南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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多少遅れても切がいいところまで書いて投稿すべきか、
多少少なくても定期投稿すべきか…


8話

―もし、もし仮にだが……写輪眼よりもさらに特別な写輪眼があるとしたらさ……その開眼方法はなんだと思う?

 

記憶の中のサスケ君が葛藤しながら私に問いかけます。

 

特別な写輪眼。

選ばれた者の力。

地獄を見たら開く瞳。

 

思えば、この時私は疑問に思うべきだったのですよ。

なぜサスケ君がそのこと―――万華鏡写輪眼について尋ねたのかを。

 

 

 

 

 

 

「ぐにゃあ…」

 

私は潰れた猫みたいな声を上げて秘密基地…とはもう言えない研究室の床にひっくり返りました。

 

「さ、さすがに異なる属性の謎チャクラの同時取り込みは無理があったですね」

 

どうやら、流れ込む『謎チャクラ』が強力すぎて、私の経絡系では現状耐えられないみたいなのですよ。

 

経絡系とは全身にチャクラを流す通り道のことです。

太いものから細いものまで、全身に血管のごとく張り巡らされているのですが、観測する方法が限られているので詳しいことがあまり分かっていません。

普通の目には見えない器官ですから。

 

うう、私に経絡系を直接視認できる白眼があれば……日向に生まれていれば……

 

「……柔拳で毎日ボコボコにされるのでしょうね」

 

いや内部破壊だからボコボコにはなりませんか。

まあ、外側だろうが内側だろうが、どちらにしろボロ雑巾みたいにされちゃうことは間違いなさそうです。

私体術苦手なんですよね~

ああ、うちはで良かったです。

 

「…いっそヒナタさんに助力を頼んでみるとか」

 

ヒナタさんはサスケ君にお熱じゃないですから、その他大勢の女子連中と違って以前と同じ態度で接してくれる数少ない同級生なのですよ。

あとカナタもです。

なんだかんだ言って恵まれてますね私。

 

「…うん、機会があれば頼んで…でもそれで経絡系を観測できたとしても……」

 

仮に観測できて経絡系の問題点を見つけることができたとしても、その問題を解消する手段がないのでは、私が『謎チャクラ』に耐えられないという現状は覆りません。

ではどうすれば耐えられるようになるか……経絡系を鍛えるとか? んな無茶な。

 

いや、一応あるんですよ?

経絡系を鍛えるための修行メニュー。

アカデミーの授業で習いました。

しかしこれ、かなり根性論が入っているというか、効果が眉唾というか……私自身あまり期待してないんですよね。

 

チャクラ量と経絡系はほぼ先天的資質で決まり、後天的にはほぼ変化しないというのが私の見解です。

 

『悲しいことにね……チャクラ量が増えるのは生まれつき素質に恵まれた人だけなんだよ。持たざる者がいくら豊胸体操をしようが、牛乳をガブ飲みしようが、ペッタンコは所詮ペッタンコでしかないのと同じよ』

 

以上、スレンダー美人であるミハネお姉ちゃんからのやたら実感のこもった経験談でした。

 

……私はどうでしょうか?

うちは一族は代々図抜けたチャクラを有するとされてますけど……

今はそんなにありませんが、成長したら、いろいろ大きくなるのですかね?

 

こればっかりは将来に期待するしかありません。

頑張れ私の巨乳遺伝子(比喩ですよ)!

…もっとも、私だけが使えるようになっても意味がないのですがね。

誰でも使えるようになって初めてその技術は普及して便利な技術になるのですから。

課題は山積みなのですよ。

 

「っと、いけませんね。もうこんな時間ですか」

 

いや~楽しいこと(研究)をしてると時間がたつのを忘れちゃうのですよ。

私はいそいそと帰宅の準備をして、もはや名前だけの秘密基地をあとにします。

 

……むむ?

この気配は。

 

「サスケ君ですね」

 

私はアカデミーの方から走ってくるその気配を即座に見抜きました。

どうも『謎チャクラ』の取り込みをするようになってからやたらと感覚が鋭敏になってるのですよ。

というより、変換機から発生させたものとは別にそこら中から『謎チャクラ』を感じるようになったというか。

まさに、世界そのものを感じ取ってるような……ふっふっふ、なんとなく『謎チャクラ』の正体らしきものが分かってきましたよ。

これはあれです、仙道で言うところの『外氣』とかいう奴です。

自然エネルギーとでも言い換えましょうか。

 

