南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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連日投稿は無理でした…


7話

またしても帰るのが遅くなってしまいました。

まあそれはいいんですけど。

早く帰っても居心地悪いだけですし。

休日の悲劇、通称『六道仙人の後継者(笑)』事件(命名、うちはコト)の根はあまりにも深い…

 

しかし、遅くなるのはともかく不必要に時間と労力を費やしたのは個人的に納得しづらいものがありますね。

まさか掃除の際に忍術(というか私の場合『符術』)の使用を禁止しやがるとは予想外もいいところなのですよ。

スズメ先生は頭が固すぎます。

 

「『忍術はもっと崇高な目的のために使用するべきであり、このような些末なことにしてはいけません』ですって…バカバカしいにもほどがありますよ全く」

 

他にも「忍術の秘密が他里に漏れる」だとか「貴方には自重と慎みが足りない」などなどいろいろ言われた気がします。

 

ほとんど聞き流しましたけどね!

 

「崇高な目的ってなんですが掃除が低劣だともで言いたいのですか戦闘行為のどこが崇高なんですか結局人殺しじゃないですか……」

 

「フン、ずいぶんと不機嫌だな。『六道仙人の後継者(笑)』サマ?」

 

「私をその名前で呼ばないでください!」

 

私は相手が誰かもロクに確認もせず、勢いのままアカデミーの校門に立っている少年の陰に向かってダイナミックエントリー(超低空飛び蹴り)を仕掛けます!

 

―――あっさり避けられて私は地面をゴロゴロと転がりました。

 

…掃除でただでさえ薄汚れていたのに、さらに泥だらけに。

泣きっ面に蜂とはこのことです。

 

「いったいなんなんですかサスケ君!?」

 

私はガバッと立ち上がり、少年―――うちはサスケに食って掛かります。

よもやまだバカにし足りなかったとか言いませんよね?

もしそうなら本気で泣きますよ私!?

というかもうすでに涙目です!

涙腺は決壊寸前なのですよ!

 

「ついてこい」

 

結局、サスケ君は私の質問には何1つ答えることなく勝手に歩き出します。

相も変わらずスカした態度の少年です。

なぜこんなのがくのいちクラスで人気ナンバーワンなのでしょうか?

 

……やっぱり顔なんでしょうか。

分かりません。

 

そういえば、校門のところに立っていたってことは私の居残り掃除が終わるのを待ってくれていたと考えていいのですかね。

 

「……」

 

「……」

 

か、会話がないのです…

おかしいです、小さい頃にはもっと自然に…けど今は空気が重い。

なぜこうなったし。

 

「あ、あの…」

 

「黙ってついてこい」

 

「はい」

 

私は「うちは一族」のうちはコトですけど。

最近「うちは一族」が苦手になりそうです(家族除く)

 

 

 

 

 

 

会話らしい会話もないまま、私はサスケ君に家まで連れてこられました。

うちはの敷地の中でもひときわ大きな屋敷です。

棟梁の家ですね。

というかサスケ君の家です。

 

何? どういうこと?

今回のこれは久しぶりに一緒に家で遊ぼうとかそういうお誘いだったのですか?

 

「待ってろ」

 

サスケ君は絶賛混乱中の私を軒先に立たせたまま、1人家に入っていきます。

本当に意味が分かりません。

 

玄関から家の様子を覗いてみると、何やらサスケ君がフガクさん(うちは棟梁。サスケ君とイタチお兄さんのお父さんです)と話しているのが見えます。

 

「父さん、もう1回術を見てほしいんだ」

 

「豪火球の術か? 無駄だ。たかが一週間程度でもう1度見たところで…」

 

「違うそうじゃない」

 

「?」

 

「術、完成したんだ……父さんに見てほしくて」

 

この時、私は己の勘違いに気づきました。

道中サスケ君の口数がやたら少なかったのは、スカしていたからではなく緊張していたからだったのですね。

 

 

