その後、ナルト君共々イルカ先生にラーメンを奢ってもらったり、先ほど私が使った符術の話題で盛り上がったり、ナルト君に「何枚かくれ」と言われたり、イルカ先生に「絶対にいたずらにしか使わないからやめろ」と言い合ったり……
うちは一族の敷地内に帰るころにはすっかり遅くなってしまいました。
ちなみにうちは一族の領地は木ノ葉隠れの里の中でははずれに位置しています。
なぜなんでしょうね?
エリート一族なら日向同様に里の真ん中あたりにでーんと屋敷を構えていてもおかしくないと思うのですが。
おかげでアカデミーの通学路がやたら長くて億劫です。
ひたすらお札くれとせがんでくるナルト君をあしらうのに苦労したのも相まってへとへとです。
スタミナのバケモノであるナルト君とは違うのですよ私は。
「まあ、仮にナルト君に渡しても使えないのですが」
そう、札を用いた忍術『符術』は今のところ私にしか使えないのです。
というのも札に練り込まれているのは私のチャクラなので、他の人ではうまく扱えないのですよ。
いずれは誰でも使えるようにしたいですね。
そうすれば、たとえ忍者じゃなくても忍術が使えるようになるはず……戦場以外の一般家庭に忍術が普及すれば世界は今よりずっと豊かになるに違いないのですよ~
要改良です。
「……?」
はて?
視界の端で何やら炎のようなものが煌めいたような?
火事?
「……いえ、あれはサスケ君でしょうか?」
黒髪にやや釣り目気味の端正な顔立ちのイケメン少年、間違いなさそうですね。
何やら溜池の前で印を組み口から炎を吐き出す、というのを延々と繰り返していました。
おそらく火遁の術、印を見る限りあれは……
「火遁・豪火球の術、ですか?」
「っ! 誰だ!?」
驚いたようにこちらを振り返るサスケ君。
よほど集中していたのでしょうね。
「ってなんだコトか」
「術の練習ですか。頑張りますね」
「練習じゃない。修行だ」
どう違うのでしょう?
難易度?
「邪魔すんな、落ちこぼれはとっとと帰れ」
しっしと虫でも払うように手を振るサスケ君。
ムカァ
た、確かに私はサスケ君に比べたらヘボかもしれませんけど、落ちこぼれは言い過ぎなんじゃないでしょうか。
一応総合的には真ん中程度の成績ありますし。
はぁ
もっと小さい頃は仲良しだったはずなのですが。
何時からでしょうね。
サスケ君が私を見下すようになったのは。
どうにもナルト君と一緒になって問題行動を繰り返す私が気に入らないようなのです。
うちはの恥さらし~とでも考えてるのでしょうかね。
仕方ないんですよ、読みたい本が、知りたいものが、そこにしかないんだったら忍び込むしかないじゃないですか!
だって私忍びだもん!
「確かに私は忍者の才能はないかもしれません。しか~し! 忍術の才能はそれなりだと自負しています!」
私は懐から例の札を取り出しつつ構えます。
今度は『火』の術式を記した札です。
「……?」
「符術・火遁豪火球!」
私の投げた札は、空中で一瞬で燃え上がり、特大の火の玉になって溜池を照らしました。
サスケ君はその光景をぽかんとした表情で見ています。
どうだ参ったか。
「って、そんなのズルじゃないか! 札なんか使いやがって!」
「んな!? 私が用意した札を私が使うことのいったいどこがズルなんですか!?」
「ズルはズルだろうが! それともあれか? 落ちこぼれは道具に頼らないと何もできないのか?」
い、言わせておけば……
「そ、そんなに言うんだったら見せてやりますよ!」
私はへとへとになっていたことも忘れてチャクラを練り込み、印を結びます!
火遁・豪火球の術!
シュボッ
蝋燭の先みたいな小さな炎……というか火が私の口から飛び出しました。
「……」
「……へっ」
やたら上から目線の勝ち誇った顔のサスケ君。
「も、もう1回です!」
私は深呼吸して熱くなっていた頭をクールダウン。
落ち着け落ち着け。
チャクラ量は問題ありませんでした。
印も完璧……残るは
「チャクラ圧ですね」
「チャクラ圧?」
首をかしげるサスケ君を無視して私は再び印を結びます。
そして……
<火遁・豪火球の術>
私の口から、大玉転がしの玉程度の大きさの火の玉が飛び出しました。
豪火球とは言えないかもですが、大火球くらいは言っても文句はないでしょう。
少なくとも、先ほどサスケ君が吐き出していた火球よりかはデカいですし。
「どうです? 今度こそ文句ないでしょう?」
振り返るとそこには悔しそうな表情のサスケ君……勝った!
「それじゃ私はこれで「ま、待て!」……何ですか?」
意気揚々と帰ろうとした私を、サスケ君は焦った声で呼び止めます。
「……コツとか教えてくれ」
うわぁお、サスケ君の表情が凄いことになってます。
苦渋の決断とか、断腸の思いとか、とにかくそういう心の葛藤がにじみ出まくってるのですよ。
私に教えを乞うのがそんなに嫌か!
嫌なんでしょうね!
