書きたいこともたくさんあるんです。
まとまらないんです。
(やはりここは……いや、今というべきか)
夜の冬木を、黒い影が駆け抜ける。昨日、柳洞寺で気がつき、そして今夜状況把握を兼ねてこの町を騎士王は見て回っていた。
(第4次聖杯戦争…つまりは第5次から10年前の冬木市だ)
__たどり着いたそこは、冬木市民会館。そう、そこは第4次聖杯戦争にてセイバーが聖杯を破壊し、 聖杯から溢れた泥によって辺りの住宅を焼き尽くし た場所だ。だがそこには、当たり前のように市民会館があり、辺りの住宅街もいつも通りの夜を過ごし ていた。
「__間違いない。私は今、10年前の冬木にいるのだ。まだ聖杯戦争は始まってこそいないがそれも時間の問題だろう。それにしても」
__なぜ私はここにいるのだ。まさか__
「まだ、私は聖杯を欲しているとでもいうのか…?」
__そうか、つまり私はまだ自らの心の中の甘えを捨て きれていなかったというわけか。
「ならば私は、聖杯を手に入れ"この世全ての悪"を 呼び起こし、再び絶望に身を委ねるまでだ。」
黒き騎士王は、そうして再び夜の闇へと消えていった。
切嗣の考えもあって、アイリスフィールとは別々で冬木の地に来ていた。
キャスターは冬木に着くなり、
「戦場となるこの地を下見しておきたい。」
とか言い残しどこかへ行ってしまった。魔術師のサーヴァントのくせに、単独行動のスキルを所持していたことには驚いたが。そんなわけで切嗣は本当の意味で一人、町を歩いていた。
(3年前にも1度此処には来ていたが、大分変わっているな。)
やがて冬木の新都にあるビジネスホテルにたどり着いた。衛宮切嗣はこのホテルで部下と合流することになっていた。
「昨夜、遠坂邸で動きがありました。」
久宇舞弥は切嗣達より先に冬木に入り、他のマスターに動きがないか偵察していた。
映像には、遠坂のサーヴァントと思わしき者が、 白い仮面の…おそらくアサシンであろ う、アサシンを圧倒的火力で蹂躙していた。
「できすぎているな。舞弥、このサーヴァントのマスターに動きは?」
「アサシンのマスターは、昨晩のうちに協会が保護しました。名前は言峰綺礼と。」
言峰綺礼、切嗣が以前からマークしていた人物で あった。
「言峰綺麗…。舞弥、協会にも使い魔を放っておいてくれ。それから、僕が預けておいた物は…」
ランサーは誉れ高き騎士の英雄だ。彼が此度の聖杯戦争に望むのは、ただただ主への忠誠のみ。その主であるケイネスが聖杯を欲するというならば、彼は聖杯を主にもたらすべく全力を尽くすのみだ。
だからこそ彼は、いち早く主へと己の実力を示したかった。
夜になり辺りの人通りも絶え、戦う場所には打ってつけであろうこの倉庫街でさながら挑戦者を待つかの如く、ランサーは挑発的に殺気を放っていた。ランサーにとっては初戦となるのだ。願わくば、己の実力を主に見せつけるに相応しい猛者が、この誘いに乗って欲しいものだが__。
ふと、ランサーの前方に一つの黒い影が現れる。
(__サーヴァントか……!)
その風貌が、なによりその身から放たれる膨大な魔力が、人を超越した存在であることを証明している。
「よくぞ来た。今日一日においてこの俺の誘いに乗った猛者はお前ただ一人。どいつもこいつも今日は下手に出るばかりだ。」
一方黒いサーヴァントは、何も言わずただランサーを睨み付けるかのように立つのみ。
「その研ぎ澄まされたかのような闘気……セイバーとお見受けするが、如何に?」
するとそのサーヴァントは、かかってこい、とでも言わんばかりに剣を手に取り、ランサーの方へと構えた。
「ふん、何も言わぬとなるとあまり感心しないがな。なるほど、我らがサーヴァントが交えるは言葉などてはない、己の腕で十分であったか…!!」
__こうして、第4次聖杯戦争最初の戦いの火蓋が切って落とされた。
「ラ、ラ、ライダぁ~!な、なんだってこんなとこに来なくちゃ行けないんだよぅ!」
ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットは今、高さ50メートルを誇る冬木大橋のアーチの頂きにいた。
「まぁ落ち着け坊主、貴様は余のマスターであろう。もちっとシャキッとせんか。」
__その横に座すは朱色のマントを風に靡かせる大男。彼こそが此度の聖杯戦争においてライダーのクラスで現界したサーヴァントである。
「先から気配を振り撒いておる奴がおるが…あれは明らかに誘っておる。そのうち痺れを切らしたマスターが奴に仕掛けるやもしれん。余はそれを期待しておるのだ。」
「じゃあなんだよお前、今日は相手の情報を探るのが目的ってことか。」
なるほど、てっきりこのサーヴァントのことだ、真っ先に敵の挑発に乗るばかりかと思っていたがどうやらそうではないらしい。こいつもこいつなりに策を考えているのか。
「馬鹿者め、他のやつらが集まってきたところをまとめて相手をした方が手っ取り早いではないか。」
「なっ……」
豪放に笑うライダーを前にしてウェイバーは先程の自分の考えを撤回する。
「あぁ、もう帰りたい…ここから降りたい…」
「まぁそう言うな。それに、どうやらようやく状況も動き出したようだぞ?」
「__!!」
『マスター、状況が動き出したぞ。』
キャスターが切嗣へと念話を送る。
「場所は?」
『新都の港近くの創庫街だ。2体サーヴァントがいるが、仕掛けてきたのランサーのようだ。』
「わかった。こちらからは取り敢えず使い魔を飛ばしておく。キャスター、お前は無理をしないように。初戦から目立った行動をする必要はないからな。」
『あぁ、それは別に構わないがね。それでは、無理はしない程度に行動させてもらおうか。』
フン、とあの男は皮肉気な笑みを浮かべているのだろう、と思いつつキャスターとの念話を切嗣は終了した。
(思ったよりも早く状況が動き出したか…。)
__ともあれ、一度ぐらいは自分の手駒の力量を見極めておくのもいいだろう。
(__では、お手並み拝見といこうか。紅い魔術師さん__)
どうも、SHIKIGamiです。
このペースで書いてたら大変なことになります。
次回から戦闘シーンが始まると思うと冷や汗が止まりませんね。本来の予定ではもう第三話で戦闘に入ってるはずなんですが逃げちゃいました。
少しずつですが読んでくださる方が増えています。感謝感激。
相も変わらず駄文ですが、これからもお楽しみください。