遅れてしまい申し訳ございません。
それはそれとして、モチベーションを維持するために感想を読み返したりしたんですが。
第九班結成当時のコメントが「ヤマト爆発しろ」だったのに、
一番新しい最近のコメントでは「ヤマト、泣いていいよw」に変わっていることに笑
「秘術・魔鏡氷晶!」
白さんのその術は、術式はもとより組んだ印まで含めて
形状としては寅の印に似ているけど、中指が人差し指にかぶせられている点が異なる。
たぶん、木ノ葉にはない霧隠れ特有の印ね。
発生した冷気にあてられて、まかれた水が凍り始める。
「また水が凍って……さっきと同じ氷遁の血継限界か?」
「いえ、氷遁であることには違いないけれど、さっきと同じではないみたいよ」
発生した氷は前の様に私たちの足を固めて動きを封じるのではなく、周囲に持ち上がって薄い長方形を形作り私とマイカゼをドーム状に取り囲んだ。
「……氷の檻?」
「みたいね。……ただ、それにしてはやけに氷が薄いような気もするけど」
何より隙間だらけだ。
おまけに私たちを取り囲む氷の板は水晶みたいにキラキラ儚げに輝いていて、うかつに触ればあっさり砕けてしまいそうな印象を受ける。
しかし、それでもこれは間違いなく檻だ。
どんな術かは皆目見当がつかないけど、それでも内側の私達を絶対に外に出さないという強固な意志が伝わってくる。
普段から檻(ヤマト先生作の木製)を見慣れている私達にはそれが分かるわ……我ながら果てしなく情けない経験則ね。
私たちがそんなことを内心考えつつ警戒する最中、白さんがおもむろに氷の板に近づいて―――
「―――え?」
そのまま氷の中にずぶずぶと沈み込んでいった。
瞬間、取り囲んでいた氷の表面全てに、白さんの姿が映し出される。
「白さんがいっぱい!?」
一体何? 何時の間に分身……いやこれは映像?
氷の板の正体は虚像を映し出すモニターだったってこと?
いや、鏡かな?
魔鏡氷晶って言ってたし。
ただの氷の檻ではないとは分かっていたけど、これでいったい何をする気なのか。
『じゃあ…そろそろ行きますよ』
その声に私は混乱した。
白さんの声が何処から聞こえてきたのか分からなかった。
反響して出所が分からない……のではない。
出所が複数個所ある所為で大本の発信源が特定できない……というわけでもない。
これは……まさか
『僕の本当のスピードをお見せしましょう』
氷の鏡に映った平べったい白さん達が一斉に千本を構えて―――気づいたら右腕が切り裂かれていた。
痛っ、っと思った次の瞬間には左足が斬られた、と認識するより早く背中が、と思ったら肩が、頬が……
「「っくああああああ!?」」
訳も分からず全身を切り刻まれた私たちは激痛とパニックでその場に蹲ることしかできなかった。
蹲っている間も攻撃は止まらない、それなのに白さんの姿は全く見えない。
透明化!? 違う、単純に速すぎる!
「カナタ! マイカゼ!」
鏡の外側から、春野さんの援護の苦無が飛来した。
その苦無はあっさりと氷の鏡から上半身だけ生やした白さんに素手で受け止められてしまったけれど、それでも攻撃は一時止んだ。
「助かった……」
春野さんに感謝しなきゃね。
それにしても、白さんの真骨頂はとんでもなかったわ。
何が『本当のスピードをお見せしましょう』よ。
見えるかこんなの!
気づいたら全身ズタズタになってたわ!
「ちなみにマイカゼは、見えた?」
「残念ながら閃光が糸状に走ったようにしか見えなかった……」
「それでも一応見えたんだ……」
よくよく見れば、私に比べてマイカゼの方が圧倒的に傷が浅い。
それってつまりマイカゼは白さんの攻撃を避けられないまでも外す程度の反応は出来たってことよね……十分凄いわ。
私には到底真似できそうにない。
魔唱・夢印詠唱で術に割り込むなんてもってのほか。
音を置き去りにするような速度で移動する輩にどうすれば
音より速いとか黄色い閃光か!
どんな瞬身よそれ!
