南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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今回やや遅れました。
シリアスになると途端に筆のノリが鈍くなります……


23話

襲撃してきた手拭いと刺青の2人組が無事ヤマト先生の木遁で拘束され、ひとまず事なきを得た後、大工さん達と私たちはいろいろ話し合った結果、今日のところは橋づくりを中止することにしました。

そして現在私たち第九班は依頼人であるカイザさん一家の家にお邪魔させていただいています。

橋が完成するまでの間、空き部屋を宿として提供してくれるそうです。

 

海の上に建てられたその家の、決して広くはないリビングに私、カナタ、マイカゼの第九班、カイザざんとその奥さんのツナミさん、息子のイナリ君に祖父のタズナさんの合計7人が集まっています。

イナリ君とカイザさんって親子だったんですね。

全然似てなかったので全く気づきませんでした。

 

ちなみにこの場にいないヤマト先生は捕まえた2人組みを連れて別の部屋で尋問中なのです。

 

「あんまり酷いことしてないといいのですが……」

 

「襲ってきた相手の心配するとか、つくづくコトはお人よしね」

 

カナタが呆れを通り越して感心したような様子で苦笑しました。

 

「だって、不幸な行き違いかもしれないじゃないですか。あるいは誰かに命令されて仕方なく襲ってきただけとか」

 

単なるチンピラならともかく、居合を繰り出せるほどの実力を持った達人が特に理由もなく襲ってくるとは考えにくいのです。

 

「前半はともかく後半は一理あるな。誰かに命令されての行動である可能性は十分にあり得る」

 

「そういえば話が違うとか聞いてないとかいろいろ口走ってたね」

 

マイカゼの言葉に考え込む私達。

 

「そういえば、タズナさんはあの人たちと知り合いなのですか?」

 

確か彼らの顔を見てガトーカンパニーがどうとか言っていたような……

 

「ああ、ワシが超説明する。ガトーについてな」

 

ねじり鉢巻きに眼鏡、自称橋づくりの超名人であるおじいさん―――タズナさんが重々しく語り始めました。

 

大富豪ガトー。

海運会社ガトーカンパニーを運営する世界有数の大金持ち。

しかしそれは表向きの話で、裏では麻薬や武器その他もろもろの禁制品の密売、果ては企業や国の乗っ取りといったあくどい商売を(なりわい)とする男なのだそうです。

 

「1年ほど前じゃ……ガトーがこの国にやってきたのは」

 

その当時の事を思い出したのか、唇をかみしめるタズナさん。

 

「財力と暴力をタテに入り込んできた奴はあっという間に島の全ての海上交通・運搬を牛耳ってしまったのじゃ!」

 

「そんな……」

 

島国である波の国にとって海上のルートは交通の(かなめ)です。

それを独占されてしまったら、国の全ての富を独占されたも同然なのです。

 

「つまりガトーは経済的にこの国を乗っ取っちゃったのね……」

 

納得したように頷くカナタ。

 

「だが希望はある」

 

カイザさんが毅然とした表情で言いました。

 

「海上がダメなら陸路だ」

 

「そうじゃ! あの橋さえ完成すれば……」

 

なるほど、島に存在する全てのルートを抑えられたのなら、新しいルートを1から作ってしまえばいい。

そう思い立ち上がったのが今回の橋づくり計画というわけですか。

 

「そうすればこの国をガトーから救い出せる!……と思っていたのじゃが」

 

「連中がいくら汚いとは言え、まさかこんな直接的な妨害に出るとは予想できなかったと」

 

タズナさんの言葉を引き継いで項垂れるマイカゼ。

 

確かに、橋が支配から脱する唯一の希望だということは、支配しているガトーさん一味からすれば橋の完成は断固阻止すべき事態でしょう。

 

「でも、だからって表だって暴力沙汰を起こせば大問題になるはずですよ? 一応表では真っ当な海運会社ってことになってるはずなのに……」

 

どんなに悪いことしてもバレなきゃ構わない、とでも考えているのかもしれませんが、それって要するにバレたらヤバいってことじゃないですか。

こんなあからさまな悪事の証拠を残したガトーさんはいったいどうするつもりなのでしょう?

