東方人形誌   作:サイドカー

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サブタイトルを語呂でしか考えなくなった。

皆さま元気で御機嫌よう、クレイジーノイジーサイドカーでございます。

東方人形誌は忘れた頃にやってくる ←這い寄り
というわけで最新話でございます。
此度もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第四十六話 「天駆君と7色の魔女」

「妖怪の山に出張……っすか?」

「そうだ、頼めるかい?」

 おうむ返しに尋ねると霖之助さんの声が店の奥から返ってきた。

 今日も今日とて閑古鳥が元気にシャウトしている香霖堂。退院の報告も兼ねてアルバイトに来てみれば、「おや、もう退院したんだね」なんてあっさり言われたのがついさっき。『文々。新聞』のおかげで大体の事情は把握していたそうな。相変わらずトラブルが絶えないね、と苦笑されてしまった。いやぁ、面目ない。

 ついでにいうと、ここ数日にかけて気温が上昇しているにもかかわらず窓を閉め切っていたのはたまげた。「ちはーっす」と呑気にドアノブを捻った次の瞬間、むわっと蒸した空気が顔面を襲ってきたのは記憶に新しい。すぐさま店中の窓を次々と開け放ち、プチサウナ状態の空気と外の新鮮な空気を入れ替えた俺の判断は正しいはず。そもそも、この人はなして平気なのだろうか。いつもの着物姿で汗ひとつかかないクールな店主にあたしゃビックリだよ。

 そんなこんなで換気しながら店内の掃除を始めた矢先、霖之助さんから頼まれごとをされて今に至る。当の本人は「どこにやったっけなぁ」とボヤキながら倉庫でガサゴソ物色中だ。

 ほどなくして、店長殿が道具を二つほど抱えて戻ってきた。それらを床に置き、話を続ける。

「正確には河童のところだね。河童については前にも話したとおりさ。これらの修理を依頼したい」

「んで、どっちも直ったら売り物にするんですか?」

「まさか。これは私物として使わせてもらうよ。どちらも便利な代物だからね」

 そういって霖之助さんは得意げにメガネをクイッと指で上げた。さいですか。

 彼が持ってきたものを見下ろす。片や卓上で使う小型の扇風機、もう一つは円盤型自動お掃除ロボット。扇風機出す前に窓開けようぜとか、そんなに自分で掃除するのが面倒なんですかとか、ツッコミどころ満載だが気にしたら負けだ。しかしまぁ、もう幻想郷に来ちゃったのね、サンバ。あれ、違ったっけ?

 せっかくだ、ここで一つおさらいしとこう。この生活に慣れてしまったせいで忘れられがちだが、俺が居るのは幻想郷であって江戸時代にタイムスリップしたわけではない。つまり、此処にも電気はキッチリ存在するのである。その恩恵を主に受けているのが、天狗や河童といった妖怪の山に住む者達。独自の社会を築く彼らは高い技術を持つと言われており、現に文が写真撮影やら新聞製作やらしているからあながち間違いではないのだろう。天狗は風を操れるし、河童は水を操れる。となれば、風力だろうと水力だろうと発電方法には困るまい。

 ところがどっこい、残念ながら香霖堂は妖怪の山ではなく魔法の森に構えている。コンセント差込口はどこかと聞かれたら「ねぇよ、んなもん」と即バッサリ袈裟斬りだ。レッドホットチリペッパーも真っ青である。そんな場所で電化製品を使うとすれば、

