どうぞ
その黄金の王は、ライダーが吠えたてた直後に現れた。
まさかライダーの招集に反応する奴がいるとは、という思いと同時にウェイバーはその男の眩い光に息を呑んだ。
「あ、あいつは…!」
そう、この男は遠坂邸にてアサシンを圧倒的な火力で蹂躙したあの黄金のサーヴァント。
戦力で言えば確かにアサシンは最弱であるが、それでも英霊を圧倒したあのサーヴァントは並のサーヴァントではない。何より、その纏っているオーラが自ずと男の力を示している。
「よもや我を差し置いて王を称するような雑種がいようとはな」
「難癖つけられてもなぁ、余は世界に名高い征服王イスカンダルに他ならぬのだが…」
黄金の男はライダーを真紅の双眸で睨み付ける。
「たわけが。王を称するのはこの世界において唯我一人。他のそこらの雑種などと一緒くたにするな、雑種。」
「ふん、見たところキャスターでもバーサーカーでもなさそうだが、貴様はアーチャーか?」
するとランサーが素早く反応した。
「なに、お前がアーチャーか!?ならば我らの決闘を邪魔したのは貴様か!」
「黙れ槍兵。確かに我をクラスに当てはめるとするならばアーチャー以外なかろう。だが、貴様らのような雑種ごときにこの我が手を下すわけなかろうが」
「ならばアーチャーよ、王を称するならば貴様も名乗りを上げてはどうだ?」
アーチャーはその言葉に殺意を覚えた。
「__王たる我に向け、雑種風情が問いをかけるか?」
アーチャーの左右の空間にまるで水面かのような歪みが生じる。そしてその次の瞬間には、数多の刃の煌めきが出現していた。
「そのような不届き者、生かしておく道理などない」
その姿に、圧倒されない者がいただろうか。出現している武器全てには、紛れもなく神秘が宿っている。
この時セイバーは、マスターにアーチャーを攻撃しろと命じられていた。だがセイバーは既に先の戦いでかなりの魔力を消耗していた。今は万が一に備え魔力を温存しておく為にも戦いは避けていた。
「王に対してのその無礼、死をもって償うがいい。」
黄金の王は、今にもその力を放とうとしていた。
__刹那、それは現れる。
「目障りな光だ…趣味が悪い。」
それはコンテナの上から突然と聞こえてきた。
アーチャーはその方向へと目をやる。
「貴様、今なんと言った?」
それは屋上から飛び下り着地した。影で隠れていたその姿が、月と黄金の光によって照らされる。
セイバーはその姿を見るや、衝撃が走った。
「なぜだ…なぜ、あなたがそのような…」
__それは、どこまでも邪悪に染まった黒い鎧を纏った騎士であった。顔はヘルムによって確認できないが、手にした持ち主の心を写し出すかの如く、剣は禍々しく黒い光を帯びている。
「聞こえなかったか黄金。貴様のその装飾が悪趣味だと言ったのだ。」
「なん…だと…」
突如現れたその黒き騎士に驚愕したのは、セイバーだけではない。
「なぜ君がここに…いや、なぜ君はそんな姿に…!?」
「その発言、我が誰かを知っていてのものだろうな…ならば生かしておけん、失せるがいい
!!」
アーチャーの号令と共に、数多の武器が黒き騎士王へと降り注ぐ。
「ふん…出直せ!」
それに対して騎士王は剣を振るった。__瞬間、振るったその剣は膨大な魔力を帯び巨大化した。放たれたおよそ16の武器は全てその魔力の渦に飲まれ弾き飛ばされていった。
「な…」
驚愕のあまり、ウェイバーは声を漏らした。
「なんなんだよあのサーヴァント…出鱈目だ…!! 」
「ふむ…おい坊主、あやつはサーヴァントとしてはどのくらいのモンなのだ?」
ウェイバーはその黒き騎士のステータスを確認する。
「確認できないセイバーを除いてだけど…この場にいるどのサーヴァントよりもステータスじゃ上回っている…」
「今度はこちらからいくぞ、黄金の王」
その言葉とともに騎士王が手にするその剣に、先程とは比べ物にならないほどの魔力がこもる。
「まずい坊主、一旦離れるぞ!」
ライダーの声が響き渡り、その場にいた者たちはアーチャーと騎士王を残し距離をとる。
一方のアーチャーは更なる武器を放とうとしていた。__その数およそ32
「あまり調子にのるなよ…雑種!!」
「__"約束された"」
アーチャーはその財を一斉に放った。
「__"勝利の剣"!!」
瞬間、禍々しい暴力がアーチャーへと解き放たれる。暗黒の光は32の武器を全て飲み込み、アーチャーへと襲いかかった。
「__ほう、ただの装飾華美の鎧かと思っていたが、性能の方は一流であったか」
先に口を開いたのは騎士王のほうであった。その先には所々破壊された黄金の鎧を纏ったアーチャーが片膝を付きながらも生きていた。
