうである。

 眠らなくても問題ない魔法少女の体とはいえ、最初から眠らなかったのと半端に眠ってしまったのではストレスの度合いが違う。全てぶん投げてどこかで二度寝を敢行したい、そんな誘惑をどうにかこうにか押さえつけて明るくなり始めた街に飛び込んでいく。大型への備えはもちろん、地理の把握に拠点の確保に装備やソウルジェムの確認にとやることは無数に存在する、無駄にしている時間はない。

 

「まずは地理ね。シガンシナと違って山だの丘だのはなさそうだし、だとするとあの大きな建物か……」

 

 壁の上から見れれば一番なのだが、あれだけ多くの兵士がいる場所に行って街を眺め続けるというのも怪しすぎる。地理を把握する間中ずっと時間を停めるのもナンセンスだし、こればっかりは諦めるしかないだろう。

 てくてく歩いて内門の傍の大きな建物の前までやって来る。が、いざ上ろうとしたところでそれが中々に難しいことが判明した。どうやらこの建物は兵士の詰め所、しかも本部といってもいいほどの規模のそれであるようで、さっきからひっきりなしに兵士の出入りがある。あんまりじろじろ見てても職質されそうなので散歩を装い周囲を回ってみるも、やはり建物に登るのは難しいか。スタート時に立てた予定が最初っから躓いたことに多少気落ちしつつも、無理なものは仕方ない。

 はぁ、と溜息をついて怪しまれないうちに建物から離れる。次に大きな建物は町の中心ぐらいにある尖塔のようなものだが、あんな目立つところに突っ立って周囲を睥睨していたらこれまた一発で捕まるだろう。地理の把握は重要事項だからいずれはやるとして、とりあえずその方法をもう一度考える必要がありそうだった。

 

「お前……アケミホムラか?」

「?」

 

 仕方ないので次の予定であるセーフハウスに適した場所の捜索に移ろうとしたところで背後から妙なイントネーションの声で名前を呼ばれる。この街に、いやこの世界に知り合いらしい知り合いなどいるはずもないのだが、私はその声の相手に心当たりがあった、というよりもこの世界に来てから一番多くの会話をした相手だった。

 振り返ってみると、そこにいたのは正しくハンネスだった。ただ、なにやら説明しにくい表情をしていたけれど。

 そんなしかめっ面で見られることに心当たりがなかったわけでもないのだが、ハンネスと別れた後にシガンシナへ戻った動きは見られていないので、そのことが理由になるはずもない。少し考えたけれどさっぱり分からなかったので、ハンネスに直接聞くことにする。

 

「えーっと、ハンネス、よね……何か用かしら?」

「そうか……無事だったか、良かった。それでお前――いや、今はいい。お前、今日は暇だな? 昼の鐘が鳴ったらもう一度ここに来い」

「勝手に話を進められても困るんだけれど……まあいいわ。昼の鐘ね」

 

 強引な誘いに顔をしかめるも、こちらから聞きたいことがあったのも事実だし誘いを受けることにする。ついでだ、セーフハウスを融通してもらえないかも聞いてみよう。兵士だし、伝手の一つや二つあるだろう。

 

「お代はお昼ご飯でいいわ。それじゃ、またお昼に」

 

 なんだか知らないけど忙しそうだったので、私はそれだけ告げてその場を後にする。まさかこんなところで予定が出来るとは思わなかったけれども、昼までにはまだ結構な時間がある。無駄にするのも惜しい、街を歩きつつ近づいてきた建物をよく見ると尖塔の下には割と立派なステンドグラスとその上に小さな窓が付いてるのが見える。ならば、一般市民でも見学の名目で上れるやも知れない、とりあえず行ってみるだけの価値はありそうだと足を向ける。

 そして歩ける範囲で街のつくりを把握しつつたどり着いた尖塔の下、そこにあったのは周囲と比べても立派な建物。ドアをノックしたところで出てきた青年と少し話して建物について聞き、その上で尖塔に上ってみたい旨を伝えてみる。

 

