南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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遅れてすみません。
ようやく投稿です。

最近、プリズマ☆イリヤを見たせいかコトの声がイリヤで再生されます。
当然、ヤマト先生の声はキリツグ、サスケは士郎で再生されるわけで……

だからどうしたって話ですねはい。


24話

タズナさんが姿を消したことに気づいたその日の夕方、カイザ邸の居間にて。

 

「待ってください! いつもはともかく、今回のこの扱いはいくらなんでも理不尽です!」

 

うちはコトは、首に『私は一般人にお金を盗まれてしまうほどに警戒を怠りました』と書かれたプラカードをぶら下げた格好で猛然と抗議の声を上げていた。

 

「待遇の改善を要求します! というか盗まれてませんし! あくまで貸しただけですし!」

 

盗まれたとは意地でも認めないつもりらしい。

 

「金銭を持主の断りなく借りることを総じて窃盗というんだよ」

 

ヤマト先生はそんな態度のコトにやれやれと首を振る。

ちなみにコトは「断固抗議します!」とか言ってる割に、しっかりと言われるままにお行儀よく正座していた。

なんか変な感じに躾けられているというか、正座させられることに慣れつつあるというか、半分癖になってるんじゃないの?

 

「あの先生? 今回はまあ大目に見てもいいんじゃないですか?」

 

私―――空野カナタはヤマト先生に恐る恐る進言する。

いつもは確かにコトの自業自得だけど今回のこれは一応被害者なわけだし。

 

「その訴えが通用するのは一般社会だけだ」

 

ヤマト先生は私の訴えを一切聞き入れたりしなかった。

暗部仕込みの無表情を浮かべ、何時にもまして平坦な声音で

 

「忍びの社会では騙された方が、盗まれた方が悪いことになっている。今回はお金が少し盗まれた程度で済んだが、もしそれが機密情報を記した重要書類だったらどうする? 死んだ程度じゃ償えないよ?」

 

「うぐぅ……」

 

「弱い忍びに救済なんてあり得ない。被害者になった忍びはただ殺されるだけだ。忍びの社会に保険なんて存在しないんだよ」

 

「うう……」

 

「だいたいコトはいつもそうだ。周囲に対して無防備すぎる。一瞬の油断が命取りになる忍びの世界で、その無警戒さはおよそ致命的だ」

 

「…………」

 

「悔しければ、見返したければ強くなる以外に方法は……」

 

「……もうその辺で良いんじゃないですか?」

 

私は頃合を見計らってストップをかけた。

見ていられなかった。

今回はさすがにねぇ。

 

「……くすん」

 

コトは忍者だ。

決して涙を見せてはいけない忍者だ。

しかし、それ以前にやっぱり女の子なのよね。

 

 

 

しかし、コトは女の子である以上に問題児でもあるわけで。

 

「依頼人の家族を疑って、警戒して、そうまでして機密を守らないと存続できないような後ろ暗い里なんて滅びちゃえばいいんですよ……」

 

ヤマト先生の説教から解放された直後のコトのセリフがこれだ。

例によって欠片も反省していないなこいつ。

真っ直ぐ自分の言葉を曲げないのも結構だけど、これはなんか違うでしょうに。

ちなみに件のプラカードは今もコトの首にぶら下がっている。

以前は巫女服にプラカードという異色の組み合わせに激しく違和感を覚えたはずだったんだけど、今ではすっかり見慣れてしまった。

仕方がないと言えば仕方がない。

何せ最近ではつけていない時間の方が短いくらいなのだから。

 

「冗談でもそういうことは言わない方が良いわよ。クーデターの意思ありってされて暗殺されたくなかったらね」

 

半分冗談、半分本気で私はコトに釘を刺しておいた。

今は冗談で済ませられるけど、将来的にはそうも言っていられないかもしれないし。

私はちゃんと今のコトのセリフが本気じゃないってわかるけど、子供の冗談の通じない大人(バカ)が本気にしないとも限らないし。

 

