どぞ
「ほほう、余の呼び掛けに答えるとは。やはり王を名乗るならばそうでなくちゃあるまい!」
ライダー___征服王イスカンダルは血に飢えた獣のように笑い、自慢の戦車に乗り敵であるアーチャー___英雄王と対峙した。
「我の王気を辿ってここまで来たのは貴様であろうが。それに、貴様のような不埒な蛮族がよもや王を名乗っていようとあるならば、これを罰するのも真の王である我の務めよ。」
英雄王は玲瓏な笑みを浮かべ、その真紅の双眸で戦車の手綱を握る大男を見据えた。
「フフン、思いの外乗り気で好都合だわい!」
「おい、ライダー!」
御者台からライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットが声を裏返しながらも叫ぶ。
「お前、何か勝算はあるのかよ!相手はあのアーチャーだぞ!?」
「さぁどうだかな。アーチャーめも恐らく余と同じく奥の手を隠しておる。」
「な、なんだよそれ!?奥の手!?」
ライダーはニヤリと笑う。
「余は征服王であるが故に、立ちはだかる敵は全て制覇する!坊主、今から余の“覇道“が何たるか見せてやろう!」
ウェイバーは、ライダーのその力に満ち満ちた言葉に、諦めと共に何故かその覇道を信じてみたいと思った。
「あぁもう、分かったよ!絶対に勝てよお前!」
「応よ、それでこそ余のマスター!」
ライダーは手綱を振るうと、轟轟と神牛がアスファルトを蹴り上げ、戦車は蹂躙という名の疾走を開始する。
「AAAALaLaLaLaLaie!!」
「雑種めが、王などと自称するなよ。何より…」
アーチャーは掲げた手を振り下ろした。
「__王は、二人もこの世に要らん」
__瞬間、数多の煌めきが降り注ぐ。
アインツベルンの城から数キロ離れた郊外に、切嗣はいた。
(ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを仕留め損ねたのは誤算だったが…マスターもサーヴァントもあの状態では、今後まともに戦うことはできないだろう。だが今は…)
「…そこにいるんだろキャスター、出てこい」
すると切嗣の背後に、紅い外套を纏った男が現れた。
「すまないマスター、ランサーを取り逃がしてしまった。挙げ句の果てには奴の片腕を獲るのと引き換えに、こちらも片腕を獲られてしまった。ランサーを倒さないことには、私は戦うことができそうにない」
「そうか…だがもうランサーたちの居場所は調べがついているから、やろうと思えばいつでも潰せる。」
切嗣は煙草に火をつけながら振り返り、キャスターを睨み付けた。
「さすがだなマスター。仕事が早くて何よりだ」
切嗣は、そんなキャスターのお世辞に応じることなく静かに煙を吐き出し、呟くかのようにキャスターに問いかける。
「記憶は…まだ戻らないのか?」
キャスターは先程まで浮かべていたニヒルな笑みから一転して、伏し目がちに答えた。
「それがねマスター、分からないんだ」
「…何?」
キャスターは切嗣へ逃げるように背を向けると言葉を続けた。
「仮に私が記憶を取り戻してたとしよう。だがそれが、その記憶が私には正しい物なのか、あるいは真実なのかが分からないんだ」
正確には分からなくなってしまった、と言うべきかもしれんがね、と呟くとキャスターは再び切嗣へと振り返った。
「私の言っていることが無茶苦茶だということは承知している。だが…」
「信じろとでもいうのか?」
キャスターの言葉を遮るように、切嗣は言った。
「マスターである僕に隠しごとをしているサーヴァントを信じろというのか?」
「……」
キャスターは俯いたまま、何も答えない。
すると切嗣は、右手を静かに掲げた。そこには、マスターがマスターである象徴。サーヴァントへの絶対命令権を可能とする証があった。
「待て切嗣!」
キャスターが焦り混じりの制止の声をあげだ。
「令呪をもって我が傀儡に命ず__」
だが、その声も虚しく響くだけであった。
「__キャスター、己の真名とその真の目的を明かせ__!」
教会の前では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
ライダーの戦車『神威の車輪』は天地構わず駆け巡り、その神牛の怒濤の蹄で、その最高神の力の具現でもある神の雷で、英雄王に一撃を加えんと肉薄していた。
「ぬぅっ!」
だが、それらは全て英雄王には届かない。なぜなら、彼が放つ幾多もの刀剣が、戦車の軌道を妨害し、尚且つライダーもろとも戦車を貫かんとしていたからだ。
「チィッ、全く厄介な能力だわい!」
