どぞ
「………」
黒の騎士王はキャスターの問いに答えることはなく、邪悪に染まった聖剣の柄を握り直した。
「その沈黙は、肯定として受け取っていいのかね」
「………」
「フン、ならば尚更わからんな。私が知っている騎士王は…」
瞬間、騎士王がキャスターへと斬りかかる。キャスターはこれを左手の莫耶で受け止める。
「私が知っている騎士王は、今の君のような在り方ではなかった…!」
キャスターは騎士王の腹部に蹴りを入れ、騎士王との距離をとる。
「…どうやら私と貴様とが経験した第五次聖杯戦争は、別物のようだ。」
騎士王はいたって冷酷な声でそう言った。
「平行世界…?なるほど、そういうことか。だが教えてくれないか?なぜ君は、そのような姿に…?」
騎士王はフッ、と不敵に笑った。
「なぜ貴様がそのようなことに拘るか…まぁいい、答えてやろう。」
「__私はとある経緯で聖杯と繋がりを持った。そして私は聖杯の正体を知った。憎しみ、呪い、あらゆる悪を知った。あぁそうだ、私は生前理想に生き、理想を追い、そして理想に殉じた。だからこそわかる。真の絶望を。…あぁキャスター、貴様にわかるか?英雄とは憎まれ、疎まれるのが本分だったのだ。」
「そうか、やはり君は“この世すべての悪“に…!」
キャスターはそれを聞くと、一人言のように呟いた。
「戯れが過ぎたな、キャスター。どちらにせよ、貴様はここで終わりだ」
そう言うと、騎士王は再び剣を構えた。
「ック…」
キャスターは苦悶に顔を歪ませた。
だがその瞬間、
「!!」
今まさに間合いをつめようとしていた騎士王の足元には、数本の短剣…ダークが刺さっていた。
「これは…アサシン!!」
複数のアサシンが騎士王を取り囲んだ。それはまるで、キャスターを守るかのように。
(言峰綺礼…)
「暗殺者ごときが…!全て、切り捨ててくれる…!」
騎士王は殺気を、魔力を放ち、アサシンたちに斬りかかる。
暗殺者には騎士王の一撃を避けることも、受け止めることもできない。だがそれでも、キャスターが逃げるだけの時間は稼げる。
キャスターはそれらを見届けることなく、その場をあとにする。
言峰綺礼に助けられる。彼にとってはこれは皮肉だが、まだ脱落するわけにはいかない。
(やらねばならないことが、山ほどできてしまったな…)
ただ、キャスターは思う。この聖杯戦争は、あの第五次聖杯戦争同様に狂っていると。
「なぁ坊主よ」
マッケンジー宅の2階、部屋で先程まで煎餅をかじりながらテレビを見ていたライダーだが、急に真面目な声でウェイバーに話しかけてきた。
「な、なんだよ急に」
ライダーは起き上がるとテレビを消し、神妙な顔でウェイバーの方へ向いた。
「昨日の戦から思っておったのだが、この聖杯戦争、どうにもきな臭い。」
「え?」
ウェイバーが驚きの声を漏らすと、ライダーも無言で頷いた。
「あの騎士王…あいつは本当に、“この聖杯戦争“に喚ばれたサーヴァントなのか?」
ウェイバーには、ライダーの言っている意味がわからない。
「どういうことだよ?」
「どういうことも何もないわい。余が言ったそのままの意味よ。やつは自分にはクラスが無いと言っておったな?その時点で、既に聖杯戦争というルールから逸脱しておるではないか。なにより…」
言いかけて、ライダーは困ったように顔を曇らせた。
「なにより、なんだよ?」
あのライダーがこんな顔をするのを、ウェイバーは初めて見た。故に、その言葉の続きが気になる。
「これは余の勘に過ぎんのだが…なにより、あの騎士王には何かまだ裏がある。それも、とてつもなく大きな裏が、な」
「?」
ますます、ライダーの言っている意味がわからなくなったウェイバーは、改めてライダーが言ったことを頭の中で整理する。
この聖杯戦争は普通ではなくて、騎士王は普通のサーヴァントじゃなくて、騎士王には重大な裏があって…それはつまり、
「つまり、どういうことだ?」