……いや、改めて考えてみれば本当にあり得そうで怖いわね。

コト暗殺。

実際一度殺されかけているわけだし。

 

「……私がもっとしっかりしないと」

 

「?」

 

キョトンとして私を見つめるコトに隠れて私は決意も新たにひそかに拳を握った。

コトが首をかしげていると、マイカゼが暗い空気を吹き飛ばすように肩を落としているコトの背中を軽くたたいてわざとらしいくらい明るい声で

 

「コト、まあ元気出せ。ほら、七転八倒って言うじゃないか!」

 

「「…………」」

 

 

空気が死んだ。

 

 

「……あ、あれ? 何か間違えたか?」

 

「いや、状況を表す言葉としてならこれ以上ないくらいに的確なんだけど……」

 

励ましの言葉とするなら激しく間違っていると言わざるを得ない。

正しくは七転び八起きである。

 

「そ、そういえば! タズナさんは借りたお金で何をする気なのでしょう?」

 

微妙になった空気を察したのか、コトが明らかに無理をしている様子で声を張った。

露骨な話題変換。

しかし私はあえてそれに乗る。

実際のところ気になる話題でもあったし。

 

「……そうね。普通に、というか短絡的に考えるなら木ノ葉に増援の依頼をするとかかしら?」

 

「で、でもそれは不可能なのですよ。私が貸したお金とツナミさんの元々の金額を全部依頼につぎ込んだとしても全然足りないのです……」

 

弱々しい声でそういうコト。

無断で財布の中身を抜かれたのはそれなりにショックだったみたい。

それでも決して盗まれたと言わず、あくまで貸しただけと言い張るあたりがコトらしい。

 

「確かにこれじゃCランクがせいぜいだ……」

 

掲示された金額の数字を見て、木ノ葉の依頼料の相場と照らし合わせたマイカゼが断言した。

確かに、この額ではBランクの平均にも届かない。

 

「2人の言うとおり正攻法じゃ無理ね」

 

「ですよね? だったらタズナさんはいったい何を……“正攻法”では?」

 

「正攻法以外なら方法があると?」

 

私のセリフの微妙なニュアンスを感じ取ったのかコトとマイカゼが眉をひそめた。

 

「そうね。例えば木ノ葉にCランクの依頼……護衛任務を頼んだとするじゃない? 暴力団から身を守ってくれって」

 

「はい」

 

「忍びとの戦闘がないならCランクの金額で依頼できるな」

 

うんうんと頷くコトとマイカゼ。

 

「それで、もし暴力団が依頼人の知らないところで忍びを雇っていたとしても、それは依頼人の落ち度じゃないよね?」

 

「うんうんそれなら仕方がな……いや待て、その理屈はオカシイ」

 

「そうですよ! 依頼内容の詐称は犯罪です!」

 

目をむいて声を大きくするコト。

どの口が犯罪とか言うのかなこの犯罪者予備軍(もんだいじ)は? 

 

「というか、コトはついさっきお金盗まれたばっかじゃない。目的のためなら窃盗も辞さないって覚悟なら、依頼内容の詐称くらい平気でするでしょ」

 

私はあえて辛辣な言葉を選んで冷たく言った。

案の定、コトは目を吊り上げて(それでもちょっとしか吊り上らないけど)怒る。

 

「盗まれてません! ちょっと貸しただけです! タズナさんはそんなことしません!」

 

頑固ね。

でもまあ、タズナさんはそんなことしないっていうのは同意する。

タズナさんの人となりを全て理解している、なんて口が裂けても言えないけど、それでも少なくとも悪人ではないことくらいは理解しているつもりだから。

 

「そう? それじゃ賭ける?」

 

「ノった!」

 

よし、ノってきた。

 

「ちょ、ちょっと待て、2人とも落ち着いて……」

 

マイカゼが焦った様子で口を挟んできたけど私はそれを無視して

 

