どうぞ
「はぁぁぁぁ!!」
セイバーが振るう剣は、先程にも増して力も早さも上がり、騎士王に肉薄する。
「___は」
それでも黒の騎士王は敏捷で劣る中、セイバー相手に一歩も引けをとらない。上下左右、あらゆる方角から振るわれるセイバーの剣を、騎士王は息を上げることなく弾き返している。
「っ!」
それでもセイバーは騎士王に接近し、ひたすら剣を振るう。否、セイバーにはこれしかできないのだ。
「___ふん」
だが騎士王もただ剣を防ぐことにしびれを切らしたのか、セイバーの剣を弾き返すのと同時に、騎士王はセイバーへと聖剣を袈裟に振りかざした。
「くっ…!」
咄嗟にセイバーは左の手でそれを防いだ。直撃は免れたものの、聖剣の一撃はセイバーの鎧ごと左腕を切り裂いた。
「攻めるばかりで、判断が鈍っているぞ…!」
そこから騎士王はセイバーを蹴り飛ばした。セイバーは大きく吹っ飛び、地面を転がる。
騎士王はそれを見ると、まるで虫ケラを見て嘲笑うかのようにふん、と一蹴した。
「いや、こうして憂さを晴らしておけば、貴様ら騎士共も大人しく私に従っていたというわけか?」
だが騎士王は、そこで身体の違和感に気付いた。見れば、己の左腕もセイバー同様、鎧ごと切り裂かれ血が流れていた。
「ランスロット…貴様!!」
セイバーは立ち上がると再び剣を構え、そして騎士王へと斬りかかった。
それに応えるかのように、騎士王もセイバーへと駆け出した。互いの剣が衝突し、盛大な火花が飛び散る。騎士王は左手を負傷したのにも構わず、怒濤の如くセイバーへ剣を振り下ろす。
「っぐ!!」
一方のセイバーは、騎士王の一撃を剣の腹で受け弾いた。しかし左腕を負傷したためか、剣が言うことを聞かず、バランスを崩してしまった。
「そこだ…!」
騎士王は追撃を加えようと剣を振るった。だが、セイバーはバランスを崩したのにも関わらず、その強靭な足腰と身体能力で体をひねり、騎士王の一撃を受け流した。
「なるほど、最優の名は伊達ではないな」
時臣はアサシンの視角情報を綺礼を通して共有していた。
『えぇ、ですが…』
「うむ…」
たしかに、セイバーは最優の名に恥じない強さを誇っている。では、そのセイバー相手に一歩も引けをとらない、いやむしろ互角以上に戦っているあの騎士王は一体何だというのか。
「ブリテンの赤き竜、アーサー王…」
時臣は、このイレギュラーとも言えるサーヴァントこそが、己のサーヴァントたるギルガメッシュに立ちはだかる敵と判断した。
「おかえりなさい切嗣、無事でよかった…!」
切嗣が戻った頃には、既に屋敷の片付けはほとんど済んでいた。
「あぁ、ただいまアイリ。どうだい?君が気に入ると思ってここを拠点に選んだんだ」
「えぇ、とっても素敵。気に入ったわ」
アイリは切嗣へと微笑み、切嗣もそれに微笑み返した。
「…ところでアイリ、キャスターは?」
しばらくして切嗣は、アイリへと質問した。
「…彼なら、今はこの家の見張りをしているわ」
「そう、か…」
アイリはそこで切嗣の不自然さに気付いた。
「キャスターと、何かあったの?」
切嗣の不安定な心を気遣うように、アイリスフィールは優しく語りかけた。
「大丈夫だよ…アイリ。君が心配することなんてないさ」
切嗣はアイリスフィールを安心させるために、アイリスフィールに微笑む。だが、アイリスフィールにはそれが強がりで、心ここにあらず、といったようにしか見えなかった。
「__さっき、ランサーのサーヴァントの消滅を確認したの」
「…!!アイリ、それは…」
アイリスフィールは頷き、言葉を続けた。
「きっとこの先、さらに脱落するサーヴァントは増える。そして私も、どんどん私の、アイリスフィールとしての機能も無くなっていくわ。わかっていたことだもの。私だって私なりに覚悟はできてるつもりよ?でも…」
アイリスフィールは背伸びをして切嗣の首に手を回した。
「でも、貴方のそんな哀しそうな顔を見ていたら、とても不安になるの。私がいなくなった後、切嗣がちゃんと幸せに生きていけるかどうかが…」
「…!!」
切嗣は何も言えなかった。ただアイリスフィールの瞳から目をそらさないでいることが精一杯だった。