「己…王の鎧に…許さん、許さんぞ…雑種!!」
放った武器が全てあの黒い光の暴力に飲み込まれる前に、アーチャーは己の財宝の中から幾つかの盾を展開していた。それでもあの黒い光は勢いを失わず、盾を破壊しついにはアーチャーをも飲み込んだのである。
「貴様…生きては返さんぞ!!」
「なんなのだ、あのサーヴァントはッ!!」
時臣は混乱していた。黒い騎士が突然現れたと思えば、ギルガメッシュといきなり戦闘を始めた。そこまではまだいい。__だが
「なんなのだあの力は!」
その戦闘も、終始あの黒い騎士が圧倒していた。
『師よ、先程の宝具ですが。確かにあの黒い騎士は『エクスカリバー』と言っていました。ということは、あのサーヴァントの真名は彼の"騎士王"かと』
「ブリテンの騎士王…アーサー王」
『はい、察するにあのサーヴァントが今回現界したイレギュラークラスと思われます。それより師よ、ギルガメッシュは本気です。さらに"王の財宝"を放とうとしています。』
宝石通信機から聞こえる綺礼の実況の声に、時臣はさらに頭を抱えた。
ギルガメッシュの全力はこんなところで動員すべきものではない。宝具の連続使用も、敵陣営への能力の露呈となってしまう。それもあんな未知数のサーヴァント相手となっては…。
ギルガメッシュを律するには令呪を頼る他ない。ただ三回の__実質的には二回限りの強制命令権を、こんな序盤で使用するわけには__
『導師よ、ご決断を』
通信機の向こう側から、綺礼が催促する。
時臣は己の右手の甲を、歯噛みしながら見つめた。
憎悪に満ちていたアーチャーの顔が、ふと何もない空間へと向けられた。
「時臣め__大きく出たな」
アーチャーは新たに展開していた64の財宝を消した。
「命拾いしたな騎士王…」
先程まであれほど殺意に満ちていた真紅の双眸にも、すでにその気は失せていた。
「雑種ども、次会うときまでにはその有象無象を間引いておけ。我と見えるの真の英雄のみでいい」
そう言い放つとアーチャーは実体化を解き、黄金の粒子と共に姿を消した。
「ふん、逃げたか…まぁいい」
騎士王は剣をアスファルトに突き立てた。
「どうやらアーチャーのマスターは、アーチャー自身ほど剛毅ではなかったようだな」
だがそんなことを言っている場合ではない。まだそこに脅威は残っている。
「おいそこの、先の戦いでその剣を"エクスカリバー"と呼んでいたが…お前が彼の名高い騎士王か?」
ライダーは先程とはうって変わって真面目な声色で話しかけた。
「ふん、だとしたらなんだというのだ。想像と違うことに失望でもしたか、征服王?」
「…いや、なんと呼べばいいのか迷っただけだ。では騎士王よ、此度は如何なクラスをもって現界した?」
それを聞くと騎士王はようやくこちらへと目を向けた。
「__私にはクラスなどない。ただそこに聖杯があるからこの地に喚ばれただけだ。サーヴァントにそれ以上の理由などいらないだろう。」
「クラスが…ないだって?」
ウェイバーはまたしても驚愕した。このサーヴァントは何を言っている?全部無茶苦茶だ…!
すると、先程まで黙っていたセイバーが震えるような声で騎士王に話しかけた。
「王よ…なぜです…なぜあなたがそのような姿に…」
「ほう、その声はランスロット卿ではないか。此度の聖杯戦争では狂気に呑まれることはなかったか。」
それを聞いたライダーとランサーは驚いた。円卓の騎士の2トップが揃って同じ聖杯戦争に参加していたからだ。
「あれほど尊き理想を抱いていたあなたがなぜ…」
「それは違うぞランスロット卿、理想を抱き、それに殉じたからこそ真の絶望を知ることができるのだ。それに私は気付いただけだ。」
「そんな…」
「もうじき夜明けだ。今日のところはここで終わりにしよう。だが次会う時はそれが貴様らの最期だ。」
それだけ告げると、騎士王はどこかへと消えていった。
「…では坊主、我らも帰るとするか」
「あ、あぁ」
『ランサー、今宵はここまでだ。』
「御意」
そうしてライダーは戦車にのり去っていき、ランサーも霊体化して消えていった。
__残されたのは湖の騎士ただ一人
「王よ…あなたの理想は正しかったはずだ。それが、絶望に繋がるだなんてあるはずがない。円卓の誰もが貴方の理想に憧れていた。教えてください…貴方は、その目で何を見てきたというのですか…?」
__こうして、聖杯戦争最初の夜が幕を閉じた。
今回の話も前回同様長めです
ようやく黒セイバー登場ですね
代わりにランサーとエミヤの影が薄くて…
次回の更新は諸事情により遅くなると思います
申し訳ありませんが、次回までしばらくお待ちください
では