「それじゃ、タズナさんが本来Bランク相当の依頼をCランクと偽って木ノ葉の忍びを雇っていたら私の勝ち。それ以外の用途でお金を使ったのならコトの勝ちってことで。賭け金は千両(※およそ一万円)でOK?」

 

「OKなのです!」

 

「本当に良いのか!? そんな賭けして?」

 

「いいのよ」

 

勝つつもりないし。

むしろ私の目的は負けることにあるんだから。

私自身、タズナさんがそこまで汚いとは思わない。

これでコトが勝てば、少しはなくなった財布の中身の補填になるでしょうよ。

 

「なるほど、カナタはワザと負けて……そういう意図か」

 

「普通にお金渡しても受け取らないからね」

 

仲間なんだから素直に頼ってくれればいいのに。

コトはこういう時本当に頑固なんだから。

 

「コト、私も賭けに参加だ! タズナさんが詐称する方に二千両賭ける!」

 

「マイカゼまで!? 酷いですよ2人とも! いいですけど、負けたら後でちゃんと疑ったことをタズナさんに謝ってくださいよ!」

 

「はいはい、負けたらね」

 

言われなくてもそのつもりよ。

 

 

 

 

 

 

その後、タズナさんは帰ってきた。

木ノ葉の忍をひきつれて。

コトにギャンブルは致命的に向いていないことが明らかになった。

 

 

 

 

 

 

どうも、現在無一文に加えて友達に賭けに負け借金まで作ってしまった哀れな女、うちはコトです。

ここまで惨めな気持になったのはうちは一族が滅んだ時以来なのですよ。

 

まあ悲しみのベクトルが盛大に違うのですが。

前は笑えない悲劇、今回は対外的には笑える悲劇です。

そんなわけなのでどうか笑ってくださいコンチクショウ。

 

「……嬢ちゃん。本当に超スマン」

 

タズナさんが帰ってきてからしきりに頭を下げてきます。

 

「もういいですよ別に、むしろ良かれと思ってやったんなら謝らないでください」

 

余計に惨めですから。

 

「(おい、話が違うぞ! これでは私たちは薄幸少女から更なる金銭を搾り取ろうとする単なる嫌な奴ではないか!)」

 

「(読み違えた……まさかタズナさんがこんな最悪の依頼人だったなんて……)」

 

カナタとマイカゼがこそこそと話しています。

勝ったお金で何を買うかの相談でしょうか?

 

「俺からもモロ謝る」

 

「大丈夫ですよ。本当に気にしていませんから」

 

頭を下げてくるカイザさんを私はやんわりと制しました。

国のために増援が必要だったというのは紛れもない事実でしたし、何より久しぶりに“顔馴染み”に会えたのは個人的にとても嬉しいですから。

 

「コトちゃん! 久しぶりだってばよ!」

 

「はい! お久しぶりですナルト君!」

 

奇妙な偶然なのか、火影様の粋な計らいなのか、助っ人として駆けつけてくれた忍び小隊はなんとナルト君所属する第七班だったのです。

実力以上にとても頼もしい気分ですよ。

それに話によれば、此処に来るまでにもうすでに修羅場をくぐってきたそうで、そのせいか顔つきもずいぶん変わって見えるのです。

 

「ナルト君……強くなりました?」

 

「おう!」

 

左手の甲にできた傷を掲げて、俺はもう逃げないと宣言するナルト君。

正直、私としては怪我するような無茶はしないでほしいと言いたいところですがナルト君のやりきった感あふれる嬉しそうな顔を見ていると何も言えません。

 

「とりあえず、傷を見せていただけますか?」

 

私の医療忍術は我流ですけど応急処置以上、本格的な治療未満の手当てならできますから。

 

「サスケ君も怪我してるんなら見せて…」

 

「余計なお世話だ」

 

「……でもその打撲は内臓にダメージが……」

 

「要らないって言ってんだろ。ウザいよ」

 

私を睨んで距離を取るサスケ君。

まるで傷ついて警戒する猫です。

明らかに無理をしているのが解るだけに余計に辛いです。

 

「おいサスケェ! コトちゃんに対してそんな言い方は……」

 