「大丈夫よ切嗣。心配しなくていいのは貴方の方。だって私は、いつだって切嗣の味方だから…切嗣が正しいと思ったことは、きっと私にとっても正しいと思えることだもの」
アイリスフィールは切嗣を抱き寄せると、優しく口付けをした。気が付けば切嗣の頬には、一筋の涙が流れていた。
「アイ…リ…僕は…」
切嗣はアイリスフィールを強く抱き締めた。己の不安を、紛らすかのように。抱き締める腕は、震えていた。
アイリスフィールの頬にもまた、一筋の涙が流れた。アイリスフィールも切嗣の不安ごと包み込むように、優しく抱き締め返した。
その晩、二人は離れること無く抱き締めあったまま眠りについた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
セイバーは片膝をつきつつも、剣を支えに再び立ち上がる。
「ほう…流石は湖の騎士と言ったところか、サー・ランスロット?」
対する騎士王の鎧にも、所々ではあるが傷ができていた。それでも、騎士王にはまだまだ余力があった。
「えぇ、これでも曲がりなりにも貴方に仕えた騎士ですから…!」
皮肉気に言葉を吐くと、再びセイバーは駆け出した。セイバーは剣を大きく振り下ろした。だがそれを騎士王は剣を使うこと無く首を傾けることで軽々と避ける。
ピシッ、と音をたてて騎士王のヘルムに皹が入る。当たった訳ではない。先の戦闘で限界がきていたものが、今のセイバーの剣の風圧によりその限界をこえたというだけのことだ。
騎士王の金色に濁ったその双眸が、ゆらりと湖の騎士の姿を捉える。
「王よ…」
悲痛の声をセイバーが漏らす。騎士王は聖剣に魔力を纏った。騎士王の膨大な魔力を帯びた聖剣は、喰らいつかんとでも言うようにその切っ先をセイバーへと向けられた。
「吼えろ…!」
無造作に振るわれた一撃からは騎士王の魔力が溢れ出し、大蛇が地を這うかのようにセイバーへと襲いかかった。セイバーはそれをギリギリで避けた。だがそれが湖の騎士の運の尽きであった。
「…ぐぁっ!!」
避けた先には騎士王が既に回り込み、騎士王が放つ魔力がセイバーを捕らえた。左手に纏われた魔力はセイバーの首を締め上げ、大柄なその体を軽々と持ち上げた。セイバーは抵抗しようとした。だが、彼に残された魔力はもうほとんど無く、現界を維持するだけで精一杯だった。そんなセイバーに抵抗する力が残っているはずがなく、気付けばアロンダイトも強制的に消滅していた。
「…お…王よ…私は…私……は……!!」
消え入るような声で、セイバーは騎士王へと叫んだ。
「終わりだランスロット卿…貴様がどう足掻いたところで、もう何もかも無駄なのだ」
それはこの状況のことを言っているのか、あるいは騎士王を正そうとしたセイバーのことを言ったのか。だがセイバーのそんな思考も虚しく、騎士王が振り下ろした聖剣は深々とセイバーの胸へと潜り込んでいた。
「…!?」
騎士王は、そこにあるはずのセイバーの亡骸が無いことに気が付いた。だが騎士王が状況を把握するのにそう時間は必要なかった。
「令呪による空間転移…仕留め損ねたか…」
セイバーは己の聖剣を見た。聖剣の切っ先には、セイバーを斬ったことを示すように夥しい量の血が付着していた。騎士王は仕留め損ねたことに苛立ちを覚えつつ、聖剣の露払いをした。
『王よ…思い出してください。円卓の誰もが、騎士の誰もが、貴方が愛した民草が…誰もが貴方を理想の王としていた…!そんな貴方が、なぜ絶望に身を委ねるのですか!』
湖の騎士の言葉が、騎士王の脳内に響く。
「五月蝿い…これが真の私なのだ…」
『私が知っている騎士王は、今の君のような在り方ではなかった…!』
そして以前、
「…五月蝿いと、言っている!!」
騎士王は、近くにあった電柱へ怒りをぶつける。聖剣に一閃されたそれは、音をたてて崩れ落ちた。
「何故…私はこんなにも苛ついている…?」
セイバーを殺し損ねたからか、いや違う。かつての自分を、騎士王の内なる光を思い出したからだろうか。
「っ!!」
だが騎士王には、どれも違うような気がした。では一体、何が…?
