だからこそ、次閑話を投稿する時は、本編と合わせて連続投稿しようと画策していました。
……まあ、それで遅れたら意味ねえよなんですが。
そんなわけで閑話で連続投稿の2話目です。
最新話から来た人は注意を。
ヤマト第九班の面々が檻から解放されてしばらく経ったある日のこと。
「カナタそこの配線はこっちにつなげてください……あ、ナルト君そこは素手で触っちゃダメです!」
「うお、なんかビリッと来たってばよ!」
「ちょっとナルト、デリケートなんだから気をつけなさいよ!」
橋づくりがそれなりに軌道に乗ったことで生まれたちょっとした休日の自由時間。
その自由時間を利用して木ノ葉の下忍たちがわらわらと寄ってたかって作り上げているのはなにやら巨大なガラス製の円柱に数え切れないほど配線がつながった異様な雰囲気を放つ謎の装置。
「ああ、なるほど……このケーブルの1本1本が疑似的な経絡系になるわけね」
「あ、やっぱりサクラは分かる口か。頭いい人はいいよなぁ。私には何をしているのかさっぱり理解できない」
「マイカゼはそれでいいのよ。理解できたっていいことなんてないんだから……っと、これで一応、体裁は整った……のかしら?」
「うーん、回路とかがむき出しなのが個人的に気になりますけど……ありあわせの張りぼてならこんなもんですかね」
出来上がったそれを見てうなずいているのはこの企画を突発的に発案した主任開発者うちはコトだ。
「で、結局なんなんだこれは?」
ぶっきらぼうに尋ねるサスケに対し、コトはよくぞ聞いてくれましたとばかりに満面の笑みを浮かべるのだった。
事の起こりは、数時間前のコトとのちょっとしたやりとりだ。
「じゃあ白さんはその頃からずっとユキちゃんと一緒なんですね」
「ええ、再不斬さんに拾われる前からの大事な家族です」
そういうコトは小ウサギのユキをずっと抱きしめている。
抱きしめられているユキもされるがままだ。
臆病なユキが僕と再不斬さん以外の人間にここまで懐くのはとても珍しい……なんてことは特にない。
臆病で寂しがり、だけど好奇心旺盛で人懐っこくいったん慣れると誰にでもすり寄っていく。
人肌恋しいのか誰かとくっ付くのがとにかく大好きで、気に入った人がいれば四六時中へばりついて離れない、それがユキだ。
カナタはそれを見て「コトが増えたわ……」と苦笑する。
「どういうわけかナルト君にだけは最初は寄り付きませんでしたけどね。どんな相手にも好かれる性質も動物は例外ということなんでしょうか? 中にいる九……ごにょごにょさんが威嚇しているとか?」
「さあね。出会い頭に手裏剣でも投げつけたんじゃないの?」
「まさかぁ~。ナルト君がそんなことするわけないじゃないですか」
「そ、そそそそうだってば! そんなことするわけ、ってか今はもう打ち解けたんだし気にすることないってばよ!」
「それもそっか~」
「アハハハハハ」
そんな風に笑いあうコトとカナタ、冷や汗を流して目が泳いでいるナルト、そして3人の中心でよくわかってないユキが無邪気に飛び跳ねてる光景はなかなかに危ういものだった。
平和とは薄氷の上に築かれるものなのだと白はなんとなく実感した。
「雪の国のウサギさんは夏でもずっと白いままなんですね。私も一緒ですよ~生まれた時から真っ白です」
白が回想している間もコトはモフモフとユキの身体に顔をうずめている。
どちらも白いから傍から見るとまるで一体化したかのようだ。
……改めて両者の性格的外見的特徴が非常に似ていることに白は気づく。
「似た者同士気が合うわけですね」
種族は異なっていてもまるで姉妹のように戯れるコトとユキを白は微笑まし気に眺める。
(私からすれば白さんもその“似た者”の1人なんだけどね)
そこから一歩離れた場所で妹達を見守る姉みたいな眼で2人と1匹を見つめているカナタ。
わざわざ指摘はしない。
こういうのは自覚がないからこそ価値がある。