「いえ、良いんですナルト君」

 

「でも!」

 

「良いんです」

 

うう……まだ駄目みたいですね。

私自身サスケ君に何のアプローチもしていないので当然と言えば当然ですけど。

それでも、サスケ君もナルト君と同じく雰囲気がずいぶん変わって見えたのでひょっとしたらひょっとするかもと淡い期待を抱いたのですが。

クールで物静かなところは前と同じなんですが、ちゃんと班員を仲間と認めているというか打ち解けている感じがするのですよ。

私もいつか誤解を解ければこんな風に……

 

「今はまだ無理みたいですけど、私は諦めませんよ」

 

そしていつかはイタチお兄さんと仲直りを……

 

「いい加減諦めなさいよ、コト」

 

「……サクラさん?」

 

突然サスケ君と私の間に、綺麗な桃色の髪の女の子が強引に割り込んできました。

ナルト君やサスケ君と同じ第七班の紅一点、春野サクラさんです。

急にどうしたのでしょうか?

 

「貴女にも解ってるはずよ。手遅れだって」

 

重々しい口調で断言するサクラさん。

そんな……

 

「どうしてそんなこと解るんですか?」

 

「私がサスケ君と同じ第七班だからよ」

 

やはり同じ班でないと理解できないような繋がりがあるんでしょうか。

でも私は! サスケ君と同じ班になれなかった程度の理由で、和解は不可能だなんて諦めたくは……

 

葛藤する私に追い打ちをかけるようにサクラさんはことさらに声を張り上げて

 

 

 

「うちはコト! もはや貴女に脈はないわ!」

 

 

 

「…………ハイ?」

 

話の流れについていけずに固まっている私を無視してサクラさんは胸を張って私を見下ろし

 

「すでに貴女は終わっている、いわば過去の女なのよ!」

 

「……いや何の話をしているのですか!?」

 

そういえば彼女はかつてアカデミーのくのいちクラスで大多数を占めた『サスケ君が大好きな女子達』の1人でした。

サスケ君と一番つながりのあった女の子である私は何かにつけて警戒されていたみたいなのですが……ひょっとしてまた何か誤解されてますか私?

 

「あの……何か勘違いしているようなのではっきり言いますけど私は別にサスケ君の事は…」

 

「そもそも、天才のサスケ君と残念なコトじゃ最初から釣り合わなかったのよ!」

 

「ちょっ、ざんねっ!? さすがに聞き捨てならないのですよそれは!」

 

サスケ君の仲を疑われるだけならともかく、残念扱いされるのは極めて遺憾なのです!

 

「こう見えても私は炊事洗濯掃除買い出し何でもござれのお利口さんです! ちっとも残念なんかじゃありません!」

 

 

……あれ?

なんかサクラさんだけでなく、その場にいる皆の私を見る目が急に……

サクラさんが半眼になって平坦な声音で

 

「……アンタ、本当に忍者?」

 

「ぐう!?」

 

痛いところを突かれました。

そ、そういえばナルト君やサスケ君が大なり小なり負傷しているのに対し、サクラさんには全く外傷が見られません。

もしかしてあの2人が怪我をするような戦闘を無傷で切り抜けたのでしょうか?

だとすれば侮れません。

 

「サクラちゃんサクラちゃん、コトちゃんってばこう見えても結構凄いんだってばよ?」

 

「なんで疑問形なんですかナルト君!? わ、私だって立派に忍者です! 実際九班の中では私が一番使える術の数が多いんですよ!」

 

「本当に~?」

 

「本当です! ですよねカナタ?」

 

「そこで私に振らないでよ!?」

 

こっそり聞き耳を立てていたカナタは「コメントに困るでしょうが!」と狼狽えて目を泳がせます。

カナタはその後散々頭を抱えて悩んだ挙句……

 

「……マイカゼはどう思う?」

 

同じく盗み聞きしていたマイカゼにそのままパスしました。

 