絶対になんかネタがあるわね。
いくらなんでも速すぎるわ。
そもそもこれがもし何の捻りもない力技の高速移動だったりしたら今頃私たちは白さんも含めて皆衝撃波でバラバラになってる。
うん、理屈はさっぱりわからないけど、この氷の鏡が高速移動の肝と見た。
何せ白さんがわざわざ血継限界まで発動して作り出した鏡だ。
唯の鏡であるはずがない。
というか、白さんしか映さない鏡が普通の鏡なわけがない。
「何か攻略法はないのか? このままじゃ一方的に切り刻まれる」
「いやそんなこと言われても私に分かるわけがないじゃん」
本当ならこういう観察、解析はコトの担当なんだから。
全く、肝心な時にどこで何をやってんのよあの子は。
「じゃあ、どうすれば……」
「とりあえず落ち着きなさい」
そうしないと攻略も対処も出来ないから。
とはいえ私ごときには白さんが氷の鏡にどんなカラクリを仕掛けたかなんて理解できない。
それでも、白さんが高速移動をするにはこの氷の鏡が絶対条件であることくらいは推測できる。
でないと春野さんの援護の苦無で攻撃が止まったことに説明がつかない。
白さんがこの氷の鏡の内側でしか高速移動はできないと仮定するならば……
「マイカゼ、なんとかして、この鏡の檻から脱出するわよ」
「なんとかって……何をどうすれば?」
「分からない、でもそれでもやるしかないでしょ」
当然、白さんも妨害してくるでしょう。
本当に分の悪い賭けみたいな行為だけど、それでもやるだけやって、あとは意外性と偶然の神様に奇跡でも祈るしかない。
「まあ、そんなわけだから…………走れ!!」
私とマイカゼはタイミングを見計らって即座に駆け出した……その瞬間、すでに右足のふくらはぎを切り裂かれていた。
たまらずその場に崩れ落ちる。
『逃がしません。残念ですがこれでカタをつけさせてもらいます』
「カナタ! っく」
マイカゼが倒れた私に肩を貸して立ち上がらせてくれた。
だけどこの状況はもう……
春野さんが外から苦無を投げて援護してくれているみたいだけどさすがに二度は通じないらしく完璧に見切られてかわされている。
万事休す……と思った矢先に―――
「―――え?」
「何?」
春野さんとは別の方向から突如、手裏剣が飛来した。
さすがの白さんもこれは完全に想定外だったらしく、避けることも受け止めることも出来ずにまともに身体で受けて鏡からはじき出される。
結果、私とマイカゼは何が起こったのかよく分からないまま脱出に成功した、と同時にすぐ隣で煙玉がボーンと爆発。
急展開過ぎる、本当に訳が分からない。
「……誰?」
春野さんも困惑している。
いや、春野さんだけじゃない。
春野さんの近くにいるタズナさん、ヤマト先生、敵である桃地再不斬に白さん、その場にいる敵味方全員が困惑していた。
それぞれの脳裏にクエスチョンマークが飛び交う中、ついに彼は煙の向こうから姿を現した。
「うずまきナルト! ただいま見参!!」
無駄に良い笑顔だった。
「オレが来たからにはもう大丈夫だってばよ! 物語の主人公ってのは大体こーゆーパターンで出て来てあっちゅーまにィー!」
ナルト君はここで無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで無駄にカッコいいポーズを決めて
「敵をやっつけるのだァー!」
瞬間、ナルト君の背後の海で派手に水しぶきが上がり、太陽光を屈折させて虹がかかった。
絶妙なタイミング、虹をバックにポーズを決めたナルト君は最高に輝いていた。
……どんだけ意外性と偶然の神に愛されてんのよ。
「ナルトォ!」
「おお!」
春野さんとタズナさんが喝采。
アンタ等とりあえず落ち着け、ナルト君の異様なテンションに感化されるな。
「…………ナルト君、ちょっといいかな?」
「あっ! カナタ! マイカゼ! 大丈夫かってばよ!?」
ようやくこちらに気づいたらしいナルト君が血相を変えて近寄ってくる。
どれだけ周りが見えてないのやら。