 

 

 

 

明るい…

まるで昼に時間が戻ったかのようです。

私は素直に感心しました。

 

サスケ君が口から吐いた特大の火の玉は溜池を覆い尽くして広がり、水面に激しく波紋を作り出して乱反射しキラキラと輝いています。

まさしく豪火球。

私の観察する限り、チャクラ量もチャクラ圧も申し分なく印も完璧です。

 

サスケ君は見事『火遁・豪火球の術』を成功させたのでした。

 

サスケ君は期待の籠った表情でフガクさんの方を振り向きます。

フガクさんは何も言いません。

 

私の知る限り、フガクさんはクールなうちは一族の中でもブッチギリで寡黙な人です。

悪い人ではないんですけどね。

何度かチャクラの扱いの手ほどきを受けたこともありましたし術式に関して熱い議論を交わしたこともあるのですよ(ちなみにその時サスケ君はイタチお兄さんと一緒に手裏剣術の練習をしていました)

 

フガクさんは無言のまま踵を返します。

よもやそのまま何も言わずに立ち去ってしまうのでは…と私が危惧した直後フガクさんがようやく口を開きました。

 

「さすが、俺の子だ」

 

サスケ君の顔が歓喜に輝きました。

 

…惜しいですね~いつもそういう顔をしてくれたら私ももっと心穏やかに対応できるんですけど。

 

「たった一週間でよくやった」

 

「お、俺だけの力じゃないんだ。コトのやつからコツを教わって…」

 

「そうか、俺からも礼を言わせてもらおう」

 

サスケ君のしどろもどろの説明を聞いて、フガクさんが私に笑いかけます。

 

うわぁ、フガクさんの笑顔とか初めて見たかもです。

いつも笑ってくれればなぁ…そうすればうちはの印象も明るくなるのに。

一番印象深いうちはの笑顔って私の中では『あの時』の苦笑いなんですよ……今思い出しても泣けてきます。

 

「サスケにコツを指南したということは、コトもこの術を?」

 

「いえ、私はあんな大きな炎は出せません」

 

フガクさんの質問に私は首を振ります。

もっとも、『起火札』を使えば話は別ですが。

便利なんですよね本当。

便利すぎて頼ってしまうが故に印の練習がかなりおろそかになってます。

一応、完璧に結べるんですがそれだけです。

素早く結ぶのは苦手です。

イタチお兄さんみたいに霞むような速度とか夢のまた夢です。

 

「そうか、それでも大したものだ」

 

「コト。俺からも改めて礼を言う」

 

 

ああ、今日はいい日です。

うちは一族に生まれてよかったとこの時私は心から思ったのでした。

 

 

 

「…何かストレスを感じているようなことがあれば遠慮なく「感じてません!」…そうか」

 

私は断じて心の病を患って『六道仙人の後継者(笑)』になったわけじゃありません!

うう、どうしよう?

このままだと、六道仙人様を嫌いになってしまいそうです……

 

いや本当にどうしましょう?

 

 

 

 

 

 

サスケ君が『火遁・豪火球の術』を習得したあの日以来、私とサスケ君はちょくちょく話すようになりました。

小さい頃と同じように、とまではいきませんがそれでも半絶縁状態だった今までと比べれば格段にマシです。

ただ、それに伴ってクラスの女子からはまるで泥棒猫を見るような視線を浴びせられるようになりましたが。

特にサクラさんといのさんの視線はヤバいです。

殺気立ってます。

ぶっちゃけ超怖いです。

 

そんな関係じゃないのに。

 

「ったく。またお前はこんなところに引きこもって」

 

「余計なお世話です」

 

いや本当にそんな関係じゃないのに。

 

というか、サスケ君? あなたは何で私の秘密基地で寛いでいるのですか?

