Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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どうも


どうぞ


第十二話 告白

「う、うわぁぁぁぁぁぁあ!? 」

 

 

突然のことだった。激走していた戦車の御者台から投げ出され、ウェイバーとライダーは宙を舞う。ライダーはそれでも空中でウェイバーの手を掴み抱き寄せ、地面への落下からの衝撃から守り、庇うようにして地面を転がった。

 

「おい坊主!大丈夫か!?」

 

数メートル転がったところでようやく止まり、ライダーは己のマスターに声をかけた。

 

「いてててて…なんだよ一体、何がおこって…!?」

 

ウェイバーは腰を擦りながら体を起こし、己の体の状態を確認する。幸いにも、ライダーが庇ってくれたせいか軽い掠り傷程度しかなかった。

 

「おい、ライダー…?」

 

自分の安全を確認し、ふとライダーへと顔を向ける。ライダーの顔は、この聖杯戦争が始まってからウェイバーが始めてみる焦りの表情だった。ウェイバーは恐る恐るその視線の先へと自分も目を向けた。

 

「お、おい…あ、あれって…!!」

 

__そこには、悠然と佇むアーチャーと、先程まで自分とライダーを乗せていた戦車を引いていた、アーチャーの握った()()()()()()二頭の雷牛がいた。

 

「ど、どうなってんだよ!?」

 

二頭の雷牛は、一見何の変哲もないその鎖に脚や首を縛られ自由を奪われていた。どうやらライダーとウェイバーは、あの鎖によって急停止した戦車から慣性によって投げ出されたらしい。

 

「…この鎖は、かつて天の牡牛をも捕らえた天の鎖。これに捕らえられたものは、例え神であろうとも逃がるることはできん」

 

「天の牡牛って…じゃあいつの真名は…!!」

 

__英雄王ギルガメッシュ。ギルガメッシュ叙事詩に名を残した、かつて古代ウルクを治めた人類最古の英雄。

 

ギルガメッシュが鎖を軽く引いた。たったそれだけの動作で二頭の雷牛は振り回されるように引き摺られ地面を転がる。ウェイバーは思った。その鎖がかつて、地上に降り立つだけでその地に七年間の飢饉をもたらすと言われた天の牡牛を捕らえたものならば、あの二頭の雷牛を捕らえることなどそれに比べればどれほど容易いことかと。

 

二頭の雷牛は鎖に繋がれたまま、立ち上がることもできずただただ鼻息を荒くする。そしてその雷牛を囲うかのように周囲の空間が水面の如く歪み始めた。そしてそこからは古今東西、有りとあらゆる宝具の原典が顔を覗かす。

 

「さぁ…!!」

 

英雄王が号令と共に手を振りかざすと、一斉にそれらは放たれた。瞬く間に二頭の雷牛は体中を貫かれ、抵抗することもできずに串刺しとなった。

 

「あぁ…」

 

ウェイバーは、二頭の雷牛と戦車が魔力の粒子となって消滅する様子を、ただただ言葉にならぬ声を洩らしながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…だって…?」

 

切嗣はくわえていた煙草を落とした。

 

__今、こいつは何と言った…?

 

「…私の真名は…英霊エミヤ…この時代より後…すなわち…未来の英雄」

 

令呪に抵抗しようとしているためか、キャスターの声は途切れ途切れだった。

 

「エミヤ…だって…?未来の英雄…?」

 

切嗣は混乱した。キャスターの思わぬ答えに、脳がついてこない。

 

「エミヤ…って、お前は、僕に、何か…」

 

単語を繋げるように切嗣は言った。

 

「何か、関係があるとでも言いたいのか?ならば教えてやる。答えはイエスだ」

 

キャスターも吹っ切れたのか、先程とは打って代わってスラスラ話した。だがやはり、その言葉にはどこか裏がある。

 

「教えてくれ…僕とお前は一体何なんだ?」

 

