南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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大変遅くなって申し訳ありませんでした。

そして注意。

コトがいろいろ開き直ってます。
開花しちゃってます。

さらに今回、久方ぶりにイラストがあります。
見たくない人は挿絵を開かないように。


33話 ☆

波の国の存亡をかけた『進撃のイカ』大戦(命名(カナタ))から3日ほどの月日が過ぎた。

終戦直後はもちろん巨大イカという共通の敵と対峙したことにより団結した私達波の国連合(仮)は逃げたイカを追うべく一丸となって捜索に励んだけど見つかるのは千切れた触手ばかりで逃げたイカ本体はついに発見できなかった。

これは後の調査で分かったことなんだけど、どうやらあのイカ逃げるときにこちらの探知忍術を阻害する墨を吐いて逃走したらしくて。

本当に最後の最後まで芸達者にも程がある忍びよりも忍びみたいなイカだったわ。

 

そんな感じで改めてイカの常識離れぶりに驚かされた形になったわけだけれど、何はともあれ波の国周辺の近海からは完全に姿を消したのは間違いなく、ようやく平穏と呼べる空気が戻ってきた。

退治こそできなかったものの、撃退には成功していると言えなくもないはず。

その点に関していえば間違いなく連合の勝利だと思う。

損害は非常に大きかったけど。

作りかけだった大橋は半壊しちゃったし、もともと崖っぷちだったらしい上に積み荷のほとんどを船ごと沈められてしまったガトーカンパニーも事実上の倒産が確定。

死者が出なかったことだけが不幸中の幸いなんだけどその分負傷者の数は甚大、重体患者3名。

ガトー側、カイザさん側双方ともに戦闘続行は不可能なほどに疲弊したことにより両者の抗争はなし崩し的に終結した。

 

ちなみに重体患者数名のうちの1人は木ノ葉の上忍はたけカカシ先生。

病み上がりの身体での写輪眼の酷使、限界を超えての水面歩行、口寄せ、雷遁などの大技連発は相当に負担だったみたいで。

3日たった今でも死んだように動かない……らしい。

動かないといえば、サスケ君の消耗具合も半端なかったわ。

写輪眼の初開眼、初水面歩行に加え、写輪眼初行使からの初コピーの千鳥(カカシ先生の触手を切り落とした雷遁忍術の正式名称。雷切は異名とのこと。チャクラ燃費極悪)初発動。

初めて尽くしの大盤振る舞いはさすがの天才サスケ君も骨だったみたいで戦いが終わって緊張の糸が切れたと同時にその場でバタンとぶっ倒れた。

重体患者の2人目よ。

 

はたけ先生とサスケ君が肩を並べて死んだようにベッドに横たわるその様は写輪眼の燃費の悪さとリスクを私たちに改めて思い知らせてくれた。

血継限界も楽じゃない。

 

そんな感じでイカ討伐にかかわったその場にいた全ての人が疲労困憊状態だったんだけど、その中で例外的に無駄に元気を有り余らせた奴らが2人いた。

他でもない木ノ葉の二大問題児うずまきナルト君とうちはコトよ。

もともとスタミナお化けだったナルト君は言わずもがな、ナルト君の朱いチャクラを浴びたコトも妙に身体が軽いとのこと。

いったいあの朱いチャクラは何だったのか……詳しいことはわからないけどとにかく2人は疲労で動けない人たちの代わりに治療やら物資の運搬やらの雑務を影分身や式神の人海戦術で精力的にこなした。

特にコトはヤマト先生に返還された札を使って「これが私の天職!」と言わんばかりにニコニコ笑顔でわけ隔てなく負傷者の世話を焼きまくった。

焼きまくって最終的に加減をミスってチャクラも札も使い果たしひっくり返った。

本人の言い訳曰く、閉じ方がわからず終始開けっ放しになっていた写輪眼のチャクラ消費を計算に入れ忘れたとのこと。

朱いチャクラを過信しすぎよ、つくづくアホの子よね~。

いや、それ以前に写輪眼が解除できないって……

 

 

「……血継限界も楽じゃないわ、うん」

 

「……? 何の話だ?」

 

「どうしたんですか急に?」

 

「いやこっちの話」

 

 

まあとにかく、少なくない犠牲を払った戦いだったわけだけれど、それでも得たものはあった。

今回の一件でかつてはいがみ合っていたガトー派とカイザ派は意気投合、完全に和解した。

敵の敵は味方、イカという共通の敵を相手に力を合わせて戦った私たちにもはや過去のしがらみなんて関係ない。

そう、これは連帯感が生んだ絆の奇跡なのよ!

