どぞ
「ねぇ、キャスター…どこへ行くの?」
アイリスフィールは、自分を抱き抱えながら疾走するキャスターに訪ねた。それでもキャスターはそれに答えることなく、ただただ走り続けた。
長い沈黙の後、ようやくキャスターが口を開いた。
「…アイリスフィール、君の身体はあとどれくらいが限界なのかね?」
「え───」
アイリは息を呑んだ。このサーヴァントは、その意味を理解しているのだろうか。
「言い方を変えようか…
「どうして…どうしてそれを知って…!!」
キャスターはフッと笑った。
「これでも、
キャスターはそこまで言うと、独り言のように呟いた。
「…私にも、君と同じようなホムンクルスの家族がいたんだ」
「…え?」
アイリは困惑した。この男はホムンクルスではない。それは自分でさえ分かることだ。ではなぜこの男はそのようなことを言うのだろうか。──だが
「…その人は、どうなったの?」
何故だろう。他にももっとたくさん聞きたいことがあるのに、アイリは一番にそれが気になったのだ。
キャスターはそれを聞くと立ち止まり、抱えていたアイリをゆっくりと下ろした。
「すまない…私には、どうすることもできなかった…」
キャスターは顔をしかめながら、アイリにそう言った。アイリは、なぜキャスターが自分に謝るのかわからなかった。しかし、今まで見たことのない表情を浮かべながらそう言うキャスターを見ると、何も言えなくなった。
「ごめんなさい…つらいことを思い出させてしまったわね…」
キャスターはそれを聞くと、さらに顔をしかめた。
「よしてくれ…君に謝られることではないんだ」
「いえ…」
キャスターは一度目を瞑り、そして開くと口を開いた。
「話をもとに戻そう、アイリスフィール。君はあとどれくらいが限界だ?」
「…あと一人か二人吸収したら、満足には動けない。それ以上は、きっと…」
アイリは寂しげにうつむいた。
「なるほど…一か八かといったところか」
「…?」
「アイリスフィール、聖杯戦争は今夜、私が終わらせる。聖杯戦争そのものをだ。だから君が、アイリスフィールでいられるうちに君に聖杯戦争の真実を見せる」
「…!?キャスター、それはどういう…!」
そう言うと、キャスターは再びアイリを抱えて駆け出した。
「言っただろう、真実を見せると…おそらく、切嗣がいる場所だ」
「切嗣が…?」
「もうすぐだ…!?」
キャスターが再び足を止めた。
「どうしたのキャスター…?」
場所は柳洞寺付近。キャスターは静かにアイリを下ろした。
「すまないアイリスフィール。どうやら、そう簡単に事はいかなさそうだ」
──吹き荒れる灼熱の風
──砂漠を照りつける太陽
──弓形に広がる無窮の蒼天
黒き騎士王の前には、征服王であるライダーを中心に出現した『王の軍勢』
「フン…」
それでもなお騎士王は物怖じすることなく、黒に染まった聖剣を構える。
「ライダー…」
不安げに、己のサーヴァントを見上げるウェイバー。
そんなウェイバーを案じたのか、ライダーも険しくしていた顔を緩め微笑んだ。
「心配するな、坊主」
ライダーはそう言うと再び騎士王へと目を向けた。
「まぁ、ただでは済みそうになさそうだわな…」
「…我がサーヴァントよ、ウェイバー・ベルベットが令呪をもって命ずる」
ウェイバーは手を掲げると、刻まれた令呪が光を放つ。
「必ず、この戦いに勝て」
瞬間、ライダーの纏う
「坊主…」
ウェイバーはライダーの顔を見上げた。
「…お前まで、そんな弱音吐いてどうすんだよ!お前の王道を見せつけてやるんだろ!?」
ライダーはそれを聞くと、フフンと喉をならした。
「流石は余のマスター!そうだ、そうだとも!」
ライダーは吼えるように声を上げると、キュプリオトの剣を掲げた。
