カナタ「コトの心は歪んでいる!」
ミズキ「ナルトは実は九尾の妖狐だ!」
イルカ「逆に考えるんだ。歪んでてもいいさ、と」
コト、ナルト「「吹っ切れた!」」
三代目火影・猿飛ヒルゼンは選択を迫られていた。
「…どっちじゃ? どっちに配属させる?」
ヒルゼンは眉間にしわを寄せて水晶玉を凝視する。
遠眼鏡の術により水晶玉にはこことは違う場所の光景―――木ノ葉の里にあるとある公園が映しだされている。
そこにはヒルゼンの孫である猿飛木ノ葉丸と、今や問題児の代名詞にもなっている金髪少年のうずまきナルトに加え、さらにもう1人少女の姿。
髪、肌ともに白い、白すぎる少女だった。
唯一色のある大きな黒い瞳をキラキラと輝かせてナルトや木ノ葉丸と話している彼女こそ、ヒルゼンの悩みの種であるうちはコトだった。
『では、見ててくださいよ? まずは右手に『起水札』です』
その名の通り彼女は木ノ葉の名門、写輪眼の血継限界を擁する『うちは一族』の末裔の1人である。
これだけなら何も問題はなかった。
いや、問題がないわけではないが、少なくとも悩む必要はなかった。
うちは一族が一部を除いて事実上滅亡してしまったために、木ノ葉で写輪眼を扱えるのははたけカカシ1名のみ。
コピー忍者の異名で里の内外から一目置かれる優秀な上忍である。
写輪眼の使い方を教えられるのは同じく写輪眼を持つ者だけである以上、コトの配属する班はほぼ決まったも同然だった。
これはヒルゼンだけでなく里の上層部全体の共通の意見で、コトは同じくうちは一族の末裔であるうちはサスケや九尾の人柱力であるうずまきナルト共々カカシ班に配属されることはほとんど決定事項だった。
……全ては過去形である。
『次に、左手に『起土札』です。これらを合わせて…』
というのも、彼女が継承している血筋はうちはだけではなかったのだ。
『符術・木遁果樹豊作!』
うちはコトが手をついた地面から双葉が生えて急激に成長し、蕾が出来たと思ったら花が咲き、すぐに散って……橙色の手のひらサイズの果実が実った。
まさしくそれは…
『……オレンジ?』
『そうです! オレンジなのです!』
ドヤァ、と何やらやりきった表情を浮かべるうちはコト。
しかし、それを見るナルトと木ノ葉丸の表情は微妙の一言に尽きる。
『それだけ?』
『もちろん違います。他にも出来るんですよ! 木遁・果樹豊作『ブドウ』『メロン』!』
『いやあのそういう意味じゃなくて…コトちゃん?』
『バナナもあるんですよ!』
ヒルゼンは、ナルトと木ノ葉丸の気持ちが手に取るように理解できた。
いや、確かに凄いことは凄いのだが…
『…ダメだ…こんな術じゃ爺に勝てないぞコレェ』
『そんな!?』
木ノ葉丸にダメと言われて、ガーンとショックを受けて固まるコト。
その術は文字通りの意味で実を結んだ彼女の研究の集大成であったらしい。
コトはショックのあまりその場に崩れ落ちる。
『ナルト兄ちゃん! やっぱりこんな術じゃなくて爺を倒したっていうおいろけの術を教えてくれよコレェ!』
『ダメ~! ダメダメなのですよそれは! おいろけの術は木ノ葉丸君にはまだ早すぎるのです! いやそれ以前にその目的にその術を使うのはオカシイのです!』
術の使い方が間違っている! と豪語するコト。
幸か不幸かいつも「お前が言うな」とコトに突っ込む空野カナタはその場にいなかった。
『え~? じゃあ、おいろけの術の正しい使い方って何だってばよ?』
『そ、それは……』
ナルトの質問にうっと固まるコト。
裸の女性に変化する術の正しい使い方って何だろうか?