扇動? 集団催眠? 知らないわね。

タズナさんとか一部の人間は当然ごねたけど、ガトーに「主戦力もないのに流通経路に穴開けようとするからだバカタレ」と逆に一喝された。

思えば、漁もできなくなってたんだっけ。

流通経路を開くことで頭がいっぱいで、実際に何を流通させるかは私も含めて誰も考えてなかったことにここに至ってようやく気付かされた。

何せ橋づくりに携わっていたのは大工に漁師、そして助っ人の忍びだけ。

商売の心得がある人が1人もいない……あのまま大橋を完成させて下手に流通経路を開通させてたら限界集落ここに極まれりな波の国は豊かになるどころか逆に過疎って自然消滅していたかもしれないと聞かされればさすがに沈黙するしかなかった。

その後私たちは橋の工事と橋が開通した後の経済戦略の構築を並行して進めていくことになる。

まあ、話をまるで聞かなかったタズナさんを殺そうとしたガトーの戦略は大概ギリギリ(でアウト)な過激なものばかりではあったけど、そのあたりはカイザさんとかが上手くバランスをとるのでしょうね。

話してみて印象がずいぶん変わったわ。

 

鬼人と謳われた再不斬(重体患者3人目。唯一イカの触手の一撃をまともに食らっちゃった人。バラバラになっていてもおかしくなかったのにさすが鬼人)もいざ蓋を開けてみれば単に強面なだけの仕事人だったし。

霧隠れの里長・水影暗殺のクーデターを企て、それに失敗して里を追われたというのが抜け忍になった経緯らしいけど……客観的に聞いた限りこの話はどう考えても水影が悪い、というかおかしい。

いや、おかしくなったというべきかしら。

もともとは徳の人だったはずのに、ある日を境に突然人が変わってしまったみたいに悪政を敷くようになったとのこと。

それこそ霧隠れの里がよそから血霧の里なんて言われてしまうくらいに。

そりゃ反乱も起こしたくもなるって。

いったい水影様に何が起こったのやら、何者かに()()()()()()()()()()()()()とかいうベタなオチはさすがにないだろうけど……

原因は気になるけど、血継限界の迫害なんてことも率先して行っていたらしい御乱心の水影に反旗を翻した再不斬はまさしく英雄だったそうよ。

迫害対象だった血継限界保持者は特に彼を熱狂的に支持し、幼少期に助けられたらしい白さんなんか崇拝の域に達している。

まあ、そうなるわよね、私も白さんの立場だったら感極まって一生ついていきますと言ってそう。

本当に人は見かけによらないわ、忍びならなおさら。

むしろコトとかナルト君みたいな単純明快に見たまんまな奴の方が少数派なのよ。

 

お互いにそんな思惑をさらけ出した結果、単なる利用しあう仲でしかなかったガトーと再不斬も和解、というより契約を延長。

 

「再不斬、残念なことに金は払えねぇ。積み荷が全部沈んじまったからねぇ……ただ働きご苦労だったな」

 

「……そうか」

 

「………俺を殺すか?」

 

「……イカを仕留めろという任務だった。達成できなかった以上金を受け取るわけにはいかん」

 

「……礼は言わんぞ」

 

「ふん」

 

ガトーと再不斬のそんな義理堅い会話がやけに印象に残っている。

もしかして、いやもしかしなくてもガトー……さんって依頼人としては任務内容を詐称したタズナさんなんかよりよほど誠実なのかもしれないとか思っちゃったわ。

 

意外な真実だった。

とどのつまり、腹を割って腸を見せあってみれば波の国のことを想っていない人なんて最初からどこにもいなかったのよ。

 

そんなこんなで全て、とは言わないまでもおおよそ理想的といえる結末を迎えたわけだけれど、それらの面倒ごとが片付くと今度はヤマト先生からのありがた~い罰則の時間と相成った。

