蒼き騎士と紅き騎士   作:alc

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第7話

「なんで私がブリタニアなんかと一緒に戦わなきゃならないのよ!」

黒の騎士団のエースパイロットである紅月カレンは、愛機である紅蓮弐式のコクピット内で叫んでいた。

そんな不満を叫びながらも、中華連邦制ナイトメア、ガン・ルゥを持ち前の操縦技術と紅蓮の機体性能で続々と撃破していく。

その後ろでは、黒の騎士団の前に幾度となく立ちふさがってきた、青と白のカラーリングのブリタニア軍のナイトメアが戦っている。

カレンをここまで怒らせているのは、何もそのナイトメアがブリタニア軍のものであるというだけでない。

そのナイトメアのパイロットが完璧なまでにカレンのフォローを行い、後方からの攻撃を心配する必要がなくなっているからだった。

「私はあんたなんかに助けられなくても……!」

カレンの負けず嫌いの心に火がついた。

もう一体のナイトメアのことなど考えず、そのまま単機でガン・ルゥの群れに突入していく。

『待て!カレン!』

誰かの声が聞こえたような気もしたが、カレンはそれを無視した。

紅蓮は左腕に持った呂号乙型特斬刀でガン・ルゥを切り裂いていく。

反撃の隙さえも与えない。

数の多いガン・ルゥ自体を他の機体からの攻撃の盾に使いながらの攻撃。

そして、高速移動することによって的を絞らせないようにする行動。

いくらか力のあるガン・ルゥとはいえ、攻撃が当たらなければ機動力がない分ただの的。

カレンは自信満々に攻撃を繰り返した。

 

ピーッ!

 

「えっ!?」

突如としてコクピット内に鳴り響く電子音。

あわててカレンは何事かと計器に指を走らせてチェックをする。

「嘘でしょ……」

今や紅蓮は中華連邦のガン・ルゥに完全に包囲され、固定式キャノンによってロックオンがかけられている。

戦闘能力だけでなら卓越したものがあるカレンであったが、戦略まで完全に把握できる能力はない。

そしてそのことが、今の状況を作り上げたのだ。

ガン・ルゥの撃破数だけを見れば、帝国最強の騎士と呼ばれるナイトオブラウンズの親衛隊をも上回る結果を残しているが、相手の指揮官が徐々に紅蓮を包囲しようと布陣を動かしていることに気付くことはできていなかった。

しかし、今の状態を改善することができないということぐらいはわかっている。

終わった……

カレンは自分の人生の終焉を感じた。

抵抗しようという気は失せ、ゆっくりと目を閉じる。

脳裏には、ブリタニアに侵略される前に家族で楽しく過ごしていた時期の光景が浮かんでくる。

母と笑って過ごした日々。

兄と扇と3人で無邪気に遊んだ日々。

そして……

 

 

『カレン!!』

 

 

――どこからか声が聞こえた気がした。

声につられて目を開いたカレンが見たのは、次々に炎上していくガン・ルゥ。

そして紅蓮を守るかのように立ちふさがる白き騎士の姿だった。

カレンはその後ろ姿に、銀髪の少年の姿が見えたような気がした。

彼女に対して優しく微笑み、暖かな気持ちで満たしてくれる彼の姿が。

しかし、その幻想も一瞬で消え去ってしまう。

『紅蓮のパイロット!ぼさっとしないで戦え!』

「……わかってるわよ!」

微妙に上から目線なランスロットクラブのパイロットの言葉に、再びカレンは闘志を燃やした。

即座に2機のナイトメアはその場から離れ、持ち前の機動力を生かした戦いを繰り広げる。

それはさきほどまでの紅蓮が連携を無視したような戦いではない。

紅蓮が輻射波動を使うならばクラブがその大きな動きをカバーするようにツインMVSで援護を。

クラブが可変ヴァリスを使用するために動きを止めた時には、紅蓮がその背後をカバーする。

本当に今まで敵同士だったのかとも言えるほど2人の呼吸はそろっており、向かうところ敵なし、という状況だった。

そして……

 

 

『日本軍を名乗る者たちに告げる。お前たちのリーダーである澤崎と曹将軍は私が確保した』

『自分は無駄な命を取るつもりはありません。速やかに投降してください』

 

 

カレンとライが周りのガン・ルゥのほとんどを撃破し終えたころ、フクオカ基地全体にある2人の声が響き渡った。

黒の騎士団のリーダーであるゼロと、ユーフェミアの騎士枢木スザクの声だ。

彼らの宣言により、ガン・ルゥの部隊は即座に攻撃をやめて投降、もしくはフクオカ基地からの撤退を始めた。

もとより、彼らは上司である曹将軍に命じられたためにこのエリア11に来ただけであり、そうでなければ日本人である澤崎敦と行動を共にしようと思いもしなかった人々だ。

無駄に戦って命を散らすことに何の意味もない。

こうして、のちにキュウシュウ戦役と呼ばれる戦いは終わりを告げた。

 

