Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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遅れました




どうぞ


第十八話 王道

「はぁ…ダメかぁ」

 

ウェイバー・ベルベットは大きなため息をついた。

 

「おい、坊主。一体何をしているんだ?」

 

まるで科学の実験でもしていたのか、様々な器具を前にして項垂れている己のマスターを見て眉を潜めた。するとウェイバーはなにも言わずに、ただ水の入っている試験管を指差した。

 

「それは…余がとってきた川の水か?」

 

そうだ、とウェイバーはうなずいた。

 

「魔術の痕跡がないか調べてみたんだけど…ダメだ。なんも反応がなかった」

 

「ほほう…」

 

ライダーは神妙な顔になって試験管をつまみ上げそれを見た。

 

「なんだよ…」

 

ウェイバーは敵の陣地の手がかりを掴めなかったことに苛立っていたのか、不機嫌であった。

 

「いやいや、ようやく坊主も魔術師らしいことをしたではないかとな」

 

「余計なお世話だ!まったく」

 

そういうとウェイバーは鞄の中からなにやら箱のようなものを取り出し、さらに丸めていた地図を広げた。

 

「おう、今度は一体なんだ?」

 

ウェイバーが箱の中から取り出したものは、魔術的概念が加えられた、所謂ダウジングの振り子であった。

 

「霊脈を調べるんだよ。もっともここは御三家の遠坂が管理している土地だから、調べたところであんまり意味ないって話なんだけどさ」

 

そう言うとウェイバーは振り子を地図の上に垂らし、一言詠唱を呟いた。振り子はまず、遠坂邸の付近で反応した。

 

「まぁ、当然かな…」

 

続いて間桐邸付近、言峰教会と振り子は反応した。

 

「御三家に監督役の拠点なんか、わざわざ調べなくても…!?」

 

ウェイバーが再びため息をつこうとした時だった。振り子が、今までとは比較にならないほど大きく反応したのだ。

 

「なんだよ…これ…!」

 

不気味なまでに揺れる振り子を見て、ライダーも怪訝そうに顔をしかめた。

 

「場所は…柳洞寺…?なんだってこんなところが…」

 

ウェイバーは眉をひそめ振り子を置くと、地図上の柳洞寺の文字をじっと見つめた。ライダーはボリボリと顎髭をかくと、フフンと喉を鳴らした。

 

「ま、行ってこの目で確かめるしかないわな…」

 

「あぁ…」

 

それにしても先程の異常なほどの振り子の反応。ウェイバーはどこか胸騒ぎがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳洞寺の境内、円蔵山の地下空洞の入口から少し離れた場所に、時臣と綺礼はいた。

 

「だが…やはりおかしい」

 

時臣は呟いた。

 

「おかしいとは…?」

 

「うむ。聖杯とは無色のもの。悪にも善にも染まらぬからこその万能の願望器。しかし、あの騎士王は明らかにおかしい。無色であるはずの聖杯が、なぜあのような姿で騎士王を喚んだのか…私にはあれが本来の騎士王の姿とは思えない。明らかに悪に犯されているとしか…」

 

「……!!…師よ、騎士王に動きが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__ほほう、こいつは…」

 

柳洞寺の付近の上空にて、宙を駆けるブケファラスに股がりながらライダーはそう呟いた。

 

「な、なんだよ急に」

 

「感じぬか坊主、我らへ接近するこの殺気を…!!」

 

「…!!」

 

ウェイバーは息を呑んだ。そうだ…これは以前にも感じた__

 

「来るぞ…!」

 

轟、という魔力の暴風と共にそれは現れた。黒き聖剣を携えた、その名も高き騎士の王。

淀んだ金色の瞳は、ブケファラスに股がった征服王の姿を捉えた。

 

「久方ぶりだな、征服王…!」

 

騎士王はそう言うと聖剣を振りかざした。途端、目に見えるほどの黒い魔力の一撃が、宙にいるライダーたちへと襲いかかった。

 

「坊主、歯を食い縛れ!」

 

ライダーはそう叫ぶと手綱を振るい、馬を急降下させその一撃を避けた。馬は地上に脚を着け、ライダーは騎士王の方を見た。

 

「フン、騎士王ともあろう者が、随分と手荒い挨拶をしてくれるではないか」

 