 

「分からない。隠す気がないのか……もしくはどうとでも握りつぶせると思ってるのか」

 

「あるいはガトーに繋がるような情報は最初から持たされていない、とかね」

 

「カナタが正解だ」

 

あ、リビングにヤマト先生が帰ってきました。

険しい表情をしています。

一応尋問は終わったみたいですが、上手く情報を聞き出せなかったのでしょうか。

 

「先生! あの2人は……」

 

「ああ、大丈夫です。しっかり拘束していますので」

 

ツナミさんの心配をヤマト先生は笑って取り払いました。

 

「それでヤマト先生、何か聞き出せましたか?」

 

「やっぱりガトーの手下じゃっただろう! あの2人がガトーと一緒にいるところをワシは超見たことがある!」

 

タズナさんが勢いよく捲くし立てます。

しかしヤマト先生はより一層表情を険しくして

 

「結論から言わせてもらうよ。彼らは何も知らされていなかった」

 

「何も? 全く何も?」

 

「ああ、何もかもだ。ガトーにつながるような情報はもちろん、襲う理由も聞かされていなかったよ。暴力団から金で雇われ意味も解らずただ暴れるよう命令されていたらしい」

 

「暴力団!?」

 

どういうことでしょう?

今回の騒動はガトーさんじゃなくて暴力団の仕業だったということでしょうか?

しかしカナタは首を振って否定します。

 

「いや違う。おそらくガトーは……」

 

「暴力団とモロ繋がっている……ってことなんだろうな」

 

苦い表情で唸るカイザさん。

な、なんてこったです。

あくどい商売を手掛けているだけじゃなく、暴力集団(ギャング)とも繋がりがあるなんて。

 

「とんでもない人に目を付けられちゃったんですね……」

 

「ただでさえこの国は超貧しい国というのに」

 

波の国改め涙目の国です。

 

「どうしてこんなことに…」

 

「分からない。ただはっきりしているのは、このまま橋づくりを続けた場合妨害は今後も続くだろうということだ」

 

「「「!」」」

 

ヤマト先生の一言に、その場にいる全員の顔が強張りました。

 

「襲わせた連中に何も知らせなかったということは、最初から使い潰す予定だったってことだ。それこそいくらでも補充できる捨て駒として惜しみなくぶつけてくるだろう」

 

ヤマト先生は静かに、それでいてはっきりした声で断言しました。

 

「「「「「「「………………」」」」」」」

 

重く、冷たい沈黙が場を支配します。

 

「……ね、ねえ! 橋づくりはもう中止した方が…」

 

「「「「「「ダメだ(じゃ)(です)!!」」」」」」

 

私が、カナタが、マイカゼが、カイザさんが、イナリ君が、タズナさんが。

声をそろえてツナミさんの狼狽えた様なセリフを大声で遮っていました。

 

「今橋づくりを中止したら、ガトーの支配に屈したことになる!」

 

「で、でもそれでもし皆にもしものことがあったら……」

 

イナリ君を抱きかかえつつ不安そうにそう言うツナミさん。

どうやらツナミさんの言う「皆」の中には自分の家族であるカイザさん達だけでなく、よそ者である第九班(わたしたち)も入っているみたいです。

だからこそ不安にも臆病にもなるのでしょう。

 

強い人です。

そしてそれ以上に優しい人です。

 

だからこそ守らないといけません。

 

「大丈夫です! 私たちがついているのです!」

 

「でも! 貴女達も子供でしょう?」

 

「確かに子供です……だけどそれ以上に忍者(プロ)ですから!」

 

正直なところ、心の中は不安でいっぱいです。

私1人だったらとっくにくじけていたでしょう。

しかし私は1人じゃありません。

 

「と言ってもペーペーの新米ですけどね。それでも依頼主を見捨てない気概くらいはあります」

 

「次は負けない」

 

カナタが、マイカゼが、すぐに私に同調してくれました。

そう、私たちは忍術を扱い、互いに助け合う忍びなんです。

チャクラもロクに練れないようなアマチュアには負けないのですよ! ……たぶん。

 

「おお、超頼もしいわい!」

 

「でも良いのか? 俺が依頼したのはあくまで橋づくりの手伝いだ。このゴタゴタはモロ任務外だろう」

 

「あ……」

 

カイザさんに指摘されるまで全然気づきませんでした。

カナタやマイカゼもそれは同じだったらしく、私と同じように引きつった顔で固まっています。

確かに私たちの任務はあくまで橋づくりであって、護衛じゃないのです。

 

私たち3人は不安そうな顔でヤマト先生を振り返ります。

 

「ヤマト先生?」

 

縋るような視線がヤマト先生に集中します。

ヤマト先生はそれに大きくため息をつきました。

 

「はぁ~、全く。コト、忍びの心得第25項だ」

 

有無を言わせぬ言葉。

私は言われたとおりに暗唱。

 

「……忍はどのような状況においても感情を表に出すべからず。任務を第一とし何事にも涙を見せぬ心を持つべし」

 

