東方人形誌   作:サイドカー

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ちくしょぉおお、(カレンダー的に)間に合わなかったぁああ……!!

はいどうも、サイドカーでございます。
昨年にもクリスマス特別回はやったのですが、リクエストもありやってみました。
あと一時間早く投稿していればもっとよかったのですが……

少々タイミングがずれてしまいましたが、こちらもお楽しみいただけると嬉しいです。


クリスマス特別回第二弾 「サンタのみぞ知るセカイ」

「いくよ、こいしちゃん!」

「いつでもいいよ、フランちゃん!」

 

 ちまたではクリスマスと呼ばれている、冬のある日。

 澄み渡った青空の下。幼い少女達が元気いっぱいな声で名前を呼び合っていた。子供は風の子とはよく言うが、まさにその通りの光景だ。吸血鬼であるフランは直射日光が肌に当たらないように、モコモコ素材のコートとマフラー、厚めの手袋に加えて、なぜかスキーとかスノボーで使うゴーグルを装着した完全武装である。あとはパチュリーが敷地内に結界を張って日の光を緩衝しているのかもしれない。

 本日の舞台は紅魔館。正門と館までの間にあるガーデンは一面の銀世界になっていて、雪遊びをするには絶好の場所といえた。現に、さっきフランとこいしが協力して作った雪だるまが屋敷の前に立っている。

 雪だるまの次は雪合戦をしよう、といって妹キャラ二人は雪玉を作り始めた。そこまではよかった。問題なのは、

 

『あはは! 待て待てー!』

「ちょまうぇあんぎゃぁああああ!?」

 

 フランとこいしの二人がかりで俺を狩るというルール。モンハンか。キャッキャッと雪玉を連射でぶつけてくる小さなハンター達は可愛らしく容赦がなかった。冷てッ!? こいし、ヘッドショットはやめて! ツンツン頭が凍って針山になるべさ!

 

 

 無邪気で活発な妹達が仲良く遊んでいる様子を、それぞれの姉が微笑ましそうに見守っていた。地霊殿の主が紅魔館の主に向き直る。

「二人とも楽しそうですね。レミリアさん、今日はお招きいただきありがとうございました」

「礼には及ばないわ。可愛い妹の頼みだもの、姉としては叶えてあげたいでしょう。それは貴女も同じじゃなくて?」

「ええ、同意します。だから天駆さんとアリスさんも誘ったのですね。こいしもフランさんも彼らに懐いていますから」

「そういうことよ、わかっているじゃない。もっとも、フランに限らず私個人としても彼らは気に入っているわよ」

「ふふ、それも同意します」

 互いが館の主という立場ゆえか、レミリアとさとりが大人の余裕オーラで談笑する。前方では滑って転倒した優斗に雪玉の弾幕を浴びせている妹達の姿が目に映るが気にしない。すると、「お嬢様」と従者の声が聞こえてレミリアが振り向く。いつ間にやら、吸血鬼の傍らにメイド長が控えていた。

「咲夜が来たということは宴の支度は整ったということかしら?」

「はい。地霊殿の方々とアリスが協力してくださいましたおかげで、事が早く進みました」

「そう、それは結構。なら早速始めましょうか、クリスマスパーティーを」

 

 

「あー、寒かったぃや。アリスのところに行って心を温めねば死んでしまうわ」

 雪合戦という名の討伐クエストで俺が追いかけ回されているところに咲夜さんが現れて、イベントの準備ができたと教えてくれた。今朝、彼女がクリスマスパーティーin紅魔館の招待状を届けに来たときは驚いたものだ。話を聞くと、フランとこいしがクリスマスの日に一緒に遊ぶ約束をして、どういうわけか俺とアリスも呼ぶことにしたらしい。

 本来であれば俺も会場の飾りつけとか料理とか手伝うべきなんだが、アリスをはじめ女性陣からフランとこいしの遊び相手を命じられたので、外で雪遊びをしていた次第です。

 エントランスでコートを脱ぎ、いつものジャケットスタイルに戻る。咲夜さんに先導されてパーティー会場となっている大広間に足を踏み入れると、明るく色鮮やかなクリスマスバージョンになっていた。

 

「おお、こりゃスゲーな!」

 