 

 

遅れてフクオカ基地に到着したコーネリアの部隊からも無事に逃げ延び、カレンたちは黒の騎士団のアジトに戻ってきていた。

あたりは今回キュウシュウへ共にいけなかった団員たちの歓声にあふれている。

そんな中、カレンは今回の戦闘における報告書を書きながらあることに意識を集中させていた。

自分のことを助けたあのもう一体の白兜のパイロット。

その男のことについてだ。

カレンは今までブリタニア軍人となど、同じ生徒会である枢木スザク以外には面と向かって話したこともない。

(それなのに、あのパイロットは私の名前を知っていたのよね……)

左手で頬杖を突き、右手ではペンを回しながらカレンは思う。

あの時、命を落とす寸前に例のナイトメアが現れた時の安堵感はいったいなんだったのだろうかと。

心が温かくなり、何かに満たされたかのような感情。

今まで感じたことのないはずなのに、どこか懐かしいものを感じた。

黒の騎士団のエースパイロットであるとはいえ、普段から扇が言っているようにカレンも年頃の女の子だ。

同じ年代の女の子が話題にあげそうなこともしっかりと知っている。

 

 

「恋……なのかな……」

もちろん、確信が持てることではない。

同年代の人間とかかわってきたのは、シュタットフェルトの名を名乗り、ブリタニア人として生きてきたときだけ。

自分の故郷を奪っていったブリタニア人と恋仲になれるわけがない。

さらに、ブリタニアに侵略される前はまだ10歳になったぐらいであったから、初恋も未経験。

「でもこの感じ、初めてじゃないのよね……」

記憶をたどってみると、確かにそのような感情を持ったことがある。

それも黒の騎士団が成立してからという最近のこと。

なのに、その感情がだれに向けられたものなのかがわからない。

『どうかしたのか、カレン?』

声の主は、カレンとともに今回の戦闘において、神根島でブリタニアから拿捕したガウェインを使用し、それについての報告書をラクシャータによって書かされているゼロだった。

「いえ……その……」

(言えない……ゼロに『恋の悩みです』なんて言えない!!)

ゼロは心のうちでカレンがそんなことを思っているなどとは微塵も思わず、彼女に言葉をかける。

『確か、君の通っているアッシュフォード学園ではそろそろ学園祭があると聞いたが?』

「……どうしてそれを?」

そのことをここで話した覚えはないのに……とカレンは思った。

黒の騎士団としてブリタニアの敵となり戦っているのだから、カレン・シュタットフェルトという表のブリタニア人としての自分をアジト内ではできるだけ見せないようにしている。

その一面をのぞかせていたのは、しばらく前まで学園から直接アジトに来ていたときに制服のままで来ていたことや、親代わりとしていろいろ心配をかけてくれる扇から学校のことを聞かれたときにしぶしぶと答えるときぐらいだった。

『なに、私はゼロだからな。たいていのことは知っている』

そう言いながら右手を頭にかざすようなポーズをとるゼロ。

かっこいいと思っているのかしら……と思いつつも、カレンはゼロの次の言葉に耳を傾けた。

『最近の君は少し無理をしているように見える。特に神根島から戻ってきて以降、実家にも帰らず常にアジトにこもりっきりだ。あの島で何があったのかは知らないが、戦士にも休息が必要だ。学園のイベントに参加して、戦いの日々から少し離れてくるといい』

「でも、学園には枢木スザクがいます!神根島で私が黒の騎士団にいるということを知られてしまっているので、私がそこに行くのは……」

『いや、それについては大丈夫だろう。枢木スザクは義理堅い男だ。それはかつて私が彼を助けたときに、再びブリタニア法廷に出頭したことからも明らかだ。君がアッシュフォードの生徒としている間は手を出してこないだろう。だから安心していってくるといい』

(本当は、アッシュフォードには“あいつ”がいるからなんだが……)

ゼロの脳裏に浮かぶ銀髪の少年の姿。

納得がいかない、といったような表情を浮かべるカレンの顔を見ながら、ゼロはその少年がしたと思われる可能性が一番高いことについて思索する。

(あいつがギアスを持っていようがいなかろうが、今のところ俺の計画には支障がない。あとは、どうやって2人を前線から離脱させるかだが……)

いつの間にかカレンの話から、ブリタニアの最新ナイトメアに騎乗する2人の親友への対処へと考えが変わっってしまっていたゼロ。

しかしそんな考えも数日後の一人の少女の宣言によって意味をなさなくなる……

 

 


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