考えてみても、全く意味がわからなかった。
「そも、言ってしまえば本当に聖杯とやらがあるのかすらわからんからなぁ」
「え?」
「まぁいいわい、この話の続きはまた今度だ。それより坊主、戦の支度だ」
そうすると、先程までTシャツにジーパン姿だったライダーは、気が付けば征服王としての服装にもどっていた。
「戦ってお前、どうする気だよ!?」
「これはあくまで余の持論だが…」
フフン、と得意気な顔でライダーは話す。
「一番強いやつを倒せば、それより下の連中は余の軍門に入りたいと思うであろう?」
「んなわけあるはずミギャァッ!」
反論するウェイバーをデコピンで制し、ライダーは言葉を続ける。
「そういうわけで、今宵はあのアーチャーめを殴りに行くぞ!あの圧倒的な火力、そして騎士王の一撃を受けても尚倒れぬ打たれ強さ、まさに強者!」
そう言うとライダーは窓から身を乗りだし、キュプリオトの剣を振りかざす。切り裂かれた空間からは、ライダーの自慢の戦車が姿を現した。
「もう…いやだ…」
ウェイバーはでこをさすりつつ、涙を目に浮かべながら御者台に乗り込んだ。
言峰綺礼は、既にアインツベルンの森から脱し、教会の自室へと戻っていた。
騎士王との戦い…いや、一方的な虐殺と言うべきか、その時連れていたアサシンはほとんど失った。
「どうした綺礼、えらく今日は不機嫌だな。求めていた答えは見付からなかったか?」
さも当然かのように、英雄王は綺礼の自室に居座っていた。ソファで寝そべりながら、くつくつと笑みを浮かべる。
「………」
「なぁに、そう気にやむな。答えは、自ずと見えてこよう。魂が求めるものとはな、例えそれが無自覚であっても惹き付けられてしまうものだ。まぁ、自覚しているお前にとっては、惹き付けられるというよりも惹き付けるというほうが相応しいか」
「求めているものがなにか、わからないというのにか?」
アーチャーはそれを聞くと意味深な笑みを浮かべる。
「以前にも同じ質問をしたな、お前は。まぁいい。なぁ綺礼よ、ひょっとしたらもう既にお前は答えを得ているのかもしれんぞ?」
「な…に…?」
綺礼はそれを聞くと、アーチャーを睨んだ。
「そう怖い顔をするな。ただ単に、お前は答えを得ていても視えていないだけかもしれんと言ったのだ。」
「…そんなもの、ただの屁理屈と変わらん。お前の言葉遊びに付き合っている暇などない」
「そうかもしれんがな、我は間違ったことは言っていない。どちらにせよ、お前が己の在り方に悩む姿は、我にとって最高の酒の肴よ」
笑いながらそう言うとアーチャーは立ち上がった。
「どこへ行くのだ?」
「なぁに、今の我は気分が良い。雑種の戯れに付き合ってやるまでのことよ。」
そう言うと、アーチャーは霊体化しいなくなった。
「期待など毛ほどもしていなかったが…この程度か。全く、手応えのない…。」
アサシンの集団を瞬く間に斬り捨てると、黒の騎士王はこの周囲に既にキャスターがいないことを悟り、アインツベルンの森をあとにした。
「………」
騎士王は、先程のキャスターとの会話を思い出す。
『私の知っている騎士王は、今の君のような在り方ではなかった…!』
「…っ!!」
あの言葉を聞いたとき、間違いなく自分は苛立っていた。なぜだ。自分は既に絶望に身を委ねたはずなのに、あの男の言葉を聞いた時、自分の闇に染まった心が揺らいだ。
「次は、必ず斬り伏せる…!」
__これはあくまで勘だが、騎士王はあのキャスターこそが、此度の聖杯戦争において己がこの手で倒すべき最大の宿敵である、と判断したのだ
どうもお久しぶりです。SHIKIGamiです
特筆すべきことは今回はとくにないのですが、久し振りにハーメルンに投稿されているfateの作品を読まさせていただいたらですね、
もうどれも面白いのなんのですよほんと。
ちょっと日本語おかしくなってますね。
実は恥ずかしながら私、プリヤを未だに読んでいないのですが。
読んじゃおうかな…!