南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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回を重ねるごとに文字数が増えていってます。
そして文字数が増えるごとに、投稿間隔が伸びていってます……

それはさておき「波の国編」開始です。


波の国編
22話


木ノ葉の里には見上げるほどに大きな門があります。

里の内外をつなぐ出入り口であり、両開きの扉にはそれぞれ「あ」「ん」と大きく書かれているのが目印なのです。

文字の意味は知りません。

 

なお、此処を通らず里に入ると結界忍術でたちどころに居場所を探知された挙句、不法侵入とみなされ暗部の忍びが即座にすっ飛んでくるという仕組みになっています。

 

「こういうのを見ると、木ノ葉も案外閉鎖的でちゃんと忍び里してるんだなぁって実感するわね。逆に言えば、こういうのを見ないと実感できないってことだけど」

 

「私達、平時はおろか任務中ですら全く忍んでないからな。時々自分たちが忍びであることを忘れそうになる」

 

いつもより大きな荷物(リュック)を背負って集合したカナタとマイカゼはそんなことを言いつつ感慨深げに扉を見上げます。

どこか遠い目をしていました。

 

「……ずいぶんと可愛らしい子たちだな。忍者ってもっとモロ屈強なのを想像していたよ」

 

門のところにいた男の人が意外そうな表情で私たちを見つめてきます。

見たところ、二十代の後半から三十代の前半くらいでしょうか?

ねじり鉢巻きに盛り上がった筋肉、顎にある十字の傷が印象的でいかにも職人の男って感じの人です。

実力を疑われていますね……無理もないですが。

 

「大丈夫、腕は保証しますよ」

 

ヤマト先生が笑顔でフォローしてくれました。

いいですもっと言ってやってください。

何を隠そう、私は地下に秘密基地を建設した実績がありますからね。

建設業には一家言ありなのです!

 

「貴方が依頼人の方でよろしいですか?」

 

ヤマト先生が事務的に男性に尋ねます。

私たちは無言です。

上司が喋っているとき、デキる部下は口を挟まないのですよ。

 

「ああ、名をカイザと言う。波の国の漁師だ。よろしく頼む」

 

「「「漁師??」」」

 

私たちは思わず聞き返してしまいました。

それぐらい意外だったのです。

何故漁師が橋づくりの手伝いを依頼するのでしょうか?

 

「ああ、不思議に思うのも無理はないな。そのあたりは道中でモロ説明するから」

 

依頼主の漁師―――カイザさんはそういってニカっと笑うのでした。

 

 

 

 

 

 

「へぇ、ということは波の国の国家事業ってことですか?」

 

波の国までの道中、カイザさんの話は私達に国の事をいろいろと話して聞かせてくれました。

 

「そんな大げさな話じゃないよ。一大事であることは確かだけどな。モロ小さい国だから単に人手が足りてないだけだ。動ける者は職種を問わず国中からかき集められている」

 

「なるほど、それで猫の手ならぬ忍びの手まで借りようってわけですね」

 

カナタが納得したようにうなずきます。

 

カイザさん曰く、波の国はとても貧しい国なのだそうです。

聞けば国を治める大名ですらお金を待っていないとのこと。

大名はすべからく雅で潤沢なイメージを持っていた私にとってはなかなかに衝撃的な話でした。

 

「そう珍しい話ではないよ。むしろ資金を潤沢に蓄えているのは忍び五大国の大名くらいだ」

 

波の国には忍び里もないしね、とそう補足するヤマト先生。

 

1つの国に1つの忍び里、通称『忍び里システム』を最初に考案し実践したのは初代火影・千手柱間様です。

柱間様が木ノ葉隠れの里を創設して火の国と対等な関係で手を組み火影を名乗ったことを皮切りに、この忍び里システムを各国が取り入れました。

長が影の名を背負えるのはその里々の中でも特に強大な力を持つ、木ノ葉隠れの里、砂隠れの里、霧隠れの里、雲隠れの里、岩隠れの里の5つのみです。

そしてその5つの強大な軍事力を秘めた隠れ里を有する国々が忍び五大国と呼ばれているのです。

 

つまり現状、波の国は五大国どころかその他の国にも遠く及ばないわけですね。

波の国ならぬ並の国です。

 

