東方人形誌   作:サイドカー

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別に、続けて投稿してしまっても構わんのだろう? ←UBW感


どうも奥さん知っているでしょう? サイドカーでございます(二回目)
先ほどのはジャブ(前座)、こちらが本命の右ストレート(本編)でございます。
ちゃんとアリスも出ますよ!

というわけで、こちらもごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第六十四話 「~その血の宿命~」

 時間が解決するとは上手い表現だと思うのだが、皆さんはどうだろうか。

 人間は歳を重ねると並大抵の事象には耐性がつくというか慣れてしまうものらしい。いやね、早い話、大学生くらいになると一晩も経てば案外冷静になれちゃうのよね。すごーい! たーのしー!

 遠く離れた実家にいるはずの身内がこんな異世界に来ているかもとなれば、そりゃお前、フツーならば焦って当然である。誰だってそーなる。俺もそーなる(経験談)。

 ところがどっこい、神様やら妖怪やらをガチで目の当たりにして積み重ねてきた経験値っぽいナニカが、どうにも俺を変な方向のレベルアップへと導いちゃったみたい。幻想郷は何でもありなんよ今更何を驚くと言うのだねHAHAHAとやけに達観した今朝を迎えました。念のため後でSAN値チェックもしておこう。

 それに望みは薄いけど人違いのセンも微レ存。まだだ、まだあわてるような時間じゃない。

 アレコレと御託を並べてみたものの、ぶっちゃけて言うとマジで本人だとしたらあんまり会いたくないのが本音だ。できれば俺に気付かぬままさっさとお帰り願いたいところです。お帰りくださいませご主人様。

 安否は心配しないのかって? いやなに、薄情と言うなかれ。あのチートが追いつめられる事態そうそうないので無問題っす。イミフにもサバイバル知識もあるし、ボクシングやらの格闘技も嗜んでいて腕っぷしも相当強いのだ。つくづく色々とブッ飛んでいるブラザーである。

「はぁあ~……」

 ふと、紅魔の吸血鬼がいつか言っていた言葉を思い出す。

 

『運命は二つ。一つはいずれ大きな困難が立ち塞がるということ。もう一つは、これまでのようにはいられなくなるということ』

 

「優斗……大丈夫?」

「ん、アリス……」

 もう考えるのもメンドクセーと脳内にちっこい億泰が現れ始めたあたりで、耳に届いた少女の声が、俺の意識を現実に戻した。

 人形遣いの青い瞳が心配そうに俺の顔を覗き込む。テーブルに置かれた淹れたての紅茶から甘い香りが漂う。アリスが用意してくれたのか。彼女にも気付かないなんて、どうやら自分が思っていた以上に考え込んでいたみたいだ。

「悪い、ボーっとしてた」

「ううん、それよりも一息つきましょう。ずっと難しい顔してる」

「ぬっ、そうか?」

「ええ、こことか皺が寄っていたわよ」

 そう言って、つんと人差し指で俺の額をつつく。もう一つの椅子に腰かけて自分用のカップを手に取った彼女にならい、こちらも紅茶を口にする。ちなみに今日はストレートティーだった。甘く、且つサッパリした味わいに凝り固まっていたものが解れる。人形遣いの優しさの味、なんつってな。

 しばらくティータイムが続く。ほどなくして、どことなくそわそわしていたアリスがおもむろに口を開いた。

「やっぱり、昨日のこと?」

「まぁな。だがもう平気だ。今から考えたってしゃーないし、事実どうあれ為るように為るさ。そんなことより、せっかく祭りを楽しんだ後だったのに台無しにしてスマンかった」