とりあえず話が長いとか、目立ち過ぎとか、貴方はいつ主人公になったのかとか突っ込みどころが多すぎてどれから突っ込んでいいのか分からない。
言いたいこととか言わなきゃいけないこととかがごちゃ混ぜになってグルグルと頭の中で渦巻き―――
「ありがとう。助かったわ」
―――結局私の口から飛び出したのはそんな一言だった。
「……おう!」
ナルト君は一瞬呆けたように眼を見開いたが、すぐにニカっと笑顔になってサムズアップ。
私はナルト君のそんな笑顔を見て、それ以上何も言えなくなってしまう。
根拠一切なしの完全なる錯覚であることは自覚している。
しかし、それでもナルト君がどうしようもなく頼もしく見えた。
他の一連の出来事も大概おかしいけど私にとっては自分がそんな感情を抱いてしまっていることが何よりの異常事態よ。
「……カナタ?」
「……大丈夫」
心配そうに見つめてくるマイカゼを制して、私はマイカゼの肩から降りて自分で立つ。
幸い……というか白さんが手心を加えてくれたおかげかな、足の傷はそれほど深くなかった。
お蔭でなんとか立つことが出来る。
まあ、いいかな、結果オーライってことで。
「……ナルト君が、木ノ葉で最も意外性に愛されている忍者なら……」
「……?」
「
橋から身を乗り出して海を見下ろすと、海面を物凄い勢いで走っている一団が見えた。
昨日の夜から姿を消していたうちはサスケ君と、それを探しに行っていたはたけカカシ先生だ。
はたけ先生は普段額当てで隠している
どうやらよほどの事態であるらしい。
「……カカシ先生? それにサスケの奴も……あんな場所でなにしてるってばよ? ってかどうやって水面を走って!?」
「水面歩行の業よ」
この間の木登り修行の発展形ね。
木登りが必要な分だけ必要な箇所にチャクラを集めてずっとそのチャクラ量を維持し続けるトレーニングであるのに対し、こっちは集めたチャクラを放出し続けなければならない。
放出するチャクラが少なすぎれば浮力不足で水に沈むし、逆に多すぎればバランスを崩してひっくり返るから、ただ維持するだけの木登りより難易度がずっと高く、実際
とにかく水面歩行は木登りより難しい、それなのにサスケ君はもうあんなに……これだから天才は。
そしてそれ以上に納得いかないのは彼の両目だ。
赤く輝いている、はたけ先生の左目と同じ写輪眼を開眼してる。
男子三日会わざれば括目して見よなんて言葉があるけど、いくらなんでもたった半日姿を消しただけで水面歩行と写輪眼を会得して帰ってくるとか非常識にも程があるわ。
一体どれだけの才能を秘めているのやら……今なら春野さんとかが彼に御執心なのも分かる気がする。
「サスケく~ん!」
春野さんってある意味ナルト君以上に単純一途かもしれないわね。
でも、私にとっては彼以上に気にしなければならない、というより目を離せない奴がいる。
サスケ君の頭の上に小さい―――ネズミ以上仔猫未満くらいの小さな少女、否、幼女が乗っかっていた。
姿形は見違えるようだけど私からすれば見間違えようがない。
あのバカ、あの術を使いやがったわね。
確かにサスケ君の才能は非常識だと思う。
比較して自分は落ちこぼれだって卑下したくなる気持ちも分かる。
だけど、私に言わせればベクトルが違うだけでコトもサスケ君も非常識具合では全く同レベルよ!
「おい、コトが小さい……ってか幼いぞ。どういうことだ?」
「そりゃ原因は半化の術しかないでしょうよ」
「? なんだってばよ、その“ハンカノジュツ”って?」
「コトがアカデミー時代に開発した術の1つよ。効果は見ての通り小さくなること」
「ああ、あの演習の時のあれか……でもあれって確か一度発動すると
「その言いつけを守ってないから、今コトはロリをこじらせてんでしょうが」
「そもそも札は全部没収されてたはずじゃないのか……」
そりゃもちろん、まだ隠し持ってたんでしょうよ。
あるいはこの波の国滞在中に新たに作ったか。
改めて考えると本当にロクなことをしないわねあの子。
おまけによくよく見れば小さいコトの眼も朱い……写輪眼…なのかしら?