その現状を何とか打開しようと画策したのが今回の任務内容である橋造りということでした。

 

 

 

波の国は周囲を海に囲まれた島国です。

橋が完成し陸路が開通すれば、波の国とっては物資と人の交流の要になるでしょう。

おそらく経済的にも精神的にも希望の架け橋になるはずなのです。

 

「これはDランクと言えども手は抜けないな」

 

「ですね」

 

マイカゼの言うとおり、これはかなりの重要任務なのですよ。

 

「そう、いわば俺たちは国を救わんとする英雄(ヒーロー)ってわけだ」

 

拳をぐっと握り、力強く語るカイザさん。

そしてそのすぐ後「ちょっと臭かったかな?」と照れたように笑うのでした。

 

 

 

最初は徒歩、海についてからは船、波の国が見えてからは小舟と、移動手段をコロコロかえつつ、カイザさんと私達第九班一行はようやく波の国に到着しました。

 

綺麗に透き通った海に石造りの柱が立ち並び、その上に未完成の橋の姿が伺えます。

私は小舟から降りつつ、霧の海に浮かぶその威容を見上げました。

まだ工事が始まったばかりらしく、全体の3割も出来上がっていません。

それでも海を隔てて国をつなぐ橋というべきか、その姿は雄大の一言に尽きました。

橋の上で作業している人がとても小さく見えるのです。

 

「私たちはこれを作るんですね……」

 

「間近で見ると改めて大きな仕事だと実感させられるわ。ランクとか関係なく」

 

「同感だ」

 

カナタ、マイカゼもどこか圧倒された様子でした。

 

「さあ、気合入れていこうか」

 

いつも通りのヤマト先生の激励も心なしか力が入っているように思えます。

いよいよ橋造り任務開始です。

 

 

 

「お、嬢ちゃん。大したノコギリ捌きだな」

 

「超たまげたのぉ。こりゃワシも負けてられんぞい」

 

「恐縮です」

 

剣術に秀でたマイカゼは剣に限らず刃物全般に精通しているそうです。

ノコギリを用いて正確に角材を切り出すその腕前は本職顔負けです。

 

「すげえな、まるでクモだ」

 

「靴に吸盤か何か仕込んでるのか? それか細かい無数の毛が生えてるとか……」

 

「私はクモでもタコでもヤモリでもなくて忍者です…………一応」

 

カナタは現在、作りかけの橋の下に立って作業中。

木登りの行を修めた結果、命綱なしで壁どころか天井にだって直接立って作業できるのです。

やっぱり便利ですよね忍術。

 

ヤマト先生は他の人がクレーンで持ち上げるような鉄骨を軽々担いで運んでいました。

屈強な大工さん達が唖然とした様子でそれを見ています。

 

「……嬢ちゃんたちも実はあれくらい力持ちだったりするのか?」

 

「いえ、あれはヤマト先生が特別凄いんです」

 

いくらチャクラで肉体活性出来るからって活性化しすぎでしょう。

私達もいつかできるようになると言ってましたが、イマイチ信じられません。

 

というか私なら大きくて重いものを運ぶとき、チャクラで身体強化するよりも忍術で人手を増やす手段を選びますね。

あの石運びの演習で私は力を合わせる事の大切さを学んだのですよ。

 

「忍法・式神の術!」

 

私は紙面に大きく『己』と書かれた札を指に挟んだ状態で印を結びました。

ドロン、と煙と共に現れたのは私全く同じ姿をした人間が2人……つまりは影分身です。

 

「白い嬢ちゃんが3人に増えた!?」

 

「これが超有名なあの分身の術か~」

 

そう、忍者はたった1人で何人分もの人手になることが出来るのです。

 

ふっふっふ、もっと驚いてください。

そして忍術の利便性と可能性をもっと知ってください。

 

 

忍法・式神の術

一応、私『うちはコト』のオリジナル忍術ってことになってますが、なんてことはありません。

要は封印の書に記されていた禁術『影分身の術』の術式を、符術でいつも使っている札に刻み込んで発動しただけです。

 

