東方人形誌   作:サイドカー

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おかえり(修理に出していた)僕のパソコン!
ただいまハーメルン!

皆様、長らくお待たせしました。サイドカーが戻ってまいりました。
そして、「東方人形誌」ようやく再開でございます!

というわけで2015年最初の投稿です。もう2月ですが……
今回も久々で文章感覚が鈍っているかもしれませんが、本年もごゆるりと楽しんでいただけると、嬉しいです。


第二十五話 「シアワセありす 1/2」

 地底にダイブしたり冥界に打ち上げられたりと、いくつもの摩訶不思議アドベンチャーなイベントを乗り越え、ついにアリスとの再会を果たした本日未明。

 すっかり日は落ち、雲一つない闇色の空には、自らの存在を主張するかのごとく形の整った満月がくっきりと浮かび上がっていた。季節外れのお月見をするにはピッタリな、風情あふれる宵の口である。アリスと魔法の森を散歩でもしながら、二人きりで過ごすには最適なシチュエーションだ。一週間ぶりにアリスの顔が見れたんだもの、エンジョイしたいじゃない。

 そんな風に計画を立てていた時期が、僕にもありました。

 

 

「さぁーて、異変も片付いたし今夜は恒例の宴会よぉー!!」

「いよっ、待ってました! 私も今日はバリバリ楽しむぜ!」

 元気ハツラツオフコースでアクセル全開の霊夢と魔理沙を筆頭に、参加者達の歓声が夜空に届かんばかりに響き渡る。みんな寝静まった夜なんてものとは無縁のドンチャン騒ぎが幕を開けた。

 現在進行形で俺がいるのはアリス宅でも魔法の森でもなく、幻想郷の東の端に位置する賽銭不足で有名なかの神社だった。普段ならまともに参拝する者などおらず、魔理沙や一部の顔馴染みくらいしか来ない場所である。ところがどっこい、今の境内は人妖問わず大勢の衆でごった返していて、さながら縁日のような賑わいを見せていた。

 いつぞやの花見以上の大盛況っぷりを前に、呆気にとられてしまう。

「はて、どうしてこうなったんだ?」

「宴会があるのはいつものことよ。別に深く考える必要はないわ」

「それもそうか。にしても、大した呼びかけもしてないってのに、よくもまぁこれだけ集まったもんだ」

「お酒が飲めるチャンスがあると、いつの間にか皆集まってくるのよ」

「幻想郷のすさまじい団結力の一端を垣間見たで」

 賽銭箱の前に陣取った霊夢が、高らかに開催宣言を告げると同時に、誰もかれもが酒や肴を手に、ライブ会場に集まったファンを連想させるほどの喝采を上げていた。もっとも、これだけの人数が一つの輪に収まるはずもなく、皆あちらこちらで飲み語らい、思い思いに楽しんでいる。まぁ、俺としてもこれくらいフリーダムな方がやりやすくていいんだけど。騒ぎたい奴は騒ぎ、静かに飲みたい奴は静かに飲む。これが酒の嗜みってもんよ。アルハラとか罰ゲームで一気飲みとか、やっちゃいかんのよ。誠に遺憾ながらそういうのが多いのよね、大学だと。坊やだからさ。

 俺とアリスは賽銭箱から少しだけ離れたところの、適当な木の根もとに腰掛けて宴会の光景を傍観していた。守矢一家をはじめ見知った顔もあれば、初めて見る顔もある。チルノを中心に、彼女と同じくらいの背丈の少女達が集まって騒いでいる。大ちゃんのそれと似たような羽を生やした三人組、あの子らも妖精なのだろう。あんな見た目小学生くらいのが酒を飲んでいても気にならなくなったあたり、俺も適応してきたとしみじみ思う。

