どぞ
「やれやれ…私に黙ってこんなところまで来て、挙げ句の果て万事休すといったところか」
キャスターはそう言うと切嗣を見た。
「まったく、世話の焼けるマスターだよ」
「キャスター…僕は…」
切嗣は何か言おうと口を開いた。しかし、それをキャスターは制止する。
「積もる話はあるのだろうがね。そんな話をする時間も我々には残されていないようだ」
キャスターはそう言うと、抱えていたアイリスフィールを切嗣に託し、ギルガメッシュの方へ向かった。
「アイリ…!!」
「切嗣…あれが、聖杯なのね…?」
「…!!」
「私の中の何かが…聖杯に惹き付けられる…」
「駄目だアイリ、あれは僕たちが求めていた聖杯なんかじゃない…!」
切嗣の悲痛な叫びに対して、アイリは力無き笑みを浮かべる。
「大丈夫よ切嗣…分かってる。貴方の妻ですもの…」
「アイリ…」
アイリを支える切嗣の震える手に、アイリは優しく手を重ねる。
「僕は…聖杯を破壊する…」
「…」
「すまないアイリ…僕は…」
「あの娘を」
切嗣の言葉を、アイリの一言が遮る。
「あの娘を、お願いね」
「…あぁ、勿論だ。イリヤは、僕が必ず…」
「雑種…この我の邪魔をするとは…死ぬ覚悟はできていような?」
ギルガメッシュはその怒りに満ちた双眸でキャスターを睨み付けた。
「邪魔とは心外だな。君の手を汚さないように、私なりに君のマスターを消す手助けをしたつもりだったんだが…英雄王?」
「…ほう」
ギルガメッシュは今度は愉快そうに笑った。
「…一目見ただけでこの我の真名を見破ったか。雑種にしてはなかなか骨のあるやつよ」
「なに、君ほど出鱈目な存在は過去にも未来にも二人といないというだけさ」
そういうと、ギルガメッシュはほう、と呟いた。
「サーヴァントが未来を語るか…」
「…」
「雑種にしてはなかなか興味深い奴よ…決めたぞ、貴様に免じて皆殺しは止めだ」
「!!」
「そこの
「なっ…!」
ギルガメッシュの言葉に、切嗣が声をあげた。
「ふざけるな!」
その瞬間、切嗣とアイリのすぐ近くに刀剣が突き刺さる。時臣と綺礼にも同様に。
「誰が発言を許した、雑種」
ギルガメッシュの紅い瞳が、切嗣を捉える。
「勘違いするなよ雑種、我が貴様らを殺すのが如何に容易いか。時臣から令呪を奪ったからといって、我が貴様らを殺さない道理はない」
「…っ!!」
するとアイリが、切嗣の頬へ手を伸ばす。
「行って、切嗣」
「駄目だ、アイリ!!僕は聖杯を破壊する!!君を置いて逃げるなんて…!!」
「違うわ切嗣…切嗣は逃げるわけじゃない…」
アイリは切嗣の目から流れる涙を拭った。
「切嗣の命は…もう、切嗣だけのものじゃないの…」
「…!!」
「私はもう助からないから…あの娘を…イリヤを迎えには行けないから…切嗣まで何かあったら、イリヤはどうなるの?」
「…それは、駄目だ。それだけは…」
アイリはそれを聞くと微笑んだ。
「だからお願い、切嗣。私と、貴方のサーヴァントを信じて…?」
「その通りだ」
「…!!」
気がつくと、すぐ側にキャスターが姿を現した。
「君の代わりに私が残る。なに、心配はいらないさ。これでも、君よりは上手くやれる自信はある」
「キャスター、僕は…!!」
「
「…!!」
そう言ったキャスターの姿は、切嗣がかつて夢で見た、あの少年の姿と重なった。
「そうか…」
だから、切嗣は迷いを捨てた。
「なら、安心した…」
「…ふん」
「切嗣…」
アイリが切嗣を名を呼ぶ。
「私、切嗣に会えて幸せだったよ」
切嗣はそれを聞くとアイリに口付けをし、そして強く抱き締めた。
「アイリ…!!」
「アイリを…聖杯を頼む」
「…あぁ」
そういうと、切嗣は令呪を掲げた。
「令呪をもって命ずる。キャスターに、最大限の魔力を」
令呪の一画が消えると同時に、キャスターの体に魔力が迸る。
「重ねて命ずる。キャスター、僕の願いを叶えろ」
切嗣がそう言うと、最後の令呪の一画は輝きを失った。