「え、あ、私は……そ、そういえば、コトとサスケって喧嘩してるのか?」

 

そしてマイカゼは露骨に話題転換……こ、この人たちは。

 

「いいえ、一方的にサスケ君がコトを拒絶してるだけよ。いや拒絶してるというより怖がってるって言った方が正しいのかしら? 一体何があったのやら」

 

「誤解されてるだけですよ。というか、酷いじゃないですか」

 

同じ班の仲間なんですからちょっとくらいフォローしてくださいよぅ……

 

 

 

「姉ちゃん達、何端っこでこそこそ話してるんだ?」

 

「関わるな。ウスラトンカチが移る」

 

「う、うん」

 

イナリ君がサスケ君の言葉に顔をひきつらせつつも頷いたのでした。

失敬な、誰がウスラトンカチですか誰が。

 

 

 

 

 

 

九尾を宿した人柱力、うずまきナルト君はかつて孤独でした。

しかし、それは今や過去の話です。

昔と違って今は背中を支える仲間(チームメイト)担当上忍(頼れる大人)もいるのです。

 

「大丈夫かい? 先生!」

 

「いや…! 一週間ほど動けないんです…」

 

頼れる……はずです、きっと。

見た目は相当に胡散臭いですが。

第七班とそれなりに打ち解けて(?)いろいろ事情を聴いたのち、ただいま私は“額当てを斜めにつけた上でマスクをした銀髪の男性”という見るからに怪しい人物をツナミさんやヤマト先生と一緒に看病しているところでした。

このベッドで力なく横たわっている男性こそ増援に駆けつけて来てくれたナルト君達第七班の担当上忍「はたけカカシ」先生です。

マスクと額当てで顔の下半分と左目―――顔の大部分が隠れてしまい右目以外の人相が全く分かりません。

何でも、途中で襲ってきたとても強い霧隠れの抜け忍を撃退した反動で動けなくなったそうなのですが……

 

「こんな格好悪い先輩初めて見ましたよ……」

 

「凄い方なんですかヤマト先生?」

 

「少なくとも僕より強いのは確かだよ」

 

はっきりと断言するヤマト先生。

素直に驚きですね。

初代火影様と同じ木遁使いであるヤマト先生より強いなんて。

確かに私の見る限りカカシ先生には大きな負傷が見当たりません。

それはつまり霧の忍び刀七人衆の一角と一戦交えてほぼ無傷で勝利したということで、確かに物凄い快挙なのです。

 

しかし、それなのにこの消耗具合はどういうことなんでしょう?

単にチャクラを大量消費したってわけではなさそうなんですが。

 

「なぁーによ! 写輪眼ってスゴイけど、身体にそんなに負担がかかるんじゃ考えものよね!」

 

サクラさんがカカシ先生の枕もとでやれやれと言った様子でそう言いました。

サスケ君やナルト君もそうですが、第七班の面々は自分の上司になんて口をきいてるんでしょうか。

もし私がヤマト先生にそんなセリフを吐こうものなら朝まで檻にぶち込まれて貫徹お説教フルコースになってしまうのです……って今はそれよりも気になるワードが。

 

「写輪眼?」

 

どういうことでしょう?

カカシ先生は写輪眼を開眼しているのでしょうか?

でも、チャクラを診る限りカカシ先生はうちは一族の血族じゃないし……ん?

 

「……カカシ先生? その額当てで隠している写輪眼(ひだりめ)って誰のですか?」

 

「……テンゾウ、お前が話したのか?」

 

「いえ、別に僕は何も。あと今は『ヤマト』でお願いします。彼女もサスケと同じうちはの生き残りで、一応感知タイプです」

 

「…そういうことか」

 

私はカカシ先生の視線にコクリと頷きを返しました。

明らかにチャクラの質がそこだけ違うのです。

これだけ近くで観察すれば額当てで隠していても分かるのですよ。

 

「ということは君が例の……あ~……ひょっとして解っちゃう?」

 

曖昧に笑うカカシ先生。

 

