東方人形誌   作:サイドカー

62 / 90
皆さんは新年の瞬間はいかがお過ごしでしたでしょうか。
サイドカーはこの話を執筆しておりました。 ←いつも通り

というわけで新年一発目は特別回でございます!

ごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


正月特別回 「新年だよ! そこそこ集合スペシャル」

『あけましておめでとうございます』

「シャンハーイ」

 

 やってきましたお正月。ア・ハッピーニューイヤー。

 初日の出も既に空高く上っている。窓の外に目をやれば、新年の開幕にはもってこいの清々しい快晴と白く眩い雪景色が映った。

 窓ガラスを通して差し込む日の光が、アリスの艶やかな金髪を美しく輝かせる。それが息をのむほどに綺麗で、どうしようもなく見惚れてしまった。ここが天国か。

 天気もテンションも絶好調。となればやるべきは一つしかあるまい。

「アリス、出かける準備はできたか?」

「ええ、いつでも大丈夫よ。行きましょう」

 俺が呼びかけると、外を眺めていた少女がクルリと振り返った。めでたい日のなせる技だろうか。俺もアリスもどこか心躍る気持ちで玄関に向かい、扉に手をかける。

 

 それでは張り切ってまいりましょう、レッツゴー初詣!

 

 

 石段のラスト一段まで上りきり、いざ博麗神社に足を踏み入れる。

「おおっ」

 入るなり感嘆の声が出た。境内はビックリするほど念入りに雪かきが施されている。さらに、ホクホク笑顔で賽銭箱の中を覗き込んでいる紅白巫女の姿も発見された。俺たちが来る前に何人もの参拝客が訪れた様子。どうやら彼女も幸先の良いスタートを切れたらしい。ご利益は美少女巫女が笑顔でお出迎えってか。ごっつぁんです。

「あら?」

 霊夢は俺たちがいることに気付くと、上機嫌な足取りでタタタッと駆け寄ってきた。

「二人ともあけましておめでとう! じゃんじゃん初詣していってね!」

「あけましておめでとう。毎年そうだけど今年も嬉しそうね」

「あけおめっす。『キラッ☆』っくらい輝いているなぁ。もちろん可愛いから許す!」

「だって年に一度あるかないかのお賽銭がタンマリ入る素晴らしい日なのよ! 本当、毎日これなら大歓迎なのに」

 相変わらず自分に正直な巫女さんだ。もっとも、毎日忙しかったら彼女の性格上それはそれで面倒くさがりそうな気もするのだが。

 ルンルン気分の霊夢に導かれるまま、アリスと並んで賽銭箱の前に立つ。ガランガランと大仰な鈴を鳴らし、小銭を放り込んでからパンパンと柏手を打つ。はじめは瞼を閉じていたのだが、何となく隣が気になったのでこっそり片目だけ開き、相手にバレないようにチラリと盗み見た。

 アリスが静かに両手を合わせている。目を閉じて真摯に祭壇と向き合うその姿勢は、さながら聖女が祈りを捧げるシーンを彷彿とさせる。どことなく神秘的な雰囲気に惹かれ、またしても見入ってしまう。彼女はどんな願いを思い描いているのだろう。

 おっと、いかん。俺だって拝んでいる真っ最中なんだった。

 謹賀新年、昨年は格別のご厚意を賜りまして厚く御礼申し上げます。本年もよろしくお願いいたします……ってこれじゃ年賀状じゃねぇか。ごほん。えー、今年の願い事は、アリスと――

 

 最後に、下げていた頭をスッと上げる。と、いつの間にやら人形遣いの顔がこちらに向けられていた。ガラス玉を連想させる青い瞳がじっと俺を覗き込み、さりげない上目遣い攻撃に俺のハートが射抜かれる。萌えた。

「すごく真剣になっていたわね。何をお願いしたの?」

「今年もよろしくって」

「それ、お願いっていうのかしら?」

「はっはー、細けぇこたぁいいんだよ。アリスはどんなお願いしたんだ?」

「ん、内緒♪」

「えぇー」

 アリスが口元に指を当てて、可笑しそうにくすくすと笑みをこぼす。その仕草が可愛らしくて、俺もつられて顔が綻んだ。二人の心が温かい気持ちで満たされる。

 