そして現在、私とコトは度重なる命令違反の罰としてヤマト先生から拳骨とお説教のフルコースを食らった挙句、カイザ邸近くの森の中に作られた木遁結界・木錠牢の檻の中にぶち込まれて謹慎処分中。

今回それなりに成果を上げたから相殺できるかと思ったけそれはそれ、これはこれ。

残念なことにヤマト先生はこういう部分を絶対にうやむやにしないのよね。

 

「ここに入れられるのも久しぶりだな……」

 

「そうですか、私は割と頻繁に入れられてますが」

 

「反省しなさいよ」

 

檻はチャクラを吸収する特別な木材で構成されている。

さらには忍術の発動を阻害する術式が彫り込まれているから内部では一切の忍術が使うことができない上にチャクラをガンガン吸い取られる。

さらに中は非常に狭く床も硬いから内部環境は劣悪と言っても過言ではない。

まあ、謹慎用なんだから当然と言えば当然なんだけど。

 

「でもここに入っているとなんかこう、日常に帰ってきた~って感じがしませんか? ホッとするというかテンション上がるというか」

 

「ふむ、住めば都ってやつだな」

 

「そういうのは住めば都って言わないわ……」

 

全く、コトは相変わらず反省してないなぁ、というか感性が致命的なまでにズレてる。

テンション上がる云々の件は完全に思考が変態のそれだし。

全くしょうがない子ね。

 

…………さて、そろそろ突っ込もうか。

 

「なんでマイカゼまで(ここ)に入れられているのかしら?」

 

私やコトと違って、マイカゼは今回の任務においておよそ失態らしい失態はなかったと思うんだけど。

連帯責任? にしてもさすがに理不尽だし。

 

「あ~いや~……任務中は失態はなかったんだ、任務中は」

 

「任務中は、ってことはそれ以外で何かあったんですか?」

 

「………祝勝会があったんだ」

 

「うん、あったそうね」

 

「もともとイカを追っ払った後の事後報告会だったはずがいつの間にか宴会に化けたんですよね~。まあいいんですけどね、楽しそうでしたし」

 

私はそれを脱線とか無駄、とは思わない。

あの場で盃を交わしたからこそ、同じ釜の飯を食べたからこそ、ガトー組とカイザ組は分かり合えたんだから。

 

「そう、宴会だ。……宴会といえば無礼講だよな?」

 

「うん」

 

「はい」

 

「そして当然()()()()()が酌み交わされるわけだ」

 

「うんうん…………うん?」

 

「マ、マイカゼ? 貴女、まさかまた……」

 

「し、仕方がなかったんだ! 酔ったタズナさんが物凄い勢いでぐいぐい勧めてきて」

 

何やってんのよタズナさん……

 

「でもだからって貴女まだ12歳でしょうが!」

 

「ま、まあちょっとくらいならいいんじゃないですか? 私だって料理に使う分を味見したりしますし」

 

「で、どれだけ飲んだの?」

 

「……3」

 

「3杯?」

 

「いや、3瓶」

 

「飲みすぎだぁ!」

 

未成年でそれだけ飲んだらそりゃ檻にぶち込まれるわ!

 

ちなみにお酒だけじゃない。

実はマイカゼはこれまでにもこの手の『食』関連での問題行動を度々やらかしている。

かつて飲食店のバイ……Dランク任務中にお客さんに出すはずの料理を味見と称して鍋一杯平らげたことがあるのよ。

タダでさえ修羅場だったお昼のピーク時が一層地獄になったわ。

その時のマイカゼは反省すれど後悔の色は全くない、むしろ何かをやり切った後のような清々しい表情で「コトの料理の魔力に私は負けたんだ……」と宣った。

宣った直後にヤマト先生に拳骨を叩き込まれてそのまま檻にぶち込まれた。

 

「認めよう。私はお酒の魔力に負けたんだ……」

 

そう、今のように。

ただひたすら堂々と開き直ったマイカゼのその様は超淑女的態度、あるいはアホの骨頂である。

 

「……第九班にはバカしかいないのかしら」

 

「人のこと言えた口かカナタ? 何処の世界に戦闘中に急に歌いだす忍者がいるんだ」

 

「何よ。いるかもしれないじゃない! 忍界中探し回ればきっと私以外にもこぶしのきいた演歌をこよなく愛するラッパー忍者が………………」

 

「………………いるのですかね?」

 

「い、いるわよ。たぶん。1人くらいは! ってか、私のこれは別にいいのよ結果的にちゃんと役に立ったんだし!」

 

「いやだがあの状況だと結果論でしかないと思うんだが……」

 

「……なんだかんだ言って所詮は同じ貉の……いや同じ檻の中の仲間ですよね私達」

 

「だな」

 

「あんたらよりはマシよ!」

 

 

 

 

 

 

(3人とも大して変わんねぇよ!)