思えば、当たり前と言えば当たり前のことでした。

忍びがこの世に生れ出てから数百年。

彼らは忍術を使い続けてきました。

それは言い換えればチャクラを炎や水、土などの自然現象に性質変化させ続けてきたということに他ならないのですよ。

今私が吸っている空気も、大昔の誰かがチャクラで発生させた風遁かもしれないし、今感じている熱もかつての忍者が使った火遁かもしれません。

もちろん水や大地にも同じことが言えるのです。

いや、性質変化されたチャクラだけではありません。

チャクラをチャクラのまま放出する術だってたくさんあるのですから。

 

忍びが跋扈するこの世界はチャクラに満ちているのですよ。

 

いや~予想外にスケールのデカい話になってしまいましたね。

これを話せば、カナタやサスケ君や頭の固い先生方も私のことを見直して……くれませんね。

ただの妄想と切って捨てられるのが落ちでしょう。

下手すれば『火』の『謎チャクラ』を取り込んだ時の悪夢の再現です。

やっぱり何らかの目に見える形ある実績が必要なのですよ。

 

 

 

「こんばんは、サスケ君。今日も今日とで居残り修行ですか? 精が出ますね」

 

「コトか。そういうお前はまたあの穴倉でバカなことしてたみたいだな」

 

サスケ君を感知して発見した私は、なんとなく合流して一緒に帰路につきました。

本当になんとなくです。

この『なんとなく』という感覚が友達付き合いでは思いのほか重要だったりするのですよ。

少なくとも以前の私なら『なんとなく』サスケ君を避けていたでしょうし。

 

「今日は何のトレーニングを?」

 

「手裏剣術だ。投げた苦無に後から投げた苦無をぶつけて軌道を変化させて、死角にある的に命中させるんだ…なかなか上手くいかない」

 

「それはもはや忍者の技能じゃなくて曲芸師の御業なのでは?」

 

バカなことしてるのはどっちですかと言いたくなります。

なんというか、私には想像もつかないようなことをやろうとしてるのですよ。

 

「兄さんは出来るんだ。俺だってやってやる」

 

「またサスケ君はイタチお兄さんのこと…」

 

「いや、以前の話で目は覚めたよ。兄さんのあの力が悲劇の産物だったなんて考えもしなかった。だからもう闇雲に後を追ったりはしない。だけどやっぱり目標なんだ。俺は俺のやり方で兄さんを超える」

 

そしていつかは兄さんをこれ以上の悲劇から守れるようになりたい、とサスケ君。

ずいぶん大きく出ましたね。

いや~見直したのですよ。

男の子の成長はびっくりするほど唐突です。

 

「サスケ君ならきっとできますよ。私と違って優等生ですからね」

 

「お前だって十分に天才だろ?うちはなんだから。もっと真面目に修行すれば…」

 

「聞~こ~え~な~い~」

 

目標をまっすぐに目指すのは結構ですが、それを私に巻き込まないでください。

私とサスケ君とでは目指す先が別なんですから。

 

 

 

 

 

 

その後。

サスケ君と別れて私は1人、南賀ノ神社への道を歩くのですが……気づけば早足になり、しまいには全力疾走になってました。

 

おかしい。

神社の様子が、というかうちは領全体が何かおかしいです。

以前までの私なら気づかなかったかもですが、連日の『謎チャクラ』取り込み実験によって鋭敏になった私にはその異様さを文字通り肌で感じ取れてしまいます。

 

何か良くないものの気配がする…のではありません。

逆に何も感じないのです。

本堂にいるはずの両親の息遣いだけではありません。

 

現在、私の感じる限り、うちはの敷地には人っ子1人いないのです。

いや、そんなわけあるはずがありません。

少なくともサスケ君はいましたし、警務部隊が詰め所を空っぽにするなんてあり得ません。

きっとあれです。

私には及びもつかないような隠遁を使ってるのですよ。

それか防災の一環か何かで気配を消す結界を敷地全体に張り巡らせたとか…

そうですよ。

子供の私ですら気配を殺す手段をこれだけ思いつくのですから、ベテランの忍びである大人にできないわけはないのです。

 

なのに……なのに……

 

「……なんでこの胸騒ぎは止まらないんですか」

 

っ!違います!

これは胸騒ぎなんかじゃないです。

きっとあれです、久方ぶりに全力で走ったから息が切れているとかそんなのに違いないのです!

 

私はそう自分に言い聞かせながら鳥居をくぐり、本堂に駆け込みます。

そして―――

 

「……お母さん? お父さん?」

 

―――血に塗れて倒れている両親を見つけたのでした。

 

 

 

 

 

 

のど元から込み上げてくるそれを私は気力を振り絞って飲み込みました。

どんな姿になってもお母さんはお母さん、お父さんはお父さんです。

間違っても吐くような真似は娘として、いや人としてやってはいけないのです!

