南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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難産でした。
シリアスは、難しいです。
でもピンク色なのはもっと難しいです。

なんとこの物語がランキングに乗りました!
しかも結構上位です!

読者の皆様ありがとうございます!


10話

何かオカシイ。

私改め空野カナタはアカデミーの教室で授業を受けている見慣れた白い少女を眺めながら眉をひそめた。

 

 

うちは一族が全滅した。

ただ2人の子供、うちはサスケとうちはコトを残して。

一応表向きは箝口令が敷かれているらしいけど、そんなもので人の口に戸口なんてたてられるわけがない。

 

木ノ葉を揺るがす一大スキャンダルは瞬く間に里中に広がった。

大人たちはもちろんのこと、上のことにあまり興味を抱かない子供である生徒ですらひそひそと噂話に花を咲かせているあたり、その情報の広がり具合と信憑性が伺えるわ。

 

かくいう私も子供なわけだけど…私の場合は事情が別。

親友……と呼べるかどうかは微妙だけど、一応アカデミー入学当初からの腐れ縁の一大事なわけだし。

気にならないわけがなかった。

 

ちなみに私以外の女子生徒たちの関心はうちはの事情そのものではなく、それによって落ち込んでいるであろううちはサスケ君をいかにして慰めようか、に集約されていたりする。

 

 

 

コトのやつもさぞかしショックを受けているだろうな~どう接するのが良いのかな~的なことを考えていたら……コトは私の想像を大きく覆すように普通にアカデミーに登校してきた。

いや、今までコトが私の想像の範囲内で行動したことなんて一度たりともない。

ないんだけどこれは…

 

「……?」

 

なんというか普通にオカシイ。

いや普通だけどオカシイ?

 

ショックを受けている様子がないわけじゃない。

気丈に振舞っていても時折悲しそうな仕草を見せるし、沈痛な表情も浮かべてもいる。

 

ショックを受けていることがおかしいわけじゃない。

あれだけの事件だしむしろショックを受けていない方がオカシイわけで。

故にコトの様子は不幸な目にあった人間の模範的行動だと言える…なのになんなのこの圧倒的コレジャナイ感。

 

何かオカシイのは分かるのに何がオカシイのかさっぱりわからない。

授業の合間の休み時間、周囲が弛緩した空気に包まれているさなか私は1人首をひねっていた。

 

「おかしくないのが逆にオカシイ……いったいどうなってるの?」

 

「カナタ、貴方はさっきから1人で何を言っているのか」

 

ぶつぶつと小声で喋っている私を見かねたのか不審に思ったのか、月光さんが声をかけてきた。

 

月光マイカゼさん。

切れ長の相貌に黒髪が綺麗な同級生で、コトが最初に彼女を見たときは「私よりうちはっぽい人がいるですと!?」と何やら衝撃を受けていた。

あと、コトの解析するところ女子では割と珍しいことに体術タイプらしい。

事実、体術の授業では日向流体術の使い手である日向ヒナタさんを抜いてトップに位置している。

さらに女子としては極めて珍しいことにうちはサスケラブじゃない。

物静かで雰囲気は忍者よりもむしろ武者に近い堅物女子というのが私の印象ね。

 

「多少挙動がおかしくとも別に不思議なことではないだろう。聞けばかなりの惨劇だったらしいし動揺しないわけがない」

 

「いや、だからなんというか……その不思議ではない行動をしてるコトってのが、もうすでに不可思議摩訶不思議なわけで」

 

「カナタちゃんは普段どういう目でコトちゃんを見てるのかな?」

 

何やら私をひきつったような笑みを浮かべてみてくる日向さん。

その眼はいろんな意味で白い目だ。

 

どんな目って言われても…

 

「……アカデミーの備品倉庫から起爆札をありったけ盗み出した挙句、それを花火に魔改造して真夜中に打ち上げるような奴を見る目かしらね」

 

「それどんな目!? ってあれ? あの事件の犯人ってコトちゃんだったの?」

 

「…ああ、そうか。そういえばヒナタは中途編入だったから知らないのか」

 

「ちなみにうずまき君も共犯ね」

 

日向さんの大きな眼が零れ落ちそうなくらい大きく見開かれた。

 

そう、忘れもしない去年の夏のある日。

里の夜空に大輪の炎の花に、飛び交う木ノ葉マーク、そして踊り狂う1匹の龍が出現したのだ。

一時、里中が大騒ぎになったわ。

 