 

こっそり様子を見に来ていたヤマトは檻の中で盛大に寛いでいる部下(バカ)3人に頭を抱えていた。

まるで懲りてない……いやそれ以前に木錠牢の術が全く堪えてない!

由々しき事態だった。

確かに彼女たちはヤマト第九班に入ってから結構な時間を件の檻の中で過ごしている。

もちろん懲役回数トップはダントツでコトなのだが、カナタとマイカゼも結構な頻度でいろいろやらかすから総合時間的には大差ない。

大差ないがゆえに……3人揃って適応していた。

 

 

「そもそも、班員全員が檻に入れられているって状況がオカシイのよ! しかもなんか馴染んでるし。檻の中に馴染んだらだめでしょう……」

 

「さあ、それはどうでしょうか?」

 

「どういう意味よコト?」

 

「たぶんこれは罰であると同時にヤマト先生が私達に課した修行なんだと思うんですよ私! はっきり言ってくれませんけどきっとそうです!」

 

「そうなのか?」

 

「そうですよ。つまりこの檻もヤマト先生なりの愛なんですよ。愛の鞭なんです」

 

「そう言われると、そんな気も、しなくは………ないような??」

 

 

(あるわけないだろう……なんてアホな会話をしてるんだ)

 

まるで私室にいるかのように寛いでいるコトを呆れた目で見ているカナタだが、そういう彼女自身も結構リラックスしていて全く人のことを言えた口ではない。

そもそも、こんなやり取りができてしまっている時点で精神と身体に余裕がある何よりの証拠だ。

傍から見ればコトとカナタの違いなんて自覚の有無程度である。

いや、さすがに3人とも自分たちが問題児であるという自覚が全くないというわけではない。

ただ、自覚したうえでそれぞれ内心で「他の2人より自分はマシ」とか考えていることが大問題だ。

団栗の背比べの悪い見本状態である。

 

当たり前だが、ヤマトにコトが言うような意図は全くない。

修行とか愛とか絶対ない。

最初はこんなんじゃなかったし、こんなはずでもなかった。

じっとしているだけでも疲弊する過酷な檻の中でもう二度と同じ失敗を犯さないように反省させるのが狙いだった。

それなのにいつの間にか3人ともチャクラを吸い取る結界を張り巡らせた檻の中であっても平気でいられるようになってしまっていた。

並みの忍びだったら数時間でチャクラが枯渇状態になるはずなのに、なんでこうなった。

繰り返すごとに慣れて耐性がついてしまったのだろうが、果たしてこれは成長と呼べるのか……激しく微妙だ。

かといってこれ以上に罰をきつくすると虐待や拷問の域に足を突っ込みかねない。

ままならない。

 

「ですから、お説教も拳骨もちゃんと私たちを見てくれている証、愛情なんですよ。ナルト君だってイルカ先生に怒られたいって心のどこかで思っていたからこそああも悪戯を繰り返したんです。私にはわかります」

 

「そ、その気持ちはわからなくはない…のか?」

 

「まあ、本人は決して認めないでしょうけどね。ほ~ら、そう考えると拳骨もお説教も罰則もだんだん嬉しく楽しく気持ちよく……」

 

「嬉しく…楽しく……気持ちよく………なってたまるか!」

 

弱冠、コトに圧されて呑まれ気味だったカナタが我に返って爆発した。

 

「百歩譲って叱ってくれるのは愛情だとしても、それで気持ちよくなるのはどう考えてもおかしいでしょ! ナルト君はそんな変態じゃない!」

 

「え~?」

 

「え~? じゃない! ってか、ついに開き直ったわねこの子」

 