 ――今年もアリスと笑い合えますように。

 

 俺の願いは、早くも聞き届けてもらえたらしい。

 

 

「おーい!」

 白黒魔法使いが箒に跨ってやってきたのは、初詣を済ませた直後の出来事だった。

 彼女は境内に集っていた俺たちを見つけて着地するや否や、引率の先生みたいに高らかにこう宣言した。

「よーし、皆いるな! 今から餅つき大会の準備を始めるから帰ったらダメだぜ」

「うむ? 餅つき言うたって材料も道具もないぞ。魔理沙だって手ぶらじゃないか。今から人里まで買い出しに行くとか?」

 俺の至極真っ当な質問に、魔理沙は「チッチッ」とアブドゥル復活ばりのドヤ顔を決める。もちろん指のジェスチャー付きで。イエス、アイアム。

「心配無用だぜ。もう知り合い連中には声をかけてあるからな。参加者は全員もち米を持参することって」

 いいのか、それで?

 あえて心の中でツッコミを入れる俺に、魔理沙に続いて霊夢とアリスも補足を入れる。

「ついでに言っておくと臼と杵はうちの蔵にしまってあるわよ」

「これも毎年のことだから皆わかっているわ。結局いつもの宴会になるもの」

「宴会と聞いた途端に全てを納得した俺が通ります」

 考えてみれば、元旦などという絶好の晴れの日に、此処の住民が宴を開かない筈がない。魔理沙の口ぶりから察するに、相当あちこちに呼びかけまくったっぽいな。霊夢もお賽銭ガッポガッポで浮かれているし、こいつぁハチャメチャが押し寄せてくる予感がするぜ。

 というわけで、この後メチャクチャ転がした(臼を)。

 

 

 魔理沙の声掛けが功をなし、あれから参加者が続々と集まり始めた。

 白玉楼から亡霊姫と半人半霊の庭師が、永遠亭からかぐや姫ご一行が、守矢神社から二柱の神と風祝が、紅魔館から吸血鬼とその従者たちが。さらには地底からは地霊殿メンバーだけでなく橋姫や土蜘蛛の姿もあった。他にも寺子屋の教師に妖怪の山に住む天狗に香霖堂の店主と、挙げればきりがない。

 当然、こんだけ大勢いて餅だけで足りるはずもなく。現在、母屋の台所では各勢力の調理担当(妖夢、鈴仙、早苗、咲夜さん等々)がおせち作りに勤しんでいる。ちなみにこちらも参加者たち持参の食材だ。皆さん準備良いわね。あと、霊夢と魔理沙も奥に引っ張られていった。家主と言い出しっぺだからね、仕方ないね。

 で、俺はというと……

「ユウー!」

「お兄ちゃーん!」

『お年玉ちょーだい!!』

「わぁーった、わぁーった! やるからアームロックを解いてくれっていうかどこでその技を覚えてきたァア!?」

 紅魔館と地霊殿の妹コンビが左右の腕にしがみつき、やじろべえの如くバランス良くぶら下がったままお年玉を催促されていた。無邪気な幼子に懐かれる光景は一見すると微笑ましいのだが、実際には腕の絡め方がそれ以上いけない感じになっていて世界がヤバイ。

 どうにかこうにかフランとこいしを石畳に降ろす。腕の無事を安堵しつつ、財布から小銭を数枚取り出して各々の小さな手のひらに乗せた。

「ほれ、これで初詣してきんしゃい。他に欲しいものがあったらお姉ちゃんに言うんやで」

「やったー! お兄ちゃん大好き!」

「ありがとユウ! 行こ、こいしちゃん!」

 妹コンビが賽銭箱に突貫していく。その様子を見届けていると、今度はアリスとパルスィがこちらに歩み寄ってきた。片や優しげな微笑み、片や溜息つきの呆れ顔で。

「ふふっ、優斗ったら完全に狙いを定められていたわね。すっかり人気者で良かったじゃない」

「まったく、新年始まったばかりだっていうのに早速賑やかで妬ましいわ」

「腕の関節やられそうになった挙句、有り金を差し出して助かったところだったってばよ!?」

 ありのままに起こったことを言葉にすると、小さい子にお年玉をあげる場面には到底思えないのだから世の中不思議でござる。

 

 

