南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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前回掲載したイラスト、良くも悪くも反響デカかったようで…
とりあえず写輪眼モードも掲載することにします。
見たくない方は、挿絵を開かないように。

新たに何か描くか…


14話 ☆

ナルト君が虚ろな表情で公園のブランコにまたがって俯いているのを、私―――空野カナタは黙って見ていることしかできなかった。

今年度のアカデミー卒業生29名。

その中にうずまきナルトの名前は入っていない。

周囲には額当てをつけて誇らしげに笑う卒業生と、それを褒める両親の姿。

合格できず、さらに親もいないナルト君には辛い光景でしょうね。

 

だけど、私が一番心配しているのはナルト君ではない。

 

「ナルト君…」

 

コトが沈痛な表情でナルト君を見ている。

一見すると、友達思いの優しい女の子でしかない。

 

だけど、私は改めて確信する。

コトはどうしようもなく不自然だと。

 

普通に優しいその精神性が異常に見える。

 

家族のいないナルト君を、同じく家族を失ったコトが憐れんだ目で見つめている様がどうしようもなく異様に見える。

 

コトが最初にナルト君と仲良くなれたのは単純にウマが合ったからだと思う。

具体的に言えばコトは平和に、ナルト君は悪戯に、ベクトルは違えど忍術に戦闘以外の有用性を見出した者同士で通じ合った。

その後さらに仲良くなれたのは、善くも悪くも同じ境遇に陥ることで共感の念が芽生えたから…………だと思っていた。

 

でも、それだったらなんでコトとナルト君は対等(同じ)じゃないの?

 

ナルト君を慈しむその姿はどう見ても、持てる者が持たざる者を見るそれ。

コトがナルト君と同じ立ち位置にいるようには見えなかった。

 

同じ孤独の痛みを知り、同じような問題児で、同じような元気で明るい性格で…なのにどうしてこんなにもかけ離れているのか。

 

元気の擬人化なんじゃないかって思うくらいポジティブなナルト君ですら時折昏い表情を見せるのに、コトは昏さの片鱗すら見えない。

家族を失うっていう私には想像することも出来ないような悲劇を経験して、どうしてコトは“そこ”に留まっていられるのやら。

 

そりゃ、うちはサスケ君みたく鬼気迫るような昏い目をしてほしいわけじゃないけどさ…

 

「私はどうしてあげるべきなのでしょうか……」

 

「そんなの私が聞きたいくらいよ」

 

「……カナタ?」

 

「…いや、なんでもない」

 

私はそう言ってコトから目をそらした。

いや本当、私はコトにどうしてあげればいいのか。

 

どうなって欲しいのだろうか。

 

もちろん辛い過去に負けずに明るく元気にしていてほしいに決まってる。

決まっているけど…

 

 

……考えても仕方ないか、コトが変なのは今に始まったことじゃないし。

それより今はナルト君ね。

コトは何とかして励ましたいみたい。

だけど…

 

「…励ますってどうやって? 何を言っても辛いことになるだけよ」

 

そう、今のナルト君に私達がしてやれることなんて何もないと思う。

というか、何も言うべきじゃない。

これは1人で乗り越えるべきことよ。

 

とは言え、私自身も今のナルト君を見ているだけなのは結構キツかったり。

 

最初こそコトを間に挟んだ繋がりでしかなかったけど、今ではそれなりに交流があるわけで。

気づけば単なる友達以上に親しくなっていた……ナルト君は多才だというのはコトの論だけど、私はその才能の中に『誰とでも友達になれる才能』ってのも含まれてると思う。

人を惹き付けるカリスマみたいな?

どうにもそういうのを持っている気がするわ。

案外、ナルト君の死んだ両親って実は物凄い大物だったりするのかもね…そんなナルト君の人柄を知っているからこそ、なんで嫌われているのか余計に分からないわけだけど。

 

…それこそ考えても仕方がないか。

ナルト君の事にしろ、コトの事にしろ。

 

ふと思い返せば私はずいぶんと思考のループに陥っていたらしい。

 

私は今度こそ気持ちを切り替える。

そりゃナルト君と一緒に卒業できなかったのは残念だけど、せっかくの門出に揃って暗い表情をしているのはいくらなんでも違うでしょ。

 

それに私は知っている。

コトはさらによく知っている。

ナルト君はこんなことでへこたれるほど弱くもなければ非才でもないということを。

忍者になれなくてもやっていけるだけの物を持っているということは私達が誰よりも保証して―――

 

 

 

「ふんっ、良い気味よ」

 

「あんな子、落ちて当然だわ」

 

 

 

―――瞬間、思考が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

それは、ある意味でいつもの事でした。

理解できない罵声、理由の解らない悪意、もはやナルト君の日常の一部です。

それは一緒に行動することの多い私やカナタにとっても聞き慣れたものです。

 

だからこそ私は、その大人達に飛び掛かろうとしたカナタを寸前で取り押さえることが出来ました。

 

「…何で止めるの?」

 

カナタが心底驚いた様子で聞いてきます。

驚きなのはこっちの方なのですよ。

 

「止めるべきだからです」

 

というか、カナタは何をする気だったのですか?