「あまり、具体的ではない望みは意味を成さないんだがね」
キャスターはそう言うとニヤリと笑った。
「行け、切嗣 」
キャスターがそういうと、切嗣は望みを全て己のサーヴァントに託し、その場を去る。
「すまない、衛宮切嗣」
大空洞を後にし、時臣が体を綺礼に支えられながら頭を下げた。
「僕は、僕の望みを叶える」
「…」
そう言うと、時臣は綺礼に大丈夫だと告げ、肩を借りずに立ち上がった。
「君のサーヴァントは、何者だ?」
時臣はそう訪ねた。
「…僕にも、わからない」
切嗣はそう言うと、歩き出した。
「ここから離れた方がいい。危険だ」
「…?」
「どうした」
切嗣は振り返り訪ねた。
「綺礼が…いない…」
「…!!」
「貴様、どういう了見だ?よもやこの我に勝とうなどと思ってはいるまいな?」
この場に残ったキャスターに対し、ギルガメッシュはそう言った。
「なに、マスターの命令とあっては仕方ない。令呪まで使われては負けるわけにはいかないのでね」
「戯けが… !」
ギルガメッシュの背後に、数多の宝具の原典が出現する。
「…
キャスターが詠唱をすると、一つの弓と奇怪に捻れた剣が手元に現れた。
「せいぜい足掻けよ…!」
ギルガメッシュが手を掲げ、降り下ろすと原典らは一斉にキャスターへと襲い掛かった。
キャスターはそれを右へ左へと避け、そして上空高く跳び上がった。
「
捻れた剣が矢へと姿を変え、ギルガメッシュへと狙いを定める。
「偽・螺旋剣!!」
放たれた矢は、稲妻の如くギルガメッシュへと襲い掛かる。
「図に乗るなよ…」
ギルガメッシュは再び刀剣を放つ。キャスターの放った矢はそれらに呑まれ威力を失ってしまった。
しかし__
「
「なっ…!!」
キャスターがそう呟くと、勢いを失い落下していた矢が爆発した。
爆風はギルガメッシュを飲み込み、キャスターは着地した。
「やはり、この程度では…」
キャスターは舌打ちした。
「なるほどな…贋作に含まれた魔力を放ったというわけか…」
爆風の中からギルガメッシュの声が響く。
「だが贋作者よ。所詮贋作は贋作。本物に勝てるとでも…?」
そしてギルガメッシュは、不敵な笑みを浮かべた。
「もう…駄目みたいね…」
アイリは、そう呟いた。夫の前では見せなかった涙を流し、アイリは言葉を紡ぐ。
「お願いキャスター、あの人の願いを…」
アイリは感じた。人としての機能が、既に無くなっていることを。
「あぁ…切嗣…」
ドクン、と音が響いた。アイリの体が、アインツベルンの聖杯の器として機能しだす。
回収された英霊の魂は4つ。機能するには充分だ。
「見ろ、贋作者」
クツクツとギルガメッシュが笑みを浮かべ、方向を顎で指した。
「…!!」
キャスターは、この異様な空気を過去に感じたことがある。
「アイリスフィール…!!」
だが既に遅い。アイリスフィールの体からは既に、アイリスフィールという人格は失われ__
「ほう…」
ギルガメッシュは愉快そうに笑う。
アイリスフィールの体の上に、黄金の杯が浮いている。
「やはり遅かったか…!!」
キャスターは、かつての仇敵に出会ったかのようにそれを見__
「聖杯…!!」
そして再び、剣を手に取った。
あけましておめでとうございます。枝豆です。
更新かなり遅くなりました。諸事情により12月頭から年末年始にかけて色々と御座いまして。
これから再びぼちぼち更新をしていきたいなと思っています。
ただ下書きとか何もしてないからまた遅くなりそうではありますが…
Fateのアニメもまだライダー登場のあたりでストップ状態。なんてこったい。
あとなんでしょう。strange fakeですかね。実は小生読んだことがない。
コミケ行った人はもう持ってる?のかな?あやふやではありますが。
めっちゃ早く読みたい…
久しぶりに文書くといろいろつらいですな。ミスがまだありそうなので後々修整していきます。
それでは、これからも本作をよろしくお願いします。