ライダーはそう言うとブケファラスの首にしがみついているウェイバーの肩に手を置いた。

ウェイバーは閉じていた目をゆっくりと開くと、前方に構える彼の黒き騎士王を見、そして己の背筋が凍り付くのを感じた。

 

「征服王、自慢の戦車はどうした」

 

「いやそいつがなぁ、アーチャーの奴にだなぁ…」

 

そんな中、ライダーは気恥ずかしそうに頭を掻いていた。

騎士王はそれを聞くとフン、とつまらなそうに息をついた。

 

「なぁ騎士王よ、余も幾つか尋ねたいことがあるんだが…これは聖杯戦争に携わる者として聞くが、柳洞寺といったか、この地の霊脈が余のマスターが言うには異常だと言うんだが。騎士王、貴様は何か知っているか?」

 

だが騎士王はなにも答えなかった。

 

「答えぬか…ふん、まぁそれもよかろう。ではもう一つ、今度は聖杯戦争に携わる者としてではなく、征服王である余が同じ王である騎士王に尋ねる…」

 

ライダーは鋭く騎士王を睨み付けた。

 

「__貴様、何故堕ちた?」

 

ウェイバーには分かった。先程のライダーの問いには何も応じなかった騎士王が、その言葉を聞いた瞬間に、ほんの僅かではあるものの殺気を鈍らせたのを。

 

「バーサーカーならばとは思ったが、違うな。貴様は自分にはクラスがないと言った。何より、貴様は自分の意志でその姿をしている。本来の騎士王ならば、それはさぞかし清廉潔白、まさに戦場の華であったろうよ。だが今の貴様はなんだ?王でありながら、何故そのような_」

 

「黙れ」

 

ライダーの言葉を、騎士王の声が遮った。ウェイバーは先程よりも何倍にも膨れ上がった騎士王の殺気を、体中が痛む程に感じていた。

 

「まさか貴様の口からそのような世迷いごとを聞くとは思わなかった。征服王、貴様の下らぬ話を何度も聞くつもりはない。これが私だ。私の本来の、あるべき姿だ。」

 

騎士王が聖剣の切っ先をライダーへと向ける。

 

「目障りだ。切り伏せてくれる…!!」

 

「…やはり、貴様とは争うしかないようだな」

 

ライダーはそう言うと、腰からキュプリオトの剣を抜いた。

 

「__王とは」

 

ライダーを中心に、風が吹き荒れる。

 

「王とは、たとえそれが善であろうが悪であろうが、いかなるモノからの干渉を受けず、染まらず、己が王道を歩む存在。__それが、王である!」

 

砂塵が巻き起こり、焼けつくような大砂漠が広がる。

 

「__集え我が同胞よ!今宵はこの堕落した騎士の王に、我らが歩んだ王道を刻み付けるのだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいセイバー、本当にこの方角なのか?」

 

間桐雁夜は言った。すると彼の背後に、漆黒の鎧を身に纏った男__セイバーが姿を現した。

 

「えぇ、間違いありません。以前のような戦車に乗ってはいませんでしたが、確かにあれはライダーでした。それに…」

 

「…なんだ?」

 

「…ライダーの行った方角に、もう一つのサーヴァントの気配…騎士王です」

 

「…そうか」

 

雁夜は、先日セイバーが騎士王との戦闘で、雁夜の命令に応じずに暴走した時のことを思い出した。セイバーもそれを分かっていたのか、何やら申し訳なさそうに言った。

 

「二度と、あのような醜態は晒しません」

 

「…いや、お前を制御しきれていなかった俺にも問題はあった。でも今の俺なら、お前を万全の状態で戦わせてやれる」

 

「雁夜…」

 

「行くぞセイバー」

 

雁夜はそう言うと、セイバーの指示した方角へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子はどうかね?アイリスフィール」

 

切嗣が発ってから時は流れ、キャスターがアイリの前に姿を現した。

 

「えぇ、何も問題はないわ…」

 

アイリはどこかぎこちない笑みをキャスターへと向けた。

 

「…マスターがどこかへ向かった向かったようだが…なにか知らないかね?やれやれ、サーヴァントに何の相談も無しに行動されては困るんだがな」

 

参ったものだ、と呟きながらキャスターはフッと笑った。

 

「…アイリスフィール?」

 