何時でも何処でも誰とでも冷めているカナタにしてはらしくない行動です。

おかげで私までらしくないことをする羽目になってるのですよ。

それは確かにあの大人の発言は看過しかねるものでしたけど…

 

「…止める()()か…コトはいつもそうだよね。どんな時でも闇に負けない…いや闇がそもそも欠落してるのかしら」

 

「カナタ?」

 

「もう大丈夫よ。頭は冷えたから」

 

カナタは私を振り払ってその場から立ち上がりました。

そしてカナタは私のことを真っ直ぐに見つめて

 

 

 

「やっぱりコトは歪ね」

 

 

 

 

 

 

それからカナタは両親に連れられてその場を後にしました。

 

私は相も変わらずナルト君の様子を眺め続けています。

ミズキ先生が優しい顔で何やらナルト君に話しているのが見えました。

雰囲気から察するに励ましているのでしょう。

私なんかはもとよりカナタやイルカ先生ですらかける言葉なんて分からなかったのに、ミズキ先生にはそれが分かるのでしょうか?

 

私には分かりません。

それどころか、分かっていたと思っていたことすら分かっていなかったのかもです。

 

カナタの言葉が頭から離れないのです。

 

『うちはコトには闇が存在しない。本来持ってしかるべき感情が欠落している』

 

思い当たる節はありました。

というか、前にも似たようなことをカナタ以外の人にも言われたことがあるのですよ。

 

それは南賀ノ神社本堂の地下に秘密の集会所があることを初めて知った日のこと。

集会所の秘密を私に教え、感情のまま怒りのまま憎しみのままに復讐を語るサスケ君を、私が無情にも「下らない」の一言で切り捨てた時の事でした。

 

 

 

『なんでそんなこと言うんだ!?』

 

物凄い剣幕で食って掛かってきたサスケ君。

いつもの私ならそれだけで萎縮していたかもですが、その時の私は引き下がりませんでした。

むしろ引き下がってはいけないとすら思ってました。

 

『何度だって言いますよ! 復讐なんて下らない、非生産的にも程があるのですよ!』

 

『お前は俺と同じじゃないのか!? 俺と同じ痛みを味わって、俺と同じように一族の真実を目の当たりにして、それなのになんでそんな平和ボケしたセリフが吐けるんだ!』

 

『同じですよ! 私だって辛いです。それでも復讐はダメです』

 

思えば、あの時の私は酷く薄っぺらなセリフを吐いていたのかもです。

 

『イタチお兄さんを殺すなんて絶対にダメです! いや、それ以前の問題として私はイタチお兄さんが犯人だなんて断じて信じません!』

 

写輪眼は悲劇を悲劇として受け止められる真っ当な心の持ち主にしか開眼できない代物です。

もしイタチお兄さんがサスケ君の言うとおり、「己の器を測る」なんて子供じみた理由で人を殺せるような破綻者だったらそもそも写輪眼に開眼できるはずがないのですよ。

故に私は信じて疑いもしませんでした。

 

『うちは一族に、写輪眼開眼者に悪い人なんていません!』

 

『俺はこの眼ではっきり見た! イタチが父さんと母さんを…一族の皆を皆殺しにしたんだ! お前の姉や両親だって同じだ! 全部あいつが殺したんだ! シスイだって殺したって言っていた! お蔭で万華鏡写輪眼に開眼したとも』

 

『そんなの全部幻術の世界での話じゃないですか!』

 

『でも一族の皆が殺されたのは現実だ!』

 

『だから、それがイタチお兄さんの仕業だなんて証拠は何処にもないでしょう!』

 

 

結局、私とサスケ君の主張は何処まで行っても平行線でした。

これでは埒が明かないと思った私は、別の観点からサスケ君の説得を試みたのです。

 

『…仮にイタチお兄さんが虐殺事件の犯人だったとしても、それでも同じ一族の兄弟で殺し合いとかやってもらっては困ります。貴重なうちは一族の生き残りなのですから』

 

恐ろしく、それこそカナタが評した通り不自然な、いっそ不気味と言っていいほどに感情を廃した発言でした。

 