「そうだ。忍びはお金で依頼を請け負い、任務を忠実に全うする道具だ。感情に流されて勝手に任務外の行動をするような忍者は二流だ」

 

「で、でも! 待ってください! 今回のことは……」

 

「だが……任務だけで、金だけで動く忍びは三流だ」

 

「……!」

 

「ヤマト先生! それじゃあ!」

 

「正直割に合わない仕事はしたくないんだが……今回ばかりは仕方がない。橋づくりを手伝うにしても肝心の手伝う職人がいなくなってしまったら元も子もないしね」

 

正式にヤマト先生のお許しが頂けた瞬間でした。

私たちは思わず反射的に飛び上がっていました。

これで心置きなく守れるのです。

 

「いや~これで一安心……」

 

「じゃねえよ!? まだ何1つとして問題は解決してないっての」

 

そ、そうです。

うっかりしてました。

1つ問題が解決すると全ての問題が片付いた気になってしまうのは私の悪い癖です。

 

「むしろこれからが始まりだろう」

 

マイカゼの言うとおりです。

 

カイザさん曰く、明日から工事は再開するそうです。

さあ、忙しくなってきたのですよ。

 

 

 

この時の私たちは、とても忙しいでは済まない事態が立て続けに起こることになるということを欠片も予想できませんでした。

予兆はすでに始まっていたというのに。

 

 

 

 

 

 

ヤマト第九班が橋づくりの依頼に並行して防衛任務もこなすようになってからしばらく経過した、とある日の夜。

 

「先生さんよ……少し聞きたいことがあるんじゃが……」

 

「なんですか?」

 

1人夜の見張りをしていたヤマトに、依頼主カイザの義父、タズナが恐る恐る尋ねてきた。

 

「依頼料の相場が知りたい。もし木ノ葉の忍びを正式に用心棒として雇うとしたらどのくらい掛かる?」

 

「……増援を依頼するつもりですか?」

 

「決してアンタらが頼りないと言ってるわけじゃないんじゃ。アンタもあの娘たちも超頑張ってくれている。それは守られているワシらが一番理解しているつもりじゃ……じゃが……」

 

「……はい、確かに僕はともかくあの娘たちは限界だ」

 

護衛対象がカイザだけ、もしくはタズナさんだけならなんとかなった。

襲ってくる場所が橋一か所でもどうにかなっただろう。

だが、ガトーの襲撃の対象はそれだけに留まらなかった。

 

まともに攻撃しても返り討ちにされるだけだと早々と学習した連中は即座に妨害方法を奇襲に変化させたのだ。

時間、場所を問わず、人海戦術によって繰り返される奇襲攻撃。

お蔭でヤマト率いる第九班は橋づくりに携わるすべての人間の警護することを余儀なくされた。

橋づくりはもともと職種問わず国中からかき集められた国民で行われている。

彼ら全てを守るということは、すなわち国全体の治安をたった4人で守るということに他ならなかった。

実力云々の話ではない。

完全に人手不足だった。

無論、国の人たちもただ守られているわけじゃない。

自衛のために各々が武器を持って襲撃に立ち向かう人もいた。

 

だが、それならばとガトー一味も手段を変えた。

襲撃要因に単なるギャングだけではなく忍びまで雇うようになったのだ。

 

気づけば波の国全体がガトー組とカイザ組で真っ二つに割れていた。

もはや事態は上忍1人と新米下忍3人程度でどうこうできる規模ではなくなってしまっている。

増援はどう考えても必要だった。

 

しかしヤマトはタズナに、否、この国に新たに増援を雇うような金銭的余裕があるとは到底思えなかった。

 

盗賊団やギャングなどとの戦闘を前提とした任務は、木ノ葉の里の基準で言えばDランクより高額の依頼料が要求されるCランク、忍びとの戦闘を前提とする場合はさらに高額なBランクに相当する。

依頼するにはDランク任務とは比べ物にならないほどの金額が必要だった。

 

「そんなにかかるのか……なんとか、まけてもらうことは」

 

「残念ですが……」

 

金だけで動く忍びは三流だと言ったヤマトだが、こればかりは話は別だった。

命がけで戦ってもらうのだ。

忍びは里の財産、決して安売りして良い代物ではない。

 

「そうか……そうじゃな。すまん、この話は超忘れてくれ」

 

タズナは何やら思いつめた表情をしてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

波の国での生活も早くも2週間が過ぎました。

 

「ううん……眠い」

 

