東方人形誌   作:サイドカー

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やっと、やっとハーメルンに帰ってこれた……!

ご無沙汰しております。サイドカーでございます。
作品の見直し等により、すっかり更新が遅くなってしまいました……申し訳ございません。

というわけで、お待たせしました! 久しぶりに、ごゆるりと楽しんでいただけると、嬉しいです。


第十三話 「返済プランは計画的に」

 今日も平和な幻想郷。魔法の森と呼ばれる場所に、洋風な一軒家が佇んでいる。いわずもがな、俺が住まわせてもらっている、七色の人形遣いことアリス・マーガトロイドの家だ。リビングではソファーに腰掛けて、何やら難しそうな本を真剣に読んでいる、アリスの姿があった。うむ、今日も可愛いな。

 ちょうど最後のページを読み終えたところだったのか、アリスは本をパタンと閉じると、「ふぅ……」と一息ついた。これはナイスタイミングだったようだ。俺は彼女に近付き、声をかける。

「アリス、紅魔館行こうぜ」

「いいけど、何かあるの?」

「コレを返しに行こうと思ってよ」

 俺は手に持っているものを、彼女に見せた。玄関に立てかけてあったのを、ついさっき偶然見つけたんだけど。

 それは先日、紅魔館を訪れた帰り際に、咲夜さんから借りた傘だった。別に忘れていたわけではない。ただ、返しに行くという発想がなかっただけだ。俺は悪くねェ!

「あ、そういえば借りたままだったわね。そうね、私もパチュリーから借りた本あるし、一緒に行きましょうか?」

「オフコース!」

 というワケで、本日の行き先は紅魔館で決定だ。借りたものはちゃんと返しましょう。魔理沙とは違うのだよ、魔理沙とは。まぁ、魔理沙も可愛いし、俺だったら返してもらえなくても許してしまうかもしれんが。可愛いから許すって日本語を考えた奴は、天才だと思う。

 

 

「ちょっくら寄り道していかないか?」

「寄り道って、何処か行きたいの?」

「うむ、この前はスルーしていたんだが、この湖をもっとよく見たくてさ」

 森を抜けたいつもの道を、これまたいつも通りのペースで歩く途中。目的地の紅魔館まで、あと少しくらいのところで、俺はアリスに一つ提案をした。

 現在、俺達が立っているのは、霧の湖と呼ばれる、妖怪の山の麓に位置する、大きな湖がある場所だ。その名前の通り、辺り一帯は霧で包まれており、正直言って視界が悪い。そんな中を進んでいくと、広大な敷地を持つ洋館がいきなり現れるのだから、知らない人からすれば、おったまげること必至である。ミステリー小説とかホラー映画に使われそうだ。オブラートに包んだ表現をすれば不思議、悪い言い方をすれば不気味、そんな予感を漂わせる。ちなみに、昼間は霧が発生しやすいが、夜はそうでもないらしい。原因はよくわかっていないそうな。

 水辺なだけあってか、気温は若干低く、涼しいっていうよりは、やや肌寒いものがある。夏なら快適に過ごせそうだが、今の季節はビミョーなところだ。

 

「何か出そうな場所だな」

「ええ、出るわよ。妖精がよく集まる場所だもの」

「そっちか。湖の主みたいな巨大魚とか、そういうのは?」

「そういう噂もあるけど、どうかしらね」

 俺は目の前に広がる、どこまで続いているのか曖昧な湖を眺める。霧のせいで、いまいち遠くまで見えないが、結構でかそうにも見えるし、逆に実際はもっと小さいような気もする。早い話がよくわかんねぇということだ。典型的なミステリースポットである。

「ん?」

 ふと、周囲を見渡していると、何やら奇妙なものが視界に入った。ぼやけてハッキリとは見えないが、何かが水の上に浮かんでいる。その物体は、どんぶらこどんぶらことマンガ日本昔話みたいな感じで、ゆっくりとこちらに向かって流れてきた。坊や良い子だねんねしな、うんたらかんたらレロレロレー。うん、歌詞忘れた。だって相当古いアニメだし。

 モノローグでアホなことやってたら、シルエットでしか分からなかった件のブツが、正体を把握出来る距離まで来た。

「……えぇえ?」

 なつかしのマスオさんボイスが出てしまった。流れてきたのは、赤ん坊が入ったビッグなピーチ――ではなく、なぜか中心部に蛙が入った、バランスボールくらいのサイズをした氷の塊だった。

 意外と大きさがあったことも驚きだが、春に氷が流れてくるというのも、また不可解である。此処は北極か南極とつながっているのだろうか? 北海道だって春になれば、雪は溶けるんだぞ。

「なぜに氷が? しかも両生類入っとるがな。新手のスタンド使いの攻撃か?」

「あぁ、それは多分――」

 俺の疑問に、アリスが答えを言いかけたところで、

 

「フハハー! アタイってばサイキョーね!」

「待ってよー、チルノちゃーん……」

 

 何やら騒がしいのと、大人しそうな少女のコンビが、小鳥のように忙しなく飛びながら、俺達の方に接近してきた。

 元気な方は、水色のショートヘアに青のリボン、服もほとんどがブルーで構成されていたりと、一言で言えば青かった。地球は青かったくらいの勢いで、青かった。彼女の背中には、氷をイメージさせる羽が生えている。その子の後ろを追いかけているもう片方は、サイドテールにしている緑色の髪と、透き通った薄い羽が特徴か。羽の形は、鳥よりも蝶かトンボあたりに近い。

