東方人形誌   作:サイドカー

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月一更新になっている件について……もはや言い訳はせぬ(漢顔)
ウソです。お待たせして申し訳ございませんでした。


皆さまお久しサイドカーでございます。
昨日投稿できれば七色の日で完璧だったのにこのマンモーニが! ←自虐

気を取り直して最新話でございます。
此度もごるゆりとお楽しみいただけると嬉しいです。


第六十二話 「心が叫びたがっているんじゃねーの?」

 夕暮れに染まる空。黒いカラスがカァカァと鳴き声をあげながら飛び去っていく。

 沈みゆく夕日を見ていると、今日という日が終わるのを告げられたみたいで物寂しい気分にさせられる。とか憂い顔で言うとモテたりするのだろうか。よし、今度やってみよう。

 唐突だがここでクイズだ。夕焼け小焼けで日が暮れて、そんな時間帯にはたして俺は外で一体何をやっているのでしょうか。夕日に向かって走っている、ハズレ。太陽に向かって吠えている、ノーノ―。正解はこちら。

「そわそわそわそわそわ」

 ものごっつ浮足立っている真っ只中でした。

 アリス邸の前で、下手すれば職質されかねんほどに落ち着きを失くしている大学生。とはいえ別にやましい前科があるわけではない。その逆、このあと来たるイベントに期待と興奮でワクワクが止まらんのだ。

「アリスまだかなー、アリスまだかなー」

 修学旅行前日の小学生と同じレベルで、支度中の少女が出てくるのを今か今かと待つ。阿求様から貰った布地を使って彼女が衣装作りに勤しんでいたのは知っている。そのお披露目がいよいよ今日むしろナウというわけだ。ちなみに俺はいつもの恰好です。

 そんなわけでお天道様を拝んだりしていると(大神のラスボス戦は泣いた)、玄関の扉が開いた。続けて、カランッと軽やかな下駄のステップと待ち侘びていた彼女の姿。

 

「お待たせ」

「おお……ッ!」

 

 茜色の浴衣が少女を雅に彩る。華の衣装に身を包んだ少女が可憐な笑みでお淑やかに佇む。夕焼けが己の色を分け与えて染めたかのような色彩に和の趣が施され、広い袖口から覗く綺麗な手が眩しい。

 細い腰を締める帯は、この間行った花畑を思い浮かべる向日葵の色。全体を占める茜色との調和はとにもかくにも素晴らしいの一言に尽きる。

 きゅっと引き締まったウエストのくびれから腰に掛けてのなだらかな曲線に慎ましくも色気さえ感じてしまう。

 履物はブーツではなく女性モノの愛らしい下駄。艶のある金色のショートヘアには彼女がいつも愛用するカチューシャが乗せられていた。

 

 感嘆の声を漏らす俺の傍まで来たアリスが照れくさそうに笑う。

「えへへ。その……どう、かな?」

 こちとらニヤけすぎて顔面崩壊を起こすか鼻血をブッ放して昇天するかの瀬戸際ですたい。恥ずかしげな上目遣いで見つめられたらもう我慢の限界だった。

 アリス浴衣バージョンを間近にして俺のテンションは一気にフル回転、

「超絶可愛い。いやマジでマジで、ホントすごい似合ってる。可愛い以外の言葉が出てこない。最高、生きてて良かったアリガトウゴザイマス!」

「~~~~~ッ!!」

 可愛いを連呼し褒めまくると人形遣いの顔がカァアアッとみるみる紅潮していく。もはや浴衣の色と見分けがつかない。咄嗟にうつむいて隠そうとしたがすでに耳まで真っ赤で誤魔化せていない。ああもう可愛いなぁ!

 いやはや、金髪碧眼と浴衣、洋と和の組み合わせはミスマッチどころかベストマッチですわ。和洋折衷ってヤツかな。辛抱たまらん。

「ほ、ほら! ボーっとしてないで。お祭りに行くんでしょう?」

「おっと、いかん。すっかり見惚れて本題を忘れるところだったぞ」

「…………もう、バカ」

 まだ少し顔に赤みを帯びている人形遣いに急かされて、俺たちは家を後にした。そうだ、お楽しみはこれから始まるんだ。こんなところで成仏している場合じゃない。

 行き先は人里。今夜は待ちに待った夏祭り。レッツ、カーニバル・ファンタズム!

 

 

 魔法の森を抜けて、人里に続く道をアリスと二人きりで歩く。

 かろうじて半分くらい顔を残していたお日様も今やほとんどその姿を隠し、オレンジ色だった空も濃い青へ、さらに黒へと移り変わりつつある。ドクタースランプあたりなら顔つきの太陽と月が交代するところか。あ、でもアレって昼からいきなり夜になるんだっけ? むむむ、記憶がアイマイミー。

