東方人形誌   作:サイドカー

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一ヶ月経ってないからいつもよりは早い(痙攣&白目)

どうも、サイドカーでございます。
もっと早く投稿するつもりでしたが……いやはや、申し訳ない。
おのれインフルエンザ! 貴様だけは絶対に許さん! ←責任転嫁

ともあれ、今回もごゆるりと読んでいただけると嬉しいです。


第四十三話 「ほとばしる熱いパトスでうんたらかんたら」

「うぉおおお!!」

 俺は走った。たった一つの望みを叶えるために。

「む、こっちか!」

 俺は走り続けた。たとえ行く先にどんな困難が立ち塞がろうとも乗り越えていく確固たる決意を胸に宿して。

 すべては――

「幻想郷のお嬢様方、天駆優斗がただいま参りますぞー!!」

 可愛い女の子と会うために!!

 

 

 アリスが火照った頬を手でパタパタと煽いでいると、部屋の奥にある調合スペースに引っ込んでいた八意永琳が戻ってきた。実をいうと、不在ではなく優斗からは見えない場所にいただけの話だったのである。

 永琳は自分の席に再び腰を下ろしつつ、アリスに軽く頭を下げた。

「ごめんなさいね。引き留めておきながら席を外すというのも失礼とは思ったのだけど、急を要する薬品はいつでも出せるようにしておかないといけなくて」

「き、気にしないで。永琳たちも忙しいでしょうし、今は私たちがお世話になっている身なんだから」

「そういってもらえると助かります。あと、さっきは相談にのってくれてありがとう。やっぱりアリスにお願いしたのは正解だったわ。これ以上の適任者はいないもの」

「買いかぶりすぎよ。でも、聞いたからには私だって何とかしたいし可能な限りの手伝いはするわ。一応、内容は優斗には伏せておくべきかしら?」

「いいえ、別に話してくれても構わないわよ」

「そうなの? ならどうして私だけを呼んだの?」

 相手の答えが予想外だったため少女は質問を重ねる。彼に話しても問題ないのなら同席させてもよかったのではないか。その方が協力者も増えて好都合だろう。お気楽でお調子者な一面もあるが、優しくて温かい性格なのはアリスがよく知っている。思っていてもなかなか口には出せないのはひとまず置いといて。

 人形遣いの問いに対し、竹林の薬師はわざとらしく出入り口に目を向けながら質問で返した。

「そうそう、さっき天駆君が戻ってこなかった?」

「え? ええ……」

 アリスは首肯しつつ、数分前にあったアレを思い出しそうになり慌ててイメージを追い払う。

 その様子から大体の事情を察した頭脳明晰な科学者は楽しげに目を細めた。

 

「どうやら実験は大成功だったようね」

 

 さりげなく放たれた一言に少女の動きがピタリと止まる。直後、ゼンマイ仕掛けの人形のようなぎこちなさでゆっくりと顔を向けた。

「…………どういうこと、かしら?」

「彼に飲んでもらった薬。アレは惚れ薬よ」

「んなっ!?」

 永琳から明かされた衝撃の事実にアリスは驚きのあまり目を見開いた。椅子を倒さんばかりに盛大に立ち上がった様は、まるで探偵が真犯人に辿り着いた瞬間に似ていた。

 立ち尽くして戸惑う少女の頭の中に「惚れ薬」の文字が回り続ける。言葉通りの代物ならば、先ほどの彼のおかしな態度は……

 アリスの動揺など露知らず、永琳はといえば十分な結果が得られてご満悦らしく、自らの計画についてネタばらしを始めた。

「本当は薬が効き始めた頃に貴女たちを二人きりにして様子を見る算段だったのだけどね。彼が思ったより早く戻ってきたおかげで決定的瞬間を見逃しちゃったのは迂闊だったわ。というわけで、実際にはどうなったか詳しく聞かせてくれない? 私の予想だと普段とは一味違った甘い雰囲気になれたと思うのだけど合ってる?」

「な、な、な、何よそれぇーーーー!?」

 おほほ、と貴婦人の微笑を浮かべる女史に純情乙女は叫ぶしかなかった。というか、人に悩み事を持ちかけておきながら同時進行でトンデモ実験を仕掛けるあたり、とんだ食わせ者である。不幸中の幸いなのは悪戯兎が関与していなかったことだろう。もし彼女が携わっていれば、マムシやらスッポンやらの類の品々を惚れ薬に仕込まれた挙句、お茶の間の皆様にはお見せできない祭りになっていたのかもしれないのだから。

 やがて語りを終えた医者兼科学者(マッドサイエンティストの気配あり)は、ふと今さらながら思い浮かんだ疑問を人形遣いに投げた。

「ところで、当の本人は何処に行っちゃったの?」

 