コトは考えて考えて、テンパって電波をいろいろ受信した挙句
『……お、女湯に堂々と入り込んでの諜報活動? とか?』
「その手があったか! はっ!? いやいやいや」
とんでもなくエロい方向にすっ飛びかけた思考を軌道修正するヒルゼン。
首をトントンとたたいて心落ち着かせて深呼吸。
大丈夫、鼻血は出ていない。
今考えるべきはナルトの編み出した『おいろけの術』の有効な使い方ではなくコトが習得した『木遁の術』の方である。
チャクラを生命の源に性質変化させるこの血継限界は元々は木ノ葉の里を創設した一族『森の千手一族』のものだ。
歴史上これを十全に使いこなしたのは初めて影の名を背負った初代火影こと千手柱間ただ1人。
そう、十全に使いこなせさえすれば木遁はまさしく火影に匹敵する力になる。
なるのだが…
ヒルゼンは改めて水晶玉を覗き込む。
映し出されているのは、件の千手の血を受け継ぎ木遁を扱う少女うちはコト。
『それよりも見てくださいよ! 私の木遁は果樹豊作だけじゃないのです! 符術・木遁青果精製!』
重ねられた札から、今度は人参とトマトが飛び出した。
苦手な生野菜の出現にたじろぐナルト。
相変わらず反応の薄い木ノ葉丸。
『ショボイ……ってか、なんかオカシイってばよ』
「……写輪眼よりも
気づけばヒルゼンは額に汗をかいていた。
よもやナルトと同じ感想を抱く日が来るとは。
このままだとマズい。
コトの忍術が全く使えないから……ではない。
むしろその逆、ある意味物凄く有用であるからこそ、マズい。
最悪、コトの忍術や血統や才能を巡って各国が争うことになりかねない。
それだけの可能性を秘めていた……だからこそコトには最低限自衛できるだけの戦闘力を身に着けてもらいたいのだが…
「望み薄じゃのう…」
ヒルゼンはやれやれと嘆息する。
というか、本格的に木遁の使い方を指導しないと、いろいろな意味で本当に取り返しがつかないことになってしまう気がする。
幸いなことに、ヒルゼンは希少な木遁を扱い指導できるような忍びには心当たりがあった。
だが、その忍びの班に配属させると今度は写輪眼が…
しかし、カカシ班に配属すると木遁が…
「どっちじゃ? どっちが正しい?」
それはある意味、里の未来の行く末を決める重大な二択であった。
ヒルゼンの出した決断は―――
酷いです。
皆して木遁のことバカにして!
木ノ葉の里のとある広場にて。
私は木遁の凄さをちっとも分かってくれないナルト君と、木ノ葉丸君(ナルト君を一回り小さくしたような、黒髪の男の子で三代目火影様のお孫さん。地面を引きずるほどに長いマフラーがトレードマークです)に遺憾の意を示すのですよ!
そもそもなんで私が木遁を披露することになったのか。
それは今から少し前、ナルト君と木ノ葉丸君が一緒になって印を組んでいるのを見かけたのが切っ掛けでした。
『よし、基本は教えたから、あとはもう練習あるのみだってばよ!』
『オッス親分』
あれは変化の印ですね。
察するに変化の術の練習…じゃなくて指導ですかね。
微笑ましい光景でした。
子供っぽいと思っていたナルト君もちゃんとお兄ちゃんをやれるのですね…
私はほっこりした気分で2人に気づかれないようその場を離れようとしました。
頑張ってる人たちの邪魔はしたくありませんからね……と、そんなことを考えていられたのもこの時まででした。
『いいか? 基本はボンッキュッボンだ!』
『オッス親分! おいろけの術!』
『!?』
思わず耳を疑いました。
小さな子供に何を教えてるんですかナルト君!?
気が付けば私は顔を真っ赤にして突撃していました。
『ダメー!』
『あ、コトちゃん? 急にどうしたってば…』
『その術はまだ木ノ葉丸君には早いのです!』
『じゃあいくつになればいいんだってばよ?』
『そりゃもちろん、大人になってからです! 子供は使っちゃダメです!』
『いや、でもさでもさ、俺もまだ
『そうでした! なんという盲点!』
『コト姉ちゃん、頭良いけど時々おバカになるぞコレェ』
『とにかくダメ! 絶対! おいろけの術は絶対禁止なのです!』
そんなこんなでおいろけの術に代わる凄い忍術を見せる羽目になり、私はかねてより開発していた珠玉の木遁を披露したのですが…反応は芳しいものではありませんでした。
果樹豊作も青果精製も凄い忍術なのに。
今でこそ生み出せる果実や野菜は数個程度ですが、極めれば何十何百と大量生産して完全なる自給自足も夢じゃないのです。
さらに現在、これらの木遁と並行して『木遁・穀倉創造』も開発中なのです。
「見てなさい。いつか果物屋さんと八百屋さんが経営できるくらいに出せるようになってやるんですよ!」
そうすればもはやショボイなんて評価は付けられないのです!
「いや、出てくる果物とか野菜の数の問題じゃなくってさ……もっと根本的な部分がなんというか」
「やっぱショボイぞコレェ」
「何おう!?」
さ、さっきから言わせておけば……仮にも乱世を治めて木ノ葉の礎を築いた初代火影様の伝説の木遁忍術をショボイとか失礼にも程があるのですよ!