切嗣の言葉に熱が籠る。そうだ、殺し屋に過ぎない自分と、英霊となったこの男には一体どんな繋がりが__

 

「生憎だが、それに関しては答える気はない」

 

「なに…?」

 

「私は令呪に従ったはずだ。それ以上のことは答える気はない」

 

切嗣は拳を握りしめる。

 

「ふ、ふざけるな!そんな言い訳が通じる訳が…!」

 

「ならばもう1つ、令呪でも使うがいい!だがお前に、喉から手が出るほど聖杯を欲している貴方に!それができるか!?それも、己のサーヴァントの素性を知りたいがためだけに!」

 

キャスターは声を荒くした。その剣幕に、切嗣は思わず後退りをする。

 

「…いや、すまないマスター。私もどうかしてしまっているようだ」

 

切嗣も謝ることはなかったが、キャスターの言葉で失っていた冷静さを取り戻した。

 

「…キャスター、僕が聖杯を欲していると言ったな」

 

キャスターはそれを聞くと、あぁ、と答えた。

 

「お前は、僕の願いをどう思っているんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を、みた。

 

それは、一人の男の物語。

 

主君を、忠義を、仲間を裏切り、愛を選んだ男の悲しき恋の物語。

 

忠義と愛、決してその二つが相容れることはなく、その矛盾のために数えきれない程の命が失われた。

 

やがて主君は、その犠牲に耐えることができなくなり男と和睦する道を選ぶ。

 

それは男が最も望んでいたこと。忠義と、愛と、二つの道を進むことができるのだ。

 

__だが、そんなにことが上手く運ぶはずがない。

 

男は、主君の嫉妬により、助かったはずの命を落とす。

 

だが男は、そんな主君を恨むことなどなかった。元はと言えば、その怒りの原因を作ったのは己ではないか。そうでありながら、どうして主君の怒りを理解できないことがあろうか。

 

男は、決して己の人生を否定などはしない。

 

__あぁ、だが、だがそれでも、もう一度だけ、やり直しではなく、別の人生を歩めるならば__

 

 

 

 

 

 

「__俺は主の騎士として、主のために、主への忠義を貫き通すためだけにこの命を捧げよう__」

 

 

 

 

 

 

__男の名はディルムッド・オディナ。愛と忠義に生き、それ故に自らを破滅させた男であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今のは、ランサーの…」

 

ランサーの、生涯の一部始終。そして最後のはランサーの、ディルムッド・オディナの現世においての心からの願い。かつてランサーは自分に言った。『騎士としての面目を果たせればそれで良い。願望機の聖杯はマスター一人に譲り渡す』と。その言葉を、ケイネスは信じてなどいなかった。それはかつて、ランサーが主君の婚約者を奪った裏切り者であったからだ。ましてや、その魔貌は、自分の婚約者であるソラウにまで影響を与えているようだ。そんなサーヴァントの言葉を、信じることができようか。

 

__だが

 

 

 

 

『__俺は主の騎士として、主のために、主への忠義を貫き通すためだけにこの命を捧げよう__』

 

 

 

 

ランサーのその心の叫びに、偽りなど感じなかった。否、あるはずなどがないのだ。それが、ランサーが召喚に応じた真の理由なのだから。

 

 

 

「………」

 

 

 

ふと、ケイネスは自分の体、もとい手足に感覚が全く無いことに気付いた。

 

「私は…たしかにあの時月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)で防いだはずだ…」

 

考えられる理由は二つ。

 

一つは、あの男が放った銃弾が、物理的な力で月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を突破し、それでもってケイネスの体を貫いたということ。

 

もう一つは、あの男が放った銃弾が、物理的な力ではなく、魔術的概念によって月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を通して自分に干渉してきたということ。

 

前者はありえない。あの時ケイネスは、自分が考えうる限り最高の力をもって月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の自律防御を発動させた。たかだか拳銃から放たれた弾丸ごときで、破られるはずがない。