 まず目に入ったのは高い天井まで届かんばかりの巨大なクリスマスツリー。まさに大木という表現がピッタリのそれに透明のクリスタルや金銀のベルが吊るされており、さらに光る球体がいくつも飾られてキラキラと輝きを反射させていた。おそらくコレもパチュリーの魔法によるイルミネーションだろう。お疲れ様です。っていうかこんなデカいのどうやって運んだのだろうか。

 視線をぐるりと巡らせれば、カラフルな折り紙で作られたリングが鎖状につながった装飾が壁に沿って架けられていた。これを作ったのはお空だろうか。なんとなく、そんな気がする。

 そして会場の中心には、複数のテーブルの上にご馳走が次々と運ばれている。ビュッフェスタイルといったか、いかにもオシャレなパーティー用メニューが綺麗に並んでいた。料理を運んでいるのはお燐と美鈴の赤髪コンビ。お燐はホテルのルームサービスで使うような台車を使って運搬しているのに対し、美鈴は左右それぞれの手に大皿を乗せていた。バランス感覚すごいわね。

 貴族の舞踏会さながらの景色に圧巻される中、アリスが俺のもとまで歩み寄ってきた。

「優斗、お疲れ様。外は寒かったでしょう?」

「何のこれしき。アリスこそ準備お疲れさん。驚いたぜ、凄まじくハイクオリティじゃないか」

「ふふっ、皆して張り切ってたもの」

 アリスの可愛らしい笑みに冷えた体が温まってくる。と、赤いサンタ帽を被ったお空がニコニコと眩いスマイルで俺達のもとにやってきた。両手に同じデザインの帽子をいくつも持って。

 そして、お空は「はい!」とそのうちの二つを俺とアリスに元気よく差し出した。

「お兄さんたちもコレつけなきゃダメだよ! クリスマスなんだから!」

「はいはいっと。ちゃっかり準備してんなぁ」

「いいんじゃない? 彼女の言うとおり、今日はクリスマスでしょ」

 俺達はサンタの帽子を受け取ると、それぞれ頭に被った。はい、アリスのサンタ帽子姿いただきました。可愛い、アリス可愛い。ふと周りを見れば、全員が同じように装着していた。クリパらしくなってきたな。しかも皆さん似合いすぎ。

 俺の視線に気づいたのか、今回の言いだしっぺである妹ペアがブンブンと大きく手を振って俺達を呼んできた。二人の小さな手には既にクラッカーが握られていて、今すぐにでも鳴らしたくてうずうずしているのが、こちらまで伝わってくる。

 

「ユウ! アリス! 早く早く!」

「もう始めようよ~!」

 

 少女達の愛らしさに俺とアリスが同時にくすりと笑みを零す。アリスが一歩前に踏み出し、俺を振り返った。それはそれは見惚れてしまうほどの、綺麗な笑顔だった。

「行きましょう?」

「もちろんさぁ、ほんじゃいっちょ楽しみますか!」

 

 

 祝福のクラッカーの音とともに開幕したクリスマスパーティー。

 ワイワイと飲んで騒いで、すっかり皆さん出来上がってしまった。いつもの宴会ムードである。ツリーの下ではお空がジングルベルを熱唱し、付き合いの良い美鈴と小悪魔が合いの手を入れている。小悪魔の隣ではパチュリーがいつもジト目で黙々とワインを傾けていた。心なしか飲むペースが速いのは、楽しんでいるからだと信じたい。

 ペットのコンサートを温かく見守っているのは地霊殿の主。彼女のもとにお燐が飲み物を持っていくと、同僚の方へ向かって行った。多分、さとりんから「お燐も楽しんでいらっしゃい」とでも言われたのだろう。優しげな表情でお燐を見送るさとりんに母性を感じた。萌える。

 別のところでは、レミリアが咲夜さんに何かを確認しているのが見えた。あいにく読唇術スキルは持っちゃいないが、イメージ的には「例のブツは?」「既に準備は整っております」みたいな感じ。ああ、もしかしてフランへのプレゼントをサプライズで用意しているのか。

 