「え? 初代火影はこんなので木ノ葉設立したのか!?」
「う~む、初代火影ってある意味凄かったんだなコレェ」
「貴方たちは罰当たりなのです!」
偉大な火影様になんてことを……ってちょっと待ってください。
片や、火影様の顔に文字通りの意味で泥を塗った天下の悪戯小僧。
片や、打倒三代目火影様を掲げて日に何十回も火影様に特攻するヤンチャ坊主。
…罰当たりなのは今さらでしたね。
「でも、オレンジじゃ爺を倒せないぞコレェ」
不満たらたらですが、私はそもそも火影様を一発で倒しちゃうような忍術を教えるのは仮に知っていても反対です。
やっぱり木ノ葉丸君にはまだ早い…というか、大人になっても使ってほしくないです。
危ないじゃないですか。
「……そもそも、なんで木ノ葉丸君は火影様に食って掛かるのですか?」
私は木ノ葉丸君に向き直りました。
前々から気になってたんですよね。
出会った当初はそんなことをする子じゃなかったはずなのですが。
「いったい何がどうして木ノ葉丸君をそこまで…」
「それだよ」
「それ?」
「その木ノ葉丸って名前……爺ちゃんがつけてくれたんだ。里の名前にあやかって……でも、これだけ里で聞き慣れた名前なのにコト姉ちゃんとナルト兄ちゃん以外誰も呼んでくれないんだ…」
木ノ葉丸君はポツリポツリと語ります。
皆自分をちゃんと見てくれない。
単なる火影様の孫としてしか見てくれない。
「誰も俺自身を認めてくれない…そりゃ、コト姉ちゃんやナルト兄ちゃんは別だけどさ。それだけじゃイヤなんだ。だから、今すぐにでも火影の名前を手に入れるんだ!」
それはかつて一楽で「火影になって里の皆に俺の存在を認めさせてやるんだ!」と宣言したナルト君を思わせる言葉でした。
知りませんでした…いつも無邪気でヤンチャな木ノ葉丸君にこんな感情が渦巻いていたなんて…
「大丈夫ですよ。別に火影にならなくても私たちがちゃんと木ノ葉丸君の事を認めて「バ~カ、お前みたいな奴、誰が認めるか」ナルト君!?」
耳を疑いました。
なんでそんなことを言うんですか!?
「ガキが語るほど、簡単な名前じゃねえんだ」
ナルト君は私の咎めるような視線を無視してさらに言い募ります。
「何ぃ!?」
「火影火影って、そんなに火影の名前が欲しけりゃなあ……」
その顔は、いつもの悪戯好きな男の子の顔ではありませんでした。
「この俺をぶっ倒してからにしろ」
野望を抱く、1人の男の顔でした。
ナルト君が怒ったのは、自分が目指す
それに木ノ葉丸君も火影を目指すということは、同じ夢を抱くナルト君とはライバルということに…。
ナルト君は私が「なぜ火影様に食って掛かるのか?」と尋ねた時、木ノ葉丸君に何も言いませんでした。
同じだからこそ、聞くまでもなく知っていたのですね。
そして私は気づかなかった、木ノ葉丸君との付き合い自体はナルト君よりも長いはずなのに―――
「ここにいましたか! 探しましたぞお孫様!」
―――ふと、サングラスをかけた細面の男性が突然姿を現しました。
模範的な木ノ葉流『瞬身の術』……教科書に記載されているお手本みたいです。
エビス先生。
三代目火影・猿飛ヒルゼンの孫である木ノ葉丸君の家庭教師を務める自称エリート忍者なのですが……正真正銘の
エビス先生はふと私とナルト君に気づいて
「(……フン……化け狐にうちはの落ちこぼれめ)」
恐ろしく冷たい目でした。
絶対に認めないって、これ以上ないってくらいにデカデカと顔に書かれているのです。
そんなに
まあ好かれるようなことは特にしてないのは確かなんですが…
「さあ、お孫様、帰りましょう」
「イヤだ! 俺は爺倒して、火影の名を今すぐ貰うんだ!」
「火影様とは仁・義・礼・智・忠・信・考・悌の理を知り千以上の術を使いこなすことで初めて…」
エビス先生の小難しいご高説なんて木ノ葉丸君は最初から聞かず、手裏剣を構えて勢いよく飛び出していきます。
しかし、大人と子供の力の差は歴然です。
あっさりあしらわれる木ノ葉丸君。
「クソッ、こうなったら…」
印を組んだ木ノ葉丸君は、気合一発チャクラを一気に練り込んで…ってこの術式はまさか?……
「食らえ、おいろけの術!」
木ノ葉丸君の姿が掻き消え、現れたのは黒髪ロングの裸の美人…ああ、やっちゃった…
「まさかこの土壇場で…俺より飲み込み早いってばよ」
感心してる場合ですか。
ナルト君はもとより木ノ葉丸君の将来が心配です。
「ななななんとお下品な術をおおおぉおぉお!?」
これにはエビス先生もさすがに度肝を抜かれたらしく顔を真っ赤にしているのです。
「私は紳士です! そのような超低俗な術には私は決してかかりませんぞ!!」
そういって、エビス先生は木ノ葉丸君のマフラーを引っ張って……ってそれは危ないです首が絞まっちゃうのですよ!