『復興のためにもこれ以上頭数が減るのは好ましくないのですよ』

 

だから殺すのは止めてください。

 

そんな私の言葉を聞いたサスケ君はガツンと見えない何かに打ちのめされたようによろめきました。

 

『何ですかその反応? 私別にそんな衝撃を受けるようなこと言ってませんよね?』

 

『お前は憎くないのか?……家族の仇なんだぞ?…』

 

『サスケ君? いったいどうしたのですか? なんでそんな得体のしれないものを見るような目で私を見るのですか? 私よりずっと強くて優秀なのになんで私に怯えるような反応をするのですか? サスケ君だって一族の復興は悲願だったんじゃないのですか? どうして後ろにさがるんですか?』

 

 

 

 

 

 

私、何モ間違ッテマセンヨネ?

 

 

 

 

 

 

「おかしくないのが逆にオカシイ……カナタの言う通りなのですよ」

 

自室で過去を振り返り自問自答を繰り返した結果、自分自身のあまりの歪さに私は頭を抱えました。

そもそも、事件前後で私自身何も変わっていないというのがすでに不自然なのでした。

 

あれだけショッキングな出来事を経験すればトラウマになってしかるべき、むしろ豹変したサスケ君の方が人として正しい反応なのでしょう…ってこんな風に自分で自分をナチュラルに精神分析できてしまっているあたりもう…

あれ以降、サスケ君とはまともに会話できていません。

そればかりか目を合わせてすらもらえないのです。

ナルト君やカナタとは普通に接していたので気にしなかったのですが…なんだか自分が得体のしれないナニカに思えてきました。

いったい私はどうしちゃったのでしょうか?

 

怒りがないわけではありません。

悲しみが薄いわけでもありません。

 

ただ、それらがどうしてもサスケ君のような暗い感情に結びつきません。

意識して憎悪を抱こうとしても、雲散霧消してしまうのです。

まるで穴の開いた風船を膨らませようとしているような手ごたえ、感情がそちらに傾かないように誘導されているかのような……精神の誘導?

 

それが可能な術を私は知っているのです。

木ノ葉のエリートうちは一族にとってそれは火遁と並ぶお家芸。

 

「……幻術にでもかかってるのですかね?」

 

幻術による対象の自覚なしの精神誘導。

確かシスイお兄さんがそんな幻術が出来るって教えてくれたような…だとしたらいったい何時の間にかかったのでしょうか?

 

…思い当たる節が見つかりません。

強いてあげるとするなら生き返った時ですが、あの時に蘇生と同時に精神操作も受けた?

しかしミハネお姉ちゃんは幻術がさほど得意ではなかったはず。

でもでも死者の蘇生なんてぶっ飛んだ術を行使できることを隠していたのだから、シスイお兄さん並の幻術の才能も実は隠していたとか……さすがに胡散臭すぎるような。

それともこれは幻術などではなく、蘇生のおかしな副作用とかですかね?

う~ん全部ありえない、とは言い切れないんですよね。

むしろ死者の蘇生がありなら全部ありそうな気さえしてきます。

 

いくらなんでも元からそうだったなんてことはさすがに……さすがに……

 

…………。

 

「……どうしよう…否定してくれる人が皆無なのですよ」

 

例えば、私が不特定多数に向けて片っ端から「私ってひょっとして頭のおかしい奴ですか?」と質問しまくったとして…誰一人として是以外の答えを返さないことはありありと予想できるのです。

 

カナタあたりなんか「そんな質問をして回ること自体がすでに頭のオカシイ奴の行動よね」とかため息まじりで言ってくるに違いないのですよ。

うわぁ言いそうです。

 

本当どうすればいいのでしょうか?

私の精神がどうしようもなくイカれていたとして…今後私はどうするべきなのでしょうか?

 

「…病院に行くしかないですかね」

 

木ノ葉病院に精神科ってありましたっけ?

ああ、アカデミーを卒業してさあこれから下忍!って時に……まあ無事卒業できただけましと考えるべきでしょう。

 

こんな悩み、落ちてしまったナルト君に比べれば些細な『ドンガラガッシャーン!』

 

!?

 

「コトちゃん! 良かった部屋にいたってば…」

 

「ナルト君!?」

 

突然、窓を盛大に突き破って盛大に部屋に侵入してきたのは見慣れたツンツン頭の金髪少年うずまきナルト君でした。

噂をすれば影とはこのことです。

というか、いつもいつも登場が突然過ぎるのですよ!

びっくりするじゃないですか!