「そういえばユキちゃんが雪の国生まれってことは、白さんの故郷も雪の国なのでしょうか?」
「そうですね、といっても母の一族がその国の生まれだったというだけで僕自身は訪れたことはないのですが」
「ふむふむ、だから氷遁が使えるんですね」
コトは納得した様子で頷いた。
雪の国は北の果てに位置するその名のとおり一年のほとんどを雪に覆われた非常に寒い国だ。
当然氷など珍しくもなく、その国の忍びも自然とそれを操る忍術を発達させていった。
だからこそ、里を抜け出した母の一族―――雪一族はそんなありふれた忍術が、まさか他里では血継限界であり迫害されるほどに希少だったなんて夢にも思わなかったのだろう。
「国が変われば常識も変わりますから……それにしても里の忍びのほぼ全員が氷遁の血継限界持ちとは……何か土地に秘密がありそうです」
「特別なチャクラが集まる霊峰、もしくは龍脈があるのかもね」
「いつか行ってみたいですね」
木ノ葉から遠く離れた神秘の土地に夢をはせるコトとカナタ。
「特別なチャクラ……そういえば母から聞いたことがあります。雪の国にはなんでも虹色に輝くチャクラの言い伝えがあるのだそうです」
「虹色!? それは……どうやって発生させるのでしょう?」
ユキを抱きしめたまま、コトは白が聞き取れないほど高速かつ小声で何かをつぶやき始める。
「チャクラの色は通常個人で固定されているから後天的に色を変えるなんて……他人のチャクラを取り込めばあるいは……いやでもそれじゃ混ざって混色になるだけだし。何かしらの外部要因で放出されたチャクラが回折、あるいは乱反射……」
こうなるともはや誰もコトについていけなくなる。
「う~ん、謎だってばよ」
ちなみにナルトも当然のごとくついていけなかったのでとりあえず理解しているふりのためにうんうんと頷いていた。
しばらく黙考すること数分、コトはひとまず思考がまとまったらしく頭にパッと花を咲かせながら「よし」と小さくつぶやいて立ち上がった。
あの朱いチャクラを浴びて以来、コトの感情の動きに合わせて頭の花が咲いたり散ったりするのだ。
そして今咲いたのは光を模したような形をした黄色い花……何か思いついたらしい。
案の定、コトはなにやら生き生きとした表情で。
「実際にしてみましょう」
そこからの流れはなし崩し的だった。
コトが“何か”を始めたと察した瞬間、カナタが血相を変えて止めた……が、止められない。
ならばせめてと警戒心むき出しの表情でコトの見張っていたのだが、いつの間にか作業を手伝っていた。
コトの事をさんざんお人好し扱いするカナタもまた人の事を言えない程度には甘っちょろい。
ナルトは最初から疑うことなくノリノリで手伝っている。
何を考えているのかといえば何も考えてない。
次に現れたのはマイカゼ。
彼女は最初こそ組みあがっていく謎の装置を「大丈夫なのか?」と不安そうな顔で見ていたもののカナタが何も言わないため自らも考えるのをやめた。
その後、借りを返すとか私だけ仲間外れにしないでとかそんな
白はこういうのも自然と人を惹きつけるってことなのだろうかと自問自答しつつ作業する彼らを観察していたが、しかしそれでも白自身は手伝おうとはしなかった。
我ながら冷淡だと思う白だったが、それでも関わってはいけないという猛烈に“嫌な予感”が頭から離れなかったのだ。
「で、これがその虹色チャクラ発生装置ってわけか…いやむしろチャクラ混合器?」
「より正確にはチャクラ交錯器ですね。もっとも赤と青と緑の3色しか色を用意できなかったので七色の虹になるには4色ほど色が足りませんけど……」
「虹というか、美容院の前でクルクル回ってるあれみたいなのになりそうね」
感応紙の蓄えがもう少しあれば……と残念そうに語るコト。
イカ大戦の終戦後、コトはヤマトから没収された札の大半を返還されていたがそのほとんどを怪我人治療やら設備の修復やらで使い果たしていた。
