東方人形誌   作:サイドカー

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一か月以上も投稿停止していましたが……サイドカー、復活でございます!
まずは謝罪を、
①長らく放置して本当にすみませんでした。色々あったんです…… ←土下座&言い訳
②久しぶりの投稿なので読みづらいかもしれません。お許しを
③10,000字超えたので分割した結果、今回も主人公サイドのみとなりました。アリスは次話です

以上のことを見逃していただき、今回もごゆるりと読んでいただけると、嬉しいです。


第二十三話 「だてにあの世は見てねぇぜ!」

 返ってきたのは、予想通り女の子の声だった。しばらくして、声の主と思われる少女が、俺の前までやってきた。短く切り揃えられた髪は、蚕糸のように白い。その小柄な身体の腰部には、二本の日本刀(ダジャレではない)が括り付けられ、彼女がサムライガールであることを強調していた。それと、風船みたいな謎の白い物体が、少女にまとわりつくように浮遊しておった。

 真面目系を体現したみたいな凛とした物腰で、件の少女がお辞儀する。

「お待たせしました。どのようなご用件でしょうか?」

「んー、ちょいとここまで吹き飛ばされてきたもんで」

「吹き飛ばされて、ですか?」

「うむ、今世紀最大のビッグウェーブが相当なじゃじゃ馬でな。上手く乗りこなすことが出来なかったのよ。コレが時代の波ってやつかねぇ」

「えーっと、何だか大変だったようですね。とりあえず、立ち話もなんですし中へどうぞ。あ、申し遅れました。私はこの白玉楼で庭師をしています、魂魄妖夢です」

「よろしく、俺は天駆優斗。通りすがりの仮面ライダーさ」

「ら、らいだー?」

 

 妖夢に招かれて敷地内にお邪魔すると、いかにもザ・雅ってな感じのべらぼうに広い庭園が出迎えてくれた。玉砂利が一面に敷き詰められており、よく手入れされた松の木や、猛々しい荒削りの岩が鎮座していた。どうやらここは中庭らしく、目線を遠くにやると、塀の向こう側を、ちょうど屋敷を囲むように桜が並んでいるのが見えた。桜というキーワードに心当たりがあるような気がするのだが、何だっただろうか。

 優雅な風景を眺めながら、ここの主人と会うべく、俺と妖夢は廊下を歩いていた。屋敷側は真っ白な障子が一直線に並んでいて、どことなく大奥っぽいイメージを受ける。掃除とか大変そうだな。

「んで、このご立派な建物は『白玉楼』っていうのか?」

「はい、そうです。代々続く西行寺家の持家であり、現在当主を務めていらっしゃるのが、これからご紹介する西行寺幽々子様です。冥界であの方を知らない者はいないでしょう」

「マジで? 此処って冥界だったのか」

「今気付いたんですか!?」

 今にもすっ転びそうなオーバーリアクションで妖夢が振り返る。キリッとしたタイプかと思いきや、何気に面白い娘さんだ。いじられキャラの臭いがプンプンするぜ。

 だがしかし、彼女の説明のおかげで、花見のときにあったやり取りを思い出した。冥界は花見の名所であることと、異変があってからは生きたままでも冥界に行けるようになったということ。これがアハ体験か。

「確かにアリスがそんなこと言っていたな」

「アリスさんとお知り合いなんですか?」

「知り合いっていうか、居候させてもらってるんよ」

「へぇ、そうだったんですね」

 あれこれ会話している間に、どうやら目的地に着いたらしい。妖夢が数ある部屋のうち、一つの襖の前に片膝を突き、中に居る主に申し上げた。

「幽々子様、お客人です」

 妖夢が伝えると、薄い仕切りの向こう側から「入ってもらって~」という返事、それもおっとりした感じの女性の声だった。「失礼します」と一言告げてから、妖夢は襖を開いた。

 

「あらあらぁ。男の人が訪ねてくるなんて珍しいわねぇ」

 

 どえらい美人がそこに居た。

 外に咲いているそれと同じ、淡い桜色の髪。身を包んでいる和服は、穏やかな水色を基調としていて、彼女の雰囲気によく似合う。その微笑みさえも柔らかく、口調同様に彼女の温和な性格が非常によく表れていた。