 

__ということは

 

「私の…体は…」

 

「気が付いたようね」

 

気がつけば、すぐそばには許嫁であるソラウがいた。

 

「ソラウ…」

 

「ケイネス、貴方は敵にやられたのよ。間一髪のところをランサーが助けてくれたお陰で命を落とすことはなかった。でも__」

 

「魔術回路が…もう使えないんだろ…?」

 

「…え?」

 

ソラウは、ケイネスの言葉に思わず驚いた。知っているなら、ケイネスという魔術師ならば、もっと激しく落胆すると思っていたのだが。

 

「それくらい、私にだってわかるさ。さっきから魔術回路に魔力を通そうとしても、何もできないんだからな…」

 

だがよく見ると、ケイネスは涙を流していた。目尻に涙をため、少しずつそれが頬を伝う。

 

しばらくしてソラウが口を開いた。

 

「でも、まだ聖杯戦争は終わっていないわ。ランサーは生きているし、私がいる限り現界させることは可能よ。だからケイネス…」

 

ケイネスは、視線だけをソラウへと向ける。

 

「ケイネス、貴方の令呪を私に頂戴?」

 

「な…!?」

 

「私が貴方の代わりに聖杯を手にいれて、貴方に聖杯を捧げるわ。ね?だからお願い」

 

いつになく、ソラウは優しい口調でケイネスを諭す。

 

「令呪は…渡せない」

 

それでもケイネスは否定する。

 

 

 

 

「その通りでございます」

 

 

 

 

「ランサー!?」

 

ソラウが思わず大声を出した。

 

「ソラウ様、そこまでにしていただきたい。我が主はケイネス様ただ一人。たとえそれがソラウ様の頼みであっても、ケイネス様が許さない限り私は同意することはできません」

 

ランサーはそう言いと、ケイネスへと近付いた。

 

「申し訳ありません!我が主よ!」

 

するとランサーはケイネスへと跪いた。

 

「私が…不甲斐ないばかりに…!」

 

それは、ランサーの本心であった。主がこんなことになる前に救うことができなかった、己の力量不足だと嘆いているのだ。

 

「ランサー、その腕は…」

 

「これは、キャスターに…」

 

ランサーは恥じるかのように言った。

 

「そうか…」

 

結局のところ、自分もランサーも、勝つことができなかったということ。その事実がだけがケイネスの心へと叩きつけられた。

 

「…ソラウ様」

 

ランサーは跪いたまま、ソラウの名を呼んだ。

 

「…あなたが私に抱いている感情は、偽りのものです」

 

「「!?」」

 

その言葉に、ケイネスもソラウも息を呑んだ。

 

「ラ、ランサー…?」

 

ソラウは、握る手を震わせていた。

 

「ソラウ様…貴方だって本当は気付いているはずです。それが、偽りのものだと」

 

「やめて…」

 

「私は生前、この呪いの貌ゆえ、同じ経験をしております。そしてそれは、結果的に彼女を…グラニアを悲しませることになってしまった。…それでも私は、過去の自分が間違っていたなどとは思いません。いや、思いたくないのです」

 

「おねがい…やめて…」

 

ソラウの頬を涙が伝うのを、ケイネスは見た。だが、それでもランサーは言葉を続けるり

 

「ソラウ様…貴方には言っておきましょう。私はきっと、貴方をこのままでは破滅の道へと誘うことになってしまいます。ですから今ここで言わせて頂きます」

 

「おねがいだから…」

 

__だがそんなソラウの訴えも虚しく響くだけ__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__私は、貴方を愛さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです

とりあえず一段落ついたので更新しました

さんざん引っ張っといて切嗣エミヤ進展少ないorz

構成下手で本当に申し訳ありません

今後は少しずつ更新のペースを上げていきます

これからもよろしくお願いいたします

それでは

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