その日の私はあくびを噛み殺しながら、鍋をかき混ぜていました。

瞼が重い……少しでも気を抜けば即座に閉じてしまいそうです。

何時襲撃が来るか全くわからない以上、私たちは交代で休息を取りながら警備にあたっているのですが、おかげで生活リズムは限りなく不規則になっています。

 

「ねえコトちゃん、辛いなら無理しなくても……」

 

「いえ、やらせてください。料理は好きなんですよ」

 

心配そうなツナミさんの労わりのセリフを私は無理やり笑顔を作って遮りました。

確かに無理をしている自覚はありますが、料理がしたいというのは紛れもない本心です。

 

ここ最近ずっと本来の依頼である橋づくりを放り出して、島中を駆けずり回り襲ってくるギャングを鎮圧する日々が続いています。

四六時中昼夜問わず襲撃を警戒し続けなきゃいけないのが辛いわけではありません。

いえ、確かにそれも辛いのですが、それ以上に人を傷つけなきゃいけないのが精神的にキツいのです……

特に戦闘以外の目的で作ったはずの札で人を攻撃するのは想像以上に苦痛でした。

当初は吐き気すら感じたほどです。

 

正直、たまにこうして料理(すきなこと)をしていろいろ発散しないとやってられないのです。

故にこれは善意からくる他人のための行動ではなく、純然たる自分のための行動なのです。

 

「コトちゃんは本当に良い子ね……」

 

「そんなんじゃないですよ、本当に」

 

ただ私は好きなことを好き放題してるだけです。

本当の良い子とは、例えしたくないことでもそれが必要なことなら文句言わずにするような奴のことを言うんですよ。

 

「どうして……皆仲良くできないのかしらね。ガトーたちだって、今では同じこの国の住人なのに」

 

「全くです」

 

ツナミさんのふとした拍子に零れ落ちた愚痴に、私は間髪入れずに同意しました。

本当に、なんで仲良くできないのやら……と、そろそろ鍋に具材を入れますかね。

 

もっとも、具材と言ってもちょっとした野菜と海草だけですが。

海の近いこの国なら海産物がたくさんとれると思ったのですが、どういうわけかほとんど手に入らないんですよね。

カイザさん曰く、漁に出てもほとんど成果がないのだとか。

つくづく難題に塗れた国です。

略してナミの国です。

 

「あ、もう食材ほとんど切らしてるの忘れてたわ」

 

「じゃあ、買ってきますか。ついでにほかの買い出しも」

 

「本当にごめんね、家のこといろいろ手伝わせちゃって」

 

「いえ、家事は好きなので」

 

殺伐とした任務が続くさなか、家事の時間は私にとって至福のひと時になりつつあるのです。

……ふふふ、常々周囲から「忍びに向いてない」的なことを言われている私ですが、自分でそれを自覚したのは今回が初めてですよ。

今は下忍ですが、今後昇格して中忍、上忍になっていけば、もっと血生臭いキツイ任務が増えるのでしょうね。

暗部とか言わずもがなです。

考えるだけで気が滅入ります。

一生下忍でもいいかなぁ、というかガトーさんも改心してくれないかなぁ……と、そんなことを考えつつ私は財布を手に取って……

 

「あれ?」

 

その異様な軽さに違和感を覚えました。

中身を確認すると案の定、財布が空っぽです。

なんで?

初めての長期任務ということでそれなりの金額を持ってきたのに。

 

「どういうことでしょう?」

 

「え、うそ? 確かにここにしまって…」

 

不意に上がるツナミさんの困惑したような声。

尋ねたところ、どうやら家のお金もなくなっているとのことです。

偶然……のわけありませんね。

まさか泥棒……いやそれはありえないはずです。

私達だけならともかく、上忍のヤマト先生が警戒しているこの家に泥棒が入る隙なんてどこにも……

 

「みんな! 大変だ! これ見て!」

 

とそこにイナリ君が血相を変えて現れました。

何やら置手紙らしきものを握りしめています。

 

相当に慌てていたのか、手紙の文字はあちこち乱れて崩れて非常に読みにくいものでしたが、何とか読むことが出来ました。

 

 

 

『皆、超スマン。金は必ずいつか返す』

 

 

内容を理解すること数秒、意味を吟味するのにさらに時間を要すること数瞬。

気づけば私はたっぷり1分近くも硬直していました。

 

 

それからしばらくして、カイザさんやヤマト先生たちが戻って家中を捜索した結果、タズナさんはどうやら金目のものをありったけ持ち出して木ノ葉の里に向かったらしいということに私たちはようやく気付いたのでした。




原作キャラとの絡みが足りないと感想で指摘されましたが、次話でようやく原作主人公の再登場です。

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