 そして、これほどの美人を前にして、俺のやることは一つしかなかった。

「お目にかかれて光栄です。もしよろしければ、ご一緒にお食事などいかがでしょうか? 美しき桜の姫君」

「それは嬉しいお誘いね~」

「……とりあえず、お二人とも自己紹介されては?」

「らじゃ」

「妖夢は真面目ねぇ」

 庭師の冷静なツッコミにより、話は振り出しに戻る。言い忘れていたが、妖夢の周りを浮遊する例の白いものは半霊とかいうらしく、彼女は半人半霊という種族に当たるそうな。早い話が人間と幽霊のハーフである。

「私は西行寺幽々子よ。この白玉楼の主をやっている亡霊、よろしくねぇ」

「これはこれは、ご丁寧にどうも。天駆優斗という者でございます」

 

「ところで妖夢、私お腹空いちゃったわ」

 俺と亡霊姫がお互いに名乗り終えたところで、彼女はあっけからんとした表情で、家臣の少女にそんなことを言い出した。どうやら主のマイペースさはいつものことらしく、妖夢は「幽々子様……」と呆れたような声を出す。

「さっきお昼食べたばかりじゃないですか」

「さっきはさっきよぉ」

 まるで駄々っ子のような仕草も、彼女のようなべっぴんさんがやると超萌えである。これが美人の特権ってヤツか。似たような言葉で、可愛いは正義ってのもあるよね。可愛い系と綺麗系、どっちも捨てがたいな。両方兼ね備えている反則級もいるよね。可愛綺麗系みたいな。アリスは可愛い寄りの可愛綺麗系で、パルスィは綺麗寄りの可愛綺麗系ってな感じで。

 ふと、パルスィで思い出した。そういえば彼女から食料を貰っていたんだった。コレはナイスタイミングだ。というわけで、例の物を取り出しながら二人の間に入り提案する。

「でしたら、皆でコレ食べません? 妖夢もどうだ?」

 妖夢がきょとんとした顔で、俺が差し示した巾着袋を見て首を傾げた。かわいいなオイ。

「何ですか? それ」

「知り合いに作ってもらった握り飯。ちょうど三つあるぜ」

「いいわねぇ。それじゃあ妖夢、お茶の準備お願いね」

「はい、少々お待ちを」

 妖夢は了承すると、一礼してから部屋を出た。襖の開け閉めの動作一つとっても実にスムーズで、ホンマにサムライソウルを感じる立ち振る舞いでござる。

「私たちは、のんびり待ってましょう?」

「了解であります」

 どこぞのカエル系宇宙人の軍曹みたいな語尾で同意する。さてさて、それじゃ幽々子姫と共にお茶の到来を待つとしよう。

 

 

「そんなわけで、アリスを怒らせちゃったんすよ。俺はどうすれば良いと思います?」

 最近似たような展開があったような気がするのは、多分気のせいだろう。橋姫お手製のおにぎりを味わい、妖夢が淹れてくれたお茶をすする。一服しながら事情を説明していたら、最終的には人生相談になっていた。

 背筋をピンと伸ばし正座していた妖夢が、「そうですね」と姿勢を崩すことなく意見を述べる。

「やはり、せ――」

「切腹は無しで」

「言いませんよそんなこと!? 私が刀を持っているからって決めつけないでくださいッ!」

 直後にして凛々しい雰囲気が一瞬で崩壊した。やっぱいいキャラしているわ、この娘。怒りで血圧が上がったのか、顔が赤くなっている。愛用の刀で斬りかかってくるんじゃないかと思うオーラで、妖夢は俺に鋭い眼光を飛ばしてきた。いかん、このままであの世で殺されてしまう。

「誠、心、誠、意! 謝るべきだと思うんです!」

「わ、悪かったって。悪かったから一度クールになるんだ、妖夢よ」

「そうよぉ。甘いものでも食べて落ち着きましょう?」

「さりげなくデザートを要求しないでください、幽々子様」

 妖夢はジロリと目線の先を俺から主に移す。臣下としてそれはどうかと思うが、本人は気にしていないようで、「ちぇ~」と拗ねたような態度を見せていた。そんなところもグッドですたい。閑話休題。