「発明が趣味の技術屋に、バッテリー式に改造してもらうんすか? 店には今まで拾ってきた電池が仰山ありますし、無縁塚に行けば落ちてますしおすし」

「さすがだね、察しがよくて助かるよ。そういうわけで、優斗君には一人の河童に会ってきてほしいんだ。名前は河城にとり」

「ほ~、お値段以上のインテリアショップみたいな名前っすね。行くのは構わんのですが、山のどの辺に居るんですかね? やっぱり河童なら川とか?」

「山の麓、玄武の沢だね。川沿いを歩いていくか、白狼天狗がいたら道案内を頼むといい」

「白狼天狗……実は俺まだ会ったことないんすよねぇ。どんなんですか?」

「職務をいうなら山の自衛隊。外見的な特徴をいうなら狼の耳と尻尾が生えた少女――」

「OK牧場、今すぐ行ってきます!」

「……うん、君ならそう言うと思っていたよ」

 神業レベルの速さで外出の支度を始める俺を見て、霖之助さんは予想通りとばかりに肩をすくめた。インテリジェンスな彼がやるとメッチャ様になっている。うらやま。

 さすがに台車を引きずって山を登るのは体力的にしんどいため、登山用リュック(香霖堂の備品)にブツを詰め込む。あと、依頼を引き受けてもらいやすくするためにとキュウリが数本入った袋も授かった。あ、やっぱりキュウリ好きなのね。

 準備が整い、「天駆優斗、行きます!」と言いかけたまさにその時、

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「何奴!?」

 バン! と威勢よく扉が開く音とともに放たれた大きな声が店内を響き渡った。つい三下の敵キャラみたいな反応をしたのは条件反射です。仕方ないね。

 入り口に立っていたのは森に住む魔法使いコンビ――アリス・マーガトロイドと霧雨魔理沙だった。意外にもデカい音をたてて扉を押し開けたのはアリスの方で、人形を操るときみたいに手を前に伸ばすポーズをとっている。

「うぃっす、いらっしゃいませー」

「おう、いらっしゃってやったぜ」

 いつもの元気ハツラツなスマイルを浮かべる魔理沙とは対照的に、アリスは気難しげな表情でツカツカと俺のところまで歩み寄る。ちょ、近い近い近い。

 彼女は動揺する俺の顔をジッと凝視しながら、おもむろに口を開いた。

「優斗ひとりで行かせるなんてダメよ。迷子になるかもしれないし心配だわ。だから私もついていくからね」

「いやいや、はじめてのおつかいじゃあるまいし、いくら俺でもさすがに迷子にはならんでござるよ? 妖怪の山には何回か行っているし」

「にゅふふふ。それだけじゃないよなぁ~アリス?」

「んな!? ちっ、ちがっ……! 本当にそれだけよ!」

 どこか含みのある口調で魔理沙がアリスに問いを投げると、瞬く間に彼女の表情は一転、カァアアッと頬を赤く染めながら焦ったように白黒魔法使いの言葉を否定した。よくわからんが、魔理沙の笑い方が気になってしょうがない。イタズラ好きの猫みたいだ。

 だがしかし、ここまで心配されちゃ一人で行くのは野暮というもの。何より彼女が隣にいてくれた方が俺としてもテンション上がる。となれば、

「せやな、俺もアリスと一緒にいたい」

「ふぇえええ!? な、何を言い出すのよ突然!?」

「つーわけで一緒に行こうか、アリス?」

「あ……その、えっと……まっ、魔理沙も行くでしょ!? ね!?」

「え、私もか? そうだなぁ……もうちょっとここで涼もうと思ったけど蒸し暑いし、水辺に行った方がマシかも。よし、私も行くぜ。こーりん、あとはよろしく」

「ああ、これ以上店の中が暑くなる前に出てもらえると助かる」

 魔理沙のニヤケ顔とはまた違った、含みのある笑みで霖之助さんが我々に出発を促す。やっぱり暑かったんじゃないっすか。

 

 

 さてさて、魔法使い二人をパーティに加え、水系エンジニアに会うべく妖怪の山の麓までやってきた我々一行。

 ふと思ったが、もし俺単品だったらここまでの道のりも無言か一人実況プレイだったかもしれない。いやはや、彼女達が同行してくれて本当によかった。嬉しくて言葉にできない。

 生い茂る木々がいいあんべぇで日差しを遮る山道を美少女達と談笑しながら歩む。すぐ近くから聞こえてくる清流の涼しげな音に心が落ち着いた。気分はすっかりハイキングである。

「マジで? 幻想郷には海がないのか。じゃあ夏になったらどうすんの?」

「涼をとる方法はいくらでもあるわよ。目の前にも適した場所があるでしょう」

「そうそう。去年も皆で水浴びに行ったんだぜ? アリスが水着を作ってくれてさ」

「なん……だと……ッ!?」

 聞き逃せないワードに顔つきが雄々しくなる。そんなパラダイスがあったとですか!?