 ふと、さっきの音頭の時に霊夢が妙なことを言っていたのを思い出した。

「そういえば、異変ってどうゆうことだ?」

「私も聞いてないけど、最近何かあったのかしら?」

 俺の疑問にアリスも首をかしげる。顎に人差し指を添えて考える仕草が萌える。

 ちなみに異変については俺もある程度は聞いている。幻想郷で起こる事件や異常現象で、主に誰かが何らかの目的で起こしたものを総称して「異変」と呼ぶそうだ。それらが起こった際は我らが博麗の巫女こと霊夢を筆頭に、弾幕ごっこで異変を解決していくという筋書きだそうな。過去ではレミリアが赤い霧出したり、ゆゆ様が春を集めたり(春って集めるものなのか?)したという。んで、異変が解決したら打ち上げ感覚で宴会が行われる。というか宴会までが異変の流れって感じらしい。そんでもって、幹事というか準備係やらされるのが、そのとき異変やらかした犯人だそうだ。周りに迷惑かけた件はこれでチャラってことなのかしら。

 二人で疑問符を浮かべていると、すでに酔いが回り始めているのだろう、顔が少し上気している魔理沙が、「何言ってんだ」とのたまいつつ俺達の間に割り込んできた。

「主犯はお前達だぜ? 名付けて『痴話喧嘩異変』だぜ!」

「いやいや、勝手に異変扱いされてもなぁ」

「そもそも痴話喧嘩じゃないわよ」

 どうやらこの一週間の出来事が今夜の宴会のきっかけにあたるらしい。ぶっちゃけ飲み会の理由なんてどうでもいいんだろうけど。つーか今回の異変の規模小っちゃいな、ただの身内騒動じゃん。

 俺とアリスのツッコミも軽く笑い飛ばし、魔理沙は俺の肩をバシバシと叩いてきた。

「気にするなって。どうせみんな飲む口実がほしいだけだぜ」

「飲み会好きな大学生か、おのれらは。まったく、どこに行ってもやることは変わらないぜよ」

 

「あややや、見つけましたよ! 優斗さんにアリスさん!」

 

 突然目の前に一陣の風が吹いたかと思うと、聞き覚えのある喋り口調とともに、清く正しい烏天狗が鼻息荒くこちらに乗り込んできた。興奮しているのは伝わってくるのだが、とりあえず顔が近い。文も結構な美少女なわけで、あまり無防備なことされると俺としては悪い気はしないからいいんだけどさ。まぁ、それはそれとして。

 さりげなくアリスが文の肩に手を乗せ、俺から引き離しながら口を開く。

「今回の『異変』についての取材かしら?」

「さすがアリスさん、その通りです。私ともあろうものが今回こんなに面白いネタがあったことに気付けなかったのはまさに一生の不覚。かくなるうえは徹底的に取材して号外を作り遅れを取り戻してみせましょう。速さには自信がありますからね!」

 得意気に早口でぺらぺらとマシンガントークを繰り広げる文のテンションに、いつもながら元気だなと呆れ半分感心半分な気持ちになる。彼女はマイクを向ける要領で、ペンの先端を俺の顔にピッと突き出して質問を迫ってきた。

「さあさあ、洗いざらい全て吐いちゃってください」

「飲み会で吐くって単語を使うと誤解を招くぞ」

「取材というより、まるで取調べね。それもいつものことだけど」

 彼女も酒が入っているせいか、いつもにも増してハイテンションになっているようだ。こういう時は当たり障りのないこと言って、あとは酒で誤魔化すのが手っ取り早い。いざとなれば萃香を呼んでから逃げるか。

 作戦を立てたところで、鼻の穴にでも挿入しそうなほどに接近したペンを手のひらで押し返しながら立ち上がる。そこから数歩前に出て……

「わぁーった。それじゃ事の顛末を――」

 

「あ、ユウだ!!」

「ごふぅううううっ!?」

「優斗!?」

 

 悪魔の妹のロケット頭突きが俺の腹部にダイレクトアタックし、視界がぶれるほどの勢いで一瞬にして数メートル後方に押し飛ばされた。そのまま地面を転げ回りそうになるところを、同じ失敗(白玉楼でアリスを受け止めた時の転倒)は晒すまいという男の意地にかけて、バトル系ドッチボール漫画なみの踏ん張りで衝撃を真正面から受け止める。ズザザザーッと靴底がマッハで擦り減っていく感覚と、土煙だと信じたい煙が足の裏から上がっている摩擦熱のダブルコンボにダメージゲージがごっそり削られる。だが、幼い少女の前で軟弱なところを見せてたまるものかと根性を奮い立たせ、ついに倒れることなく成し遂げてみせた。よく頑張ったよ、俺。もうゴールしてもいいよね?