 

 

先日のあれ……口に出すのも憚られるあの事件により秘密基地は建前の上でも秘密じゃなくなってしまいました。

あの時の『私』はよりにもよって地面にカムフラージュしていた扉を開けっ放しにした状態で飛び出したのですよ。

意図せず秘密基地の入り口大公開です。

もっとも、カナタ曰くそもそもが公然の秘密であったらしいのですが、それでも一応は隠れて秘密基地の体裁を保っていたというのに…

おかげでサスケ君が時々遊びに来るようになってしまいました。

腹立たしいです。

何が腹立たしいって、ちょっと嬉しく感じちゃってる自分が一番腹立たしいです。

これじゃあただの個人的私室兼研究室じゃないですか……あれ?それはそれでありかもです?

 

 

「そんなことしてる暇があったら修行の1つでもしたらどうだ? そうすれば今頃お前は…」

 

「あ~もう別にいいじゃないですか。この修行マニアが」

 

「うるせえ研究マニア」

 

う~ん、まさかサスケ君からまでアカデミーの教師と同じことを言われるようになってしまうとは。

優等生め、そんなに強くなりたいなら勝手に一人で強くなってくださいよ本当に。

 

「そもそも強くなってどうするつもりなのですか?」

 

「決まっている。兄さんに追いついてそして…」

 

「…この間フガクさんにイタチお兄さんの後は追うなって言われたばかりじゃないですか」

 

そう、サスケ君が豪火球の術を取得したその日、フガクさんは去り際に「もうイタチの後は追うな」と言い残したのです。

 

「詳しい事情や理由は部外者である私にはさっぱりですが、フガクさんがそういうからには何か理由があるはずなのですよ。サスケ君ならおおよその事情が察せるはず……って、聞いちゃいませんね」

 

無視です。

私の警告なんてどこ吹く風です。

 

う~ん、やっぱりこれって兄弟がいる人にしか分からないことなのですかね。

 

もちろん私にもミハネお姉ちゃんはいます。

しかし、それでも私はこれまでお姉ちゃんのことを尊敬はしてもそうなりたいとは思ったことはありません。

お姉ちゃんはお姉ちゃん、私は私なのです。

そして私は私が好きな『私』になるだけなのですよ。

 

ちなみにその『私』とはみんなに認められた私であって、断じて『六道仙人の後継者(笑)』などではありません。

 

「兄さんは7歳でアカデミーを卒業して、8歳で写輪眼を…立ち止まってる暇なんか…」

 

サスケ君はどこかここじゃない遠くを見つめてぶつぶつ呟いています。

私なんて文字通り眼中に入ってません。

いったいその眼には何が見えているのでしょうね…しかしさすがにこれはたしなめた方がいいですね。

 

「アカデミーの飛び級卒業はともかく、写輪眼の早期開眼は止めておいた方がいいのですよ」

 

「……? どういう意味だ?」

 

「そのままの意味ですよ。もっとも、意識してどうにかなるものでもないようですが」

 

あれは『その瞬間』が来たら否応なく開眼しちゃうみたいですし。

 

「そもそも、サスケ君は写輪眼の開眼条件を知っているのですか?」

 

「っ!? コトは知っているのか!?」

 

血相を変えて詰め寄ってくるサスケ君。

ああ、嫌です本当に。

かつての―――家族の話を聞く前の私を見るようで本気でイヤです。

 

「…お父さん、うちはハクトは任務で仲間を目の前で失ったとき開眼したそうです」

 

「……っ!」

 

思わず絶句するサスケ君。

 

「お母さん、うちはウヅキは2人の瀕死の重傷を負った子供を前にして、どちらか一方しか助けられないという選択を迫られて、それでも無理にでも両方助けようとして……気づいたら開眼していたそうです」

 

私は「結局子供は助けられたのですか?」とは聞けませんでした。

聞けるわけないのです。

ただ言えるのは、その話をするお母さんはとても辛そうでした。

 

「ミハネお姉ちゃんはもっと単純なのですよ。ただ死にかけて、無我夢中で生き残ろうとした。開眼したのはその時だそうです」

 