「……馴染み具合からして移植してから軽く十年は経過していますね?」

 

「そんなことまで解るのか…………ま、事情は聞かないでくれ」

 

そう言ってカカシ先生は口を濁しました。

機密にかかわるので言えない……というより個人的に言いたくないの方が近いですかね。

何かあった……のでしょうね。

何もないわけがないですし。

 

「聞くなというなら聞きませんけど、あまり使いすぎると寿命が縮みますよ?」

 

「ハハッ、ま、気を付けるさ……え゛!? 寿命、縮む? マジで?」

 

「知らないで使ってたんですか!?」

 

 

 

 

 

 

コトとヤマト先生が、横になっているカカシ先生と何やら話し込んでいる。

医療に心得があるのは第九班と第七班の面々全部合わせてもコト1人だけ。

こればっかりは素人に出る幕はない。

というか、新米下忍なのに医療忍術に精通しているコトがオカシイ。

せめて邪魔にならないようにという配慮の元、カナタ(わたし)とマイカゼは少し離れた場所でナルト君の語る『初めての他里の忍びとの戦い』の話で盛り上がっていた。

あまりナルト君達とは接点のなかったマイカゼも、霧の忍び刀七人衆には興味津々らしく真剣に聞き入っている。

 

「その時に俺ってば“魔法手裏剣風車(かざぐるま)”の変化を解いて……」

 

風魔(ふうま)手裏剣(しゅりけん)影風車(かげふうしゃ)だウスラトンカチが」

 

「ナルトったら、自分で変化した忍具の名前くらいちゃんと覚えないさいよ」

 

ナルト君は決して話し上手とは言えなかったが、説明不足に陥るたびに解説や注釈をサスケ君や春野さんが入れてくれるので何とか把握することが出来た。

あの問題児のナルト君が大活躍しているというのも驚きだけど、それ以上に驚きなのがこのチームワークね。

ちょっと見ない間にサスケ君までもうこんなに打ち解けて……コトが絡まない限りサスケ君の態度が普通であることにも驚くやら安堵するやらだ。

 

「それで、第七班一丸になってその……桃地再不斬って霧の忍びを追い詰めたのね」

 

「そうなんだってばよ! けどさけどさ! あと一歩ってところでいきなり変なお面付けた奴が現れて……」

 

上機嫌で話していた今までとはうって変わって、今度はムキーと怒りながら話し始めるナルト君。

表情がコロコロ変わって本当飽きないなぁ~。

 

「しかし、それにしても霧隠れの……追い忍だったか? そいつも随分と通な武器を使うのだな」

 

「妙な拘りでもあったんじゃないの? その再不斬ってやつも馬鹿でかい包丁を扱ってたみたいだし」

 

「馬鹿でかい包丁ではない! 断刀・首斬り包丁だ!」

 

「はいはい」

 

そういえば第九班(うち)にもそういうのいたわね、刀とか札とか角材とか変わった忍具に拘ってる人が。

ふと、サスケ君が眉をひそめた。

 

「……通な武器?」

 

「だってそうでしょ? 千本だよ? 傀儡とか仕込み傘に仕込むとか、毒が塗ってあるとかならまだしも、メイン武器に普通それは選ばないって」

 

千本。

別名棒手裏剣ともいうそれは、要はなんてこともないただの大きな針だ。

針治療の針といえば解りやすいかしらね。

注射器を思い浮かべれば解りやすいかもだけど、この手の針での刺し傷はとても小さく治ってしまえば後も残らないし血もほとんど出ない。

チャクラで肉体活性出来る忍びからすればよほどピンポイントで急所に突き刺されない限り致命傷にはならないのよ。

そんな殺傷能力の低い武器をわざわざ使うというといういうことは、よほど急所をピンポイントで狙い撃つ自信があったのかしらね。

事実、再不斬を一撃で即死させているわけで。

聞けば私達とそう変わらない歳だったっていうし、その若さで追い忍とか相当の天才で間違いない……

 

「……どうしたのサスケ君?」

 

