東方人形誌   作:サイドカー

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皆さま、あけましておめでとうございました。
新年最初の投稿がコレって……いいのかしらねぇ


注意!
・今回の話は本編とは一切関係のない番外モノです
・作者が久しぶりにギャルゲーを手にした末路です
・5割の妄想と4割の煩悩と1割の出来心


広い心で受け入れて、ごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


番外特別回 「はぴ☆すた 1/2」

ピピピッ ピピピッ ピピピッ

 

 目覚まし時計のアラームが甲高い音を響かせる。

 寝ぼけ眼でヨロヨロと腕を伸ばし、頭部にあるスイッチを軽く叩いた。直後、一定のリズムで自己主張していた置時計が瞬く間に大人しくなる。再び自室に静寂が訪れる。窓の外から雀の朝チュンが聞こえてくるが、むしろ二度寝を誘う子守歌でしかない。

「んん……あと五分だけお許しください、ボルガ博士ぇ……」

 微睡に身を任せ、再び夢の世界に旅立つ五秒前。と、ガチャリと扉を開く音と誰かが部屋に入ってくる気配がした。その人物は「もう……」と呆れを含んだ息を一つ吐くと、シャッと手早く一気にカーテンを開いた。それまで薄暗かった部屋に一気に明るさが差し込む。瞼越しでも感じる眩しさに、思わず顔をしかめた。

「うぉお……目が、目がぁあ……」

 甲羅に閉じこもる亀のごとく、布団に潜って避難を試みる。だが、それよりも早く「えいっ」という掛け声とともに我が最終防衛ラインが引っぺがされてしまった。

 そして、鈴を転がしたような可愛らしい声が舞い降りてきた。

 

「こぉら、いつまでも寝てちゃダメよ」

 

 ――ああ、今日も起こしに来てくれたのか。

 ゆっくりと瞼を開く。やがて視界いっぱいに広がるのは、まるで天使のように可憐な美少女の笑顔。朝日に煌めく鮮やかな金髪は肩ほどの長さに切り揃えられている。サラサラのショートヘアに赤いカチューシャをセットして、乙女の魅力で溢れている。こちらに向けられたオーシャンブルーの瞳はガラス玉のように澄んでいた。整った顔立ちと容姿は人形なのではないかと思うほどに美しい。

 俺は体を起こして、「ふぁ~あ」と大きく欠伸を一つかました後、彼女の名を呼んだ。

 

「おはよ、アリス」

「おはよう。朝ごはんできてるから早く支度してね」

 

 彼女の名前はアリス・マーガトロイド。お隣さんの一人娘にして、お互い小さい頃から一緒にいる幼馴染であり、さらに同じ高校に通うクラスメートだ。彼女が着ているのは我らの母校の制服。爽やかな白を基調とした夏用の半袖セーラー服とちょっと短めの紺色のスカートの組み合わせはまさに青春の象徴。健康的な脚のラインを再現する黒いニーソックスと、スカートの間からチラリと見える太腿の絶対領域は、天使が見せる小悪魔の魅力というべきか。

 

 そして、俺の名前は天駆優斗。ブラウンカラーのツンツン頭がアイデンティティの、極めてフツーの男子高校生です。

 

 アリスが朝から俺の部屋を訪れるのは理由がある。実を言うと、現在この天駆家には俺しか居ない。といっても両親が他界したなどのワケありではないのでご安心を。仕事柄、夫婦そろって世界中を飛び回っているのだ。家と息子をお隣に託して。

「朝飯まで作ってくれたのか? 悪いな」

「今更そんなこと気にしないの。『気分屋なバカ息子をお願いね』っておばさんに頼まれちゃったもの」

「気分屋なのはあんたらの遺伝だよマイマザー!」

「ほら、いつまでもベッドにいないで着替えて? 今日は野菜炒めとジャガイモのお味噌汁を作ってみたのよ」

「おお、朝からグッドなモーニングメニューですたい。ほんじゃ、ちゃちゃっと着替えちゃいますかね。アリス、先に下で待っていてくれるか?」

「ええ、わかったわ。二度寝しちゃダメだからね?」

 そういってアリスは俺の部屋を出るべくクルリと振り返った。制服のスカートがふわりと広がる光景にしばし見惚れる。さりげない仕草ひとつですら、さながら妖精が踊っているかのよう。いやはや、持つべきものは女子力が高くて可愛い幼馴染だな。