それにしても影分身の性能はとんでもないです。

水分身には望めなかった耐久性、持続性に加え、本体同様のチャクラと感情を宿して自立行動できるという壊れ機能。

その完成度の高さ故、忍びの三大瞳術『白眼(びゃくがん)』をもってしても看破できないクオリティ。

術を解除した時に分身体の経験と記憶を余すことなく本体に還元できるという超特性。

 

正直、戦闘や諜報に使うのが勿体ないくらいです。

これを開発した扉間様はどうしてこの術を労働力として使わなかったんでしょうね。

 

むしろダメージまで還元されるという特性を鑑みた場合、労働人数確保のための非戦闘用忍術にすら思えるのですよ。

 

極めつけにチャクラ燃費が悪いので使い手が限られてしまうのが欠点といえば欠点ですが、こうしてあらかじめチャクラを練り込んで貯蔵した札をベースに発動すればその欠点もあって無きがごとしなのです。

 

「なあ! なあ! お姉ちゃん! 俺にも出来ないかなそれ!?」

 

ふと、何処から工事現場に入り込んだのか、帽子をかぶった小さな男の子が好奇心を隠しきれない様子で私にそうたずねてきました。

どことなく木ノ葉丸君を彷彿とさせる子ですね。

 

「挑戦してみますか?」

 

符術は札にあらかじめ練り込まれたチャクラを利用して発動する忍術です。

つまり、札さえあれば経絡系やチャクラを持たなない一般人でも忍術を行使できるように可能性を秘めているわけで。

あくまで理論的にですが。

 

私は素早く周囲を警戒します。

……大丈夫、ヤマト先生は近くにいません。

 

これは好機です。

 

札に練り込まれたチャクラが私固有の物であるが故に私にしか使えませんでしたが、良い機会です。

今こそ、忍術の一般普及に向けた偉大なる第一歩を踏み出す時!

 

「名前は何というんですか?」

 

「イナリ!」

 

「ではイナリ君、とっておきの術を貴方に伝授しましょう! まずはこの術のベースになった影分身の術の理論を簡単に説明してぐにゃああ!?」

 

瞬間、私の脳天に何処からともなく瞬身の術で現れたヤマト先生の拳骨が降り注ぎました。

 

 

 

 

 

 

「さて、何度言えばコトは僕の言ったことを覚えてくれるんだい? それとも君は記憶力がないのかな?」

 

「い、いえ。暗記の類は得意です……」

 

 

 

ヤマト先生が笑顔でコトを見下ろしているのを、私こと空野カナタは遠目から見ていた。

笑顔なのに目が全く笑っていない、暗部仕込みの暗黒の微笑みだ。

 

ああ、まったやってるよあの2人。

自然と呆れのため息が漏れた。

コトも懲りないね本当に。

 

「あ、あの白いお姉ちゃんは何で怒られてるの?」

 

「それはコト……あの白いお姉ちゃんが忍者として重大な約束を()()破ったからだよイナリ少年」

 

 

 

「そうか、暗記は得意か。それは良かった。では暗記が得意なうちはコト君? アカデミーの教科書にも載っている忍びの心得 第12項を僕に御教授してもらおうか?」

 

「し、忍びは決して秘密を漏らすべからず。里の機密を第一とし、情報は己が命より重いことを常々意識すべし……」

 

現在コトは『私は忍びの重大な規則を破りました』と書かれたプラカードを首からかけて正座中。

頭にタンコブを作り、涙をこらえて目をウルウルさせている表情がなんともいじらしい。

 

 

「なあ、コトの符術って実は物凄く危うかったりするのか?」

 

「うん」

 

恐る恐ると言った様子でそうたずねてきたマイカゼに、私は間髪を入れずに首肯した。

 

符術

コトがアカデミーに入学する前から思いついて実践したオリジナルの忍術発動形式。

予めチャクラと術式を刻み込んでおくことで、いつでも印なしで術を発動できる画期的な方法……とコト本人は言っていたけど。

 

「それって要するに、術を発動するたびに里の重要機密(にんじゅつ)を書きとめたメモをバラ撒いてるってことだからね」

 

秘密遵守の忍びからしたら噴飯ものよ。

ましてや今回コトが持ち出したのは封印の書に記されていた禁術『影分身』の術式が刻まれた札らしいし。

しかもそれを懇切丁寧に一般人に解説付きで暴露しようとしたときた。

おまけにコトのこの行動は今回が初めてではなく、過去に似たようなことを実に3回も繰り返していたりする……いくらヤマト先生が温厚でもさすがにキレるっての。

 