使ったことに後悔はないが、それでももう少し何とかならなかったのかと考えないわけではない。
「いいんじゃない? 3色でも十分だし。だいたいこういうのって少ない組み合わせから初めて徐々に数を増やしていくもんでしょ」
最初は3色くらいでちょうどいいのよとフォローするカナタ。
そもそも最初は実験することそのものを反対し警戒していたことはとっくに忘却の彼方である。
「私としては3種類でもちょっと不安なんだが……チャクラが混ざったとき変な化学反応を起こして大爆発とかしないよな?」
「さあ、どうなるでしょう?」
マイカゼが剣士の勘とか野生の本能とかそういうのではなく、過去コトがしでかしてきた所業を知るが故の経験則から不安を語るが、およそ懲りるという言葉を知らないコトはどこ吹く風だ。
「さあって……」
「何考えてやがる?」
無責任な、とコトに非難の眼を向けるサクラとサスケだが、向けられたコトは全く取り合わない。
「何が起こるかわからないからこそ実験するんじゃないですか。する前から何が起こるかわかってたらそもそも実験なんてしません」
「いやそうなんだけど……そうなんだけど!」
「まあ、爆発はおそらくしないですよ。発生させるチャクラも幸か不幸か微々たる量ですし、仮に何らかの不測の事態が起こったとしても、そうそう大事にはなりませんって」
「……だといいがな」
自信満々のコトにげんなりする一同。
なお、コトの言葉は誤魔化しではなく心の底からの本音であった。
だからこそたちが悪いともいえる。
「まあ、今度のは単に派手な色のチャクラを発生させるだけだから大丈夫でしょ。本当にヤバかったら例によってどっかで見張ってると思うヤマト先生が止めに来るだろうし」
「……それもそうか」
カナタの言葉に一応の納得するマイカゼ。
彼女たちのヤマトに対する信頼は無意味に厚かった。
「話はまとまりましたか? では心の準備ができたところで早速スイッチオーン! さあ3色のチャクラが重なり合って眩く輝く様子をとくとご覧に……ご覧に………あれ?」
「………何も起こらないんだけど?」
スイッチを入れても何の反応もない装置を見てコトが血相を変えてあれこれ原因を調べる。
その瞳には焦りのあまり開眼したばかりの写輪眼が浮かび上がっているが、コトはそれでも原因が一向につかめなかった。
「んなバカな、失敗するにしてもチャクラが変な風に色が混ざって濁った色になる程度のはず、それなのにチャクラがそもそも発生しないってどういうことですか!?」
「……チャクラが変な性質変化を起こすとかそういう事故を警戒してたんだけどこれはこれで意外ね」
「装置はちゃんと起動してるのか? スイッチ周りの接触不良とか……」
「いえ、装置はちゃんと起動しています。こっちの回路からは赤いチャクラが、こっちからは青色の、そして残ったこちら側からはちゃんと緑のチャクラが発生しているはず………はずなのになんで?」
「なんでって、聞かれても俺にわかるわけないだろ」
「う~む、謎だってばよ」
そんな実験の様子を隠れて監視していたのは、木ノ葉の上忍であるヤマトとカカシ、そして再不斬である。
「正直、拍子抜けです。コトがこんな普通な失敗をするなんて。てっきりもっと大惨事になるかと思ってたんですが」
「何気に酷いな。成功するとは欠片も期待してなかったのか」
「期待していないというより、気にしていられないというのが的確ですかね」
コトが思いつきで変な実験を始めることは決して珍しいことではない。
むしろ日常の一部である。
市場に出て珍しいものを見つけてはインスピレーションを受けすぐ実験、道行く人に面白い話を聞かされれば興味を惹かれすぐ実験。
大概が成功しても失敗しても何かしらの騒ぎに発展するので監督する立場であるヤマトからすれば厄介極まりない。
それでも実験を始める前から止めないのはコトの発想や才能をそれなりに買っているためでもあるし、下手に隠れてやられるよりは堂々とされたほうがマシであるためでもある。
