Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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第二十四話 再開

(…)

 

英雄王が放った必殺の一撃。あれはまさしく、その名に違わぬ世界を切り裂くほどの威力であった。騎士王が放った聖剣の輝きでさえ、その一撃に飲み込まれてしまったほどだ。

 

確かに、あの時の自分は消耗していた、と騎士王は思う。征服王との一戦で、騎士王は連続して三回も宝具を使用した。いくら底無しの魔力を持っていたとしても、騎士王にかかる負担は大きい。だからこそ、万全ではない常態でのあの英雄王との一戦は敗北しても仕方ないかもしれない。

 

(…だからこそ、おかしい)

 

そう、だからこそおかしいのだ。"英雄王のあの一撃を身に受けたはず自分が、今こうしてほぼ無傷の常態でいる"ことが。いくら騎士王が再生能力に優れていようが、英雄の切り札と呼べる必殺の一撃を受けては、少なくとも一日は回復に徹していなくてはその身を滅ぼすことになる。ましてや彼の英雄王の宝具となったら、間違いなく致命傷になるはずだ。だが騎士王は、今こうして立ち上がり、その気になればこの町を破壊し尽くすことすら容易なほどにまで回復している。

 

(…)

 

騎士王は知っている。致命傷を瞬時に治す力を。ましてやそれはかつて騎士王自身が身に付けていた能力。だがそれは、今の騎士王には失われた神秘。

 

(だがこれは…)

 

その時、騎士王は感じ取った。大きな魔力の反応を。

 

「ありえないことだが…」

 

騎士王に一つの可能性が浮かび上がったが、直ぐ様その可能性を否定する。

そして騎士王は再び戦地へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ろ贋作者…これが聖杯だ」

 

ギルガメッシュは愉快そうに笑う。

 

「こんな醜悪なモノを求めあい、殺しあっていたとはな。いや、魔術師という連中は道化の集まりであったわけよ。…愉快だと思わんか?」

 

「…っ!遅かったか!」

 

予期していたことではあった。英霊の魂を4つも回収すれば、アイリスフィールの担った器は聖杯としての機能を開始してもおかしくはない。そこにはアイリスフィールの姿はなく、禍々しくも美しい黄金の聖杯があった。

 

聖杯からは黒い泥が溢れだし、キャスターとギルガメッシュの立つ場所を囲むようにして流れる。

 

キャスターは、あの泥に触れてはいけないということを理解する。あれは英霊の天敵だ。触れたら最後、おそらく英霊であるこの身は泥に呑まれ、聖杯に取り込まれてしまうだろう。

 

キャスターの頬に汗が伝う。対するギルガメッシュは、まるで新たな玩具を見つけたかのように嬉々と笑う。

 

「…っ!」

 

キャスターはギルガメッシュへと駆け出し、干将と莫耶を投影しそのまま斬りかかる。ギルガメッシュはそれを避けつつ、己の宝物庫から鎌のような刀剣を取り出した。

 

「刈り取れ…!」

 

そのまま鎌はキャスターの足元へと一閃したが、キャスターはそれを双剣で受け流す。キャスターは再び剣を構え、ギルガメッシュへと接近する。

 

「小癪な…」

 

ギルガメッシュの取り出した柄の長い鎌は、肉薄するような接近戦には不利である。対するキャスターの双剣は、刀身の短い分相手との距離が狭ければ狭いほど小回りが効いて有利に立ち回ることができる。

 

ギルガメッシュは宝物庫から二、三程の宝具を出現させ、それを上空からキャスターへと放つ。

 

「…!!」

 

キャスターは後退し、そして双剣をギルガメッシュへと放った。しかしそれらはギルガメッシュに当たることなく、弧を描きながらギルガメッシュの横を通りすぎた。

 

「どこを見ている…?」

 

距離を放したギルガメッシュは、追い討ちをかけるべく再び宝具を放った。キャスターはそれらと同じ宝具を投影して放ち迎撃する。

 

天の鎖(エルキ・ドゥ)よ…!」

 

ギルガメッシュがそう唱えると、歪んだ空間から出現した鎖がキャスターの右腕を捕らえた。

 

「…!!」

 

天の鎖は、神性を持つものに対して絶対的な拘束力を持つが、神性を持たないキャスターにとっては単なる鎖であり、一瞬身動きがとれなくなる程度のものである。しかしその一瞬が、英霊同士の戦いでは決定的な隙となってしまう。

 

「散るがいい」

 

ギルガメッシュが手を構えると、背後に幾多の宝具が顔を覗かせ、ギルガメッシュの指示を今か今かと待っている。

 

