Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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またもや遅れました







どぞ


第十六話 記憶

 

「綺礼、アサシンはあと何人残っている…?」

 

時臣の焦りを隠しきれていない様子が、通信機先からでも綺礼には感じられたり

 

「はい。その洞窟の入口に二人、私のいる教会に一人で三人です」

 

「では綺礼、入口にいるアサシンはそのままその場で監視させておいてくれ。決して中には入れずにだ」

 

「…?…わかりました」

 

綺礼は時臣の指示の意図がわからず疑念を抱いたが、指示には従うことにした。

 

「師よ、なにかその洞窟には心当たりが…?」

 

「うむ…」

 

綺礼の質問に対し、何やら時臣は困惑しているようだった。しばらくの沈黙の後、ようやく時臣は口を開いた。

 

「いや、君には話しておくべきかもしれないな」

 

「…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「くうっ…うぅ…うっ……」

 

数時間が経過し、間桐臓硯の与えた蟲の効果もあったのか雁夜の魔力も回復しつつあり、あれほど体内で暴れていた刻印蟲も今では不気味なまでに落ち着いている。

 

「俺は…俺はっ……!!」

 

だが流れる涙は止まることを知らず、雁夜の瞳は赤く腫れ上がり、握る拳からは爪が掌に食い込み血が滲み出ていた。

 

『雁夜…』

 

そのそばで、セイバーが霊体化した状態で語りかけた。

 

「くそっ…くそくそくそぉぉぉっっ!!」

 

だが雁夜はその呼び掛けに応えることなく、踞ったまま床を殴っていた。

 

『雁夜…申し訳ありません…』

 

「俺はっ…聖杯を勝ち取るどころか…自分のサーヴァントを制御することすらできやしない…!それに俺は…!桜ちゃんを救うどころか…!俺は…!俺はっ…!…うぅ…うぁぁぁぁっ!」

 

『…っ!雁夜…!』

 

悲しみと屈辱に嘆き叫ぶ雁夜を、セイバーはただただ見ていることしかできない。たしかに半人前である雁夜が、一級のサーヴァントであるセイバーを完全に制御するのは不可能である。事実、此度の聖杯戦争におけるセイバーの能力値は、本来のそれよりも下回っている。それでもセイバーが魔力の消費を抑えれば、戦うことは充分に可能である。しかし先の騎士王との戦いにおいて、セイバーは魔力を抑制すること考えずに戦っていた。因縁の相手であったが故の、セイバーの犯した過ちであった。それが結果として、騎士王への事実上敗北にも繋がったのだ。

 

「そもそも俺には無理だったんだ…俺は…桜ちゃんを救うことはできない…聖杯戦争で勝つことなんて…!」

 

『!!…雁夜、それは…!!』

 

それは違うと、セイバーは言葉に出せなかった。今の雁夜には、セイバーが何を言っても届かない。

 

「セイバー…あとどれくらいで回復する…?」

 

『…1日もあれば戦闘に問題はありません。今の雁夜からは、以前よりも大幅に魔力供給の質が上がっています。ですがそれは…』

 

「いいんだ、セイバー…」

 

「…」

 

雁夜は左胸に手をあてると、忌々しそうにそれを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁ、ライダー。さっき言ってたことなんだけどさ…」

 

隠れ家にしているマッケンジー宅に着き、自室に戻るとウェイバーは言った。

 

「うん?なんだ坊主」

 

「この聖杯戦争がおかしいって言ったろ、お前。それに、聖杯があるかもわからないって…」

 

ウェイバーはベッドに横になり、天井を眺めながらそう言った。

 

「おう、それがどうした?」

 

「どうしたって…!」

 

ウェイバーは体を起こした。

 

「本当に聖杯が無かったらお前、どうすんだよ!?」

 

「ふん、そうさなぁ…」

 

ライダーはウェイバーの方へと振り返り、顎髭をかくと言った。

 

「余はこの聖杯戦争を降りる」

 

「な…!」

 

意外であった。征服王ともあろう者が、こうもあっさりと戦いを放棄すると言うことが。

 

「余は生前、そういった "在るか無いか知れぬモノ"を追い求め、結果として多くの仲間を死なせた。余はな、もうそういった与太話で誰かを死なすのは嫌なんだ」

 

「それって…」

 