 んで。

 どいつもこいつもフリーダムでグダグダの危険性があったのだが、おせち係の少女たちに料理完成に間に合わせるようにとのご命令が下ったため、いよいよ餅つき大会を始める展開となった。

 なお、厨房は戦場とはよくいったもので、特に妖夢から鬼気迫るものを感じたのは余談である。さすがゆゆ様の従者だと、褒め言葉なのか自分でもよく分からない賞賛を送っておこう。

 で、俺はというと(テイクⅡ)

「俺よりも鈴仙の方が上手いんじゃね?」

 なし崩し的に渡された杵を手に、素朴な疑問を口に出した。いつだったか聞いた話によると、月見やら催し物やらがある度にウサミミ少女たちがペッタンペッタンやっているそうな。兎の餅つきってホンマにあったんやね。

 木槌を装備した俺の呟きに返してきたのは、今回の餅つきパートナーとなった少女だった。

「しょうがないでしょ、おせち作るのって大変なんだから。私たちは私たちでやれることをやりましょう」

「というか、アリスは餅つきの経験あるのか? 何か知らんけど皆してアリスをご指名だったような……?」

「経験はないけど、やり方とコツの知識くらいはあるわよ。そもそも毎年見ていたら自然と覚えるわ。だから平気よ」

「そういうもんか」

「そういうものよ」

 餅返し係に選ばれた人形遣いが諭すように頷く。

 言ってしまえば見様見真似なんだけど、彼女なら本当に要領良くこなしてしまいそうな気がする。いやはや、さすが都会派魔法使いと言わざるを得ない。

 かくいう俺もガキの頃に町内会でやってくらいしか記憶にないんだけど。身体が覚えていると信じている。

「それとね……私が選ばれたのは、きっと優斗が……」

「俺がどうしたって?」

「きゃあ!? な、何でもないからッ! 優斗は気にしなくていいことなの!」

「お、おう……?」

 アリスがぽそぽそと呟いたのを聞き返したら、悲鳴を上げられた直後に物凄い勢いで否定されてしまった。よくよく見ると、心なしか頬に赤みが差している。

 俺、何かしたっけ?

 

 一応は今回のメインイベントだからだろう。境内に居る面々の衆目が俺たちに集まっていた。こいフラに至っては「アリスー! がんばれー!」だの「フレーフレーお兄ちゃーん!」だのとエールまで送ってきた。

 よし、と気合を入れて木製のハンマーを担ぎ直す。

「んじゃ、皆さんお待ちかねのようだしぼちぼち始めますか。タイミングは声で合わせようぜ」

「ええ、わかったわ。お互い慣れてないんだから最初はゆっくりね?」

「もちろん」

 アリスの綺麗な手に怪我や火傷など絶対にあってはならない。

 そして、記念すべき一突きめの構えに入る。細心の注意を払って、かつ勢いを殺さぬよう重力に乗せて一気に振り下ろした。杵の槌が餅のタネに当たった瞬間、思っていたよりも粘り気を感じさせない軽い音と弾力のある手応えが返ってくる。

 あとはこれをひたすら繰り返すのみ。

 

「よいしょっと」

ターン!

「はいっ」

サッ

「どっこいしょー」

タターン!

「はいっ」

ササッ

 

 初めはペッタン、ペッタン、とゆっくりやっていた動作も、徐々に慣れとリズムが掴めてきてタン、タン、とペースが上がり始める。たとえ掛け声が短くても、相手の呼吸を聞けばタイミングが読める域に近づいていった。

 そいつがまぁ何というか、まるでアリスと気持ちが通じ合っているような、とにかく得も言われぬくすぐったさにも似た感覚が全身に伝わってくるわけで。おかげで他の連中に注目されている真っ只中だというのに、うっかり気を緩めると頬までだらしなくニヤけてしまいそうになる。

 必死に顔の筋肉を引き締めようとする一方で、

「どんぶらこいやぁ!」

「はいっ」

 とても楽しそうに無邪気な笑顔で餅を返すアリスを前にすると、杵を握る手に一段と力を込めてしまう件については、男の意地ってことで許してほしい。

 

 