 

私は気を取り直すと、倒れる両親に駆け寄ります。

しかしその足取りは思った以上に緩慢で頼りないものでした。

 

「……そんな」

 

両親はすでにこと切れていました。

頸動脈を刃物で一閃、失血死です。

体温もすっかり冷たくなっています。

もう何の施しようがないのです。

 

私は呆けたようにその場に座り込みました。

 

吐くのは気力で我慢できました。

パニックを起こすのも同様です。

でも、それでも、涙だけは堪えられませんでした。

 

「どうして…こんなことに」

 

今朝までは普通に生きてたのに。

どうして私の家族だけがこんな…いや、私の家族だけじゃない? 

ひょっとして人の気配を全く感じないのは、もうすでに……

 

「……違う!」

 

私は頭を振ってその最悪の想像を振り払います。

まだ、まだです!

まだミハネお姉ちゃんがいる、サスケ君がいる、こんな私がのうのうと生き残ってるのですから、他にも生き残っていないわけがないのですよ!

 

私は、意識を集中して人の気配を探りました。

 

まだ、まだどこかに人の気配が…

 

「あった!」

 

ありました!

間違いありません、これはミハネお姉ちゃんの気配。

それもすぐ近くです!

 

でも大変です。

気配がどんどん弱くなっていくのです。

このままではまずい!

 

私はすぐさま本堂を飛び出しました。

 

 

 

「お姉ちゃん!」

 

私は両親と同じく、本堂の近くの通りで両親と同じく頸動脈を切られて血まみれで倒れ伏すミハネお姉ちゃんに駆け寄りました。

そんな、間に合わなかったのですか?…

 

いえ、まだです。

まだ温かい。

確かに心臓は止まってますが、これならまだ間に合います!

 

学んでよかった医療忍術!

常備していてよかった増血丸!

私はすぐさま掌仙術で首の傷をふさぎ、口に増血丸を突っ込んで『起水札』を貼り付けます。

 

誰が下手人か知りませんが、綺麗な切り傷で大変ありがたいのです。

なるべく苦しまないように~的な配慮でしょうか?

なんにせよおかげで私ごときの掌仙術でも割と楽にくっ付けられます。

そして増血丸と『起水札』で輸血して……あとは動いていない心臓を何とかするだけです。

 

私は『起雷札』をミハネお姉ちゃんのはだけた胸に貼り付けます。

ここからは教科書に載っていない、オリジナルの医療忍術です。

出来るかどうか、は考えません。

出来る、と信じるのみなのです!

 

「符術・心肺蘇生!」

 

瞬間、ミハネお姉ちゃんの身体がビクンと跳ねました。

いわゆる身体操作術の応用です。

一般人が神経系を流れる電気で筋肉すなわち身体を動かすのに対し、忍びは経絡系を流れるチャクラでも身体を動かすことが可能なのです。

一流の忍びになれば、自在に精密に身体を操作して上位の体術を繰り出したりもできるようですが、私はそんなことできないし今はする必要はありません。

重要なのはこの術でもってすればミハネお姉ちゃんの身体―――心臓や肺を動かすことが理論上可能だということです。

あくまで理論上でしかないのが不安要素でもあるのですが。

 

「……ごほっ」

 

「できた!」

 

お姉ちゃんの呼吸が戻った!

理論の勝利!

いけます!

このままいけば助けられます!

 

いや~常に冷静に、というのは何も忍びに限った教訓ではありませんね。

パニックを起こさず的確に対処することこそ窮地において活路を…

 

 

 

パシュッ

 

 

 

「あ…れ?……」

 

なぜ、急に私の首から血が噴き出しているのでしょう?

お姉ちゃんが血で汚れちゃうじゃないですか。

 

…ああ、どうやら私は私が思うほど冷静ではなかったようです。

頭に上っていた血が抜けてようやく実感しました。

普段の私なら気づいたはずでした。

なぜ気づかなかったのか。

お姉ちゃんが死んでまだ間もなかったということは、すなわちその犯人もまだ近くにいるということじゃないですか。

 

視界がどんどん暗くなっていきます。

これはもう駄目ですね。

 

痛みがないのは下手人の慈悲でしょうか?

分かりません。

 

眠くて何も考えられ……な……

 

 

 

 

 

 

瞬間、うちはコトの意識は闇に閉ざされました。

 




主人公は、非戦闘系忍術全般を積極的に学んでます。

医療忍術などがその筆頭ですね。

チャクラで身体操作をするというのは原作でもあります。
中忍試験の3次試験予選で、体の関節を外しまくってチャクラでそれを操る能力を持った忍者が登場しました。
他にも体術使いをはじめとした人間離れした動きをしてる面々は大体これで説明がつくはず。

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