「もともとその片鱗はあったがな……開眼したのは写輪眼だけじゃなかったか」

 

「私はもう自分を偽ったりしないって決めたんです! たとえ私がどんな風になっても一生仲間で友達だってナルト君が言ってくれたから! キャ~♪」

 

「ナルトはそういう意味でいったんじゃ……ってか、クネクネするな咲かすな散らすな!」

 

「頭お花畑が比喩になんない……頭が痛いわ……」

 

「頭が痛いのはこっちだ……」

 

「うぇえ!? ヤマト先生!?」

 

さすがに黙っていられず飛び出したヤマトの姿に3人は口々に「いたんですか!? いったい何時から…」「ひょっとして話聞かれた!?」などと驚きをあらわにしつつ慌てて身なりと姿勢を正す。

そしてビクビクと身を縮こまらせ、戦々恐々といった様子で上目遣いにヤマトを見上げる……のだが、明らかにコトだけ戦々恐々の意味合いが異なる視線を向けていた。

恐い、だけどちょっと楽しみ……まるで何かを期待するかのような感情のこもった視線が花びらの隙間から覗いている。

いろんな意味で開花させてしまっている。

ヤマトは引いた。

コトは本当になんでこんな風になってしまったのか。

心当たりは……残念なことにいっぱいある、過去が過去だし。

幼少期の多感な時期に家族を失い、絶望を知り、孤独を味わった。

歪まないほうが不自然だろう。

どれだけ人畜無害であっても、どれほどに純真無垢に見えても結局のところコトは碌な育ちをしていないのだ。

尤も、同じ境遇であるはずのサスケとはずいぶんと趣の異なる歪み方をしたみたいだがこれは性格や性質の差だろう。

まあ、下手に復讐とかクレイジーサイコなんちゃらとかに走るよりははるかにマシ…………なのだろうか?

わからない、マゾ変態か復讐不良か2つに1つとか究極の選択すぎる。

 

 

ちなみにヤマトは自分自身も大蛇丸の実験体あがりの元暗部という碌な出自ではないことに自覚はない。

どんな境遇にも歪まない揺るがない大柱の精神を持ってしまった男、ヤマトは生まれながらの常識人であり苦労人である。

 

 

「……ハァ」

 

ヤマトは深い深いため息をつくと、印を結んで木錠牢の術を解除した。

 

「あれ?」

 

「……3人ともお仕置きはもう終わりだ。よってこれより橋づくりの任務に復帰する」

 

「へ?」

 

いきなり解放された3人は戸惑いの表情を浮かべるが、ヤマトはあえてそれを無視して一方的に宣言する。

 

「も、もういいんですか? いつもだったら……」

 

「いいんだ。2度言わせるな」

 

「「「ハ、ハイ!」」」

 

正直、この子たちをずっと檻に閉じ込めておくのは時間と労力とチャクラの無駄だ。

 

(………どうしたんだろヤマト先生。いつもならガチ貫徹コースなのに)

 

(ただでさえ橋が半壊して工事が後退したんだ。単に人手不足ということじゃないか? このままじゃいつまでたっても橋が完成せず木ノ葉に帰れないわけだし)

 

(それももちろんあると思いますけど、きっと私たちにチャンスをくれたんですよ。今までの失態は工事で頑張って取り返せっていう無言のメッセージなんですって!)

 

(そうか……そうだな。コトの言う通りだな)

 

(今度こそ調子に乗らないように気を付けないと。冷静に……クールに)

 

背後でのこそこそとした小声の会話を聞いてヤマトは思わず乾いた笑いが漏れた。

ポジティブだなぁ……というか、我ながら嫌われてもしょうがないレベルの体罰やお仕置きを執行している(無論最初からそうだったわけではなく徐々にエスカレートしていった結果である)はずなのに一向に好感度が下がらないどころかむしろ上昇しているのはどういうことなんだろうか。

 

あれこれ理由や仮説が脳裏に浮かんできたが、次第にバカらしくなってきた。

 

「そういえば、タズナさんが完成した大橋には橋づくりに一番貢献した人の名前を付けるって言ってたよ」

 

「そうなんですかヤマト先生?」

 

「ってことは、私たちが頑張ったらカナタ大橋とかコト大橋とかになるのね……ちょっと恥ずかしいかも」

 