 その中で、俺とアリスは白ワインが入ったグラスを片手に、パーティーの賑わいを眺めていた。

「いやはや、善き哉善き哉。仲間とクリスマスを祝うってのも楽しいもんだな」

「ええ、私も楽しいわ。フラン達には感謝しないとね、わざわざ誘ってくれたんだもの」

「アリスの人徳の賜物だろう。特にフランの喜びっぷりがハンパなかったべ?」

「それを言ったら優斗だって、雪遊びするって言い出した二人に引っ張られていったじゃない。すごく懐かれている証拠よ」

「まぁ、子供に好かれて悪い気はしないわね」

「ふふっ。優斗のそういう小さい子に優しいところ、私は気に入っているわよ?」

「そりゃ光栄だ。って、そういえば……その小さい子たちはどうした?」

 俺とアリスにくっついていたチビッ子たちが、いつの間にか大人しくなっていることに気付く。さっきまでなぞなぞしたり外の世界の話を聞かせたりしてはしゃいでいたはず。とはいえ、別にいなくなったわけではない。なぜわかるか、答えはこいしが俺の手をずっと掴んでいるからだ。ちなみにフランはアリスの手を握っている。

 手の感触がする方に視線を下ろすと、こいしがごしごしと眠気眼を擦っていた。アリスの方を見れば、フランも似たような具合でうつらうつらと体が揺れている。二人とも半分夢の中にいるようだ。

「こいし、眠いか?」

「んにゅー……すぅ」

「おっとと。あんれま、寝落ちしてしもうたがな」

 返事ともつかない謎の声を残し、無意識少女は完全におやすみモードに入ってしまった。バランスを崩して寄りかかってきた少女を支える。人形遣いの方を見れば、全く同じ状況になっていた。

 アリスが困ったような微笑でこちらに目を向ける。

「こっちも寝ちゃったわ。よっぽど楽しかったのね、遊び疲れるくらいに」

「メッチャはっちゃけてたからなぁ。となると、ここらでお開きにしたほうが良さそうだ。おーい、お姉ちゃんたちよー」

 

 

 幼い妹達が夢の世界に旅立ったので、パーティーは幕を閉じることとなった。

 妹吸血鬼は美鈴が部屋まで運んで行き、妹サトリはお空が背負っている。どちらも可愛らしい寝顔をしていたし、このままゆっくり休んでもらおう。

 ふと思い立ち、俺はレミリアとさとりんに悪戯染みた笑みでカマをかけてみた。

「ちょうど寝てるし、枕元にプレゼント置くにはいいんじゃないか?」

「言われてみれば確かにそうね。まだ宵の口だけれど、タイミングとしては悪くないわ」

「そうですね。なら、私達も帰りましょうか。こいしが眠っている間にサンタクロースからのクリスマスプレゼントが届くように」

 やはりレミリアもさとりんもプレゼントを用意していたみたいだ。キマシタワー。

 それでは失礼します、と一礼して地霊殿勢が紅魔館を後にする。こいしが目を覚ます頃には、枕元の靴下に妹想いなサンタからの贈り物があることだろう。

 さてさて、ここからは家族の時間だ。水を差してしまわぬよう、我々もお暇しますか。

「アリス、俺達も帰ろうぜ」

「うん。それじゃあね、レミリア。今日は楽しかったわ」

「ああ、二人ともちょっと待ちなさい。咲夜、彼らに土産を」

「かしこまりました。お嬢様」

 誰もいない空間にレミリアが一声かけると、いつも通り?突然パッと登場した咲夜さん。彼女はまるで主の発言を予想していたかのごとく、やや大きめの紙袋を俺に手渡してくれた。何だろうと中を興味津々に覗いていると、「ケーキです」とにこやかに教えてくれた。あらやだ、恥ずかしい。

 改めてお礼を告げて紅魔館を去る途中、レミリアの声が後ろから聞こえてきた。

「仲間を大切にする心優しい者達、二人きりの時間も大切になさい。……ま、このあとの運命を見れば心配はいらなかったみたいね」

 

 

 魔法の森までの帰路をアリスと二人で歩く。

 つい先ほどまでフラン達と雪遊びしていたときは明るかったというのに、宴をしている間にすっかり暗くなっていた。といっても、まだ夜の七時くらいだろう。サンタのオジサマが出動するには早い時間だ。スカーレット家と古明地家には一足早く訪れているかもしれないけど。

 サンタクロースについて考えていたら、ピンと良いアイディアが浮かんだ。思い立ったら即実行、俺は隣を歩く人形遣いに問いかけた。

「アリス、何か欲しいものないか? 天駆サンタが一つだけ願いをかなえるぜよ」

「ほんと? うぅん、どうしようかしら……」

 アリスが楽しげに色々と考えている姿に癒される。と、どうやら答えが決まったみたいだ。だが、彼女はどこか言い辛そうに目を逸らす。「えっと……」ともじもじと両手を擦りながら上目遣いで俺の顔を微かに覗いた。彼女の青い瞳に惹かれてしまうのはいつものことである。