サスケ君やはたけ先生の鋭いそれとは似ても似つかない温い瞳、小さいサイズや白い髪も相まってなんか小兎みたい。
そして何故か本物の小兎もいる。
雪兎サイズの小さい兎が、鏡餅もしくは雪だるまみたいにコトの頭に乗っかっている。
さらに下のサスケ君も計算に入れたら豪華三段重ねのトーテムポールよ、バカみたい。
そしてその周囲にはカカシ先生の忍犬がズラリ……どこのふれあい動物園なのよ。
さらに彼らの後ろには巨大な水生生物の影。
吸盤のついた長い触手をくねらせながら水上を走る彼らを追いかけている。
どうやらさっきの絶妙なタイミングで上がった水しぶきの原因はあれみたいね。
私やマイカゼはもちろんのこと、来たばかりのナルト君やヤマト先生、春野さんにタズナさん、それに加えて敵側の鬼人、桃地 再不斬や白さんも含めた全員がその姿に唖然とした表情を浮かべている。
「なんじゃあ、あの超デカいのは!?」
「うわぁウネウネ、吸盤だらけ、気持ち悪~い……」
「でっけ~タコだってばよ!」
「いやナルト君、あれはタコじゃなくて……」
「イカだァ――!!」
その場にいた誰かがそう叫んだ。
そう、逃げるコト達を追って海から現れたその生物の正体はとてつもなくデカいイカだった。
「え!? ……1・2・3・4・5・6…」
足数えなくても見りゃわかるでしょうがナルト君!
何せ大きいから細部までイカの特徴がはっきりわかる。
というか本当に大きい、足の一本一本が現在建設中の大橋の柱と同じくらい太い。
あんなのにこのまま突っ込まれたら橋が壊される。
トラブルメーカーというか、なんというか、とにかくエライものを連れて来てくれたわね。
いや本当にたった半日で何があったのよ?
時を少し遡ること半日前。
アジトに潜入してからしばらく、まるでボールが弾むように機敏に跳ね回る“そいつ”を見て
(思ったより素早い、動きをとらえきれない!)
それならば、と俺は印を結ぶ。
『火遁・豪火球の術!』
炎が視界いっぱいに広がった。
いくら素早くとも、広範囲を炎で包み込み焼き尽くすこの術なら避けようがないはずだ。
尤も、カカシの野郎は土遁で地面の下に潜ることで避けられたが、さすがにそんな“あいつ”はそんな芸当はできない筈………!?
「いない!?」
炎が収まった時、視界には焦げた地面しか残っておらず、奴の姿は何処にもなかった。
バカな、避ける空間なんてどこにも……
「サスケくん、うえです!」
「!」
頭上から飛び掛かってきたそいつを、俺は反射的に苦無で迎撃しようとして―――
「コトしきじゅふじゅちゅ、きょうせいはんか!」
―――それより先に飛来した札が張り付いた。
「かんじゃった……」というこの上なく情けないセリフがやけに印象に残った。
「『ごうかきゅうのじゅつ』のけってんですよね~、かおのすぐまえにとくだいのかきゅうがとびだすわけですから、どうしたってしかいがふさがってまえがみえなくなっちゃいます」
しゃりんがんがあればほのおごしでもみえるでしょうけどね、と奴が舌っ足らずな口調で、先の戦いを総評するのを俺は黙って聞いていた。
とりあえずの窮地は脱したが達成感はなかった。
己の胸に去来するのは無力さと情けなさだ。
原因はこいつに助けられてしまったことではなく、豪火球を避けられ死角を突かれたことでもない、もっと根本的なところにある。
「たかが……たかがウサギ如きに俺は」
戦闘の内容とか、術の選択をミスったとかそういう問題ではなく、ただウサギなんぞといい勝負をしてしまったこと自体がどうしようもなくふがいなかった。
強くなったはずだった。
木登りの修行も終えてチャクラのコントロールも格段に上手くなり、忍者として一回り成長できたと思っていた……そのはずなのにこの体たらく、俺は何をしていたんだ……
「まあこれはしかたなかったとおもいますよ? それにものはかんがえようです。“じぶんいじょうにおおきなウサギ”とたたかうというきちょうなけいけんができたとかんがえれば」
「その経験が一体何の役に立つっていうんだ!?」
「それはほら……しょうらいやまみたいにおっきなウサギさんとたたかうときがきたら」
「そんな未来は来ねえよ!」
「なにおう!? なにをこんきょにいいきれるんですか!」
