「私・・・・・・もう紅蓮には乗れません」
兄の意志を継ぎ、日本を取り戻したいという信念。
兄以外に初めて出会った心から愛せる人。
どちらを選べばいいのか。
カレンが悩み抜いて選んだのは後者だった。
『・・・・・・それはどういう意味だ?』
「そのままの意味です」
再び同じ問いに、今度は即答した。
『・・・・・・一応、理由を聞かせてもらおうか』
(カレンが紅蓮を降りてしまえば、黒の騎士団の戦力は大幅に下がってしまう・・・・・・
そうなれば、ブリタニアに反逆するどころか組織を維持することもままならなくなる・・・・・・!)
焦っている内面とは裏腹に、ゼロは落ち着いた口調で問いかけた。
「実は、もう一体の白兜のパイロットがわかったんです」
『何だと!?』
この情報にはゼロも驚いた。
すでにディートハルトに指示をして情報を探らせていたが、よもやカレンの口からその情報が語られるとは思ってもいなかったからだ。
一瞬の驚きのあと、ゼロは1024通りの策を考案する。
どのような人物の名前が出てもいいようにと。
(・・・・・・いや待て。なぜあの白兜のパイロットと、カレンが紅蓮からおりることが関係する?・・・・・・まさか!)
「あれのパイロットは・・・・・・ライです・・・・・・」
(くそ!あたりか!)
ゼロの正体であるルルーシュも、もちろんカレンとライが恋人であるということは知っている。
だが“ゼロ”にとっては、ライは過去にカレンが騎士団に推薦してきた日本とブリタニアのハーフというだけの人間であり、カレンとの関係も知らない。
動揺が声に表れそうになったゼロだったが、なんとか押さえ込んで質問を続けた。
『確か、カレンの同級生だったな。以前シンジュクゲットーでテロに巻き込まれたときに助けてくれたという奴で間違いないな?』
「・・・・・・はい」
『しかし、なぜ彼があれのパイロットであるのと、君が紅蓮からおりることが関係あるのだ?
枢木スザクも同級生だったはずだが、彼と戦うことにためらいはなかったはずだが?』
頭の中で会話をシミュレーションしながら、ゼロは会話を続ける。
できるだけカレンの心を傷つけないように、尚且つゼロとしての威厳が保てるようにと。
「・・・・・・彼とは・・・・・・恋人なんです」
『・・・・・・やはりな。何となく予想は出来ていた。だが、それを理由にするということは、戦争に私情を持ち込んでいるということになるかが』
「わかっています。だから私は紅蓮を――『違うな。間違っているぞカレン』――え?」
思わぬゼロからの言葉に、カレンは俯きかけていた顔をあげる。
『こういう言い方はしたくないのだが、君は黒の騎士団のエースだ。君が前線からいなくなるだけで団員の志気も下がる。大切な人を傷つけたくない。そのためには自分の居場所を失っても構わない。その決断力の強さは認めよう。ただ、考えてみてほしい。君がいなくなるだけでどれほどの人が傷つき、そして死んでいくのかを。それでもなお、君は紅蓮から降りると言うのかな?』
「それは・・・・・・」
カレンは何も言い返せなかった。
今までの黒の騎士団の作戦は、紅蓮という強力なナイトメアがあったからこそ実現してきたものがほとんどだ。
四聖剣や藤堂が合流したとはいえ、自分の前線離脱での戦力ダウンはかなりのもの。
共に戦ってきた仲間が死ぬ確率が上がるということは、カレンにでもわかることだった。
『君が紅蓮からおりることは許されない。だが、彼のことはこちらでもできるだけ対処をしよう。……辛いだろうが、そこは覚悟を決めてもらいたい』
「わかり・・・・・・ました・・・・・・」
カレンは肩を落とし、俯きながらゼロの部屋から出ていった。
(すまない、カレン・・・・・・)
ドアが閉まる直前、ゼロは少女が流す涙の音を聞いた気がした。
「カレン……」
ライは、生徒会室で作業をしながら、無意識に呟いていた。
あの日――ライがナイトメアに乗っていることをカレンに明かした日から、カレンはぴたりと学校に来なくなっていた。
最初は、また体調が悪くなったのだろうかと思っていたが、連絡が取れないまま3日が過ぎた今では、その可能性を排除していた。
付き合いはじめてから今まで、1日でも休むことがあれば必ず連絡をしてくれていたからだ。
(やはり、ナイトメアで戦場に出ているって言わなかったほうがよかったかな……?)
悩みつつも、徐々に迫りつつある学園祭に向けて様々な書類を片付けていくライ。
(……あれ?)
