「……何かあったの? いや、何かあったのかは確実ね。質問を変えるわ。何があったの?」
「いえ、別に。ただちょっと自己嫌悪に陥ってるだけです」
「……コトが自己嫌悪?」
カナタが私のことをありえないものを見るかのような目で見てきます。
落ち込んでる私がそんなに珍しいか。
珍しいですね。
下手すれば消沈したのって物心ついてから初めてかもしれません。
アカデミーの教室で私は物憂げに溜息つきます。
ただでさえ真っ白なのに、今の私はいつにもまして灰のように真っ白に燃え尽きているのでしょう。
太陽がまぶしいのです……
「…っ!? しおらしいコト……だと?」
こらカナタ。
劇画タッチで硬直するな。
天気の確認なんかするな。
雪なんて降りません!
…いや降ったら降ったでこの後の隠遁の授業が楽になるのでありがたいですが。
なんと私、背景が雪景色の場合に限り、隠れ蓑なしで『隠れ蓑の術』が使えちゃうのですよ!……だからどうしたって感じですねはい。
バカなことを考えました。
恐ろしく乾いた笑みが口から洩れます。
吹っ切ったつもりでしたが、相当参ってるみたいです私。
先日の『謎チャクラ』取り込み実験は、私に良い結果と悪い結果を残しました。
お約束としてまずは良い結果から。
懸念していた後遺症の類はとりあえず発生しませんでした。
少なくとも今の私には異常は全く見られません。
むしろ元気モリモリです。
『謎チャクラ』が厳密にはチャクラではないとはいえ、チャクラに似た存在であることには変わりがないわけで。
通常のチャクラ同様、肉体活性の効能が発揮されたのかもしれません。
データを取るため何度も何度も属性を変えて『謎チャクラ』を浴びたせいで妙に力が湧いてきます。
身体は元気なのですよ。
あくまで身体は。
精神面はズタボロですが。
そして悪い結果を残したのは取り込んだ際です。
身体が元気になるのは良いのですが、そのメリットを打ち消して有り余るほど取り込んだ時の副作用がひどい(泣)。
しかも変換元の属性によって副作用が全く違います。
最初に取り込んだ『雷』から変換した『謎チャクラ』は全身に激痛を走らせます。
確かにかなりひどいリスクと言えますが、しかしながら他に比べたらその程度は極めてマシだと言わざるを得ません。
『水』は全身に謎の斑模様が浮き出て毒々しく変色。
元が白い肌なので余計に目立って鳥肌が立ちました。
『土』に至っては肌の色どころか体系が骨格レベルでバキボキ変形、奇形で異形の怪物に成り果てました。
いや本当に元に戻ってよかったです。
もしあのままだったとか思うと本気で自殺を考えなければなりません。
角とか普通に生えてきましたからね。
見た目だけで言えば妖怪鬼女です。
『風』の場合は、意識がすっと遠くなります。
『水』や『土』ほど大々的な副作用がないのはありがたいのですが、気が付いたら意識が飛んでしまうので記録が取りづらいのなんのって。
おかげで何回も何回も取り込む羽目に。
そして『火』は……『火』は…
「―――うにゃああああああ!!」
「こ、コトさん!? 急にどうしたのですか?」
授業中にいきなり頭を抱えて叫びだした私に対し、くのいちクラスのアカデミー女教師が戸惑いの表情を浮かべています。
クラスの同級生も驚いた様子です。
「こ、コトちゃん?」
「いったい何が?……はっ!? まさかコトのやつも私と同じで内なる自分を!?」
「……」
名門一族のおかっぱ少女、日向ヒナタさんが目を白黒させ(白眼なのに白黒とはこれいかに)
広いおデコと桜色の髪にリボンがチャームポイントの春野サクラさんが何やら戦慄したように私を凝視し。
クラスのリーダー格である金髪美人の山中いのさんは呆れたように溜息をついています。
寡黙で真面目な黒髪美人の月光マイカゼさんは我関せず。
私の唯一とも言っていい話し相手である空野カナタは必死に視線をそらして他人のフリ。
何やら目立ってますが、私はうちはで真っ白て問題児なのでもともと浮いているようなもんですから大したことじゃありません。
いや、本当は大したことなのですが、それ以上に悶えずにはいられないのですよ。
恐るべきは『火』を元に発生させた『謎チャクラ』を取り込んだ際の副作用。
『水』や『土』のように外見に変化があるわけではなく、『風』のように意識が飛ぶわけでもなければ、ましてや『雷』のように痛いわけではないのです。
いや、痛いと言えば痛々しかったかもです。
物理的にではなく精神的に。
『火』の『謎チャクラ』を取り込んだ私は精神に異常をきたしたのです。
性格が一変して狂暴化―――たぶん狂暴化だと思います―――してしまった結果……悲劇は起こりました。
その時の『私』は勢いよく秘密基地から飛び出し、なぜかうちはの敷地で一番高い家の屋根によじ登りました。
突然現れた奇行少女に多くの視線が集まる中、『私』は不敵な笑みを浮かべてフゥ~ハッハッハと馬鹿笑い(その時の私的には極めて遺憾なことに高笑いのつもりでした)
戸惑いのざわめきをBGMに『私』はマントをバサッと翻すような動作(マントなんかつけてないにも関わらず)をして―――
『我こそは六道仙人の正統なる後継者!この混沌とした世の中に裁きの鉄槌をくだす者にゃり!』
―――思えば確かにそれは『わたしがかんがえたさいきょうのあくにん』像でした。
穴があったら入りたいと思った私を誰が責められますでしょうか?
しかもセリフを噛むという徹底ぶり。
お願い誰か私を殺して…
その後、紆余曲折を経て『第四次忍界対大戦開戦です!』とか『外道魔像をけしかけるぞ!』とかいろいろとアホなことを口走って大暴れ(のつもりでした。対外的にはただのごねた子供だったとのこと)する私を、わざわざ駆けつけて来てくれた木ノ葉の精鋭警務部隊に苦笑いと共に取り押さえられたのでした。
しばらくして正気に戻った私は、騒ぎを聞きつけて通りかかったイタチお兄さんに優しく、最近の刺々しさはいったいなんだったんですかと言いたくなるくらい本当に優しく頭を撫でられたのです。
『まあその、あれだ。うちはの子供には珍しいことじゃないさ。だから気にすることはない』
慰められるのがキツいと感じたのは初めてでした。
違うんですこれは何かの間違いなんです。
お母さんやお父さんまで出張ってきて「何か悩みがあるなら言ってくれ」的なことを言われ……罵られる方がマシです!
結局、終始笑ってたミハネお姉ちゃんの対応が一番救われたという不思議。
そしてゴミを見るような視線を投げつけてきたサスケ君(イタチお兄さんと一緒に来ていました)。
いつかお返ししてやるのです。
サスケ君が同じような精神状況に陥って「俺は復讐者だ(キリッ)」とか言い出したら思いっきり憐れんでやるのですよ!
だからとにかく今は叫ぶのです。
机に思いっきり頭を打ちつけながら。
「忘れろ忘れろ忘れろ記憶飛べ飛べ飛べぇ~!!」
「こ、コトちゃん! なんだかよくわかんないけどもうやめてぇ!」
なお、その授業はヒナタさんが本気で泣き出したことにより中断。
私は騒ぎを起こした罰として放課後居残りで掃除をすることに。
罰則がありがたいです。
本気で居心地悪いですからね今のうちは領。
うちは一族は絶対罹患者多いと思うんですよ(確信)
少なくとも波風ミナトだけってことはないはず…