そういうそいつの腕の中では、先ほど飛び掛かってきたウサギが『コト式呪符術・強制半化』の効力により俺たち以上に小さくさせられて震えていた。
半化の術。
身体の一部、もしくは体全体を一時的に縮小化させるオリジナルの忍術。
画期的(本人談)な術だが、実用化にこぎつける道のりは果てしなく険しかった。
何せ開発当初は術の最大持続時間が5秒以下、しかも本家の倍化の術と違い、一度発動すると任意のタイミングで効果を解除することが出来ないという致命的なリスクを抱えていた。
使えない忍術。
そう言わざるを得なかった。
しかし頑張った。
頑張ってしまった。
無駄な情熱と無駄な熱意を胸に秘め、無駄な時間と無駄な才能を余すことなく費やし、何度も何度も試行錯誤と実験を繰り返した結果、少しずつ少しずつ効果時間が延びてゆき……
―――そして、なんと! じゅつのこうかをさいだいではんにちもじぞくできるようになったのですよ!
それを語った時の奴は得意満面の笑みを顔いっぱいに浮かべて胸を張っていた。
もし尻尾がついていたなら盛大に振りまくっていることだろう。
褒めて褒めてと顔にデカデカと書いてあるそいつを見て、
俺はこいつの事が苦手だ。
思考や行動原理がさっぱり理解できない未知の存在だ。
だがこれは、それ以前の問題だ。
ナルトの様にうるさいのでもなければ、サクラのようにウザいのともまた違う。
ただただ純粋にこの目の前の少女の笑顔がムカついた。
怒りが苦手意識を凌駕する。
「……おい、今の話だと、改善されたのは持続時間だけで任意のタイミングで解除できない欠点はまだ改善されてなかったように聞こえるんだが?」
「はい、それでもここまでこうかじかんをのばせたのはすばらしいしんぽとせいかなんですよ! もっともはんにちというのはへいきんでじっさいはもっとこじんさがあるんですが……」
「そんなことは果てしなくどうでもいい。……つまりあれか? 要するに俺たちは術の効果が持続するおよそ半日の間ずっと小さくなったまま戻れないってことか?」
「…………」
「おい、目をそらすな」
「……………………」
「目を閉じるな、ちゃんとこっちを見ろ」
「…………そうともいえなくもないですわきゃあ!?」
「こんのウスラトンカチがぁ! 何が改良だ思いっきり改悪されてんじゃねえか!」
「いひゃひゃひゃいひゃいいひゃいひっははないで~」
苦手意識は薄れても、理解できない未知の存在であるという認識は変わらない。
……というか、理解できてしまったらいろいろと破滅な気がする。
どうやらウサギは『自分よりも小さい人間』と言う、見慣れない存在を前に興奮していただけらしく、『コト式呪符術・強制半化の術』を喰らって小さくなった後はすっかり大人しくなった。
「べんりですよねわたしのふじゅつ!」
「そもそも小さくなってなかったらそれを使う事態になってねぇだろうが」
結局、この術の効果が役に立ったのは通気口を通ってアジトに潜入するまでだけでそれ以降は盛大なハンデにしかならなかった。
正直、このままだとヤバい。
こんな状態で人に出会ってしまったら相手が忍術を扱えない一般人であろうとも負ける、いや、それどころかちゃんと見つけてくれるかどうかすら怪しい。
最悪、全く存在に気付かれることなく踏みつぶされて床のシミになる。
何せ何故かいた
「というか、なんでウサギがこんなところにいるんだ?」
「さあ、すくなくともやせいのウサギさんがたまたままよいこんだ、ということはないとおもいますよ? いまのこのじきにまっしろなけなみはしつないしいくじゃないとありえないですし」
「そんなことはどうでもいい!」
「な!? ひどくないですか!? そっちがきいたからまじめにこたえたのに!」
むきゃ~と怒りを露わにするがそれを俺はスルー。
ひとまず過去を悔やむのは後回しだ。
考えるべきは今後どうするべきかである。
「……どうにかしてこのハンデを覆す方法を……でないとまともに戦えない。下手すればゴキブリとかにも負けんじゃないか……」
「お、おおおそろしいそうぞうしないでくださいよ!」
今の自分と同サイズのゴキブリを脳裏に思い浮かべたらしい。
全身を震え上がらせる。
誰の所為だと思ってやがる。
「というか、両方小さくならなくても、どちらか片方が小さくなって内側から封印の札を剥がせば事足りたんじゃないか?」