 

 長く遠い旅路の果て。ついに俺は探し求めていた理想郷に辿り着いた。

「おお……!」

 目に映る絶景を前に意図せずとも感嘆の声が漏れる。この気持ちを表すのであれば「感動」の一言に尽きた。

 並んでいたのは二つの華。その美しさと華やかさをもって、見る者すべてを魅了の罠に落とし心を掴んで離さない。俺自身も例外ではなく、瞬く間に虜にされてしまった。キケンな甘美さを振りまく「華」とは、

 

「あれ? 天駆じゃないの。あなたも対戦する?」

「どうしたの天駆さん? やけに急いでいるみたいだけど」

 

 お互いに向かい合って正座し、オセロを対局中の月の姫君とウサミミ美少女であった。

 

 彼女たちの姿を捉えた途端、脳内がGOサインのランプで埋め尽くされる。俺はゲーム盤には目もくれず二人の前に片膝をついた。きょとんとしている美少女コンビを交互に見据え、極めて真面目な面構えで最初の一言を告げた。

「二人とも、今日は一段と綺麗だよ」

「え、何々? いきなり口説き文句? 竹取物語の姫を相手によくやるわねー」

「あはは、ありがとう。天駆さんこそ今日はいつにも増して面白いわね」

 輝夜も鈴仙も軽い冗談だと思って流している。輝夜に関してはおとぎ話の通りで既に何人もの男性から言い寄られてきたから慣れているのかも。だが受けは悪くない。鈴仙も笑って済ませているが、そのわりには満更でもなさそうで嬉しげに頬を緩めている。ファーストコンタクトは好感触だ。いける。乗るしかない、このビッグウェーブに。

 立て続けに俺は盤に置かれていない石を一つ摘み、どこぞのレールガンがコインでやるように指で弾いて白い面と黒い面を交互に繰り出していった。

「白と黒。どちらかを選べと言われたら何と答えれば良いだろう。それぞれ魅力的な相手を前に片方だけを選ぶなどむしろ愚行ではないか。ならばどちらも掴み取ろう! そうだ、右と左、手は二つあるのだから! 男たるもの二兎追うなら両方とも捕まえんかい! ヒャッハー!」

「……今度は暑苦しく語り出したわ。頭でも打ったのかしら?」

「……おそらくですけど、師匠が治療薬とは別の薬を飲ませたのではないかと」

「あぁ、それで愉快な状態になっているのね。納得」

 ひそひそトークしつつ憐みの眼差しを向けられているがまったくもって問題ない。ノープロブレム。時代の波は我と共にあり。いざゆかん!

 宙を舞っていた白黒の円を掴みとりゲーム盤の空いていたスペースにタンッと軽やかに置く。そして、輝夜と鈴仙、二人の細い手にそれぞれ自分の手を重ねた。呆気にとられている少女たちに俺は決め台詞を送る。

「二人とも聞いてほしい! 一万年と二千年前から――へぶしっ!?」

 直後、ガン! と頭部に凄まじい打撃音と衝撃が響き渡り、意識が彼方まで飛んで行った。

 

 

 いきなり現れて口説き始めた優斗が次の場面では畳の上に沈むというハイスピードな展開に輝夜と鈴仙は絶句するしかなかった。栽培系量産型宇宙人の自爆に巻き込まれた武闘戦士のポーズで倒れている優斗から、無言のまますーっと視線を上げる。そこには、

「はぁっ……はぁっ……!」

 よっぽど急いで駆け付けてきたらしく、肩で息をしている人形遣いが仁王立ちしていた。しかも、彼女の手には室内に無造作に置かれていたはずのけん玉が握られている。あれで一撃かましたのは想像に難くなかった。傍から見ればこの立ち位置、倒れている青年に凶器を手にした少女、それらを前に呆然とする目撃者たち。もはや火サスである。

 呼吸が整ってきたところで、アリスは二人が自分を見ているのに気付いてハッとした。ささっと武器を元の位置に戻し、苦笑いを浮かべてどうにか場を取り繕う。

「あ、あはは……お邪魔しました~」

 そのまま優斗の両脇を後ろからホールドしズルズルと引きずっていく。まるで死体処理だ。数秒ばかし経って、ようやく我に戻った鈴仙が「ま、待って待って。私も手伝うから!」と困惑しつつも後を追いかけていった。

 次第に声が遠くなっていき、やがて部屋に静寂が訪れる。オセロ勝負を中断されたあげく取り残された輝夜は、三人が出て行った方向を眺めながらポツリと一人ごちた。

「けん玉でもしようかしら」

 

 

つづく

 




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