「……まさか!」

 

急に血相を変えて立ち上がったサスケ君は、そのまま寝ているカカシ先生の元に駆け寄った。

急転する事態についていけずカイザさん達が呆然とするさなか、サスケ君の言葉を聞いたカカシ先生は真剣な表情で答えを出した。

 

千本を使う霧の追い忍は敵の仲間であり、桃地再不斬は生きている、と。

 

 

 

 

 

 

木登りの行。

木ノ葉に限らず忍全般の基本修行法の1つで、もちろんただの木登りではなく手を使わずに足だけで垂直に登るところがミソである。

チャクラを足の裏に集中し木の幹に吸着させることで登るのだ。

チャクラを必要な部位に必要な量だけ集中する調節(コントロール)と、それを長時間維持する持続力(スタミナ)を身に着けることを目的とする極めて重要な修行で、これを極めれば、木以外にも壁や天井に立って歩くことが可能となる。

調節(コントロール)持続力(スタミナ)はチャクラを扱う、即ち忍術を扱う上での全ての基本であり、これをマスターしないことには忍びとして何も始まらないと言っても過言ではない。

故に忍びとしての第一歩を踏み出した、新人下忍はすべからくこの修行を修めることとなる……

 

「……はずなんだが」

 

波の国、カイザ邸からほど近くにある森林にて。

私こと月光マイカゼは腕組みをした直立姿勢で木の枝にぶら下がり地面を“見上げた”。

上下逆さまになった世界で、ゴーグルをつけた金髪の少年と、鋭い目つきの黒髪の少年が呆然とこちらを見ている。

同期の下忍、第七班のうずまきナルトとうちはサスケだ。

 

「なんで、なんで第九班(おまえら)は木登りの行をマスターしてるんだ!?」

 

サスケは心底信じられないと言った様子で私を見上げているのだが、信じられないのはむしろこっちだ。

 

「逆に聞きたいわね。なんで第七班(あなたたち)はマスターしていないのよ……いや春野さんはなんかいきなり出来ちゃったみたいだけど」

 

私のすぐ横で同じように木の枝に立っている空野カナタが頭を抱えている。

霧隠れの鬼人、再不斬が生きている可能性が浮上した以上、再び襲ってくるであろう彼らに対抗するためにも戦力の底上げは不可欠だ。

そんなカカシ先生のの鶴の一声の元、私たちは修行を開始したわけなのだが、今更なんでこんな基礎修行なのやら。

というか、なんでこんな基本的なチャクラ運用ができないのに戦闘が出来る?

順序が無茶苦茶にも程があるだろうに。

 

「貴方たちの上司……はたけカカシ先生は教えてくれなかったの? 今まで一度も?」

 

「そりゃ俺だってアカデミーに通ってた時は毎日1人で術の特訓とかはしてたってばよ……けど、チャクラのコントロールとかは……それにカカシ先生は任務終わったら時間がないってすぐ帰っちゃうし……」

 

「それでも、教えてもらう時間がなかったわけじゃないでしょうに。Dランクの任務なんて余程特殊な物でもない限り半日以内に、短ければ数時間で完了するような任務でしょうが」

 

カナタは言い訳がましいナルトの言葉をばっさりと切り捨てた。

 

「言い過ぎよカナタ! ナルトはともかくサスケ君が可哀相じゃない!」

 

そう怒鳴ったのは、ナルトやサスケと同じく第七班メンバーの春野サクラだ。

彼女は長い桜色の髪を風に遊ばせつつ私やカナタとほぼ同じ高さにある木の枝に腰かけている。

今回初めて木登りの行に挑戦したらしいが最初でここまで到達できるのは普通に凄い。

 

「仕方ないじゃない……毎日任務で忙しかったのは本当なんだから……」

 

「と言われてもなぁ」

 

かくいう私もカナタの言うとおりだと思う。

 