「……あ」
「あ、じゃねぇよ!」
「ごごご、ごめんなさ~い」
その場に這いつくばって平謝りする白い少女(何故かウサギも一緒に頭を下げている)を見て、俺は何とも言えない脱力感を味わった。
もはや怒る気すら失せた。
「……使い方さえ間違えなければ強力な術のはずなのに」
小さくなったウサギを見やりながら嘆息。
最初に目の当たりにした時にも薄々感じていたが、先の戦闘で確信した。
この『半化の術』の真価が発揮されるのは、自分に使った時ではなく敵に対して使った時だ。
一度発動すると任意解除できないというリスクも、敵に対して使うならそれは短所どころか立派な長所になりうる。
『自分が小さくなる術』ではなく『相手を強制的に小さくする術』として考えるならば。
これほど凶悪な術はそうないだろう。
パワー、スピード、リーチ、チャクラ、それら全てが大幅に弱体化するその厄介さは現在進行形で身を持って体験中だ。
「半化の札はもうないのか?」
「もともと2かいぶんのチャクラをこめたふだが2まいの、ごうけい4かいぶんしかなかったんですよ。うち2かいはわたしたちにつかって、サスケくんにつかったふだはどっかにとんでっちゃいました。さいごの1かいもウサギさんにつかっちゃいましたし……」
「つまりもうないんだな……」
使えない。
いろんな意味で。
本当にどうしてくれようか……
「……? そんなにまずいですかね?」
こちらが必死に悩んでいるのに心底不思議そうに首をかしげるそいつを見て、俺は再び頭に血が上るのを感じた。
何言ってやがんだこいつは?
「バカが、マズいに決まってるだろうが。この姿じゃ敵と遭遇しても満足に戦えないってのはさっき嫌と言うほど思い知って……」
「だから、そのぜんていがおかしいんですよ。なんでたたかおうとしてるんですか? みつからないようにかくれてこうどうするはずじゃなかったんですか?」
「…………っ!」
「おもえば……ううん、こほん。思えば最初からそうでしたよね? ひょっとして潜入時に見張りに対して投擲した石も、実はそんなに当てる気はなかったんじゃないですか?」
「…………」
「わざと外そうとした、とまではいかないまでも外れても別にかまわないと思っていた? 見張りの人たちとの戦闘はむしろ望むところでした?」
その指摘に俺は沈黙することしかできなかった。
そしてこの状況での沈黙は肯定と同義だ。
「……道理で少しも気負いがなかったわけです。それにより肩の力が抜けた結果、幸運にも……いえ不運にも石は全部命中してあっさり侵入できてしまったというわけですか……」
やれやれと首を振った後、今までになく真剣な目でこちらを見つめた。
「そうまでして戦いたいのですか?」
質問ではなかった。
これは確認だ。
「……強くなるためだ」
「強くなって……復讐するためですか?」
「……そうだ」
「……そうですか」
「…………」
「…………」
「…………止めないのか?」
それ以上何も言わなかった。
正直、意外だった。
少なくとも以前なら、俺がこういう事を口にした瞬間に「それはよくない」とか「復讐は何も生み出さない」とか反吐が出るような綺麗事をほざいたはず。
まさかこいつも復讐者に……そう考えた時、自分でも信じられないほど心がざわついた。
「復讐を……否定しないのか?」
こいつが復讐者にはなるのはダメだ、絶対ダメだ。
こいつは能天気でバカで頭に花が咲いているような天然頭脳で、穴倉に籠って復讐や暴力とは無縁なアホ忍術の研究をしているのが似合いだ。
そうでなければならない。
そんな俺の(勝手な)内心なんて知るわけもなく、俺の質問に肯定でも否定でもない斜め上の回答で奴は応えた。
「保留!」
「は?」
「だから、保留です」
理解が追い付かなったのを察したのだろう。
いつかの豪火球の修行の時の様に理路整然とした様子で
「良いですか? もしイタチお兄さんがサスケ君に告白した通り、本当に一族皆を『己の器を測るため』なんてよく分からない理由でお姉ちゃん達を殺しちゃったんだとしたら、サスケ君の怒りはもっともです。むしろ怒らない方が不自然です」
「なら!」
「でも、証拠がありません」
証拠? 何を言っているんだ!?