「自分の名前が後世に残る……悪くないな」

 

さっきまで叱り叱られる関係だったとは思えないほどにあっさり打ち解ける様に、ヤマトは考えるのをやめた。

たぶんこういうのは理屈じゃない。

ヤマトは今後も彼女たちを叱り、拳骨を振り下ろし、拷問まがいの罰則を課したりを繰り返すだろう。

しかしそれでもヤマトのことを嫌いになることはないだろうと確信できる。

 

「ナルトとサクラがすでに助っ人として参加している。僕らも遅れを取り戻すよ」

 

「「「ハイ!」」」

 

彼女たちがヤマトのことを嫌いにならないのと同じく、ヤマトもまたどれだけ振り回されても彼女たちのことを嫌いになれないのだから。

 

 

 

 

 

 

「おかげで橋は無事完成したが……超さみしくなるのォ」

 

時刻は早朝。

私たちヤマト第九班とナルト君たちカカシ第七班は任務を終えて木ノ葉に帰るべく完成したばかりの大橋の入り口に集合していました。

見送りに来てくれたのはそれぞれの依頼人であるカイザさんとタズナさん、イナリ君にツナミさんに加えてガトーさん、再不斬さん、白さんです。

ほんの数週間前までは敵同士だった彼らが肩を並べているところを改めてみると、なんというか感慨深いものを感じます。

打ち解けられて本当に良かったんですよ。

 

「お世話になりました」

 

木ノ葉を代表する形でカカシ先生が言いました。

ちなみにカカシ先生は滞在中かなりの時間を寝て過ごしてますので「お世話になりました」は社交辞令でも何でもない厳然たる事実だったりします。

やっぱり写輪眼は用法、用量を守って計画的なご利用をしないとですね。

 

「まあまあ、タズナのオッチャン! また遊びに来るってばよ!」

 

「ぜったい…か…?」

 

打ち解けたといえば、この2人は本当の兄弟みたいに打ち解けましたね。

ナルト君とイナリ君が互いに見つめあって目をウルウルさせています。

木ノ葉丸君もそうでしたけど、ナルト君って年下の子供には特に懐かれやすいんですよね。

カリスマ……ではなく単純に人柄のなせる業なのでしょう。

ナルト君の周りには自然と人が集まるのです。

 

 

さて名残惜しいですがそろそろ本当にお別れの時間です。

 

「また、会えますかね」

 

「忍びとして活動していればおのずと巡り合うだろう。運が良ければ知人として、悪けりゃ敵としてだがな」

 

「ま、それならとりあえず幸運を祈っておきますか」

 

「カカシ……結局、お前とは再戦の機会がなかったからな、いずれ白黒はっきりつけてやる」

 

言葉を交わす人、言葉を交わさない人。

 

「最初に依頼をしたのがあんた達で本当に良かった……あんた達は波の国の英雄だ」

 

「あんた等がいなかったら、橋の完成どころかワシは今頃ガトーに超殺されていたじゃろうよ」

 

「私としては死んでくれた方がいろいろやりやすいんだがねェ」

 

「なんじゃとぅ!?」

 

「こら、2人とも喧嘩しないの!」

 

馬が合う人、合わない人。

 

「再不斬さん! 次あったらまた指導お願いします!」

 

「な!? マイカゼ! 貴女いつの間に……」

 

思いも行動も皆それぞれバラバラで。

 

「イナリィ…お前ってばさみしんだろ~…泣いたっていいってばよォ!」

 

「泣くもんかァ! ナルトの兄ちゃんこそ泣いたっていいぞ!」

 

「………(ぶわぁ)」

 

「―――(どわぁ)」

 

「(ったくごーじょっぱりィ!)」

 

「(ふん)」

 

「……じゃあな」

 

「どうかお元気で」

 

「はい、いつかまた必ず会いましょう!」

 

偶然かもしれない、共通の脅威を前にして仕方なく肩を並べただけかもしれない。

でも、それでもあの時の私たちは確かに同じ方向を向いていたんですよ。

 

「はい、いつかまた必ず!」

 

必ず、会ってまた一緒に。

 

 

 

 

 

 

行っちまったか。もう泣いていいぞイナリ。

何、また会えるさ。

何せワシらは変わったからな。

あの子たちが、決して交わることのなかった人々の間に理解という名のかけ橋が架け、理解は和解につながって、そしてとうとう絆へと昇華した。

あの子たちは“絆”というなの“希望”への架け橋をワシ等にくれたんじゃ!