ギルガメッシュが手を振りかざそうとしたその時だった。

 

「ふん…詰めが甘いぞ、英雄王…!!」

 

「…!!」

 

キャスターがそう言った瞬間、ギルガメッシュは背後を振り返った。見れば、先程キャスターが放った双剣が、ギルガメッシュの目前へと迫っていた。

 

「ッ!」

 

片方はギルガメッシュが手に持っていた鎌で叩き落としたが、もう片方の干将はギルガメッシュの黄金の鎧へと噛みついた。しかしそれでも大した傷にはならず、ギルガメッシュはキャスターへと振り返った。

 

「ふっ…!!」

 

見ると、先程まで宙を舞っていたはずの双剣と同じものをその手にとり鎖を叩き斬った。そして英雄王の射程範囲から逃れようと駆け出した。

 

「戯けが…!!」

 

逃げるキャスターの後を追うように、ギルガメッシュの宝具の原典らは放たれる。

 

「チィッ… !」

 

キャスターは必死で逃げるが、それでも避けきれない分は手に握った双剣で走りながら迎撃する。

 

「クッ…」

 

キャスターの脇腹を、ギルガメッシュの放った長剣が切り裂いた。キャスターの足が止まり、その隙を宝具の原典たちがキャスターへと襲いかかる。

 

投影(トレース)開始(オン)…!」

 

キャスターの詠唱と共に、その手に鎖の付いた奇怪な短剣が現れる。

キャスターは短剣を放つと飛来する剣群へ鎖を絡ませ、それぞれの軌道を僅かにずらした。

剣群はキャスターに当たることなく地面に突き刺さり、キャスターの持つ短剣もボロボロになり消滅した。

 

「…芸達者なやつよな。流石は道化といったところか」

 

クツクツと不敵な笑みを浮かべるギルガメッシュに対し、キャスターは肩で息をする。負傷した腕は戦闘に支障は無いものの、それでもキャスターは未だにギルガメッシュに対して決定打を与えられずにいた。

 

「…!!」

 

ふと、ギルガメッシュと己以外の気配をキャスターは感じ取った。

振り返ると、そこには一人の男が佇んでいた。

 

「言峰…綺礼…」

 

「やはり来たか…」

 

ギルガメッシュは待ちわびたと言わんばかりに呟いた。

 

「ギルガメッシュ…これは、なんだ?」

 

綺礼は、引き絞るような声を漏らした。

 

「なんだとは…わからぬか?」

 

クツクツとギルガメッシュは笑みを浮かべる。

 

「これが、貴様の求める答えだ」

 

「何…だと…?」

 

綺礼は呟いた。

 

「こんな醜悪なモノが、私の求めていた答えだと、お前は言うのか…?」

 

綺礼は自分等の周囲に広がる泥を見渡した。

 

「然り。その醜悪こそが、お前の…いや、お前自身とでも言うべきか」

 

「馬鹿な…」

 

「ならば綺礼よ。貴様は何故笑っている?」

 

「なに…?」

 

ギルガメッシュの放った言葉に、綺礼は自分の顔に手を当て表情を確かめる。

 

(歪んでいる…?)

 

言峰綺礼は滅多に笑わない。だが確かに、今の自分の頬には皺があり、口は弧を描くように曲がっている。

 

「ふふ、ふははははははは!」

 

突然、言峰綺礼は大声で笑った。

 

キャスターはギルガメッシュを睨みつけた。

 

「英雄王、貴様…!!」

 

「おいおい、我は良心でやったことだ。神父自身が迷っていては、人を導くこともできまい?」

 

「…」

 

言峰綺礼は、泥の泉へと歩き出した。

 

「…!!馬鹿なことはよせ!」

 

キャスターの制止の声も、今の綺礼には届かない。彼は既に答えを得ている。今のかれにとってキャスターには関心などない。

 

「良いぞ綺礼…さぁ、手を伸ばせ…」

 

言峰綺礼は声高らかに笑いながら、泥の中へと潜っていった。

 

「…呑まれたか。いや、宴にはもってこいの見世物であったな」

 

ギルガメッシュは笑った。

 

「…」

 

キャスターは綺礼の沈んでいった跡を見つめる。人の身であの泥に触れたらどうなるかなど、言うまでもない。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

キャスターは弓と、そして一つの剣を投影した。

 

「戯け、何度も同じことを…」

 

ギルガメッシュが手を掲げると背後の空間が歪み、幾多の刀剣の煌めきが顔を出す。

 

「赤原を往け…緋の猟犬」

 

キャスターは弓を構え、ギルガメッシュへと狙いを定める。

そして真名を開放し、矢を放った。

 

