いつかはやってみたかった、ハーメルンへの投稿。自分の作品がネットにあがっていると思うと、興奮す……ゲフンゲフン。失礼、緊張しますなぁ。
至らぬ点も多々ありありですが、ごゆるりと楽しんでいただけると、嬉しいです。
では、『東方人形誌』始まり始まり~
春。俺がこの大学に来て、三度目の春。実家を出てから、三度目の春。そして、もしかしたら最後になるかもしれない、日本で過ごす春。
ライトアップされた桜が、夜の闇に映える。時刻は午前二時。踏切に望遠鏡を担いでいく人もおらず、辺りは静かだ。時折、風で木々の枝が揺れ、その先に付いている葉や花が、控えめな音を奏でる程度。日中は花見客で賑わっている自然公園も、今はまるで別世界のようだ。
現在この場所には、俺と二人の友人しかいない。さっきまでコイツ等と「俺の留学出発前夜祭」という名目で飲み会をしていた。その帰り道、まっすぐ帰宅するには惜しい気がして、ここに寄り道してみた、という次第だ。
何となく今に至るまでの経緯を思い出していると、口の悪い方の友人が話しかけてきた。
「にしても、相変わらず唐突過ぎんだろ、てめぇ。小便している最中に、何か思い出したように『そうだ、外国行こう』とか言い出すなんてよ。頭イカれたのかと思ったわ」
別に奴の機嫌が悪いわけではなく、もとからこういう話し方なのである。大学で最初に出会ったときは、俺も少しだけビビったがもう慣れた。あと、いつも黒いハットを愛用しており、オシャレのつもりで髭を伸ばしているため、「次元」というあだ名で呼んでいる。
次元の言葉に、俺は「あー……」とおざなりな返事を前置きしつつ、答える。
「大学にいても面白くなくなったんだよ。まぁ、元々何となくで選んだ大学だが。単位は最少限しか確保してないし。おかげでバイト三昧だったから、資金はバッチリよ!」
「それで、留学の目的が『面白いことを探しに』って……親御さんは許可したの?」
今度は、いかにも草食系男子なもう片方の友人が質問してきた。ちなみにコイツのあだ名は「五右衛門」だ。といっても、居合の刀を携帯しているわけでも、一人称が「拙者」だったり、語尾が「ござる」だったりすることもない。
だったら、ポジション的に俺がルパンなのだが、残念ながらルパンと呼ばれたことは一度もない。誠に遺憾である。似合うと思うんだがなぁ……女性に弱いところとか。
「どーせあそこにゃ俺の居場所はなかったし、実家には兄貴もいるからな。大丈夫だ、問題ない」
「ああ、そういえば確かにそんなこと言ってたっけ。かなり優秀なお兄さんらしいね」
俺の放った、かの有名な死亡フラグ台詞を華麗にスルーし納得する、草食系侍。せめてツッコミがほしかった。
そこで会話が途切れてしまった。ちょうど近くにあったベンチまで移動し、三人並んで腰掛ける。実は全員スモーカーという意外な共通点があり、それぞれ懐からタバコを取り出して紫煙をくゆらす。
吐き出した煙が、闇に溶け込んでいくのを眺めたり、ぼんやりと夜桜を見上げたりして時間を過ごす。どのくらい経っただろうか。やがて誰かが「解散するか」と言った。
最初にベンチから立ち上がったのは次元だった。背を向け、振り返り際ニヤリと笑い、
「じゃあな。たまには帰ってこいよ。お前の大好きな合コンのセッティングしといてやるからよ」
「おっ! 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。さすが次元ちゃん!」
タバコの吸い殻を指で弾き飛ばし、いかにも格好つけてますといわんばかりの歩き方で去っていった。ポイ捨ては犯罪です。
気障な友人が去ってから程なくして、五右衛門もベンチから腰を上げた。
「またね。女の子追いかけて、変なトラブル起こさないようにね。あと、面白がって自分から厄介事に巻き込まれに行くのも程々にね」
「わぁーってるよ。心配すんなって!」
俺の軽い返事にやれやれと肩をすくめると、次元がさっき捨てた吸い殻を拾い、自分の携帯灰皿に入れた後、次元とは正反対の方向へ歩いていった。イイ奴だな、五右衛門。
友二人がいなくなって、一人となってしまった俺は、
「さて、もう少し歩くか」
二人がそれぞれ行った道ではなく、自然公園の奥に進むという第三の道を選択した。
自然公園として整備された敷地内から、脇道に逸れて森林となっているエリアまで進む。立ち入り禁止とは聞いていないし、入っても問題ないだろう多分。
外灯も無く、月明かりだけを頼りに歩く。周囲は相変わらずの静寂っぷりで、土を踏む自分の足音だけが異様に目立つ。目的地なんてものは無く、気ままにブラブラと森の中をさすらう。
「さーて、次の行き先は面白くなるだろうかね。何かこう、本気になれるものがあればいいんだけどなぁ」
独り言を呟きながら、俺はこれからのことを考えていた。歩きながら深く考え込んでいたせいか、気が付いたらかなり奥まで進んでしまっていた。そろそろ戻ろうと思い、踵を返す。
「ん?」
その時、ふと気になる木を見つけた。他と比べて一回り大きい巨木が鎮座している。
「そういや昔、何かのCMでこの木何の木みたいな歌があったなぁ。何のCMだっけ?」
などと言いつつ対象に近づく。樹木の根元を見下ろしてみると、不自然なくらい大きな穴が広がっていた。今が深夜というのもあるが、それを差し引いてもその空洞の中は、不気味なくらいの漆黒で、底が見えない状態だった。なんかトトロの元にでも繋がっていそうだな。
視線を下から上に変更し、樹木そのものを眺める。外観は至って普通の木なんだが、こう、雰囲気というかオーラというか、不可視の何かがあるような気がした。もしかして御神木だったりするのだろうか?
再び視線を下に向ける。空洞にさらに近寄り、中を覗き込む。
「おーい」
試しに呼びかけてみるが返事はない。
「ぬるぽ」
……やはり返事がない。ただの穴のようだ。何だか空しくなってきた。
「帰るか……」
そう言って離れようとしたが、暗かったこともあり、足元の根っこの一部が盛り上がっていることに、俺は気づいておらず――
ガッ ←根元に躓く音
「おっ、おっ、おぉおおっ?」
重心が前方に傾く。目の前には底の見えない奈落への入口。これ落ちたら絶対痛いだろ!
「ふんっ! ふんっ! せいやぁっ!」
某洋画の銃弾回避のように体を仰け反らせ、倒れまいと必死に抵抗する。
「オラァッ! オラァッ! WRYYYYYYYYYYY!!」
両腕を伸ばし、鳥が羽ばたくようにバタバタと上下前後に振り回すが、その努力空しく……
「カカロットォォオオオオオオオオ!!」
某サイヤ人の名前を叫びながら、俺は穴の中へ落ちていった。
つづく
忘れられないように、定期的な更新を心掛けていきたいですわ。
よろしければ、続きも楽しんでいってくださいまし。