 そのときの光景をより詳しく聞き出そうとした刹那、

「――ッ!」

 第六感が俺達以外の気配を感じ取った。

 いきなり足を止めた俺に少女達が疑問の眼差しを向ける。「優斗?」アリスが俺の名を呼んだ。ちょっと待て、とハンドシグナルで告げながら神経を研ぎ澄ませる。

 予感が確信に変わった瞬間、俺は片手で顔半分を覆うどっかで見たことある立ち姿勢とともに、空の彼方に向かってビシッと言い放った。

「貴様! 見ているな!」

『…………』

 アリスと魔理沙の「ああ、この人とうとう頭やられちゃったのね」といいたげな視線が痛い。違うの、確かにちょっとネタ入ってるけど別にトチ狂ったわけじゃないの。だから魔理沙、アリスの肩に手を置いて首を横に振るの止めてくんない? 退院したばかりでまた永琳先生のところに連れて行かれたらシャレにならん。

 可愛そうな人を見る目の女性陣に必死の言い訳をしている時、こっちに飛んでくるヒトカゲ……じゃなかった人影があった。やがて、そいつが俺達の近くに着地する音を耳にして全員が振り返る。

 

「私の千里眼に気付く人間がいるなんて思いませんでしたよ……」

 

 真っ白な和風装束と紅葉模様があしらわれた黒いスカートを身にまとった女の子がおった。短めの白髪が白い衣装によく映える。困ったような戸惑いの顔からは常識人の真面目さがうかがえ、同時にどことなく苦労人っぽそうな雰囲気も出ていた。

 そして、前もって聞いていなかったら確実に犬と間違えたであろう、狼をモチーフにしたケモミミと一房の尻尾が容姿にベストマッチしている。

 ならば、やることは一つだろう兄弟。

 

「ふっ……君のような可愛い女の子からの熱い眼差しに俺が気付かないワケがない。遠回りをしても追い付けるはずなら、行くあてもない旅にたまには一緒に行きませんか――んぎゃぁあああ!?」

 

 キリッとイケメンに決めようとしたが、言い終わる前に脇腹をギリギリとつねられて絶叫してしまった。台無しでござる。

 襲い来る痛みに仰け反る俺の隣では、可愛らしい天使の笑顔をしたアリスが右手に込めた力を一切緩めずに少女と話していた。

「こんにちは、椛ちゃん。ごめんなさいね騒がしい人で」

「よう椛。今暇だろ? ちょっと私達に付き合えよ」

「仕事中だと知ったうえで言っていますよね、魔理沙さん。あと、アリスさん。その……手……」

「あら、いけない。うっかりしていたわ」

「そ、そうですか……」

 太刀と盾を装備しているわりに根は穏やかな性格であることが口調から伝わってくる。言おうか言わないかオロオロしながらも、人形遣いの細い指が俺の脇腹を捻じり取らんとしている状況に立ち向かおうとしている。その姿がある知り合いに似ていたせいで、気が付いたら口に出ていた。

「妖夢みたいだな」

「え? は、はい。妖夢さんとは互いに精進しようと、よく手合せしますけど……」

「ふむふむ、好敵手と書いてライバルと読むアレですな。そういやまだ名乗ってなかったな。俺は優斗、にとりという河童さんに仕事を依頼すべくやってきたアルバイトです。よろぴく」

「どうも、私は犬走椛といいます。にとりに用事でしたか。彼女は私の友人ですし、よければ居るところまで案内しますよ?」

「そいつぁ非常にありがたい話だが、いいのか? 仕事中なんだろう?」

「これも仕事のひとつですよ。さ、ついてきてください」

 犬耳をピコピコ動かし尻尾を振りながらニッコリと笑いかける椛。エエ娘や。

 先導する彼女についていく傍ら、俺の後ろで魔法使い二人が女同士の秘密のオハナシをしていた。残念ながら俺の耳には届かなかったが、お互いの研究とかそのあたりだろう。

 

 そう、まさかこんな会話をしているとは微塵も思っていなかった。

「アリスもケモミミつけてみたらどうだ? きっと優斗が泣いて喜ぶぜ」

「ばっ!? バカ言わないでよ! もう!」

 

 

つづく

 




もみじかわゆす

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