ふいに、周りの視線が自分に向けられているのにライは気がついた。
哀れむような目つきで見てくるルルーシュ。
ニコニコしているスザク。
なぜか悔しそうにしているリヴァル。
そして何かをたくらんでいる目つきをしたミレイを見て、自分が何かをしてしまったのだということを自覚した。
しかし、ライには自分が何をしたのか検討がつかなかった。
「あの……何か……?」
「何かって……今自分でカレンの名前を呟いたこと気がつかなかったの?」
「……あ」
ミレイに言われ、確かに言ったかもしれないと思い、ライは顔を赤くする。
「無意識のうちに彼女の名前を呟いちゃうって……重症ね」
その言葉に、さらにライの顔は赤くなる。
「で?ライは愛しのカレンが最近学校に来ないから寂しいのかな?」
「えっと……その……そう……ですね……」
そう恥ずかしがりながら話すライを見て、リヴァルが叫ぶ。
「人は皆平等ではない!こんなところで皇帝陛下のお言葉に共感するとは思わなかった!!」
うわぁぁぁ!と叫びながら、そのままリヴァルは生徒会室を出ていった。
それもそのはず、スザクがユーフェミアの騎士となった今、独り身であるのはリヴァルだけだからだ。
ライはカレンと、ミレイには婚約者がいて、現在ルルーシュはシャーリーからの一方的な好意だが、そういう存在すらいないリヴァルにとっては羨ましい状態であることにかわりはない。
ニーナは異性に興味はないし、ナナリーはルルーシュという最大の壁があるから誰も手出しはできない。
「ミレイさん……?あんなになったリヴァルを放っておいてもいいんですか?」
「そのうち戻ってくるから大丈夫よ」
揚げ句の果てには、自分の思い人から適当にあしらわれる始末である。
リヴァル・カルデモンド。
つくづく不幸な男であった。
「ところでライ。一つ聞きたいことがあるのだが」
「ん?なんだいルルーシュ?」
リヴァルもいなくなり、そろそろいいだろうと思ったルルーシュは話を切り出した。
「確か、前に『スザクと同じ部署で働いている』と言っていたよな?で、そのスザクは実はブリタニアの最新鋭機である白いナイトメアのパイロットだったわけだ。それならば、ライもナイトメアのパイロットをしているということが簡単に予想できるが、実際のところはどうなんだ?」
ライはその質問に顔をしかめた。
今までみんなに心配をかけたくないと黙っていたことだからだ。
(でも、スザクのことが公になったし、今ここにいるのは僕の保護者のミレイさんと親友ともいえるルルーシュだ。無理に黙っている必要もないか・・・・・・?)
ちらっとスザクを見ると、その顔が『しかたがないよ』と物語っている。
それを確認し、ライは口を開いた。
「その通りだよ。僕もナイトメアで戦闘に参加したことがある」
「……やはりな」
ライの言葉に、ミレイの顔つきが一気に真剣なものへと変わる。
「どうして今までそのことを黙っていたの?」
「みんなを心配させたくなかったからで――」
「カレンはこのことを知ってるの?」
すかさずミレイ質問を重ねられる。
その声は、心なしか少し鋭くなっていた。
「……はい。3日前に話しました」
「その時のカレンの様子は?」
「・・・・・・怒っていたと思います」
――何にたいしてかはよくわかりませんでしたが、とライは付け加えた。
ミレイは、その言葉を聞いて結論を出した。
「この3日間、カレンが来ないのはあなたのせいかもね」
「えっ?」
「きっと、あなたが死ぬかもしれないという現実と向き合いたくないのよ。
まぁ、私はカレン本人じゃないからこれが本当のことかはわからないけどね」
「そう……ですか……」
(カレンの事を思ってしていたことが、逆に彼女を苦しめていたのか……これじゃ彼氏失格だな)
彼女の不安を取り除こうと思い、正直に打ち明けた自分の職業。
それが彼女の負担になっていたと知り、ライの心は痛んだ。
(カレンとしっかり話をしなくちゃな。僕は今や自分の記憶の事のためにナイトメアに乗っているというわけじゃないということも……)
もともと、自分の記憶探しの手がかりになれば、と思って特派に入ったライ。
しかし、今では自分の過去の記憶などどうでもよくなっていた。
アッシュフォード学園で生徒会の仲間達と過ごす日々。
スザクたち特派の面々との生活や、ラウンズであるノネットとの交流。
そして何より、かけがえのない存在であるカレンの事が大きかった。
――今、このときを大切に生きて生きたい。大切な人たちを守りたい。
それが今のライにとっての戦う理由、生きる理由だ。
(いつかカレンと本音で話し合いたいな。カレンが『病弱なお嬢様』を演じている理由も含めて……)
その『いつか』が意外にも早く、そして悲しい別れとなることに気づいているものは誰もいなかった。
どうも、お久しぶりです。
インフルエンザとか、テストとかやってたら前回からこれほど時間が空いてしまいました。
めでたく休みに入ったので、ゆっくりちょくちょく更新していきたいと思います。