ミハネお姉ちゃんは具体的なことは何も言いませんでした。

そして私も何も聞きませんでした。

言いたくないだろうし、聞かせたくもないだろうし、何より私自身が聞くのが怖かったですから。

 

「……」

 

とうとう黙り込んでしまったサスケ君。

 

サスケ君はとても頭が良い男の子です。

ここまで言えば察することができるのではないでしょうか。

 

「もう大体理解したんじゃないですか? 写輪眼の開眼方法」

 

「……精神的ショック。それも相当な…」

 

「悪い冗談みたいな話でしょう? 衝撃を与えたら開眼するなんて」

 

まるで接触の悪いテレビみたいじゃないですか。

ただし与える衝撃は物理ではなく精神ですが。

 

「お父さん曰く、うちはの写輪眼は悲劇の証。うちはの黒目は平和の証だそうです」

 

本来ならたとえ素質がある人でも一生開眼しない方が良いのだそうです。

無論、だからと言っていつまでも開眼しないでいられるなんて都合の良い話がまかり通るほど世の中甘くないことくらい私にも分かります。

サスケ君も、そして私も、うちはの血を引いている以上、将来忍びになって任務に就くようになればいずれ『そういう目』にあって開眼することになるでしょう。

 

でも、それは今じゃありません。

 

「もう一度言います。早期に写輪眼に開眼したって良いことないですよ。というか、良いことなかった人が開眼しちゃうんです」

 

イタチお兄さんが8歳で写輪眼を開眼したというのは凄いことなのです。

凄まじい限りです。

しかし、それはあくまで凄まじいことであって素晴らしいことじゃあないのですよ。

イタチお兄さんがその歳で写輪眼を開眼したということは、裏を返せば、その歳でそれだけの悲劇を体験したという証なのでしょうからね。

 

「……っへ! つまりあれか? 甘ちゃんのコトはビビってるのか?」

 

「むしろ逆に聞きたいくらいなのですよ。 サスケ君はビビってないのですか?」

 

「……っく」

 

って、意地悪な質問をしちゃいましたね。

サスケ君のその態度は明らかに虚勢であると分かっていたのに。

怖くない筈がないのですよ。

写輪眼を開眼するその瞬間は、何か大事な別の『何か』を喪失した時なのかもしれないのですから。

 

 

…気づけば、ずいぶんと居心地の悪い空気になっちゃいましたよ。

駄目ですね。

せっかく仲良くなれたのに。

 

「……あ、あのさ」

 

「なんですか?」

 

サスケ君は何やら葛藤するような様子で

 

「もし、もし仮にだが……写輪眼よりもさらに特別な写輪眼があるとしたらさ……」

 

その開眼条件はなんだと思う?

 

サスケ君のその問いに、私は南賀ノ神社の神様群を思い出しました。

うちはの中でも、特別な力に目覚めた選ばれた人たちにしか会えない神様達。

私は考えます。

もし、その神様に会う条件が、写輪眼を超えた写輪眼を開眼することだとして。

そんな特別な写輪眼を開眼しようとすれば―――

 

「―――当然、写輪眼を開眼するとき以上の地獄を見ることになるのでしょうね」

 

それこそ、流れた涙が枯れつくして血の涙を流すほどに。

 




白眼と違って写輪眼がうちはの中でも限られた人しか開眼しないのって、血の濃さの問題じゃなくて精神性の問題じゃないかと思います。
穏やかな心を持ちながら、それでいて激しいショックを受けたときに目覚める…って表現するとどこぞの戦闘民族みたいですが。
そうなると血筋は十分でも、死を割り切って考えて感情を殺してしまうリアリストや、正真正銘仲間の死を何とも思わない破綻者なんかは最初から開眼条件を満たせないわけで。
忍びに向いてない優しい人だけが写輪眼を開眼できるというのは皮肉が効いていてなかなかにエグい設定です。

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