「その、フランとこいしを見て思ったんだけど、ね? 欲しいものというか、してほしいことというか……」

「おう、何でも言ってくれ。アリスの願い事なら全力で叶えてみせるからさ」

 アリスは希望があるものの言うか否かで迷っている様子。天駆サンタを侮るでない、多少の無茶ぶりでも無問題よ。彼女を後押しすべく、俺は自信満々にドンと己の胸元を叩いた。

 やがて、アリスは俺と視線を合わせたり逸らしたりを何度も繰り返し、頬を赤く染めながら控えめに口を開いた。

 

「あの、ね? ちょっとだけ、家に着くまででいいから……手、つないでほしいな……なんて――キャッ!?」

 

 アリスが言い終わるよりも早く、気が付いた頃には既に俺は彼女の手を取っていた。こいしが近くに居るのではないかと思うくらい、無意識の行動だった。

 触れてみてわかった。その白くて綺麗な肌が、冷気に晒されて少しばかり冷たくなっていたことに。俺はそっとアリスを引き寄せて、繋いだ手を自分のコートのポケットに入れる。二人の体の距離がさらに縮まる。まるで腕を組んでいるように。

 自身の片側に熱が集中しているのが自覚できる。妙に意識してしまっているのを表に出さないように、いつも通りを装うものの……

 

「あー、こんな感じ?」

「……うん。こんな感じ」

『……………』

 

 いかん、顔がニヤけて言葉が出ない。照れ隠しにアリスの方を見ると、さっきよりも顔の赤みが増していた。だけどその表情は、恥ずかしくもあり嬉しくもありの可愛らしい笑顔だった。手を繋ぐ、ただそれだけでこんなにも嬉しそうに笑ってくれる女の子がすぐ隣にいる。幸せと萌えが合わさった無限大な気持ちがアクエリオンしそうです。

 ポケットの中でお互いの温もりを伝え合う。言葉を交わさずとも、気持ちが通じていると感じる心地良さ。じんわりと温かく、ちょっぴり熱くなる。

 ザッザッと雪を踏む音だけが鳴る静かな帰り道。俺は密かに幸福を噛みしめながらゆったりと足を進めた。

 

 

 やがて、マーガトロイド邸のすぐ近くまで戻ってきた。いつもより短く思えた道のりだったな。時間が止まればいいのに、なんてベタなことは言わないが。

 チラッと隣を盗み見ると、アリスもどこか名残惜しそうな顔をしていた。このまま終わりってのも何だか勿体ない。どうしようか……

 

「……ん? 何だこりゃ」

「どうしたの――あら、何かしら」

 こちらも相手もタイミングが掴めないまま玄関まで来たとき、扉に一枚の紙が貼り付けてあるのを見つけた。なにやらメッセージが記載してある。内容は、

 

『来たれ博麗神社! 今夜クリスマスパーティーやるから来るんだぜ☆ あ、差し入れよろしく!』

 

「魔理沙か」

「魔理沙ね」

 口調と文面で一発だった。今夜ってことはちょうど始まった頃かもしれない。なまらタイミング良いわね。とりま、手土産は咲夜さんからもらったケーキだな。二人で食べるには大きすぎるし、皆で食べるのが乙ってもんよ。せっかくのクリスマスなんだし。

 ……ああ、そうだよな。せっかくのクリスマスなんだし――

 

「なあ、アリス。俺からも一つ願い事してもいいか?」

「何かしら?」

「博麗神社まで、これをキープしていたい。叶えてくれるか?」

「あ……」

 

 つないでいるアリスの手をきゅっと握り直す。俺の伝えたいことを理解し、彼女から安堵の吐息が漏れる。アリスは自分の指と俺の指を絡めてそっと軽く力を込めた。

 そして、金髪碧眼の可憐な少女は頬を桜色に染めて、上目遣いをこちらに向ける。お互いに照れながらも、気持ちを確かめるように相手の瞳を見つめていた。彼女の答えは、

 

「……私も、こうしていたい。だから、えと…………離さないで、ね?」

 

 

 

 聖なる夜を、愛しい人形遣いとその仲間たちと共に。

 さあ、いきましょうか。それでは皆さん、グラスを片手に。メリークリスマス、乾杯!

 




妄想と勢いだけで突っ走ってしまった。許してヒヤシンス

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