「私は間違ってなど、いない」
騎士王は苛立ちを押さえ、そこで考えることを止めた。騎士王はその場を後にし、夜の冬木を駆け出した。
「終わったか…」
『ええ、終わったようですね』
時臣ははぁ、と息をつき、紅茶を一口飲んだ。
「しかし、彼の騎士王とはいえまさかここまでとはな…」
時臣は騎士王とセイバーの戦闘を見て、その圧倒的な力を改めて痛感した。
『先日のギルガメッシュとの戦闘といい、今のセイバーとの戦闘といい、このサーヴァントにはまるで魔力が無限にあるかのように思います』
「うむ…これはギルガメッシュとはいえ、対策が必要かもしれないな」
だがまだ、時臣には余裕があった。それは、ギルガメッシュの
「常に余裕をもって優雅たれ…」
時臣は自分にそう言い聞かせると、紅茶を再び口に運んだ。
「ぁ…かぁ…ぁ…」
雁夜は気が付けば間桐の地下室にいた。
「おぉ、ようやく気が付いたか」
目の前には間桐家の当主__間桐臓硯がいた。
「ぅ…あ…?」
「なぜ貴様がここにおるかと言いたいのか?カカッ!感謝せい。野垂れ死にかけておった貴様を、儂がここまで連れてきてやったのよ。それより貴様のサーヴァントもこっぴどくやられたのう?」
事実、今のセイバーには実体化することもままならない。雁夜が令呪を使わなければ、騎士王の聖剣はさらに深くまで潜り込み、セイバーの霊核を破壊していただろう。
「なに、あのサーヴァントは破格の力を持っておる。半人前のお主が負けるのも無理はないわ。むしろ儂は、あのサーヴァントと戦いながら生き残った貴様に褒美を与えようと思っておる。ほれ」
臓硯は杖の先で壁にもたれ掛かっている雁夜の顎をクイとあげると、その口に何かを放り込んだ。
「ぁがぁ…!?」
「カカッ!それは桜の純潔を奪った蟲に儂が
「ぅぁ…ぁぁ…」
雁夜はそんな己の非力さに、掠れるような声で涙をこぼした。
『師よ…ぜひご報告しておきたいことが』
「…?…なんだい綺礼」
『騎士王の後を付けていたアサシンによりますと、騎士王は柳洞寺の奥へと進んでいったそうです』
時臣はそれを聞くと、紅茶を淹れていた手を止めた。
「柳洞寺…?」
『ええ、何でも柳洞寺の裏に洞穴のようなものがあり、そこへ騎士王は入っていったそうです』
ガシャン、と時臣の手からカップが落ち、床に落ちて割れてしまった。
『師よ、どうしたのですか?』
「いや、そんなはずがない…そんなはずが…」
時臣は、額から冷たい汗が流れるのを感じた。
こんにちは、SHIKIGamiです
いかがだったでしょうか
今回は注目すべき点はいくつかあるのですが
まぁそれは置いておきます
最近疲れが取れない日々が続いております
おまけに梅雨
暑くなって参りましたね
皆様も体調管理に気をつけてください
作者は熱があるようです
それでは