俺はイタチが父さんと母さんの死体を前に血まみれの苦無を片手に無表情で佇んでいるところをはっきり目撃したんだ!
「そんなの幻術でどうとでもなります。イタチお兄さん幻術むっちゃ得意でしたし。あれで結構嘘つきな面もありましたしね」
「余計に信用できねえだろ!」
「その通りです。信じられないんです。そんな嘘つきなイタチお兄さんがサスケ君に対して己の罪と動機を素直に喋ったなんて。喋ると思いますか? あの秘密主義のお兄さんが」
「……っ!?」
思わず言葉に詰まった。
確かに一理ある意見だった。
修行を見てくれると約束したのに、その約束をすっぽかされることなんて何度あったか分からないほど日常茶飯事で……ってちょっと待て。
「本当に!? 本当にウソだった!?」
「少なくとも1人で皆殺しにした~とかいう話はウソだと思いますよ。と言うより不可能です。うちは一族を単独で壊滅させるとかそんなこと火影様にだってできませんし」
正論だった。
全く持って正論だった。
確かにそれはイタチがいかに天才であったとしても不可能だ。
ということはあの時のイタチが見せた、一族を一人で皆殺しにした幻術の光景は全てウソ……?
「そんなの分かりません。イタチお兄さんに共犯者がいた可能性だって否定できませんし。本当に1人でそんなことが出来てしまうような凄い術が使えたのかもしれません。話に聞いた万華鏡写輪眼がそれだとすれば辻褄が合っちゃうんですよね……私としては、真犯人は別にいてイタチお兄さんは罪をなすりつけられただけで無実……だと信じたいですが」
もう訳が分からなかった。
「結局のところ、どんな推測を立てても意味がないんですよ。証拠がありませんから」
ですから、証拠が見つかるまで保留です、とコト。
冷水を頭にぶっ掛けられたような気分だった。
イタチが……兄貴がウソをついていた可能性なんて考えもしなかった。
……というか、俺は何で疑わなかったんだ?
散々騙されてきたのに。
散々騙されてきたのに!
そうだ、兄貴は嘘つきだった!
「許せサスケ、また今度だ」って、その今度は結局いつになったら来るんだよ!
ちょっと格好よく言っておデコ小突いたくらいで誤魔化されないぞ!
「いや、今の今まで誤魔化されてたんじゃ? ……って聞いちゃいませんね」
クソ、こうなりゃイタチの奴に直に会って問いただす必要があるな。
あの日の……うちは虐殺の真実を。
だが、普通に聞いたんじゃ絶対に教えてくれやしないだろう。
かつての様に幻術や話術ではぐらかされるだけだ。
力づくで聞き出す必要がある、そのためにはまず……
「……強くなる!」
「……結局そこに戻るんですね」
「こうしちゃいられない、行くぞコト!」
「…………っ!? サスケ君、今名前…」
その後もコトがごちゃごちゃと話しかけてきたが俺はあまり取り合わなかった。
唯でさえカカシの所為で修行が遅れ気味なんだ。
時間を無駄にしている暇はない!
久方ぶりにサスケ君に名前を呼んでもらえました!