そう、ライダーは今自分を死なせたくないと言ったのだ。

 

ウェイバーはなにも言い返せなくなり、再びベッドへと身を投げた。

 

「なんだよ…それ…」

 

ライダーはそれを聞くとフフン、と喉を鳴らした。

 

「心配するな坊主。余は負けぬ。それにどちらにせよ、坊主を死なせやせんわい。約束だ」

 

ニッと笑うと横になっているウェイバーの頭を掻き回した。

 

「わっ、おいやめろって!」

 

「ハハハッ!よし、明日もまた一暴れするぞ坊主!」

 

「おい、勝手に決めんなって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまり、その本当の意味での聖杯である"大聖杯"がそこにあると』

 

「うむ…そういうことなんだが」

 

長い話を終え、喉が乾いた時臣は淹れ直した紅茶を一口飲んだ。

 

「…大聖杯のことを、ましてやそれが柳洞寺の円蔵山にあるということを知っているの遠坂、間桐、アインツベルンの御三家だけのはずなんだ。しかし…」

『…騎士王がその龍洞を知っていた以上、何者かが関わっている可能性があるということですか?』

 

時臣が考えていたことを、綺礼が口にする。

 

「うむ…そう考えるのが妥当だ…」

 

時臣ははぁ、とため息をついた。

 

「しかし、一体何者なんだ…間桐もアインツベルンも、マスターとサーヴァントは判明している以上繋がりのある可能性は低い。やはり第三者の存在感か…。何より、このような聖杯戦争そのものに関わる大きな問題が発生した以上、早急に調べる必要があるな。…綺礼、明日は私と一緒に、柳洞寺に来てくれないか?」

 

『えぇ…ですがよろしいのですか?私と師が手を組んでいることが…』

 

「構わない。そんな場合ではなくなってしまったようだ。取り敢えず綺礼、明日騎士王が龍洞を出たのをアサシンが確認したら、私に連絡してほしい」

 

『わかりました。師よ、ギルガメッシュはどうするのですか…?』

 

それを聞くと時臣はううむ、と呻いた。

 

「彼にだけは、大聖杯の秘密を…聖杯戦争の真実を知られては不味い。この件に関しては我々だけで解決しなくてはいけない」

 

『…わかりました。それでは、また』

 

「うむ、すまない」

 

時臣は通信を切ると頭を抱えた。

 

「この聖杯戦争は、狂っている…」

 

先程床に落として割れてしまったティーカップを見つめながら、時臣は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ、ここは…)

 

そこは、地獄だった。空には黒い太陽。辺り一面には炎が走り、所々からは呻き声のようなものが聴こえていた。

 

切嗣は状況を把握しようとしたが、なにもわからなかった。

 

しばらくすると、一人の亡霊のような男が近づいてきた。

 

『よかった…本当に、よかった…!』

 

その男は瓦礫にもたれ掛かっていた少年に手を差しのべるとボロボロと涙を溢して喜んだ。

 

(なんだ…これは…)

 

その男は、衛宮切嗣であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた』

 

縁側で、衛宮切嗣は隣に座る少年に言った。

 

(やめろ…)

 

赤毛の少年はそれを聞くと、不機嫌そうに言い返した。

 

『なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ』

 

『うん残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと、もっと早くに気が付けば良かった』

 

(やめろ…それ以上先を言うな…!)

 

切嗣は理解した。この少年が、かつてのキャスターだということを。そしてこの先自分が言うであろうことも。

 

(頼むから、止めてくれ…!)

 

『そっか…ならしょうがないな。しょうがないから、俺が代わりになってやるよ。任せろって、じいさんの夢は、俺がちゃんと叶えてやるから__』

 

(あぁ…あぁ…!!)

 

『そうか。ああ、安心した』

 

(あぁぁぁぁぁぁ!!)

 

そう言うと、満足げな笑みを浮かべ、衛宮切嗣は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

__こうして、切嗣は一人の男の生涯を見ることとなる。

 

__彼が救った少年が英霊となるまでに至る、一つの、衛宮切嗣にとっては耐え難い人生の歩みを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです。SHIKIGamiです。

今回は短いです。

次回への伏線のためだけのような回ととらえてください。

エミヤの過去を切嗣ようやく見ます。

エミヤの過去は結構私の独自解釈多め?です、はい。

それでは


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