「最初に符術を見たときは便利だと思ったんだが、それじゃあおいそれと使えないな……ん? ということは、コトは他里の忍者と戦う時は?」

 

「ヤマト先生の許可がない限り、符術の大半は使用禁止ね」

 

ヤマト先生は札にコトにしか使えないようにするプロテクトの術式、もしくは他人の手に渡った時に自動で消滅する自壊プログラムを書き加えるようにコトに言っていたけど、コトは頑として聞かなかったばかりかむしろその逆、誰でも使えるように改良を進めていったわけで。

 

禁止にされても文句言えないね

むしろよくその程度で許されていると思う。

 

そして符術の使えないコトなんて陸に上がった魚も同然。

ぶっちゃけなくても戦力外。

 

「ほ、本当に戦闘では役立た……向かないんだな……」

 

「自分にも他人にも嘘がつけないタイプだから」

 

どうして合格して下忍になれたのか今でもたまに不思議に思う時がある。

とどのつまり、問題児は下忍になっても問題児のまま何1つ変わってないってことよね。

 

 

 

「札は全部没収させてもらう」

 

「ああ!? そんな! それは毎日コツコツチャクラを練り込んで術式を書き込んでやっと完成した札なんです!」

 

どうか御慈悲を! とヤマト先生に泣きつくコト。

 

「ダメだ」

 

「ヤマト先生の分からず屋!」

 

「言ってきかないのはお互い様だろう?」

 

がっくりとその場に崩れ落ちるコト。

別にいいじゃん、どうせまた新しい札を懲りずに作るんだから。

そしてしばらくしたら再び同じことをしでかして同じ目に合う破目になることは容易に想像がつく。

 

懲りないね~

せっかく頭の出来は悪くないのに学習能力はないとかつくづく勿体ないの。

 

「忍者って……」

 

イナリ少年がその光景をショックを受けたような様子で見つめていた。

あんまり子供の夢を壊すなよコト。

 

 

 

 

 

 

私の必死の嘆願もむなしく、影分身札をはじめとする私のお札は1枚も残らずヤマト先生に持っていかれてしまったのでした。

ああ、私の研鑽と研究費(おこづかい)の集大成が……

 

「おのれ、ヤマト先生。いつか仕返ししてやるんですよ…」

 

私は反省のためのプラカードを首に下げたまま工事に加わりつつ憤慨します。

 

「例によって全く反省してないね」

 

「ちゃんとしてますよ? 確かに不用意でしたね。見つからないようにもっと周囲を警戒するべきでした…」

 

「いやそっちの反省じゃないっての」

 

「決めました。今日の晩御飯のおかずを魚のフライにしてやるんですよ!」

 

今晩は苦手な揚げ物に慄くがいいのですよ!

 

「(そ、想像以上に復讐内容がくだらない……ささやかというべきか……いやある意味安心なのだが)」

 

「(実はヤマト先生に限らず、第九班から好き嫌いがなくなりつつあるという事実に、コトはまだ気づいていなかったのであった……なんてね)」

 

「……? カナタとマイカゼは誰に向かって話をしているのですか?」

 

「ううん、こっちの話」

 

「第九班は今日も平和だな~」

 

2人は首を思い切りひねって無理やり私から視線をそらしました。

むむ、カナタとマイカゼまで隠し事とか……なんで忍者は皆秘密が大好きなのでしょうか?

 

もっと、堂々としてればいいのに。

ヤマト先生の木遁にしてもそうです。

硬く頑丈な良質の角材を生み出せるヤマト先生の木遁は今回の建設任務で大活躍間違いなしなのに「希少な血継限界だから基本極秘で緊急時しか使わない」だなんて宝の持ち腐れとしか思えません。

というか、前の任務で劇の大道具の修理に使ったじゃないですか。

いやまあ緊急事態(ふりょのじこ)といえば間違いなくそうでしたけど。

 

「貴女だって秘密とか好きじゃない? 秘密基地とか」

 

「確かにそうですけどそうじゃないんですよ!」

 

そういうのは密かに作って、溜めて溜めてここぞという場面でババ~ンと公開するのが楽しいんじゃないですか!