「いいの。いっぱい出店も巡ったし、花火だって見れたんだもの。何も台無しになんてなってないわよ」

 天使だろうか、この娘は。優しすぎておっちゃん涙が出てきた。

「そっか。うん、アリスの浴衣姿も可愛かったしな!」

「そ、それはもういいからッ!」

 ちょっぴり顔を赤らめてアリスがプンプンと怒る。可愛かったのと可笑しかったのが合わさって、ついつい笑みがこぼれる。そのせいでアリスが余計にへそを曲げてしまい、両手を合わせてひたすら平謝りで許しを請う。

 そうだ、俺には何よりも優先すべきものがあるじゃないか。レミリアにも宣言したというのに。彼女を守ると(実際とはイメージが異なる場合がございます)。雪下の誓いでも真っ赤な誓いでもない、俺だけの誓いを掲げよう。マグロ、ご期待ください。

 正面に座る金髪の少女に声をかける。窓の外は今日も晴れ渡っていた。

「アリス、もう一つ気分転換に付き合ってくれないか?」

「もちろん。どうするの?」

「森林浴――ちょいとお散歩しませんか?」

 

 

 これといったルートもなく、何となく気が向いた方向へと森の中を歩いていく。

 木々が寄り集まっていて日陰が多い。逆にいえば、木漏れ日が降り注ぐ箇所は一際眩しくてよく目立つ。さながら天然のスポットライトだ。その下をアリスが通ると、まるで舞台に立つお姫様のようで瞬く間に惹かれていく。お日様の光を反射してキラキラと輝く金髪は鮮やかに美しい。本当に綺麗で、それ以外の言葉が出てこない。

 足を進めていくと、唐突にアリスが「あっ」と声を上げた。その場に立ち止まり、なにやら悪戯っぽい表情で振り返った。

「ねえ、覚えている? ここ」

「あったりめぇよ。覚えているとも、むしろ忘れるわけがないべさ」

 第三者から見れば別段変わったところもなく、他と同じ森の一箇所に映るだろう。だけど俺とアリスにとっては特別な場所なのだ。そこの茂みとか倒木とか、色褪せることなく記憶に残っている。

 周りの景色を確かめながら、俺は彼女に正解を告げた。

「俺たちが初めて会った場所だったよな」

「うん!」

 二人だけの思い出。境界を隔てて交わるはずのなかった、異なる世界の青年と少女がお互いを知る始まりの始まり。運命か奇跡かはたまた番組の展開か。出会うべくして俺たちは出会い、今もこうして一緒にいる。

 今日も、きっと明日も、この温かくてくすぐったい幸せな時間を過ごしていくのだろう。青く染められた夏色の空は広く、俺たちの未来を象徴するかのようにどこまでも続いているのだった。完。

「もうちょっとだけ続くんじゃ」

「どうしたのよ急に」

 エピローグっぽい謎のナレーションを始めた俺にアリスが怪訝な眼差しを向ける。いかん、いかん。感慨に耽りすぎてあやうくスタッフロールまで行ってしまうところだった。

「あー、いや何でもなくてよ? 久しぶりに来てみたらあまりに懐かしくてなぁ」

「もう、まだ数ヶ月しか経ってないじゃない。でも……そうね。実を言うと私も同じなの。色々あったからかしら? ずっと前の出来事のような気がして。ふふ、可笑しいわね」

「だな。ま、これからも仰山イベントがやってくるんだろうけど、ここから始まったことは僕ぁ絶対に忘れませぬぞ」

 思い出に微笑む人形遣いに、俺もまた自信ありげなニヤリ顔で親指を立てる。幻想郷との、アリスと綴ったアルバムの最初の一ページを埋もれさせるなんざあるわきゃねえ。消したりなんてするものか。クイックロードでいつでも回想シーンを再生できますとも。

 俺が宣言すると、頬を仄かに赤く染めながらアリスも小さく頷いて応えてくれる。

「私だって。ずっと覚えているから……ね?」

「アリス……」

 そう言ってくれたのがあまりにも嬉しくて、恥ずかしがりながらも誓ってくれた彼女があまりにも可愛くて、俺はアリスから目を離せなかった。アリスも同じように、俺から目を逸らそうとしない。