 

 

『いただきます』

 着替えたり顔を洗ったりと身支度を済ませ、アリスと向かい合ってテーブルを囲む。いつもの光景だ。

 うちが俺一人になってからというもの、アリスはよく食事を作りに来てくれる。また、彼女の家でご馳走になったりすることも珍しくない。さらに、

「はい、優斗。今日のお弁当」

「サンキュー。アリスの弁当楽しみだな、早く昼休みにならないだろうか」

「もう、まだ朝ご飯の最中でしょ」

 こんな感じで弁当まで用意してくれるのだから頭が上がらない。ホント、アリスには感謝してもしきれない。可愛くて優しくて料理も裁縫もできて、アリスは良いお嫁さんになると思う。前にそれを本人に言ったら、顔を真っ赤にして逃げられてしまったが。

 味噌汁をすすっていると、アリスが話しかけてきた。

「ねぇ、今日の放課後なんだけど時間ある? ママからお買いもの頼まれちゃって、できれば優斗にも手伝ってほしいんだけど」

「もちろん構わんぞ。食材の買い出しか? 米とか意外に重いからな、その辺は俺が持つから」

「ありがとう、助かるわ」

「なーに、アリスと一緒にいられるならこのぐらい軽い軽い」

「ばっ、バカ! 変なこと言ってないでよ、もう!」

 一瞬にして、アリスの顔がボッと茹で上がる。こういう照れ屋なところは昔から変わらない。その後、彼女はお茶を淹れると言って台所へそそくさと撤退していった。もっとアリスの照れ顔を見ていたかったのに、誠に遺憾である。

 とりあえず、食後の一服したら学校に行きますか。

 

 

 晴れた夏空の下、いつもの街並みが広がっていた。

 田舎と都会の中間くらいのどこにでもありそうな町。特に目立った観光スポットもなければ世間を賑わす事件も起きず、まさに普通の一言に尽きる。そんなありふれた住宅街をアリスと二人で歩くのが、俺達の通学パターンだった。

 ふと思い出したように、アリスがこちらに顔を向けた。

「そういえば、昨日は何かあったの? 帰りが遅かったみたいだけど」

「んー、ちょっとな。咲夜さんがポスター貼りして回ってるの見かけたから手伝ってた」

「そうなの。咲夜も大変ね。学生なのにメイドの仕事もしているなんて」

「んだなぁ。俺としては咲夜さんみたいな綺麗な人と一緒に過ごせたし、お礼に手作りのクッキーも貰えたから結果オーライだったけどな。いやぁ満足満足ハッハッハッ!」

「……ふーん」

 アリスの声のトーンが一段階低くなった。見ると、彼女はなぜか頬をむすっと膨らませていた。あ、ヤベ。たまに出る「アリスご機嫌斜めモード」だ。

 つーんとそっぽを向く幼馴染に、おそるおそる声をかける。

「あのー、どったの? アリス」

「もう知らない! 先行くからね。ふんっだ」

「えぇえ!? ちょっ、何か知らんけど悪かったって。待ってぇ、許してぇー」

 アリスが急にへそを曲げてしまったと思えば、拙者を置いて行こうとツカツカと足早になったでござるの巻。俺はそれを慌てて追いかけながら、学校に着くまであれやこれやと彼女の機嫌を取るべく奮闘するのだった。

 

 

ガラガラッ

「おっはよーっす」

「おはよう」

 教室に入ると、既に登校しているクラスメートがちらほら。その中で、俺達に気付いた二人の女子生徒がこちらにやってきた。片や金髪ロングとボーイッシュな口調が特徴的な少女、片や黒髪セミロングに赤いリボンのような大きな髪飾りを着けた少女。どちらもアリスに負けず劣らずレベルの高い容姿をしている。