「聞いたか益荒男どもよ!今宵の敵は、此度の戦において他の英霊共と比べても最大級の力を持っておる!しかし!我らが覇道の前には、たとえ相手がいかなる敵であろうとも怯むことはない!」
ライダーは剣の切っ先を騎士王へ向けた。
「騎士王の歪んだ王道に我らが歩んできた道を見せつけてやるのだ!それが我らの勝利となろうぞ!」
ライダーの怒濤の掛け声に、後ろに控える軍勢も閧を上げる。
「さぁゆくぞ!」
ライダーが先陣を切り、軍勢もその後に続くようにして駆け出す。
『AAAALaLaLaLaLaie!!』
「雁夜!私の後ろへ!」
「なっ!?」
柳洞寺の付近で、セイバーが実体化しながら叫んだ。
──その瞬間
「…フン、そうか。貴様がまだ残っていたか」
アイリスフィールを抱えた、紅い外套を身に纏ったサーヴァントが姿を表した。
「あれが…アインツベルンのサーヴァント…」
雁夜が、紅い男を見てそう呟いた。その男──キャスターは、アイリを下ろすと二人の方を見た。
「その通りだとも、間桐雁夜…そして、サー・ランスロット」
『!!』
セイバーと雁夜は驚愕した。雁夜はともかく、セイバーの真名まで知られていたのだ。
「そう驚くことはないさ。あれほど派手に暴れていたんだ。あれで真名を隠していたつもりかね?」
「な…」
「…隠れて見ていたということですか」
──先日の騎士王とセイバーの戦い。
たしかに、あの戦いを見ていればセイバーの真名も明らかであろう。
「人聞きの悪い言い方はよしてくれ。戦争で情報収集をするのはおかしいとでも?」
フッとキャスターは笑った。
「貴殿は…キャスターとお見受けするが、如何に?」
セイバーは残りのサーヴァントから、紅いサーヴァントのクラスを推測する。
「フン、今さらそんなことを隠してもしょうがないか」
キャスターはそう言うと、アイリに後ろへ下がるよう目で指示をする。
「すまないアイリスフィール。少し時間がかかるかもしれん」
「…大丈夫よキャスター。私の命、貴方に預けます」
「…任された」
キャスターはその手に二振りの中華剣を出現させる。
「魔術師のサーヴァントが、剣の英霊である私に剣で挑むのですか…?」
セイバーは驚いたように言った。
「やれやれ、魔術師は白兵戦に勝機がないとでも…?」
キャスターは肩をすくめ、呆れたような表情を浮かべた。
「そうですか…」
「セイバー、全力で戦え!」
雁夜は、セイバーにアロンダイトの使用を許可する。
「…わかりました。しかし、呉々も無理のないように」
セイバーはそう言うと、一振りの剣をその手に握った。瞬間、セイバーを覆っていた黒い霧のようなものが消え、セイバーの全貌が明らかになる。
セイバーは剣を構え、キャスターの方を見た。
「1つ、質問がある」
キャスターも剣を構えながら言った。
「君は、騎士王をどうするつもりかね?」
「なぜ、貴殿がそのような?」
キャスターはニヤリと笑った。
「なに、まだ君が彼女の過ちを正そうとなど考えてたならば、それはとんだお門違いだと思ってね」
「…どういう意味です?」
セイバーの声色が少し曇る。それに対しキャスターはやれやれ、と呟いた。
「言わなくてはわからないかね?君に、彼女は救えないと言っている」
「──!!貴殿に何が──!!」
「…あぁわかるとも、少なくとも君よりはな」
「!!」
セイバーは剣を構え直し、その切っ先をキャスターへ向けた。
「…だから、君にもわからせてやるさ」
キャスターも腰を落とし、低く構えた。
「騎士なんぞに、彼女は救えないことを…!!」
──刹那、剣戟の火花があがる
久しぶりです。名前変えました枝豆畑です。
本当に久しぶりに書いたので、すこし文章に違和感あるかもしれませんが次回までにはなんとかします。手抜きとかじゃないです。いや本当に。
ちょっと今回は進展がなくてちょっとあれですね。
近いうちにまた更新します。(うそつけ)
それでは、また