幾ら能ある鷹は爪を隠すと言っても隠しっ放しじゃないのと同じなのですよ!

うう、思い出したらまた腹が立ってきました。

 

「……魚のフライじゃなくてエビフライにしてタルタルソースをトッピングしてやりましょうか」

 

「なんか逆に豪華になってないか?」

 

「むしろ喜ばれそうな献立よねそれ」

 

やれやれと首を振るカナタとマイカゼ。

なにおう!? と言い返そうとした私でしたが、それより早く笠をかぶったお爺さんが苦笑いしながら

 

「はは、夕食の話で超盛り上がっとるところ悪いが、おそらくどちらも無理じゃろうな」

 

「?」

 

「夕食のおかずじゃよ。魚にしろエビにしろ、最近は漁に出ても超獲れなくなってしまったらしい」

 

「ええ!?」

 

そんな!?

てっきり私は海に囲まれた島国だから、新鮮な魚介類がたくさん手に入るものだとばかり……

 

「どうしてですか? 海があるんだから魚くらい……」

 

「待って、コト。なんか騒がしくなってきた」

 

「?」

 

確かに、カナタの言うとおり橋の入り口のあたりに人だかりができています。

何やらもめている様子。

何事ですか?

 

「……どうやら招かれざる客が来たようだ」

 

目をスッと細くして表情を消すマイカゼ。

 

マイカゼの言うとおり、見るからにガラの悪そうないかにもチンピラ然とした2人組の男性が大工さんに刀で脅しています。

 

「……ただのゴロツキ……ではなさそうですね」

 

「うん、単なる不良にしては武装がしっかりしすぎてる」

 

「しかもあの太刀筋……素人ではないな」

 

やっぱりカナタとマイカゼもそう思いますか。

しかし、単なる不良じゃないとするといったい何者なのでしょう?……

 

「ありゃあ、ガトーカンパニーのところの!」

 

私達と同じように2人を観察していたおじいさんが驚いたように眼を見開きます。

ガトーカンパニー?

それって()()大金持ちで有名なガトーカンパニーのことですか?

あれ? でも波の国は貧乏でお金持ちはいないって…

 

「どうやら詳しい事情を聴いてる暇はなさそうよ」

 

「あっ!」

 

2人組みのうちの1人、上半身裸で刺青と眼帯をした男性に小さな男の子―――イナリ君が蹴り飛ばされました!

それを見て激昂したカイザさんが、男に殴りかかって……すると今度はもう1人の手拭いをまいた男が腰の刀に手をかけて……

 

「あれは居合の構え!?」

 

「危ない!」

 

私は無意識のまま飛び出し、カイザさんの腰あたりにしがみつきました。

 

「!?」

 

私はそのままカイザさんを男たちから引き離します。

振り返ると、同じように飛び出していたらしいマイカゼが手拭い男の刀を両手の掌で挟み込んで受け止めていました。

真剣白刃どり!?

 

「このガキ……」

 

「っく!」

 

手拭い男は強引に刀をひねってマイカゼを振りほどき、距離を取ります。

 

 

「大丈夫イナリ少年?」

 

「う、うん……あ、そうだ父ちゃん! 父ちゃんは!?」

 

「父ちゃん? ああ、カイザさんのことね。大丈夫、危うく両腕を切り落とされるところだったけどコトとマイカゼがちゃんと助けたから」

 

カナタは眼帯男をけん制しつつ、蹴り飛ばされていたイナリ君を助け起こしています。

 

「離れてて、危ないから」

 

「うん」

 

「カイザさんもですよ」

 

「すまねえ……モロ恩に着る」

 

そう言ってカイザさんとイナリ君はその場から離れていきます。

動きを見る限り、怪我とかもなさそうですね…

 

「ああ、良かったですこれで一安心…」

 

「じゃないでしょ」

 

カナタに間髪を入れずに突っ込まれました。

そうでした、問題はまだ何も解決していないのです。

 

「お前ら何者だ?」

 

「私たちは木ノ葉の忍びよ。貴方達こそ何者? いったいどうして大工さん達を襲ったの?」

 