だがすぐに、アイリの様子がおかしいことにキャスターは気付いた。

 

「あの人…切嗣、泣いてた…」

 

「…どういうことかね?」

 

アイリは震える体を抑えるように、両手で自身を強く抱き締めた。

 

「昨日帰ってから、切嗣はずっと不安定でずっと泣いていたわ。寝ているときだって。そして起きたら、何かに操られたかのように出ていって…その時、あの人は私に『ごめん』って…」

 

「……」

 

「ねぇキャスター?貴方は何か知っているんでしょう?」

 

「…あぁ」

 

しばらく沈黙が続き、キャスターがようやく口を開いた。

 

「…君には、真実を知る権利がある」

 

「え…?」

 

「…アイリスフィール、一緒に来てもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、その入口ですか…」

 

「うむ…」

 

騎士王が発ったとのアサシンからの報告を受け、時臣と綺礼は大聖杯が設置されている地下空洞への入口に来ていた。

 

「綺礼、アサシンはこの入口の付近で監視させておいてくれ」

 

「わかりました」

 

「それにしてもこの洞窟内から流れてくる空気、何かおかしい」

 

「えぇ…普通ではありません」

 

時臣は眉をひそめた。やはり妙だ。何か異常な事態が起こっていることには間違いない。

 

その時だった。

 

「綺礼様」

 

綺礼の背後にアサシンが姿を現した。

 

「こちらへ向かってくる者が」

 

「なに…?サーヴァントか?」

 

「いえ…」

 

時臣たちがやって来た方向とは逆の方向から、その男が姿を現した。

 

「お前は…!」

 

黒いコートを羽織った男__衞宮切嗣が、時臣と綺礼へと歩み寄る。

 

「遠坂時臣だな…?」

 

綺礼は咄嗟に身構えた。__だが

 

「言峰綺礼、妙な真似はするな。僕の部下が、隠れてすでに君たちの命を狙っている。僕を殺すのは容易だが、その時は君たちも死ぬ」

 

「貴様…」

 

切嗣は綺礼に構うことなく、時臣の方へ振り返った。

 

「遠坂時臣、アインツベルンの代理マスターとして聞く。お前は大聖杯についてどこまで知っている?」

 

「…なぜこの場所を?」

 

時臣は内心焦ってはいたが、毅然とした態度で切嗣に質問した。

 

「質問に答えろ、遠坂時臣。さもないと殺す」

 

切嗣は時臣を睨み付けた。

 

「…大聖杯が聖杯戦争の核であるということとしか知らない。この目で直接見たことはおろか、この洞窟へ入ったことすらない」

 

「…そうか」

 

切嗣はしばらく沈黙すると言った。

 

「…まず僕は、君たちが僕に何かしない限り、君たちに危害を加えるつもりはない」

 

「な…!!」

 

その言葉には、時臣も綺礼も思わず驚愕した。

 

「何なら強制(ギアス)を使用しても構わない」

 

「…待て。こちらの質問にも答えてもらおう」

 

時臣は冷静さを取り戻し言葉を続けた。

 

「騎士王については知っていると思うが、先程その騎士王がこの洞窟から出てきた。何か知らないか?」

 

「師よ…!!」

 

綺礼は、時臣がこちら側の情報をこの男に公開したことに思わず声をあげたが、時臣はそれを制止した。

 

「…それは本当か?」

 

「本当だ」

 

再び切嗣は何かを考え、それから口を開いた。

 

「…事態は一刻を争う。遠坂時臣、すぐにでも大聖杯の元へ行かなくてはいけない」

 

「…それは、どういうことかね?何か知っていると言うのか?」

 

時臣は尋ねた。

 

「自分の目で確かめたほうが早い。それは僕も同じことだが」

 

「……」

 

時臣はしばらく考えた後、口を開いた。

 

「わかった。では、アインツベルンと遠坂は一時休戦としよう」

 

「…話が早くて助かる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです。SHIKIGamiです。
更新遅れてしまい申し訳ありません。
おまけに時間かけたくせになんか微妙な終わりかたに…

話は変わりますが

アニメ化はUBWだったとは…!
これはびっくりでした。
おまけにhfが映画化だと…!?

今年の型月はやはり熱いですね。
まだ先のことではありますが
楽しみが増えてなによりですね。



それでは

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