 見つめ合う互いの瞳には、もはや相手の顔しか映っていなかった。

「優斗……」

 二人はやがて――

 

「おー、おアツイこって」

 

『ッッッ!?』

 魔理沙の登場によって盛大にびっくらこいたのであった。ド派手に肩を跳ね上げて、だいぶ近くなっていた二人の距離をバッと引き離す。俺に至っては後ろ足を引っ掛けて尻餅も着いた。痛い。アリスも顔全体を真っ赤にして相当テンパっている。

 そんな俺たちを見逃してくれるはずもなく、もはや芸術的なニヤニヤ顔を浮かべて白黒魔法使いが追い打ちをかけてくる。

「にゅふふふ。せっかくお楽しみのところだったのに、二人の邪魔しちゃったみたいなんだぜ。いやー、失敬失敬」

「ふぇええ!? ま、魔理沙ったら何を言っているのかしら!? 私と優斗はただお散歩していただけで別に変な意味はないんだから! 勘違いしないでよね!!」

「うおー、ここまでテンプレなセリフが出てくるとはさすがの私も驚愕だぜ」

「だーかーらーッ!!」

 羞恥心がえらいことになってリンゴよりも赤面したアリスが若干涙目になっている。手助けしようにも下手に介入したら自爆する気しかしない。そもそも俺も顔が熱くてそれどころじゃない! やめろ、今こっちを見るでない!

 結局、魔理沙の誤解を解くために多大な時間と労力を費やすハメになるのであった。主にアリスが。南無三。

 

 

「そんで? 二人で()()()お散歩していたのはどういうシナリオなんだぜ?」

「妙な強調に関してあえてツッコミはしないぞ。ごほん、ちょっとした気分転換ってやつだ」

「ふーん……ってことは何か行き詰まっているのか? 水臭いぜ、そういう事情なら私にも相談くらいしてくれよ」

「優斗、せっかくだし話してもいいんじゃない?」

「ん。せやろか、せやな」

 実際のところ、これといって隠しておかなければならない理由もない。彼女に話して損する中身でもあるまい。せいぜい、根拠も証拠もないただの噂話くらいに聞いてもらえば十分だろう。

 魔理沙に経緯をざっくりと教える。アリスと二人でお祭りに出かけたあたりではまたしても意味ありげな笑みをされたが、帰り道に起きた例の件に触れると彼女も真面目な顔で耳を傾けてくれた。

 一通りの説明を終えると、白黒魔法使いは活気に満ちた顔で高らかに、

「よし! その事件、名探偵の霧雨魔理沙さんに任せとけ!」

「いつから探偵になったのよ……」

 ドンと胸を叩いて誇示する親友にアリスが嘆息する。しかし人形遣いの呆れなどどこ吹く風で、異変解決のエキスパートはすでに気合が充電されきっていた。

 こうしちゃいられないぜ、と魔理沙探偵が意気揚々と調査に乗り出す。

「まずは現場に急行する。犯人は必ず現場に戻ってくると相場が決まっているんだぜ」

「現場って、人里じゃないのか?」

「いーや、私の予想だとお前が幻想入りしたあの場所がチェックポイントだぜ。優斗と同じようにあそこから入ってきた可能性が高い」

「マジっすか。して、その根拠は?」

 俺が問いかけると、彼女はあっけらかんとした様子で、

「だって兄弟なんだろう? 何かしら共通点があるはずだ。あとは勘だぜ」

「推理小説なら一発アウトの探偵にあるまじきトンデモ暴論!?」

「ほんとにもう霊夢みたいなこと言って……魔法使いがこれでいいのかしら」

「その霊夢があの時に言っていたじゃないか、紫の様子が変だったって。これは恐らく優斗以外の何者かの気配を感じたからに違いないんだぜ」

「強引なこじ付けじゃないの。うーん、でもひょっとしたら当たらずとも遠からずだったりするのかも……? ねぇ、優斗はどう思う?」

「ええんやないの? 人里よりかは断然こっちのが近いし、とりあえず行ってみるだけの価値はあるべ」

 魔理沙のテンションをみれば、どのみち何らかのアクションを起こすのは避けられない。せっかくヤル気出しているのに水を差すのは野暮というもの。手伝ってくれるというのにケチをつけるのも失礼な話だ。