「エビス先生! 離してあげてください! 木ノ葉丸君が窒息しちゃいます!」
「貴女こそ、お孫様に近づくのを止めていただきたい! 貴方達のような忍術を低劣に扱う落ちこぼれとつるんでいたら、バカが移ってしまいます!」
「ちょ、果樹豊作は低劣なんかじゃありません!」
「離せコレェ~!」
「お孫様! どうか御考え直しください! 私の言うとおりのするのが火影の名をもらう一番の近道ですぞ!」
スズメ先生もそうでしたけど、エビス先生はそれに輪をかけて頭が固いのです。
忍術を教科書通りにしか使いませんし、教えません。
良いじゃないですかちょっとくらい発想を転換させても!
「影分身の術!」
「「「!?」」」
ナルト君が急に何人にも分身しました。
すでに臨戦態勢です。
おいろけの術を「お下品」とか「超低俗」とか言われて、さすがに黙っていられなかったようです。
「うおおお! すげ~ぞコレ!」
木ノ葉丸君は初めて見る実態を持った分身に大興奮ですが、エビス先生はさすがに冷静です。
「影分身…フン、下らない。こう見えても私はエリート家庭教師! ミズキなどとは違うんですよ」
こう見えてもって……自覚あったんですね。
それはそれとしてエビス先生の実力は本物です。
飛び掛かってくるナルト君の分身たちを前にしても冷静です。
ふむ、これは助太刀が必要ですかね。
「来なさい! いくら数を増やしたところで全部蹴散らして!?」
腰を低く構えていたエビス先生が急にバランスを崩してひっくり返りました。
その足元からは滑った勢いで空中に跳ね上げられた細長い黄色い果実。
「バナナも出来るって……エビス先生には言ってませんでしたね」
木遁・果樹豊作。
符術をひそかに発動していた私はその光景を見てほくそ笑みます。
いや~悪戯の定番にして鉄板にして王道ですよね、バナナの皮でスリップって。
低俗低俗とバカにしますが、低俗な術でも低俗なりの使い方ってものがあるのですよ!
「ナイスアシストだってばよ! 変化!」
ナルト君
ここから先は詳しくは語りません。
結果だけ言えば、
「よってお主は暗部を抜けて上忍じゃ。面を外しこれからは『ヤマト』と名乗れ」
ところ変わって火影邸。
三代目火影・猿飛ヒルゼンは、厳かにそういった。
「光栄ですね。まさか僕と同じ木遁を扱う部下を持てるとは」
ヒルゼンの前に立っていた男―――木ノ葉の希少な木遁使いである『ヤマト』はやや嬉しそうにしながら暗部の面を外した。
「さらにうちは一族でもある」
「へぇ、ということはカカシ先輩と同じ写輪眼を…将来有望ですね」
これは期待できそうだ、とヤマト。
「頼むぞ……将来有望なのは確かなのじゃが、それと同じかそれ以上に将来が不安でならん」
「?」
将来有望なのに将来が不安?
ヤマトは矛盾するようなヒルゼンの物言いに首をかしげた。
「その子だけではない。他の班員の子も皆癖が強い」
もっとも、癖が強いのは何もヤマトの班に限った話ではない。
うちは、日向、奈良 油女、犬塚、秋道、山中……木ノ葉の有力一族の末裔が一堂にそろった世代だ。
受け持った上忍の苦労がすでに予想できた。
「まあ、なんとかしますよ。いざとなれば檻に入れてでも躾けて見せます」
「頼むぞ」
ヒルゼンは再三にわたってヤマトに念を押すのであった。
「ところで、なんでこの子だけモノクロ写真なんですか?」
「いや、全員カラー写真じゃが?」
「え?」
「え?」
新符術『木遁・果樹豊作』ですが。
果物のバリエーションは他にもパイナップル、マンゴー、イチゴ、キウイフルーツ、ドリアン…などがあります。
共通点は……とりあえず日曜に早起きしてみましょう。
ちなみにコトは木遁以外だと
火遁・遠赤外線。
水遁・蒸留清水。
雷遁・誘導加熱を習得済みです。
あとはヤマトから木遁・四柱家の術を写輪眼でコピーすれば……
コトは順調に『便利な女』を極めつつあるようです…
目指せ女子力最強。