カナタが代表する形で彼らに問いかけましたが、男たちは答えませんでした。

むしろ私達を完全に無視して「こ、木ノ葉の忍びだと? …」「おい、忍びの護衛がついてるなんて聞いてねえぞ! 話が違う!」と口々に言い合っています。

 

さっぱり事情が分からないのです。

 

「どうする? 一旦引くか?」

 

「バカ、よく見ろ。いくら忍びと言っても子供、しかも女だぜ? ビビるこたぁねえよ」

 

「……それもそうだな」

 

ぶつぶつ言い合っていた2人組みはようやく話がまとまったのか、再び私たちに向き直り刀を抜きました。

 

「仕方ない。任務外の事態だけど応戦するよ」

 

「ちょっと待ってください! なんで戦う流れになってるんですか!? 不幸な行き違いかもしれませんしここは話し合いでの解決を……」

 

「いや無理でしょ? お相手さん完全に臨戦態勢だし」

 

「それにどんな事情があろうとも彼らの所業は個人的に看過できない」

 

「そんな……」

 

どうしてこんなことに……と悩んでいる私を見て好機と見たのか、眼帯男の方が斬りかかってきました!

仕方ありません!

 

私達はやむなくそれぞれ“武器”を手に取り男たちを迎え撃ちます。

 

 

しかし……

 

 

「おい、ふざけてんのか?」

 

「誠に遺憾ながら大真面目よ……こんなことになるなら苦無の1本でも持って来れば…」

 

そうぼやくカナタは『金槌』を右手に構えています。

現在私たちは忍具一式収納したホルダーを宿に置いてきてしまっているのですよ。

当たり前ですが、金槌は工具であって武器ではありません。

 

「なんでこんな時に限って私は……」

 

マイカゼも工事現場までは刀を持ってきていなかったらしく『ノコギリ』で代用です。

当たり前ですが、ノコギリは工具であって決して武器では(以下略)

 

そして私は首から下げていた『プラカード』をぐっと握りしめているのでした。

 

ええ、言いたいことは分かりすぎるほどに分かってますよ。

当たり前ですが、プラカードは工具ですらありません。

 

それでも仕方ないじゃないですか!

私の十八番(ふじゅつ)はついさっきヤマト先生に1枚も残らず没収されちゃったんですから!

手元にあるのがこれしかなかったんですよ!

 

長大な太刀を構えた男性2人を、プラカード、金槌、ノコギリで迎え撃つ女の子(くのいち)3人。

 

 

突っ込みどころ満載のシュールな光景がそこにありました。

 

 

「……正気か?」

 

「こ、木ノ葉の忍びは得物を選ばないんです!」

 

私はとっさに叫び返しました。

我ながら苦しい言い訳なのです……

 

「いや百歩譲ってノコギリ、金槌は良いとしてもプラカード(それ)はさすがにねえだろ。バカじゃねえの?」

 

「っく!」

 

せせら笑う2人組みに私は何も言い返せません。

 

「なんか真面目に相手するのがバカらしくなってきたぜ」

 

「だな、とっとと斬っちまおう」

 

ひ、ひどいです!

とことんバカにして!

 

「非常に心苦しいがこればかりは彼らに同感だ」

 

「もうちょっと他に何かなかったの? スパナとか」

 

そ、そんなこと急に言われても……

 

と、あたふたしている私を見て再び男の人達が斬りかかってきました。

危ない! 私はほとんどヤケクソ状態でプラカードを振り上げて―――

 

 

木遁・飛乃木(ひのき)

 

 

―――瞬間、先端が四角錐になった『角材』が2人組みを直撃しました。

 

「……忍びは武器を選ばないって、案外デマカセじゃないのかも」

 

「確かに」

 

「ヤマト先生! 今までどこにいたんですか! というかお札返してくださいよぅ……」

 

「君たち、窮地に駆けつけた上司にもっと他に言うべきことはないのかね?」

 

瞬身で現れたヤマト先生は苦い表情で伸びている2人組を木遁で縛り上げるのでした。

 




再不斬は調理器具(ほうちょう)
白は医療器具(せんぼん)

その後に登場する砂使いとかも含めて、ナルトの世界の忍者は思いもよらないものを武器として扱ってます。

というか、まともに武器で戦っている忍者の方が少ないような…

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