 

架け橋か……橋って言やぁこの橋の名前は結局何になったんだ?

 

それはもう決まっておる、『ナルト大橋』じゃ!

 

まあ、妥当だろうな。もともと一番橋づくりに貢献した奴の名前を付けるって約束だったし。

 

うむ、確か『たじゅうかげぶんしん』じゃったかの……個人の頑張りや技量で覆せる物量差には限度があると思い知らされたわい。

 

……いいのかそれで?

 

いいんじゃよ。フフ…この名にはな、決して崩れることも曲がることもない、そしていつか世界中にその名が響き渡る超有名な橋になるようにという願いが込められているのじゃよ。

 

そんな大層な名前かねェ……

 

無論じゃ、何せ………未来の火影の名前じゃからな。

 

 

 

 

 

 

おまけ。

木ノ葉一行の道中会話。

 

「それにしても、今回の任務は本当に忍者という存在について考えさせられる任務だったわ」

 

「橋づくりに始まって、いつの間にか用心棒やってて、最後にはイカだもんなぁ……」

 

「本当、忍者って何なんだろうって何度思ったことやら……」

 

「カカシ先生。忍者ってこういうものなの?」

 

「ま、ある意味そうだな。忍びってのは任務をえり好みしちゃあいけない。仕えたくない人に頭を下げなきゃいけない時もあるし、戦いたくなくても戦わなきゃいけない時だってある、殺したくない人を殺さなきゃいけない時もでてくるだろうし、逆に憎い相手とも手を組まなきゃいけない時もある……忍びは自分の存在理由を求むるべからず。感情のないただの国の道具であれ。忍び共通の理念だ。霧でも……ま、木ノ葉でもな」

 

「本物の忍者にになるって本当にそういうことなのかなぁ…」

 

「あんたもそう思うのか?」

 

「んーいやな、だから忍者ってやつはみんな知らず知らずそのことに悩んで生きてんのさ……再不斬や、白君だって同じだろう」

 

「みんな同じなのね……」

 

「きっと再不斬も、自分は何をやってるんだろうとか苦悩しながら畑で芋ほりしたりおでんの屋台を引っ張ったりスーパーで客引きしたり保育園で赤ちゃんあやしたり舞台でヒーローに変身したりした時代があったんだろうなぁ……」

 

「どんな任務もやり遂げる。たとえそれが土木工事だろうが、イカ退治だろうが……それが本物の忍者になるってことなのですね」

 

「……それは……なんか違うような」

 

「なんかさ! なんかさ! 俺ってばそれやだ!」

 

 

「…………ヤマト、お前は…」

 

「仕方ないんですよ! 火影様曰く、他の班がえり好みする分のしわ寄せが全部うちにきてるらしくて……」

 

「……いやだからって……そんな任務普通嫌がられるだろう?」

 

「嫌がらないんですよこれが、大概問題児の癖してこういうところは素直で真面目なんです」

 

「……良い子すぎるのも考え物だな」

 

 

「よし、今決めたってばよ! 俺は俺の忍道を行ってやる!」

 

 

「……ナルト、お前が俺の部下でよかった」




―――偶然かもしれない、共通の脅威を前にして仕方なく肩を並べただけかもしれない。
でも、それでもあの時の私たちは確かに同じ方向を向いていたんですよ。

【挿絵表示】


というわけで、波の国編完結を記念してイラストを描きました。
今回遅れた原因の半分くらいがこれです。
総勢11人、多いよ。
本当はこれにさらに、ガトーとかカイザとかタズナとかも加えたかったんですがギブアップ。
これ以上遅れるのもさすがにまずいのでモノクロで。
カラーは無理でした。

あと、全員額当てを外しています。
この連合に所属を示す記号は不要です。

なお、この二次創作の方針として、悪いキャラは登場させないつもりです。
逆アンチ・ヘイトといいますか、原作で悪人として登場したキャラも今回のガトーみたくキャラ崩壊しないギリギリの範囲で浄化する予定。

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