「おはよーだぜ、二人とも。今日もご一緒とは相変わらずだな」

「おはよ。アリス、あと優斗」

「おっはー。だがしかし霊夢よ、できれば『あと』は付けないでほしかったんだが……」

「おはよう。魔理沙、霊夢」

 アリスが彼女達の名前を言う。金髪の方が霧雨魔理沙、黒髪の方が博麗霊夢だ。聞いた話によると、入学初日から意気投合したらしく、今ではアリスを含めて親友グループとなっている。

 女三人集まればなんとやら。レイマリアリはそのままキャイキャイとガールズトークを始めた。その華やかさで目の保養をしつつ、一足先に席に着く。HRまでまだ時間もあるし、次元から借りたマンガの続きでも読むか。

 隣のクラスにいる悪友から借りた、ベッタベタな展開のラブコメを鞄から取り出す。読み始める前に表紙を眺め、何となく思ったことを口に出した。

「……空から可愛い女の子が降ってきたりしないだろうか」

 

「何朝からバカなこと言ってんのよ、妬ましいわね」

 

「んむ?」

 突如浴びせられた辛辣な一言に顔を向けると、ジト目でこちらを見据える女生徒がいた。

 ややウェーブのかかった金色のショートヘア。瞳の色はエメラルドを彷彿とさせる鮮やかなグリーン。白いスカーフを首に巻いているのは彼女のこだわりなのだろう。冷めた表情が不愛想な印象を与えるが、それさえも似合ってしまうクール系の美少女。

 彼女の名前は水橋パルスィ。不機嫌そうな口調はデフォルトであり、実際の性格はむしろ世話焼きタイプである。ちなみに口癖は「妬ましい」。

 ところで、最近は以前にも増してパルスィの俺に対する世話焼き度が上がった気がするのは気のせいかしら。この間、学校の敷地内に迷い込んだ狸に餌付けしているところを、たまたま通りかかった彼女に目撃されたのは……関係ないよな。

「おはようっす、パルスィ。どうかしたのか?」

「あのねぇ、今日はあなたが日直でしょうが。先生が待ってるわよ」

「そういやそうだっけ。やれやれ、プリント運びのミッションがお待ちってわけね」

「文句言わない。ほら、チャイムが鳴る前に職員室に行くわよ」

「ん、パルスィも職員室に用事か?」

「別に、仕方ないから手伝うだけよ。いちいち聞くんじゃないわよ、妬ましい」

「おお! サンキューな、助かるぜ。パルスィがいるならヤル気も出るってもんだ」

「……ふん。本当に妬ましい男ね」

 相変わらずパルスィは面倒見のよろしいことで。彼女も良いお嫁さんになること間違いなしやね。何より可愛いし。新妻パルスィとか、そっちの方が妬ましいわ。けしからん、もっとやれ。

 俺とパルスィが教室を出ようと扉まで差し掛かる。その時、

 

「ま、待って! 私も行く!」

 

 アリスが俺達のもとまで駆け寄ってきた。どこか焦った様子で、心なしか頬に赤みが差している。後ろの方では、霊夢と魔理沙がまるで悪戯好きなシャムネコみたいな表情でニヤニヤと口元を吊り上げていた。

「そうか? そんなに大量にブツはないと思うが……んじゃ、せっかくだし三人で行きますか」

「え、ええ……」

「どうでもいいけど、早くしなさいよね」

「へーい」

 なんやかんやで女の子二人に挟まれて職員室に向かうことになりもうした。朝からツイてる。グレートですよ、こいつぁ。ただ、アリスが安心したようにホッと息を吐いているのが少しだけ気になった。

 

 

『失礼しました』

 先生方にキチンと一礼してから退室する。

 俺達が職員室を訪れると案の定、プリントの束をドッサリと渡されてしまった。運び屋気分で教室まで続く長い廊下を渡り歩く。

 ちなみにアリスとパルスィもそれぞれ書類を抱えている。もっとも、彼女達の分が重くならないように、ほとんどは俺の手元にあるんだけど。そこら辺は女の子にカッコつけたい男の意地である。

「いやはや、森近先生もちゃっかりしていらっしゃる。三人で行ったら『丁度良かった。ついでにこっちのプリントも頼むよ』だもんな」

「何回も往復させられるよりはいいんじゃない? 何だか私達が同行するのを予想していたみたいな反応だったけど」

「まったく、効率的で妬ましいわね。それより下ばっかり見ていると転ぶわよ」

 