「ごめんね、そういうのはやってないんだ」

「そう、やってないなら仕方ないわね」

 

 だがしかし残念ながら尖塔に上ることは叶わなかった。あんまりゴネて面倒ごとになっても面白くないし、上れないのならここにもう用はない。邪魔したわねと一言告げて去ろうとする直前、青年のほうから私に質問が飛んで来た。

 

「ふむ……君はシガンシナからの避難民かな?」

「ええ、そうだけど……それが何か?」

「いや、トロストの人間ならここが礼拝堂だということは知っているからね。最初は新しく祈りたいという人が来たのかと思ったけどそうでもないようだし」

「そういうこと。悪かったわね、あんまり祈りに興味はないの」

 

 口に出すのも腹立たしい何かに祈った結果がこの様なのだから、興味ないというのは大分優しい表現で本当は憎んでいると言ってもいい。もっとも、それをこの青年に伝えたところでどうにも意味はないからやらない。まあ、本当に一番憎んでいるのは無能なこの身なのだけれど。

 思うところがありすぎて多少気分が悪くなったからさっさと去ろうとするも、またしてもなにやら雰囲気が変わった青年の言葉がそれを止める。

 

「確かに神から賜った壁が破壊されるなんてことがあったから信心を失ってしまったのは理解できる……」

「……ほむ?」

「だが、それは良くない。さあ、今日からまた新しく我々と一緒に祈ろうじゃないか、全知全能の神に、そしてその神が我々に与え給うたあの神壁に」

「…………」

 

 ああ、ここはあのシガンシナでも演説をしていた怪しげな宗教の拠点だったのか。知らなかったとはいえ、地雷原に足を突っ込む羽目になるとは、今日は運が悪い日なのだろうか。一瞬論戦を吹っかけてやろうかとも思ったが、何かを信じているものにとってその信じるものを否定されるのはことの正誤に関係なく嫌なものだし、そんなことをしても互いに不信だけが募って碌なことにならないのは、今まで散々巴マミ相手にインキュベーターを貶めたことで嫌というほど思い知らされている。

 無駄なことはしないに限る、私はしかめっ面になりそうになるのを何とか押し止め、さもこれから用事でもありますといった体でここから立ち去ることにした。こういう手合いは話を聞くだけでも主張を受け入れられたと勘違いして増長するから最初っから相手にしないに限る。

 

「ウォール・マリアが破られたのは我々の、君たちの信仰が足りなかったからだ。だから――」

「ごめんなさい、これから両親の分まで色々買い物をしなくてはならないの。散歩の次いでで祈りの邪魔をして悪かったわね」

「――ふむ、そういうことなら仕方ない。我々ウォール教は誰にでも門戸を開いている、いつでも来るといい。それじゃ、道中気をつけてね」

 

 宗教のことになると人格が変わるのか、それぐらいガラッと元の好青年といった空気に戻った青年が礼拝堂の扉を閉めるのと、私が大きく脱力しながら息を吐くのは同時だった。しかし、ウォール教ね、壁を信仰するのならその壁を破った巨人に対してどう思ってるのかぐらいは聞いてもよかったかもしれない。藪蛇になる可能性も否めないが。

 そういえばハンネスは兵士だ、であるならばウォール教について私よりは色々と知っているだろう。本人たちに聞く前にある程度でも情報を仕入れられるならそっちのほうがいいか、昼会ったときに聞くことが増えた、忘れないようにしよう。

 他に上って街を俯瞰できそうな建物は見当たらないので、仕方無しに外門のほうへ向かって歩く。ハンネスに会った場所が内門の前なのだから、外門まで歩けばそれで一応街のメイン通りを歩いたことにはなるだろう。袖に隠した腕時計をチラリと見れば指し示されている時間は午前七時、約束まではまだ五時間近くある、時間的に間に合うところまで歩いてから引き返せばいいかとあくびを噛み殺しながら歩を進めるのだった。

 

「しっかし神壁様ねぇ……」

 