 第一、散歩に可愛い女の子がもう一人加わったのだと考えれば、こちとら微塵の不満もございませんとも。

「おーし、行くぜ! 事件は現場で起こってるんだ!」

「そのセリフも幻想入りしておったか……」

 

 

 というワケで、つい先日も訪れた場所に再び足を運んだ霧雨探偵隊御一行。

 目的地に着くなり魔理沙が例のご神木(偽)に突撃し、忙しなくあれやこれやと調べ回っている。幹をコンコンとノックしたり内側に耳を澄ませたり根本を注意深く覗き込んだりと、意外にも本格的でござった。探偵というよりトレジャーハンターの方が近いかもしれない。日頃の収集癖もあって余計にそう思う。

 俺とアリスは魔理沙の調査活動を見守ることにした。我ながら当事者がこれでいいのだろうかと疑問を抱かないでもないが、気にしたら負けだ。いいね?

「いやはや、いつもながら元気だなぁ」

「探究心が強いのよ。魔理沙に限らず魔法使い全員にいえることだけどね」

 二人でのほほんと眺めていると、ちょうど木の裏側に回り込んだ彼女の「アリスー、来てくれー」という人形遣いをご指名する声が飛んできた。

「ちょっと行ってくるわね」

「うぃ、行ってらー」

 親友の元へ駆け寄る少女の背中を見送る。あ、しまった。暇だったし俺も着いていけばよかったわい。かといって今から追いかけるのもカッコ付かない。完全にタイミングを逃した。誠に遺憾である。

 手持無沙汰になってしまった寂しさを紛らわすべく、せめてもの慰めにポケットからタバコを取り出す。紫煙を燻らしながら少女たちが戻ってくるのを待つ。

「お宝でもあったのかねぇ……」

 

 

「残念だが、何もないのは既にこちらで確認済みだ」

 

 

 きっと彼らは一目見てわかったはずだ。

 

 二人は初めて出会うより以前から、ああなる運命だったのだろう。

 

 すれ違っていたわけでもない。

 

 彼らは誰よりも深くお互いを理解し、相手のことだけを見つめていた。

 

 

 思わずサイコパスの導入シーンを再現してしまった。

 タバコを咥えたまま背後から投げかけられた声の主へと振り返る。若い男が一人立っていた。

 俺よりも少しだけ背が高く、切れ長の目つきは無関心を象徴するかのように暗く冷たい。日本人らしい黒い短髪はクセもなく真っ直ぐに下りている。こっちは天然のツンツン頭だというのに、どうしてこうも髪質が違うのかと疑問に思ったのは中学ぐらいのときだったっけ。

 ワイシャツとスラックスというシンプルな服装の下は、細身ながらにしかと鍛えられた身体が隠されているであろう。

 ああ、もう誤魔化しは効かない。人違いの可能性は皆無となった。俺はこの人を知っている。見覚えしかない。やはり昨日の時点で確信していたのだろう。さほど動揺していない自分が居た。

 男の無機質な眼光が、矢の如き鋭さをもって俺を捉える。

 

「タバコは感心せんな――弟」

 

「たまにしか吸わないし、案外悪くないもんだぜ――兄貴」

 

 

つづく

 




今年はアニメ映画が豊作で大変ですね。
SAO、プリヤ、生徒会役員共、エウレカセブンetc ←観てきたやつ

個人的には桜ルートが楽しみ過ぎて失禁しそうです(末期)

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