「まぁ、帰ったら全力で謝る方向で行くとして。それはそうと、帰る手段ないっすかね?」

「紫が来れば早いんだけどねぇ」

「いつも突然訪ねてこられるので、次はいつになるか……」

 幽々子様が苦笑じみた表情を浮かべる傍らで、妖夢も似たような顔をしていた。ちなみに紫さんと幽々子様は仲が良いらしい。昔からの仲ってやつかしらね。

 確かに、紫さんのスキマ能力があれば、確実かつ一瞬で帰還できるのだが。神出鬼没だもんな、あの人。しかもトラブルメーカーの気質もあるし。

 そんな俺の落胆を悟ったのか、不意に幽々子様が「それならこうしましょう」と言葉を発した。

「もしかしたら明日にでも来るかもしれないし、しばらくここで過ごしていきなさいな」

「そりゃ俺もありがたいですけど、良いんですか?」

「おにぎりもご馳走になっちゃったしね~。妖夢、客室まで案内してあげて」

「わかりました。天駆さん、こちらへどうぞ」

「ああ。それじゃしばらくの間ですが、お世話になります」

 そんなこんなで白玉楼にお邪魔することになったのが――

 

 

――三日くらい前の出来事である。そして、未だに白玉楼なうでもある。そう、紫さんはまだ来ない。そもそもアポなし突撃訪問の常習犯なんだから、本当に来るかどうかも疑わしい。縁側に沿った長い廊下を一人でテクテクと歩きながら、俺は思考の海に身を沈める。

 今日も合わせれば、一週間くらい帰ってない計算になる。さすがにヤバいんじゃね? 色々と。アリス、まだ怒っているかなぁ。愛想尽かしてしまってないだろうか。まさか、嫌われてしまったか!? や、やはり最終手段は切腹なのか!?

 バッドエンドの予感に思わず足が止まる。頭を抱えてうずくまり、気が付けば、俺はだるまの如くゴロゴロと廊下の上を転げ回っていた。

「うぉおおおん、アリスぅう、アリスぅうううう」

 一歩間違えれば警察か救急車を呼ばれそうな不審者っぷりである。どっちも幻想郷にはないけど。

 

「あらぁ、楽しそうね。ゆう君」

 

「いやいやいや、全然楽しくないっすよ。ゆゆ様」

 鈴を転がすような声に床から顔を上げれば、いつから見ていたのか、今日も美しき亡霊姫が俺のすぐ傍に居て、ニコニコとこちら見ていた。ちなみに彼女は俺のことを「ゆう君」と呼ぶようになった。それでというのも変な話だが、俺も彼女を「ゆゆ様」と呼ぶことにした。うん、悪い気はしないよね。

 ゆゆ様のほんわか笑顔に、悶絶していたのが今更になって気恥ずかしくなってきた。さりげなく体を起こし、ナチュラル動作で縁側に座る。OK、大丈夫だ。誤魔化せたはず。

 俺が座ったところで、ゆゆ様も俺の隣に「よいしょっと」と腰を下ろしてきた。二人並んで目の前の庭を眺める。

「そういえば、妖夢がいないっすね」

「あの子には、お使いに行ってもらっているのよ」

「ああ、どうりで」

「じきに帰ってくるわよぉ」

 

 それから俺達は特にこれといった会話をするわけでもなく、ただ黙って景色に目を向ける。といっても、気まずいものはなく寧ろ心地良いくらいだ。こういう過ごし方ができるのは、和風屋敷の専売特許だろう。白玉楼以外なら、博麗神社とか守矢神社あたりか。どっちも神社やんけ。もしかしたら、人里にも大きいお屋敷があるかもしれないな。今度捜してみるか。慧音さんなら知っているだろう。