 そんな感じで餅を叩く軽快な音が繰り返し聞こえてくる境内の片隅では。

 青年と人形遣いの息の合ったコンビネーションをジト目で傍観しているエルフ耳の少女がいた。

「ふん……見せつけてくれるわね」

「あれあれ~~? パルパルったら不満げな顔しちゃって、ひょっとしてあの娘が羨ましいの?」

「ばっ、バカ言うんじゃないわよ妬ましい! えぇい、引っ付くな離れなさい!」

 背中に負ぶさってくるヤマメを振り払おうとパルスィが激しく身をよじる。しかしその抵抗も大した意味をなさず、ハイテンションなアイドル系少女はケラケラと笑ってばかりで一向に離れない。

 それどころか、「ほれほれ~」と橋姫の頬をイタズラに指で突き始める始末。

「こんなにほっぺた膨らませて、モチがヤケちゃったみたいだね餅つきだけに――ナンチャッテ!」

「…………ふ、ふふふふふっ」

「え、あ、あら? ぱ、パルパル?」

「ねぇヤマメ? あいつらも疲れただろうし私たちで交代に行きましょうか。私が杵を持つからあんたは手を入れなさい」

「ちょっ!? 絶対違う意味でタイミング合わせてくるつもりだよねヤマメちゃんのお手々がピンチの予感!? ゴメンゴメンゴメンもうしないからお願い離してぇえええ!!」

 逃げる隙など一瞬たりともなかった。橋姫にがっしりと両手首を握り絞められた土蜘蛛の絶叫もむなしく、無慈悲にも彼女はズルズルと処刑台へと誘われる。

 その後、地底コンビによる神速クラスの餅つきラッシュに好奇心を刺激された妹コンビも名乗りを上げたり、さらにその様子をレミリアとさとりが落ち着きなくハラハラと見守ったり。ついにはその場にいる全員が交代で餅をつくハメになったのだが、結果的に「餅つき大会」としては大成功だったのかもしれない。

 

 

 餅におせちに酒と全ての準備が揃ったところで、いよいよ新年最初の宴会が幕を開けた。

 乾杯の音頭はもちろん彼女、お賽銭を大漁ゲットで気分上々な博麗の巫女が嬉々としたお日様スマイルで一升瓶を掲げた。

「せっかくの新年の始まりなんだし今日は無礼講よー! 酒もつまみもドンドン持ってくるがいいわ! せーの、かんぱーい!!」

『乾杯ーーーッ!!』

 わっと会場が湧く。人も妖も交流の浅い深いも関係なく、誰もが笑顔で杯を交わし合う。

 そんな中、俺の隣に座っていたアリスがこそっと耳打ちをするみたいに囁いてきた。

「優斗……」

「ん、どしたの?」

「えっと……今年もよろしく、ね?」

 そう言って照れくさそうにはにかみながら小さく舌を出す人形遣いの愛おしさに、鼻血がロケット噴射しそうになる。アリスさんそれ破壊力がヤバいから! 俺の理性もヤバいから!

「ん゛ん゛っ」

 ありったけの根性をもって、鼻血の危機と理性の崩壊を会心の踏ん張りで堪え抜く。そして、

「俺の方こそ」

 唯一堪えきれなかったニヤケ顔をそのままに、俺は彼女にお猪口を向けた。

「アリス、今年もよろしくな」

「うん!」

 乾杯、と二人の陶器が重なる。幸せが訪れる一年になりそうだな。なんてったって傍にいる少女の笑顔がこんなにも可愛らしいのだから。

 仄かに甘さが増した日本酒を口にしながら、そんな風に思っていた。

 

 

 

 二時間後。

「あーもう、思いっきりお酒零してるじゃない。なんでそのままにしてんのよシミになるでしょうが妬ましい」

「いやこれはだね、こいしが後ろからガバッと来たせいであって決してわざとではちょちょちょパルスィさんそこにおしぼり当てるのはアカーーーーン!!」

「ふぇええ!? ダッ、ダメぇええ! 優斗のお世話は私がするのー!」

「うわぁお、お漏らししたみたいになってるお兄ちゃんのズボンを巡ってパルスィとアリスが迫」

「こ、こら! こいし見ちゃいけません! というより、あなた方は衆目の前で何をやっているのですか!?」

 

 今年最初の苦労人はさとりんでした、まる。

 

 

 正月特別回 おしまい

 




グラブルやったことないけどジータ超可愛い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。