だがそれでも戦車は止まらない。止まったところで、アーチャーの宝具に串刺しにされるだけだ。ライダーはさらに戦車を加速させ、アーチャーの周囲を再び旋回する。
「おいおいライダー、もう少し我を楽しませよ。的当てなどしてる場合か?」
アーチャーはその余裕の表情を崩すことなく、むしろ笑みを浮かべ、己の隙を探るために旋回を続けるライダーの戦車へ向け宝具を放つ。
「あわわわわわ!死ぬ!ライダー!なんとかならないのか!?」
ウェイバーは気を抜けば意識が飛んでしまいそうな中、御者台の手すりに必死にしがみつき掴まりながら叫んだ。
「方法はあるんだがな。こいつが一か八かでな。成功すれば奴に泡吹かせてやれるんだが…」
「…失敗すれば?」
ウェイバーは内心その答えを分かっていた上で問いかけ、ライダーはフフン、と鼻息を荒くしそれに答えた。
「まぁ、奴に貫かれて死ぬだろうな。」
「…やっぱり!」
ウェイバーは涙目になり叫んだ。
「だがやらなけりゃこのまま奴の的になるだけだぞ?」
「このまま逃げてたって、どうしようもないだろ!?いいよ!お前に僕の命を預ける!」
「ンハハハハハハッ!坊主!やはりお前は余のマスターにふさわしい!」
ライダーは手綱をにぎる力を強くする。
「だが坊主!この作戦はお前の力も必要なのだ!」
「…?」
ライダーは作戦の内容をウェイバーに話した。
「綺礼、状況は?」
時臣は己のサーヴァントの勝手な行動に溜め息をつきたいところだった。
『ライダーとの一進一退が続いております。アーチャーは全力を出してはいないかと』
時臣はそれを聞いてひと安心した。誰が見ているか分からない状況で、英雄王に奥の手を晒されては困るからだ。
「そうか…綺礼、君はライダーに戦車以外の切り札があると思うかね?」
『どうでしょう…師よ、ここでアサシンをしかけるのですか?』
「うむ…そうしたいところだが…綺礼、なにか問題でもあるのかい?」
どこか否定気味な声に時臣は問いかけた。
『いえ、構わないのですが。どうでしょうか、アサシン全てを使わずに、数人は残しておいては?』
「どういうことだね?」
『はい、未だ拠点が絞られていないキャスター陣営や、騎士王というイレギュラーがいる以上、アサシンの能力はまだ必要かと』
時臣はなるほど、と呟いた。
「確かにそうだ。ではアサシンに関しては君に任せよう。ありがとう綺礼」
『いえ、ただ必要なアサシンを集めるのにも多少時間が…!!』
綺礼の声が途中で途切れた。
「どうした?何かあったのか?」
『失礼しました。…師よ、ライダーたちに動きが』
「…!!綺礼、感覚の共有を!」
「いつまで同じことを繰り返しているのだ?いい加減飽きてきたぞライダー」
アーチャーは不満気に言う。手を掲げ、先程までよりもさらに多くの宝具を出現させた。
「戯れはここまでだ。失せるがいい」
「坊主、仕掛けるぞ!」
「あぁ、頼むぞライダー!」
「ん?」
アーチャーが幾つもの宝具を出現させると、どういうわけかライダーの戦車はアーチャーに背を向け逃げるように走り出した。
「おのれライダーめ、逃げるつもりか…!」
アーチャーは怒りを顕にし、具現させた宝具を一斉に放った。
「王である我を前にしての無礼、万死に値するぞ…!」
「かかったぞライダー!」
「おうよ、ギリギリまで引き付けるぞ!」
英雄王に背を向けた戦車のすぐ後ろからは、刀剣の刃の雨がが襲いかかろうと追いかけてきている。
その距離、十数メートル
「まだかよライダー…!」
その距離、数メートル
「もう少し辛抱せい!」
その距離、5メートル
「…!!」
その距離、3メートル。もはや、どう足掻いても、奇跡でも起きない限り避けることのできない宝具の雨。
「今だ!坊主!」
__そう、奇跡でも起きない限り。
「令呪をもって汝がマスター、ウェイバー・ベルベットが命ず__!」
その距離、数センチメートル
「__ライダー!アーチャーの後ろに回り込め!」
「…バカな、消えただと!?いや……!!」
アーチャーは、瞬時に状況を判断する。
「令呪…!!雑種ごときが小癪な真似を……!!」
振り返ると、先程まで己から逃げていたはずのライダーの戦車が。
「貰ったぞアーチャー!」
戦車は先程までとは比較にならないほどの魔力を、覇気を、轟雷を纏う。
「__これぞ征服王がイスカンダルの覇道の証__彼方にこそ栄え在り__いざ征かん! 遥かなる蹂躙制覇!!」
お久しぶりですSHIKIGamiです
4、5月と私にとって忙しいシーズンに入りました。
今回はなんとか合間をぬっての更新となります。
次回更新は時間があれば5月末、無ければ6月頭となります。
更新を待っているかたには申し訳ないです。
それでは、また