「あら、皆様。おはようございます」

 

「この声は、もしや!?」

 前方から聞こえた麗しい声にハッと顔を上げる。

 そこには女神のごとき美しいレディが立っていらした。エレガントな雰囲気を纏ったスレンダーなクールビューティー。肩までの長さの髪は艶のある銀色で、フリルっぽいものがあしらわれた白いヘッドドレスがよく映える。

 十六夜咲夜さん。俺達と同学年でありながら、紅魔館という屋敷でメイドも務めているパーフェクト・ガール。ちなみに彼女が仕える主も同学年なのだが、その容姿が高校生にしてはあまり小柄過ぎるゆえ、飛び級という説も。しかし実際のところは不明。ジャーナリズム精神がハンパない報道委員が取材に押しかけているらしいが、咲夜さんが上手くあしらっているという。

 最初にリアクションを示したのはアリスだった。

「あら、咲夜だけ? 一人なんて珍しいわね。レミリアは一緒じゃないの?」

「はい、少々野暮用を仰せつかっていたものですから。今からお嬢様のところに戻るところですわ」

 そっとスカートの端を掴んで優雅に一礼する姿は、従者というより令嬢に近い。今日も綺麗で眩しいぜ、咲夜さん。デレデレとだらしなく鼻の下が伸びてしまうのは悲しい男の性です。仕方ないね。

 すると今度は、咲夜さんは俺に向き直って恭しく頭を下げた。

「優斗様、昨日はありがとうございました。とても助かりましたわ」

「いえいえ、咲夜さんのお望みとあらば。俺の方こそ、クッキーご馳走様です。誠に美味でございました」

「お口に合いましたでしょうか?」

「結構なお手前で。また何かあればいつでも、どうぞワタクシめをお呼びください」

「まあ、頼もしいのですね」

「いやぁ~、もう是非ともお任せください!」

 口元に手を当ててくすくすと笑みをこぼす咲夜さん。ふつくしい。

 それからしばしの談笑を楽しみ、「では、ごきげんよう」と会釈をして去っていく咲夜さんの後ろ姿を、俺は満面の笑みで見送った。

 瀟洒なメイド女子高生が見えなくなってから、「さて」と気持ちを切り替える。HRまで時間もないし急いだ方が良さそうだ。そういえば、アリスとパルスィが途中から無言だったが一体どうし――

 

ダンッ! グリグリ……!

「ほんぎゃぁああああ!?」

 

 突如として、右足に筆舌に尽くしがたい鈍い激痛が迸る。何事かと見れば、アリスが俺の足の甲を踏んづけていた。思いっきり足に力を込めてらっしゃる。目が吊り上がっており、いかにも面白くないと言いたげなオーラが滲み出ていた。

 とにかく説得せねば。このままでは俺の足が危ない。

「い、いかがなさいましたかアリスお嬢様? そのおみ足はどのような……」

「優斗のバカ。スケベ。節操なし……ホント、女の子に弱いんだから」

 次々と罵声を浴びせてくるや否や、トドメとばかりに踏みつけの威力を一際上げる我が幼馴染。「ぬぁああ!?」と悲鳴を上げつつピョンピョンと片足跳びをして悶える俺をどこか拗ねた目で一瞥し、アリスは一人でさっさと行ってしまった。

「お、お~いアリス~……なあ、パルスィ。アリスどうし――ふぬぉおおお!?」

 今度は左足にダメージが!? パルスィが普段以上に冷たい目でキッとこちらを睨み、無言の圧力をぶつけてくる。

 ひとしきり踏みつけ攻撃を繰り出したクラスメートは、最後に「……妬ましい」とだけ言い残し、幼馴染と同様に俺を放置して去って行った。

「待ってー! 二人とも置いてかないでー! 痛いのぉ、足が痛いのほぉおおおお!!」

 

 数分後、俺の叫びを聞きつけた慧音先生(歴史担当)が「朝から学校で変な声出すな!」と頭突きをかましてきた。解せぬ。

 

 

後半に続く

 




後半に続いちゃったよ、アリス。

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