 次第に夜が訪れる。辺りも薄暗くなってきたけれど、かといって急ぐ必要もない。アリスが浴衣なのもあって、ゆったりとした足取りで平原の道を進む。

 昼間の照りつける日差しと蝉の大合唱は鳴りを潜め、ささやかな月明かりと鈴虫のコーラスが夏の宵に溶け込む。隣を歩く浴衣姿の少女の横顔もどこか楽しげだ。

 ふと、アリスが遠くを指差した。

「見えてきたわよ。もう始まっているみたいね」

「おっほう、ここからでもお祭りムードが伝わってくるぜ」

 微かに見える人里からはいつも以上に明るい輪郭がぼんやり映っている。人里そのものが一つの灯りとなって周囲の闇を照らして俺たちを呼んでいるかのようだ。

 さらに足を進めていくと、静けさを通り抜けて笛の音色や太鼓の轟きが聞こえてくる。どんどん近づく祭りの気配にテンションが躍り昂ぶる。イエス、漲ってきたぜ。

「コレは期待しかないな」

「本当にね。ここまで楽しみなのは久しぶりかもしれないわ」

 はやる心を隠そうともせず、俺とアリスは賑やかな場所を目指す。月と星に見守られる二人はきっと似たような表情をしていたことだろう。

 

 

 はい、やってまいりました人里でございます。

 来てみてビックリ。入り口に着いた時点でもう人、人、人の人だかりで視界が埋め尽くされそうです。もちろん人だけではなく妖怪もたくさんいる。もしや幻想郷中の住民が勢揃いしたのではないかと勘繰ってしまう。

 踊る祭囃子に合わせて太鼓が響く。浮かれた老若男女の喧騒に、耳を澄ませばカランコロンと下駄が鳴る。

 提灯が列を成して連なり、ほおずき色の灯りの下では屋台や出店も同じようにズラリと続く。里の中心部らへんからは櫓も高くそびえ立っている。

 今も昔も変わらない、これぞ日本の夏祭りってな光景が目の前に広がっていた。オゥ、ジャパニーズ・フェスティバル。HAHAHA。いかん、はしゃぎ過ぎて外国人になりかけた。

「おお! やってる、やってる。トンデモねェ、文字通りのお祭り騒ぎじゃないっすか」

「ここまで規模が大きいとは思わなかったわ……」

 博麗神社の境内でやる宴会もなかなかのものだが、人里全体を使って開催された祭りのデカさたるや、もはやコミケに匹敵するやもしれぬ一大イベントと化していた。こいつぁグレート、こうなったらトコトン遊び尽くそうジャマイカ。

 いざ突撃せんと、アリスにも声をかける。

「よし、行こうぜ。はぐれないように気をつけんとな」

「えっと……じゃあ、こうする?」

「へ?」

 思わず間の抜けた声が出た。呆けた俺に人形遣いが控えめに手を伸ばす。彼女の手は俺の手首のあたり、正確にはシャツの袖口の端っこを親指と人差し指で摘まんだ。指先で軽く挟んだだけの小さな繋がり。

 ほんのり桜色に染まった頬と潤んだ青い瞳がこちらに向けられる。緊張しているのかちょっぴり声が震えていた。

 

「こ、こうすれば大丈夫だから……ね?」

 

 萌え死んでもいいですか。

 あまりにも可愛すぎるあざとい行動にとうとう俺の理性が吹っ飛びそうになる。予想を超えた不意打ちに天国行きの扉が開きかけた。俺も顔が赤いだって? ばっ、バーロー! 夕日のせいだよッ!

 くすぐったさを必死に堪えて、俺はわざとらしいくらいにカクカクと何度も頷いてみせた。

「せやな、うん! これならダイジョーブだな!」

「そ、そうよね! ちゃんと対策はとらないと。こんな人混みの中ではぐれたら大変だもの」

「……あー」

「……えーと」

『………………』

 お互いに相手とは反対側に顔を逸らしてしまう。そんな中でもアリスは繋いだ手を離さなかったのがますます照れくさくて、でもそれ以上にどうしようもなく嬉しかった。えぇい、ここでヘタレては男の恥。俺は鈍感&草食系ラノベ主人公とは違うのだ。シャキッとせんかい。

 手首をそっと返してアリスの指に俺の指を重ねる。二人の指が触れた瞬間、アリスはピクッと震えたがそのまま受け入れてくれた。

 いつものお調子ノリで人形遣いの方を振り向きながら最初の一歩を踏み出し、俺は彼女と一緒に祭りの中に身を投じた。

「さぁて、始めますか!」

「うん!」

 まぁ、もし本当にはぐれたとしても絶対に見つけてみせるけどね。俺の美少女センサーは伊達じゃない。そこんとこヨロシク。

 

 

「あ、おいしい。優斗も食べる?」

「いいのか? くれくれ」

「ふふっ。はい、どうぞ」

「サンキュー」

 差し出された綿あめをちょこっと千切って口の中に放り込む。あっという間に舌の上で溶ける甘さに、あぁ祭りの味だなと謎の感慨深さを抱いた。

 両端に向かい合わせで軒並ぶ出店の一本道もまた祭りの風物詩。少女が手にする綿あめはもちろん、リンゴ飴やらカキ氷やらお饅頭もあれば、焼き鳥や焼きトウモロコシなどの炭火焼きの香ばしい煙が漂ってきては食欲を刺激してくる。金魚すくいやヨーヨー釣り、射的や輪投げなんかの定番も欠かしていない。まだ見つけてないが、型抜きの店では紅白巫女と白黒魔法使いが上位を独占しているであろう。南無三。

 忙しなく右も左も見渡しながら歩いて回っていると、ある出店を通りかかった際に抑揚のない声で呼び止められた。

 

「そこの二人。見ていくといい」

 

 

つづく

 




いつもより短いとかきっと気のせい(フラグ)

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