一口にDランク任務と言ってもピンからキリまであるが、それでも猫探しやお使いなどの任務が大半だ。

そういう任務は捕まえれば、お使いが完了すればそれで依頼終了となる。

睡眠や食事、趣味などの時間を差っ引いてもかなりの時間に余裕ができるだろう。

むしろアカデミーの教育から解放された直後の私達からすれば、有り余りすぎて暇を持て余してしまうほどだ。

それくらい新人の下忍と新人下忍担当の上忍は仕事が少ないのだ。

 

「ただし、もっと忍者らしい難しい任務がやりたいとか駄々をこねてそれを押し通したりしなければ、だが」

 

私からナルトとサスケが露骨に目をそらした。

心当たりがあるようだな。

私も同じだっただけに気持ちはものすごくよく分かるが、そのあたりを考慮したとしても時間が全て潰れて修行する暇がないなんてよほど怠けていないとあり得ないと思う。

しかしナルトは問題児と言えど努力家(コト談)で、サスケは誰もが認めるエリート、サクラもアカデミーでは座学でトップの成績を誇った優等生。

怠け者とは程遠いメンバーである。

 

「ますます解らない。どこでこんなに差が?……」

 

「知らないわよそんなの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないの?」

 

カナタが冗談交じりにそう言った瞬間、第七班のメンバーに衝撃が走った。

 

「ま、毎日任務開始前に……」

 

悔しそうにしていたナルトが、

 

「何もしないで何時間も……」

 

怒りを押し殺していたサスケが、

 

「ボケッと突っ立ってた……」

 

何か言い返そうとしていたサクラが。

 

第七班の全員が凍りついた。

何? ひょっとして心当たりがあるのか?

 

気まずい沈黙がその場を支配する。

それを打ち壊したのは松葉杖をついて現れた男性だった。

 

「君たち、ちゃんと修行はやってるかな?」

 

はたけカカシ。

ナルト達第七班の担当上忍だ。

 

「おや? 何皆して固まってるのかな? ダメだよそういうのは、時間は有限なんだからサボってる暇なんかぐへぁあああ!?」

 

「クァクァシィイイイ!! アンタの所為でアンタの所為で俺は、俺達は!」

 

「修行の時間を返せってばよおおお!」

 

「遅刻するならせめて一時間以内にしなさいよ! しゃーんなろー!」

 

一切無駄のない滑らかな連撃と、全力疾走からの全体重と勢いを乗せた渾身の蹴りと、高所からの重力加速を利用した踵落としが、全く同時にカカシ先生に炸裂した。

ああ、これはヤバい、死ねる……というかなんだこの無駄に高度な連携コンボは!?

なんでこんなにこいつらは戦い慣れているんだ!?

基礎は出来てないのに!

 

「正直、個々の能力がバラバラのデコボコチームだと思っていたが……侮れないな第七班」

 

「感心してる場合か! 止めないとまずいでしょうが!」

 

バシッと割と本気でカナタに頭をはたかれた。

痛いじゃないか……と、カイザ邸にいたはずのコトとヤマト先生がその場に現れた。

看病していた筈のカカシ先生が姿を消したことでそれを探しに来たらしい。

 

「カカシ先生? こんなところにいたんですか、探しましたよ、まだ本調子じゃないんですから大人しく寝てないと……ってうぇええぇぇええええぇえ!!? あ、あ、貴方達自分の上司にいったい何をやってるんですか! そんなことしたら死んじゃいます!」

 

「カカシ先輩!? いったいこれはどういう!?」

 

2人は片や絶叫、片や絶句しながらカカシ先生とナルト達を引きはがしにかかった。

私とカナタは遅れながら参戦する。

 

その後その騒動は第七班や第九班だけでなく、様子を見に来たイナリ君やカイザさんまで巻き込んだ大乱戦に陥った。

 




ヤマト先生は木遁を、カカシ先生は写輪眼を。
思えばこの2人ってそれぞれ木ノ葉の創設者の能力を借りている同士でもあったんですね。

NARUTOって考えれば考えるほど相関図が似通っていてるキャラクターが多くてほとほと深いと唸らされます。

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