あの事件を境にずっと呼んでもらえなかったんですよ。
今なら、木ノ葉丸君が名前を呼んでもらうために悪戯を繰り返した理由も、初めてナルト君に認められて名前で呼ばれた時の感動も理解できるというものです。
これは嬉しいです。
やっぱり、人間関係において名前って重要なんですよね。
「……コト? さっきから何1人でニヤニヤしてるんだ?」
やった! また呼んでもらえた!
「……サスケ君、もう1回!」
「……うぜぇ」
はうっ、サスケ君がゴミでも見るかのような目で私を見てきます。
今の今まで目を合わせてすらもらえなかったから、この冷たい視線も懐かしい……なんだかゾクゾクするのですよ!
「きめぇ……」
あ、サスケ君がナチュラルに引いてます。
さすがに調子に乗りすぎたようですね。
せっかくまた名前を呼んでもらえるようになったのですから自重しないと―――
カサコソ
―――それは、浮かれた脳みそを一瞬で凍結させる『名前を言ってはいけないあの虫』の気配でした。
―――それは突然だった。
気が付けば、ほんの数センチの距離に奴はそこにいた。
ユラユラと揺れる長い2本の触角、ギトギトの油を思わせる光沢を放つ黒い翅、互い違いに高速で動く6本の足。
動物界、節足動物門、昆虫網、ゴキブリ目に分類される、最もポピュラーで最も悍ましい害虫。
ゴキブリ。
全身に鳥肌が走るのを抑えられなかった。
俺はこの害虫の存在が別段苦手というわけではない。
所詮はただの小さな虫けらだと思っていた。
侮っていた。
全身にぞわぞわと鳥肌が立ち、呼吸すら忘れて息をのんだ。
理屈じゃない、本能が恐怖を訴えてくる。
もちろん、本来ならここまでビビったりはしない。
当たり前だ、たかが虫なのだから。
でも今の俺は半化の術の影響で身体が縮小されている状態だ。
『自分と同サイズのゴキブリ』は、はっきり言って絶望以外の何物でもなかった。
どうする?
苦無で斬りかかる? いや無理だ、というかイヤだ。
例え苦無でも触りたくないどころか近づきたくもない!
それなら火遁で……とあれこれ考えていたが故に出遅れた。
こちらが行動に出るより前に、奴が動いた。
シャカシャカと6本の足を高速で動かし、迫りくるゴキブリは瞬く間に俺のすぐそばまで迫って―――あっさりと通り過ぎた。
「…………」
見逃された、というより最初から興味がなかった、と言うことなのだろう。
近くに台所でもあるのかもしれないな、となんとなくそんなことを考えた。
助かった、と安堵すると同時にふがいない己に対する怒りも沸いてきた。
これじゃ先のウサギの時と同じだ、何も成長していないじゃないか。
「ちくしょう、エリートが聞いてあきれる。コト、無事か?」
俺は深呼吸して無理やり気持ちを落ち着かせ、背後で固まったまま動かないコトに呼びかける。
しかし、コトは無反応。
さすがに不審に思ってコトをよくよく観察して…………怒りが再燃した。
「……おい、ふざけるなよ」
コトは気絶していた。
立ったまま気絶していた。
「ふざけるな! こんな、こんなことでお前は!」
白目をむいて目を回し、ではなく
「お前は写輪眼を! うちはをなんだと思ってやがんだ!」
確かにコトは以前言っていた。
ショックこそが写輪眼の開眼要因であると。
でもだからって、いくらなんでもこれはないだろうが!
コトのあんまりな開眼理由、先を越された嫉妬、己の情けなさ、それらが綯い交ぜになって、俺はどうしようもなく当り散らすことしかできなかった。
コトに対する苦手意識が俺の中から完全に吹き飛んでいる事に気づいたのは、波の国を後にして木ノ葉に帰った後になってのことだった。
肯定でも否定でもなく、保留。
この先延ばしの答えにたどり着くのに、リアル時間で数か月かかりました……
サスケがキャラ崩壊していないか物凄く不安です。
ナルトが『真っ直ぐ自分の言葉を曲げねぇ』ぶれないキャラであるのに対し、サスケは時系列で行動や性格がコロコロ変化するので物凄く行動をつかみづらいんですよね……
個人的にナルト二次創作において一番動かしにくいキャラです。