 こんな朝っぱらから知らない建物を訪ねた私も私だが、そんな時間から壁に向かって祈っていた彼も相当だと思う。まあ確かに、現代日本の高層ビル群を見慣れている私だからあまり感動も覚えないが、それでもあんな大きな壁が万里の長城よろしくひたすら続いていることには幾ばくかの神秘性を感じざるを得ないのもまた事実。祈りたくなる気持ちも分からないでもないのかもしれない、それを他人に押し付けるのはどうかと思うけれど。

 そんなことを考えながら街の様子を観察しつつのんびりと通りを歩く。大分活気が増してきた通りにはちらほら露店なども見え始めていた。もっとも、今の私が持っているのは日本円だけだから手持ちという意味ではゼロで、何かを買えるわけもないのだが。そんな残念な財布と空腹で文句を言うお腹に心の中で舌打ちしつつ、歩くついでに周囲を観察していくつか気になったことをまとめていく。

 

「シガンシナに比べれば街並みは随分整然としているのね……内側のほうが発展している? シーナからローゼ、そしてマリアと活動領域を広げたのならば外に行くにつれて新しい建物が出来ていなければおかしいのに」

 

 壁の中に逃げ込んだ、というのならばあらかじめ壁は三枚あったとでも言うのか。確かにもともと三枚あったのなら、より安全な内側のほうにより多くの人が集まり、発展するというのも頷ける話ではあるが、じゃあ誰がこんな壁を三枚も用意したというのか。

 

「……まあ、最初にシーナだけ用意してあって、後は全部人類が巨人を倒しながら広げた、っていうのも状況から見れば大分ぶっ飛んだ仮説ではあるけれど」

 

 そもそも誰が壁を用意したかの謎は解けていないわけだし、巨人を倒して活動領域を広げていったのならマリアがあんな簡単に破られるわけもない。また、仮に破られたとして、その対策が立てられてないなんてことも有り得ないだろう。結局謎は謎のまま、というより変に考えたせいで余計訳が分からなくなった。

 これもまたハンネスに聞いてみようと思う、正解を知らなくとも、切欠になる情報ぐらいは貰えるかもしれない。壁を人間が造ったのだとしたら、そんな偉業――しかも高々百年前の――に対する記録や口伝が残ってないはずがないのだから。

 

「セーフハウスの件、腰に下げてる装置の件、ウォール教の件に壁の件。ついでにどこかで手持ちの道具を買い取ってくれる場所があるかも聞いてみましょうか、さすがに暫く拠点となるであろう街にいて無一文はよろしくないわ」

 

 売れそうなものといえばコンバットナイフぐらいしかないが。まあ駄目なら駄目でどこかから調達することも考えなければならない、あんまりやりたくはないけど、しょうがない。随分と思考がブラックになったものだと自嘲する、これじゃ佐倉杏子に何も言えない。まあ言ったこともないけど。

 だんだんと強くなる日差しに目を細める。殆ど徹夜と変わらない今の私に、力強い朝日は大分刺激が強かった。これは、ハンネスと会う前にどこかで仮眠を取ったほうがいいかもしれない。起きられない可能性のほうが高いが、このまま会ったところで有意義な会合が出来るかといわれると甚だ疑問だ。

 

「……どうしたものかしらね」

 

 公園でもあったら一眠りしよう、そう決めて歩く。果たして、外門に近づくに連れてどんどん人気が増えてくるこの通り沿いに公園なんてあるのか、可能性は薄いだろうなと思いつつ、小さく溜息を漏らすのだった。隈ができてたらどうしよう、一応乙女として。スニーキング用のスコープとかばっかりじゃなくて、手鏡の一つでも持ち歩くべきだったと今更後悔する。

 結局、公園なんて気の利いたものは目に付く範囲には存在せず、ハンネスと再び会ったときの第一声が、お前眠そうだな、だったのはここだけの秘密ということで。




 魔法少女の格好でヘルメットに軍用暗視スコープと軍用マスクを装備してM16を携行しつつ動き回る姿は紛うことなき変態。

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