5年くらい前まで某掲示板にて細々と書いていたSSだったんですが、プライベートの忙しさから足が遠のいてしまい、今更そこに戻るのもやりづらくなってしまったので、当時の作品を加筆訂正しながら連載していこうと思います。更新頻度は、ちょっとわからないです……
学校の昼休み。
あるものは食堂に駆け込み、またあるものは友達で集まって弁当を広げる。
世界のどこにでもあるような風景だ。
そしてエリア11のトウキョウ祖界に位置するこのアッシュフォード学園も例外でなく、同じ風景がみられた。
そしてその学園の屋上では、一組のカップルがお弁当を食べていた。
赤髪と銀髪の組み合わせ。どこからみても目立つ組み合わせである。
いつもと同じ風景――のはずだったが、今日は何かが違った。
さんざん朴念仁、天然と言われ続けてきた銀髪の彼氏も、さすがにその何かには気がついていた。
「カレン。いつもと雰囲気が違うけど、何かあったのかい?」
「ううん、なんでもないの。少し考え事をしていただけよ」
「だったらいいんだけど……」
赤髪の彼女――カレン・シュタットフェルトの悩みの原因は、今隣に座っている彼氏――ライ本人だった。
それは先日チョウフで、四聖剣とともに日本解放戦線の藤堂中佐を救出するときのことだ。
カレンは紅蓮弐式に騎乗し、ゼロと共に藤堂中佐を救出した。
そしてその後に現れたブリタニアの白兜との戦い。その戦いの中で、白兜のパイロットは同じ生徒会役員のスザクだったということをカレンは知った。
『スザクと同じ技術部の所属なんだ』
ライが以前言った言葉。
技術部ならば、黒の騎士団としての自分と戦うこともない。
だからこそ、安心してブリタニア軍所属のライとも付き合ってこれた。
昔はブリタニアの学校に通うことが嫌でしかたなかったが、ライという彼氏ができてからは昔は嫌だった毎日も楽しくなってきていた。
それなのに――――
「……ねぇ、ライ」
「なんだい?」
「その……スザクってあの白いナイトメアのパイロットなのよね?」
「うん。そうだよ」
「あなたもスザクと同じ部署ってことは、もしかして……戦場に出たことも…………」
「…………うん」
その言葉にカレンの表情はさらに暗くなる。
自分の不安が真実だとわかってしまった。
(やっぱり…………もう一体の白兜のパイロットって…………)
その表情に隠された真意を知らないライは、カレンは自分に危ない目にあってほしくはないのだと解釈した。
「でも大丈夫だよ、カレン。僕が騎乗しているのは、スザクが乗ってるランスロットと同じで第七世代のナイトメアだ。
黒の騎士団や他のテロリストのナイトメアとは機体性能が格段に違う。それに、スザクと一緒に戦っているから危ない目には…………」
「そういうことじゃないの!!」
「……カレン?どうしたの急に?」
自分の感じている不安とは全く違う、しかしそれでも自分の心配をしてくれているライの心からの言葉。
彼の気持ちはうれしい。だが、この場合は逆にそれが辛かった。
「私が言いたいのは…………そういうことじゃないの…………」
「じゃあ、いったい何が?」
「ごめんなさい…………言えないの…………」
(こんな言葉言いたくなかった。きっとライは今ので私との間に距離を感じてる。私たちの関係は…………もう…………)
「…………わかったよ。カレンが言いたくなったら言ってくれればいい。それまで僕は待ってるから」
言えるわけがなかった。自分が黒の騎士団のエースで、ブリタニアと戦う張本人だということを。
その事実が、余計にカレンを苦しめていた。
その日の夕方。
カレンは黒の騎士団のアジトで紅蓮を前に一人でぽつんと座り込んでいた。
先程の模擬戦で目もあてられないほどの失態をし、なんともない段差で躓き、扉を開けることなく衝突するといったことまでやってのけた。
「…………はぁ」
そして今日10回目のため息。
「私…………どうすればいいんだろう…………」
今まで、日本解放のために戦ってきた。そのためにブリタニアの兵士を何人も殺してきた。
そのことには微塵も迷いはなかった。
「私、ライのことを殺そうとしたこともあったのよね……」
思い出すのはナリタでの戦闘。
コーネリアのグロースターを追い詰めたときに現れた、白兜とサザーランド。
あの時は白兜のパイロットがスザクとは知らなかったから、あのチグハグなツーマンセルをあまり疑問には思わなかった。
しかし、名誉ブリタニア人であるスザクとツーマンセルで行動するブリタニア軍人がいるとは考えにくい。
つまり自然と、そのサザーランドにはライが乗っていたのではないかと予想ができるのだ。
あの時、自分は何をしたのか。邪魔をされたことに腹がたち、輻射波動で殺そうとしたのではなかったのか。
フトウでの強襲。
はじめてのもう一体の白兜との出会い。あの時も彼を殺そうとしていた。
愛する人と戦い、殺しあわねばならない。
カレンに日本解放という夢を越える存在ができてしまった以上、戦わなければならない理由が見いだせなかった。
「どうすればスザクを仲間に引き入れられるだろうか。ギアス……いや、それはダメだ。
それにもう一体の白兜。こいつをどうするか…………」
ゼロは自分の部屋で今後の作戦を考えていた。今の1番の課題は、2体の白兜の対処法。
それがゼロの計画にたいする最大の障害だった。
「ゼロ。少し…………お時間いいですか?」
「あぁ。入れ」
(カレンか。ちょうどいい。パイロットが同じ生徒会のスザクとはいえ、対処するには彼女の技量が必要だ。意見を聞いてみるか…)
そう思いながら、顔を向けたゼロは驚いた。
いつものゼロへの尊敬の眼差しはなく、男勝りな様子もなく、はっきり言って普通の女子学生のようだった。
「どうした?カレン。何か問題でも?」
カレンはゼロの問いに答えず、代わりに紅蓮の起動キーを机の上に置いた。
「これは…………どういう意味だ?」
しばらくの沈黙のあとの2回目のゼロの問いに、カレンは彼女らしからぬ、やっと搾り出したかのようなか弱い声で呟いた。
「私…………もう紅蓮には乗れません」