なんだかんだで慣れっこであるヤマトからすればこの『何も起こらない』という結果は意外を通り越して不自然に感じられた。
でもまあ、たまにはこんなこともあるかと納得しかけたその時、同じく実験の様子を観察していた再不斬が不意に口を開いた。
「……なあお前ら、『無人』って知ってるか?」
「ムジン? いや……」
「俺も知らないな」
「無人ってのはかつて最高の幻術使いと謳われた二代目水影、蜃気楼の幻月と互角以上に渡り合ったとされる二代目土影の異名だ」
「へえ……」
「なんでもそいつは異なる3つの性質変化を同時に発生させる血継淘汰と呼ばれる忍びで、そのチャクラはいかなる感知忍術を持ってしても観測できなかったそうだ」
「詳しいね。現土影、三代目土影両天秤のオオノキ以外にも血継淘汰を使える忍びがいたとは知らなかったよ」
「でもなんでいきなりそんな話を………………っ!!?」
不意に、気づく。
異なる3種類のチャクラの同時発現。
いかなる手段を用いても観測できないチャクラ。
「……ああ、………あああああ! わかった! 分かりましたよ原因! 光の三原色ですよこれ!」
「光の?」
「サンゲンショク?」
「なんだってばよそれ?」
「光の三原色です。詳しい理屈は省きますが、要点だけ言えば赤、青、緑の3色の光をバランスよく交錯させた場合、互いの波長を打ち消しあって無色透明の光になってしまうのですよ」
「えっとつまり何? 装置は間違いなく起動してチャクラを発生させていたけれど……」
「色が透明なせいで目に見えなかったと?……」
「それは………なんというか」
「コトらしいといえばらしいわね。世界一派手なチャクラを発生させようとして世界一地味なチャクラを出しちゃうなんて」
「うう~そんな意地悪なこと言わないでくださいよカナタ」
「………………まずいな」
「………………まずいですね」
事実、今ここでこうして監視しているカカシやヤマトにも件のチャクラは全く見えない。
それはつまり、この無色チャクラならどれだけ大量に練り込んで術を発動しようともまるで反応できないということだ。
「ちなみに幻月は無人に対抗するべくその感知できないチャクラのメカニズムを解明しようと特別の研究機関すら立ち上げたらしいがまともに成果を上げられないまま、相討ちになって果てたらしい」
「………………」
「さらに言えば、三代目土影は血継淘汰は受け継いだが無色のチャクラは受け継いでいない。原理不明の失われた秘術………だった………………あの白いガキ、ほっといたら岩隠れに狙われるぞ」
「………………再不斬、頼みがある」
「言ってみろ」
「………ここで見たことは見なかったことにしてくれないか?」
「………いいだろう。あのガキには薬の借りがある」
裏で木ノ葉と霧がそんな密約を交わしているとはつゆ知らず、コトはいつものように失敗を糧に着々と実験を次の段階へと移行しようとしていた。
当然ではあるが、その時の面々はまだ知らない。
紆余曲折の末、実験のために何度も稼働させられたチャクラ交錯器(仮)が最終的に周りの地面事まるでスプーンでくりぬかれたかのようにぽっかりと消滅し未曾有の大騒ぎになることはまだ知らない。
今回の番外編は
ほんの少しの映画ネタとねつ造設定でお送りしました。
塵遁とか血継淘汰とかは原作でも詳しく設定が説明されているんですが、ムウの『感知できないチャクラ』に関しては全くと言っていいほどノータッチだったのでこれ幸いとばかりに妄想を爆発させた次第。
迷彩隠れで視覚的に消え、透明チャクラでチャクラ感知を誤魔化したムウ様はまさに無人。
我愛羅の砂で物理探知できなかったらヤバかったでしょうね。
オオノキも全部受け継いでいたら、不意打ち塵遁限界剥離の術でマダラにも…………勝てたかなぁ?
ナルトの感情探知や、輪廻眼はさすがに欺けないかな。