 しょーもないことをぼんやりと考えていたら、ゆゆ様が前触れなく問いかけてきた。

「あっちが気になる?」

 あっちとは、言うまでも無くこの世のことだろう。別に悩むことでもないので、俺は思ったことをそのまま伝える。

「まぁ、そうっすね。一週間は行方くらましているわけですし」

 俺としてもそろそろ帰りたいところなのだが、頼みの綱である賢者様は一向に姿を見せない。いっそのことイーノックみたいに飛び降りてみるか。ドヤ顔で着地は無理だけど。

 ゆゆ様は俺の返事を聞き、「そう」と目を伏せる。それから逆ウインクっぽく片目を開き、着物の袖口で口元を覆いつつイタズラじみた笑みを見せた。

「私と妖夢には飽きちゃったかしら?」

「何をおっしゃいますか。二人とも十分魅力的過ぎてヤバいくらいです」

「うふふ、冗談よぉ」

「脅かさんといてくださいよ。俺は女性に対して、極めて紳士的なんです」

「紳士ねぇ」

 俺の言ったことが可笑しかったのか、彼女はいつもの温和な笑顔に戻る。しかし、その目は何かを見抜くかのように、じっとこちらを捉えていた。やがて、彼女は口を開く。

 

「女の子と仲良くなることはしても、特別な関係になることを避けているのも紳士なの?」

 

「………さて、何のことやら」

 かろうじて言葉を濁したものの、声が固くなっているのが自分でも分かる。情けないことに、あからさまに目を逸らしてしまった。彼女の一言はそれほどまでに完全な不意打ちで、焦りに似た感情が己のペースを乱しにくる。

 ほんの一瞬、ちょっとだけ昔の光景を思い出してしまった。ケリをつけたつもりだったが、やはり思い出して気分の良いものではない。

 俺の内心を知ってか知らずか、ゆゆ様は諭すように優しい声で俺に言い聞かせる。

「別に責めているわけじゃないのよ? きっと相手を想ってやっていることなのでしょう? 寧ろ素敵なことだと思うわ」

「……そういう、ものなんすかねぇ」

「ふふ、ゆう君の『優』は『優しい』ってことかしらね~」

 ゆゆ様は満足したように、慈愛に満ちた手つきで俺の頭を撫でる。まるで小さな子供に対する扱いだが、綺麗な女性のこれまた綺麗な手で触れられて悪い気がする筈もなく、

「でへへへへ、ごろにゃーん」

 わかっているさ、俺がチョロ過ぎてワロスってことくらい。さっきまでのマジメ面は木端微塵に消し飛び、だらしなく鼻の下が伸びていることであろう。じゃあ君達は、ゆゆ様に頭なでなでしてもらって冷静でいられる自信気があるというのか!?

 ツンツンヘアの感触をひとしきり満喫し終えたのか、ゆゆ様が縁側から腰を上げた。立ち上がりつつ、「でも」と前置きする。そして相変わらずのおっとりスマイルで俺を見つめた。

 

「すべての女性に対して『平等』に紳士的ではないみたいねぇ」

 

「それは――」

 どういうことですか? と問う前に、こちらに背を向けてゆったりとしたペースで歩き始めた。後ろ向きのまま、彼女は立て続けに言葉を紡ぐ。

「その心に一番強く映っているのは、一体誰かしらね~?」

 

 ゆゆ様が去って、一人縁側に残される。しばしの間呆然としていたが、彼女の言っていたことを思い出して、参ったとばかりに俺はぽりぽりと頭を掻いた。やれやれ、女性は勘が鋭いというのはよく聞くが、本当に大したものだ。

 俺の心に映っている人物――彼女は、魔法の森に住んでいる、心優しくて照れ屋な人形遣いは、俺の帰りを待ってくれているのだろうか。心配してくれているのだろうか。いかん、何かこう……むず痒いものが迸ってきた。

「うぉおおお! アリスに会いてぇよぉおおお! 癒しボイスが聞きてぇえええ! 可愛すぎる顔が見たぃいいいい! 手料理が食いたぃいいい! あぁあありすぅうううう!!」

 もはや騒音レベルの魂の叫びが白玉楼に響き渡る。俺は廊下から落ちたのも気にかけず、さっきの三割増しくらいの勢いで、庭まで横転し続けるのであった。

 

 

つづく

 




次回でケンカ(?)回は完結でございます。
というか作者自身、こんなに長くなるとは思いませんでした。長すぎてビックリだよ!

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