 足が生まれたての小鹿を思わせるガクガク状態になっているのを必死に隠し、絶賛俺の腹にグリグリとこすり付けられている少女の頭にポンポンと手を乗せた。

「ごほっ、よ……よう、フラン。元気だったか?」

「うん!」

 ニコニコと俺を見上げるフランドールの純真無垢さに、腹の痛みを耐えねばという使命感がほとばしる。この無邪気な笑顔を守るためなら、どんな男だって漢になれるであろう。

 フラン登場から少し遅れて姉吸血鬼のレミリア・スカーレットが、ワイングラスを片手に優雅さを演出しつつメイド長とともに歩いてきた。

「相変わらず天狗はうるさいわね」

「あやや、うるさいとは失敬ですね」

 口喧嘩というよりは軽口を交えつつ、互いにニヤッと笑みを浮かべる。いっつ、くーる。

 駆け寄ってきたアリスにフランをパスし、ようやく腹の圧迫から解放される。いつも通りというか、フランはアリスによく懐いていて、あっさりと俺からアリスに移ってしまったことに若干寂しいものを感じた。いやまぁ、いいんだけどね。うん。

「優斗様、ご無事ですか?」

「はっはっは、何のこれしき」

 銀髪クールビューティーの慈愛の言葉によって、一瞬にしてリザレクションする俺。いやはや、相変わらずお美しいメイドさんだ。彼女には世話になった件が多くて、頭が上がらないね。

 俺の大げさな元気ですよアピールに、咲夜さんはクスッと上品な笑みを浮かべる。が、直後翳りのある表情で頭を下げた。

「申し訳ありません。お嬢様のご命令だったとはいえ、内緒にしたいという優斗様のご意向に反して、アリスに話してしまいました」

「いやいやいや、謝んないでください。仕方ないことですし、あのまま隠し通したらアリスを傷つける結果になっていたかもしれないんですから」

「いえ、ですが」

「無茶を言って手伝ってもらったのは俺の方です。俺が礼を言う立場であって、謝られる立場じゃないですよ。お礼になるかはわかりませんが、手伝いが必要な時はいつでも言ってください。咲夜さんのためなら俺頑張っちゃいますから!」

「うふふ、ありがとうございます」

 咲夜さんとのなごやかトークを楽しんでいると、レミリアが空になったグラスを弄びつつ「それで?」とからかい交じりに聞いてきた。

「異変を起こしてみた感想は?」

「またそれか。まぁ、色んな奴らと知り合うことができたかな」

「そういうことじゃないんだけど」

 やれやれ、と嘆息して首を横に振る。呆れられているようだが、こちとら異変を起こしたという自覚がないので勘弁願いたい。レミリアは咲夜さんにグラスを向けると、メイド長はすかさず赤ワインを注ぐ。満たされたグラスを月にかざして紅色を楽しんでから口元に運ぶ動作が様になっている。

 息の合った主従だと感心していると、境内のど真ん中でやいのやいのと騒いでいた霊夢が大声で呼んできた。

「アリスー、優斗ぉー! ちょっと手伝ってー!!」

 レミリアがくつくつと笑いながら、一升瓶を振り回しながら喚いている霊夢を指さす。

「博麗の巫女がお呼びよ。お二人さん?」

「ああ、ちょっくら行ってくる」

「でしたら優斗様、私も――」

「まあまあ、咲夜さん達はのんびりしていてください。異変の主犯が宴会の幹事をやるのが一連の流れなんでしょう? なら、今回は俺とアリスですよ」

「わかりました。では、お言葉に甘えさせていただきますね」

「そうしなさい。それじゃあ、行きましょうか優斗?」

「だな。したっけ皆さん、また後ほど」

 というわけで、紅魔勢に手を振り、俺とアリスは霊夢のもとに向かうのだった。

 

 

つづく

 




今回のタイトルについている1/2ですが、前半と後半に分けているという意味です。
何かオシャレな感じにしたいなと思った結果このように表記しました。

というわけで次回は2/2をお送りいたします。

どうにかして一話分でまとめようと頑張ってみたけど無理だったんやー(開き直り)

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