 

「急に部屋に飛び込んでくるなんていくらなんでも非常識なのですよ!」

 

ちゃんとドアから入ってください!

 

「そのセリフ、コトちゃんだけには言われたくないってばよ…」

 

ジトッとした目でそう言い返すナルト君。

…そういえば、最初にナルト君に出会ったときは、私がナルト君の部屋に飛び込んだんでしたっけ?

確かに今の状況はその時と真逆なのです。

 

「って、そうじゃなかった! コトちゃんっ、一緒に来てくれ!」

 

「いきなり何を言ってるのですか貴方は!?」

 

ある意味侵入の時以上に唐突なのですよ!

 

「へっへ~ん、断っちゃっていいのかな?」

 

「? どういう意味です?」

 

「これが何だか分かるかな~?」

 

ナルト君は困惑する私を無視して、得意げな様子で己の背中を示しました。

そういえば、ナルト君は侵入した時からずっと何かを背負っていて……って、え?

 

そ、それは!?

 

それはもしや!!?

 

 

 

 

 

 

改めて思います。

ナルト君は天才です。

私がアカデミーを卒業出来て、彼が落ちてしまったことが不思議でなりません。

 

「い、いったいどうやって『封印の書』を?」

 

私は前方を走るナルト君を追随しながら尋ねました。

ナルト君が背中に背負っていた優に一抱えもある大きな巻物。

そう、それは私が長年求め続けてきた、そして今なお手にしたことのない幻のアイテム『封印の書』だったのです。

 

「どうやってって…火影の爺ちゃんの家に忍び込んで盗ってきたんだってばよ」

 

「いやだから、それをどうやって??」

 

家に忍び込んでとかあっさり言ってくれるものです。

私が同じことをしようと思ったら、まるまる一か月かけて侵入計画を立てていろいろと準備をしなければならないのに。

 

「ロクな準備もしないで、よく火影様の目をかいくぐれたものです」

 

「いや、爺ちゃんには見つかった」

 

「…? じゃあどうやって逃げて「おいろけの術で抱き着いたら鼻血吹いてぶっ倒れた」おいろけの術マジパないですねホントに!」

 

どうにかして出し抜いたのかと思いきや、まさかの正面突破。

火影様を無傷で攻略するというあまりの偉業に私は戦慄せざるを得ませんでした。

まったく、どこが下らない忍術なものですか。

上品でないだけで下らないどころか下手すれば禁術クラスのポテンシャルなのですよ。

 

でも、その術はあまり多用しないでほしいです。

これだけ褒め称えた後で言うのもなんですが、やっぱりちょっと恥ずかしいです。

それにほら、ナルト君はそんな術なくても十二分に凄いですし。

 

「なおのこと不合格だったのか悔やまれるのですよ」

 

身の丈に合わない超高等忍術に手を出さずもっと分身の術の練習をしていれば…

 

「それがさ、まだ合格のチャンスはあるって教えてくれんだ!」

 

「……?」

 

「ここまで来れば大丈夫だな」

 

ナルト君がそう言って立ち止まったのは、木ノ葉の敷地内で広大な面積を占める森のはずれ。

木々の間隔は十分に広く、それでいて周囲からは死角になってなかなか発見されにくいというベストスポットです。

さすが男の子、こういう場所に詳しいのです。

 

さて、いよいよですね。

いろいろ気になることはありますが、そんなことよりもこれです。

 

私はその場に座り込むナルト君の後ろから覆いかぶさるようにして彼の手元の『封印の書』を覗き込みます。

 

「早く、早く開けるのですよ!」

 

「分かってるってば」

 

興奮を抑えきれない私に急かされる形で、ナルト君はついに『封印の書』を紐解きました。

 

 

 

 

 

 

この時私は興奮のあまり疑問を抱くことが出来ませんでした。

 

とある事情で保管場所を定期的に変更されている『封印の書』を何の準備も手引きもなく奪取するのはいくらなんでも不可能だとか、

 

そもそも、ナルト君は何処で『封印の書』の事を知ったのでしょうかとか。




ふと気づいた…
コトって、俗にいうところの「空から降ってくる系のヒロイン」に該当するのでは?
……だからどうしたって感じですねハイ。

ストーリーが進まない…原作だと一話で終了している話なのに…

それはそれとして、だんだんと主人公の歪さが浮き彫りになってきました。
他作品のキャラで例えるなら、羽川翼 衛宮士郎 あたりですかね…

個人的には球磨川禊さん風になってくれればいいなぁとか思ってたり。

西尾維新キャラはステータス面ではなくキャラクター面で人間離れした奴が多くて大好きです。


【挿絵表示】

構図、ポーズは前のままです。

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