「……チャクラの強さを決める要素って何だか分かりますか?」
私はサスケ君に改めて向き直ります。
空気が変わったのに気付いたのでしょう。
サスケ君も真面目な顔になります。
「チャクラの強さ? とにかくたくさんのチャクラを練ればいいんじゃないか?」
「ダメですね。チャクラ量は確かに重要ですが、それでもチャクラの強さを決める1つの要素でしかありません。だいたい、チャクラ量だけが全てだったらサスケ君より私の方が強力な炎を作り出せたことに説明がつかないじゃないですか」
私よりもサスケ君の方がチャクラ量は多いはずなのに。
はっと気づいたように眼を見開くサスケ君。
察しが良いですね~
「チャクラの強さを決める要素は大きく分けて3つです」
私は指を1本立てます。
「1つ、もちろんチャクラ量です」
そして2本目の指を立てて
「2つ、チャクラの質」
さらに3本目の指を立てます。
「3つ、チャクラ圧」
「チャクラ圧?」
「そうです。チャクラの圧力。コントロール力とでも言い換えましょうか……たとえば物体Aに向かって石を投げつけたとします。物体Aにより大きな破壊をもたらすのはどういう場合でしょうか?」
軽い石を高速でぶつけたときでしょうか?
重い石をゆっくりぶつけたときでしょうか?
「……重い石を高速でぶつけたとき」
「正解です。ざっくりした説明になりますが。強さは基本『速さ×重さ』です」
そしてこの公式は、忍術を発動させる源であるチャクラにも当てはめることができます。
重さはチャクラ量、速さをチャクラ圧に置き換えてやれば、そのままチャクラの強さを求める公式に早変わりです。
「例えば、とある忍術を発動するのに必要なチャクラの強さを20とします。その術を100のチャクラ量と1のチャクラ圧を持っている忍者Aさんと、80のチャクラ量と2のチャクラ圧を持っている忍者Bさんがそれぞれ使ったとします」
私は溜池のそばに落ちていた小枝を拾い、地面にガリガリと数字を書いて説明します。
「計算上ではAさんはその忍術をチャクラ量20消費して5回発動することができます。それに対してBさんはチャクラ圧がAさんの2倍あるので、忍術を発動させる際にチャクラ量を半分の10しか消費せず、結果8回使うことが可能となるわけです」
つまり、単純なチャクラ量ではAさんの方が多いにも関わらず、Bさんの方が同じ忍術を数多く連発できてしまうわけです。
「さらに言えば、チャクラ量は先天的に決まっていて修行で増やしにくく、年と共に減っていきますが、チャクラコントロールの熟練度そのものであるチャクラ圧は練磨すればそれだけ上がります」
火影様とかまさにそのチャクラコントロールの達人なのでしょうね。
お爺ちゃんになってチャクラ量とか体力とかだいぶ落ちているはずなのに未だに現役で大忍術を扱えるということはそれだけチャクラコントロールが神がかっているということなのでしょう。
「……?なんでお前はそんなに火影のこと知ってるんだ?」
「食らったことがあるからです」
「そ、そうか」
そう、忘れもしない去年の夏、火影邸に初めて忍び込んだあの日。
曰く、あまりに気配の殺し方とかが上手すぎて本物の賊と勘違いしたとのこと。
先ほどのサスケ君や私の火遁とは比べ物にもならないくらい大きな炎の奔流。
本気で死を覚悟しましたね。
「……話を戻します。とりあえず私の見る限りサスケ君は練り込むチャクラ量は全く問題ありませんでした。あと足りないのは…」
「チャクラのコントロール、チャクラ圧か」
「そういうことです」
もっとも、術の中には最適なチャクラ圧というものが決まっていて、チャクラ圧をあげまくってチャクラ量の消費を落とすことが原理的に不可能なものも存在するようです。
アカデミーで習う忍術にはありませんが。
そして今回話題に上がらなかったチャクラの質。
さらにはチャクラを構成する要素である精神エネルギーと身体エネルギーの配合バランス。
形態変化に性質変化。
チャクラと忍術は本当に奥が深いのですよ~
「私の話は以上です。何か質問は?」
「ない。まあ、参考にはなったかな」
サスケ君はもう用はないとばかりに再び溜池に向かっていきます。
また術の練習…修行をするのでしょう。
というか、お礼くらい言えよと思わないでもないですが、結局思うだけで何も言わずにその場を後にしました。
頑張ってる人の邪魔はしたくないですからね。
オリ設定の嵐。
原作でサスケよりもチャクラ量が少ないはずのカカシが雷切をフルで4連発できるのに。
サスケが2発で限界になってしまう理屈を矛盾なく説明するにはこれしか思いつきませんした。
電力(チャクラの強さ)と電流(チャクラ量)と電圧(チャクラ圧)みたいなものとの解釈です。
あと顕在チャクラ量と潜在チャクラ量とかも関係してくるのかもです。
初期のナルトとかはあからさまにデカいだけのチャクラタンク状態でしたし。
あと、符術は一度に練り込めるチャクラが少なくても、札にちょっとずつ練り込んで貯蓄することができるのでアカデミー真ん中程度の主人公でもチャクラ量を大量放出するような術が使えます。