赤原猟犬(フルンディング)…!」

 

同時にギルガメッシュも手を振り下ろし、剣群がキャスターへと放たれた。

 

キャスターの放った矢は、剣群に呑まれ軌道がずれる。僅かに残った剣群は、キャスターへと突き刺さった。

 

「ック…!」

 

二つの剣が左腕と脇腹に食らい付く。

 

「避けることを知らぬのか貴様は…!」

 

ギルガメッシュが声をあげる。だが瞬間、ギルガメッシュは驚くべきものを目にする。

 

「なに…?」

 

先程軌道のずれたキャスターの矢が、有り得ない軌道を描きながら再びギルガメッシュへと迫っていた。

 

闘王ベーオウルフの剣・赤原猟犬(フルンディング)

キャスターが狙いを定め続ける限り、何度でも獲物に襲いかかる魔剣。

 

「小癪な…」

 

ギルガメッシュは剣群を放ち、再び猟犬を打ち落とす。そして二、三の刀剣をキャスターへと放った。

 

「…っ!!」

 

二つは体を掠め、一つは右脚を貫いた。

 

「終わりだ…!!」

 

ギルガメッシュがキャスターに止めを刺そうと、宝物庫へと手を伸ばそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

__私は、敗れたのだ。

 

__かつてのマスターと、現在のマスターのサーヴァントに。

 

__消えていく意識。朦朧とする感覚。

 

__そんな中、私を生かそうとしているのか、聖杯からマスターを通して魔力が流れてくる。

 

__無駄なことだ。あの一撃は、かつてのマスターの覚悟そのもの。

 

__いかに聖杯といえども、私を再び立ち上がらせることはできない。

 

__赤毛の少年の姿が、脳裏に浮かぶ。

 

__剣となり、守ろうと誓った少年。

 

__あぁ、私は果たして何のために…

 

__元はと言えば、全ては己の油断が招いた結果。

 

__だからこそ、心を失ったはずの己に未練が残るのだ。

 

__万が一に、聖杯が、我が願いを聞き届けるというのなら…

 

__再び、この身が剣を取れるというのならば…

 

 

 

『どんな形でもいい。再び私を、聖杯戦争に…!!』

 

 

 

そんなことを、騎士王は無意識に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

「…馬鹿な、この気配は…!!」

 

「…!!」

 

ギルガメッシュとキャスターは同時にその気配を感じ取った。

 

ズシリ、と空間が重くなる。殺気というものは、これほどにまで肉体に負担をかけられるというのか。

 

「…おぉぉぉぉ!!」

 

瞬間、黒い弾丸が空洞へ通じる洞窟から飛び出し、黄金のサーヴァントへと斬りかかった。

 

「己ッ…!!」

 

ギルガメッシュはキャスターに放とうとしていた長剣を盾にした。しかしそれでも、騎士王の渾身の一撃を受けきることはできず、ギルガメッシュは宙を舞った。

 

「図に乗るなよ…!」

 

ギルガメッシュは宙を舞ったまま、宝物庫から自身の"最強"の剣を取り出そうとした。

 

__しかし

 

 

「だから、詰めが甘いと言ったのだ…!」

 

 

「!!」

 

気付いた時には既に遅く、赤原猟犬は宙で自由の効かないギルガメッシュの体を貫いた。

 

「おのれ、キャスタァァァァッ!!」

 

そのままギルガメッシュは黒い泥へと落下する。泥は餌を待ちわびたかの如く、手を広げ掴み取るかのようにギルガメッシュの体を包み込み、泥の泉へと引き込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ようやくお出ましか…」

 

キャスターは傷口を押さえながら立ち上がる。

 

黒き騎士王はゆらりとその双眸をキャスターへ向け、振り下ろしたままの聖剣を持ち上げ地面に突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも。枝豆です。

日曜までに更新したかったのですが、そこはあしからず。

キャスターたちが戦っているところは、アンコの地下空洞をイメージしていただければと思います。

気が付けば初投稿から一年が過ぎていたのですね。良くも悪くも。

話は変わりますが、strange fake(漫)読みました。

めっちゃ面白いですね。早くも引き込まれますた。

小説版も買ったのですが中々読むタイミングがなく。

次巻が待ち遠しいものです。つか次巻冬って…


アポクリファも終わってしまいましたね。まさかの登場キャラとかに最終巻は驚かされました。
一つの楽しみが無くなってしまい残念です。麗しのジャンヌー


二月末は再び忙しくなるので、それまでにもう一回更新できたらいいのですが(遠い目)

というかもう大分クライマックスですが。



それでは

PS
皆様のご感想に対する返信にて今回の言い訳をしております。

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