 すると、青い方が俺達に気付いて、こちらを指差してきた。

「あ、アリスだ!」

「え? あ、こんにちは」

「ええ、こんにちは」

 どうやらアリスとは面識があるようだ。二人は挨拶をしながら、俺達のもとまで来る。

 個性的な羽を持っているところや、幼い見た目からして、この子らは妖精か。幻想郷に住んでいる妖精は、ほぼ全員が幼い子供の姿をしていると、この前アリスが教えてくれたのを思い出した。早速出会っちまったよ、妖精。ちなみに、妖精は幻想郷の至る所にいるそうだ。そういえば、俺が幻想郷に来たばかりの頃、アリスと人里に向かう途中で見かけたのも、春告げ精だったなぁ。あの時も驚いたが。

「あ、もしや」

 不意に、つい今しがた漂流してきた氷塊を思い出した。コレが流れてきた直後に、この二人が現れた。さらに言えば、青い方からは、ひんやり冷気を感じる。羽の形もそれっぽいし、この子は恐らく氷属性の妖精だろう。

「あの氷は、もしかしてお前がやったのか?」

 水上の物体を指で示しながら、俺が質問すると、少女はふふんと得意気に胸を張った。

「そーよ! アタイはサイキョーだからね。っていうか、あんたダレ?」

「天駆優斗。人間さ」

 見た目は子供、頭脳は大人なバーロー探偵を意識しながら、気障っぽく名乗ってみた。だがしかし、少女にはこのネタが通用しなかったようだ。誠に遺憾である。まぁ、幻想郷だし、仕方ないんだがな。

「アタイはチルノ。んで、こっちが大ちゃん」

「えと、初めまして。大妖精といいます。よろしくお願いします」

「おう、よろぴく~」

 チルノに大ちゃん、と呼ばれた少女が、礼儀正しくお辞儀をする。真面目な優等生タイプとみた。初対面の俺でも、二人は真逆な性格の持ち主であることが推測できる。バランスのとれた、ナイスコンビと言えよう。

 自己紹介を済ませたところで、チルノが俺達を遊びに誘ってきた。

「あんたらも、アタイ達と一緒に遊ぶ? これから缶蹴りしにいくのよ」

「缶蹴りか。これまた懐かしい遊びだな」

「ダメだよ。チルノちゃん」

「なんで?」

 チルノの発言に、隣に居た大ちゃんがやんわりと制止をかける。その姿は、仲良しのお友達というより、ちょっとだけ年上のお姉さんのような雰囲気を醸し出していた。ふと思ったんだが、「年上のお姉さん」って二重表現じゃね? 言い方の問題かしら?

 何はともあれ、そんなお姉ちゃんポジションにいる大妖精氏。彼女は「少しだけ失礼しますね」と言いながら、頭上に疑問符を浮かべている相方を連れて移動する。ちょっと離れた位置まで行くと、二人は俺達に背を向ける形で、こそこそと内緒話を始めた。耳打ちトークのせいで、残念ながら会話の内容までは聞こえない。どうやら、大ちゃんがチルノに何かを教えているようだが……

 どうなってんだ? というメッセージを込めて、俺は隣にアイコンタクトを送る。しかし、アリスも彼女達が何を話しているのか見当がつかないらしく、軽く肩をすくめるだけだった。

 

 以下、妖精二人組によるひそひそ話。

「大ちゃん、なんでダメなの?」

「それはね、チルノちゃん。あの二人にとって、今は特別な時間だからだよ」

「特別?」

「そうだよ。男の人と女の人が二人きりでいるのは、特別なことなの」

「ふーん。よくわかんないけど、わかった! つまりアリスたちは特別なカンケーなのね!」

「うん、そういうことだよ。だから、私達はもう行こうね?」

「おっけー!」

 

 会話の内容が聞こえないから確証はないが、何か間違ったことを言われている気がするのは、俺の気のせいだろうか? アリスも似たようなものを感じ取ったのか、「勘違いされている気がするわ……」と複雑そうな顔をしていた。

 やがて、妖精少女の二人による作戦会議が終了したのか、こっちに戻ってきた。大ちゃんが「すみません」と頭を下げてきたので、俺は「いいってことよ」と軽く流す。

「ところで、お二人はこれから何処へ?」

「紅魔館に行くところだったのよ」

 話題を変えようとしているのか、大ちゃんが一つ尋ねてきた。アリスがそれに答える。

「そうだったんですね。チルノちゃん」

 アリスの答えを聞くと、彼女は相方にチラッと目で合図を送る。それを受けたチルノは、妙に芝居がかった言い回しで、

「ふふーん、大人なアタイはクールに去るわ!」

「うん、そうしようか。それでは、失礼します」

「ん? ああ、じゃーな」

「ええ、二人とも気を付けてね」

 まるで妙に気を遣われているみたいな態度が、少しだけ気になったものの、チルノはブンブンと大きく、大ちゃんは控えめに手を振りながら、何処かへ飛んで行ってしまった。俺とアリスも軽く手を振って応えつつ、二人を見送る。彼女達が遠くへ去っていくのを見届けてから、紅魔館を目指すべく、湖に沿って俺達は再び歩き出した。

「あの子達、一体何を話していたのかしら……」

「俺達がデート中だとでも思ってたりしてな」

「ば、バカ! そんなわけないでしょ!? 優斗なんてもう知らない!」

「ちょ、待った置いてかないでくれぃ。悪かった、冗談だって。なー、アリスってばー」

 

 プリプリと怒りながら、足早に一人で先を歩くアリスと、彼女を宥めながら慌ててその後を追いかける俺。

 全員が去ったその場では、一つ取り残された蛙入りの氷の塊が、水の流れに乗りつつ静かに漂っていた。

 

 

つづく




あー、アリスとイチャイチャしたい……

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