『トラウマを克服するために必要だったんです!』

 

とは被告人うちはコトの後の言。

炎の龍にいったいどんなトラウマがあるのやら…

 

彼女の奇行はこれだけじゃない。

他にも「食材は鮮度が命!」とか言って掌仙術で魚を捕れたての状態まで回復させたり、「うちはたる者、炎をうまく扱えなければならないのです!」とか言いながらオリジナルの火遁の術で料理したり…

 

確かに火をうまく扱ってはいたんだけど……何か違うでしょそれ。

 

「いや、うまいといえば異様に美味(うま)かったんだけどさ…」

 

「食べたんだ…」

 

手裏剣とか苦無とかの刃物の扱いはからっきしなのに、包丁さばきだけ達人級だったりするのよね~

本当、どうなってんのかしら。

 

「って、そうじゃなくて。問題は今のコトよ。絶対何かオカシイ」

 

「私がどうかしたのですか?」

 

「「「っつ!?」」」

 

気が付いたらコトが近くまで来ていた。

しまっ…って別に警戒する必要ないじゃない。

何を焦ってんだか私は。

 

「そうよ。貴方のことよ。最近のコトは変だって」

 

私がそう指摘するとコトは沈痛な表情を浮かべて

 

「やはりカナタには隠し事は出来ませんね……なるべく普段通りに振舞ってるつもりだったんですが…」

 

そういって泣き崩れるコト。

あわてて駆け寄る日向さん。

 

「無理をしていたのか…」

 

無理もない、と月光さん。

そしてこの無理もない様子が違和感バリバリに見えてしまう私。

何故なのかしら?

むしろ私がオカシイのかな……

 

ふと、突如廊下が騒がしくなった。

何事かと思ったら、うずまき君が教室に飛び込んできた。

そしてその後ろから迫りくる顔を真っ赤にした海野イルカ先生と苦笑顔のミズキ先生。

 

「「ナルト君!?」」

 

「うずまき君!?」

 

にわかに騒がしくなる教室。

トラブルメーカーめ、とうとうくのいちクラスの教室にまで騒動を持ち込んだか。

 

というか、うずまき君はあのうちはの大事件を知らないのか……知らないみたいね。

そういえば忘れてたけど嫌われっ子の1人ぼっちだったわ。

はてさて、孤独だから空気が読めなくなるのか、空気が読めないから孤独なのか…普段は前者っぽいけど、今日この場に限っては後者を押したいところね。

 

「ナルトォ! 今日という今日は本気で怒った! 補習室にぶち込んでやる!」

 

海野先生が、素早い身のこなしでうずまき君に飛び掛かる。

 

「へっへ~ん。捕まってたまるかってばよ!」

 

うずまき君が跳んでそれを回避する。

その瞬間私は間抜けにもポカンと口を開けて固まってしまった。

 

跳んだ高さが尋常じゃなかった。

何かもう跳ぶというより、飛ぶと表現すべき高さというか。

コトからうずまき君は落ちこぼれとは程遠い存在だとは聞かされていたけど、なるほど、少なくとも身体能力は半端ないわけか。

 

私が内心納得している間、うずまき君はその勢いのまま高く高く跳んでいき

 

「あぼっ!?」

 

教室の天井に激突した。

…コトといい、うずまき君といい、なんかいろいろ台無しだよ。

 

目を回したうずまき君はそのまま重力に従って天井からはがれて

 

「「え?」」

 

コトと日向さんの真上に墜落した。

 

べチャッという水っぽい音が教室に響いたと思ったら、次の瞬間にはいつの間にか水浸しになっている日向さんをうずまき君が押し倒していた。

うわ~水場だ。

いろんな意味で水場だ。

 

あ、日向さんが真っ赤になって気絶した。

 

あわてるうずまき君。

 

上がる黄色い悲鳴。

 

教師の怒号。

 

事態についていけずに硬直している月光さん。

 

 

そんな教室の混乱をしり目に、私は教室の床にいつの間にか広がっていた水たまりの傍にしゃがみ込む。

水面に真っ黒な何かが浮かんでいた。

 

「……ああ、そういうこと。道理でなんか違うって感じちゃうわけだわ」

 

私はどこかすっきりした気分で、水面に浮かんでいた―――真っ黒に見えるほどに緻密に術式が書き込まれた札をつまみ上げた。

 

 

 

つうか私以外にも誰か気づきなさいよ。

生徒まるごと1人姿消してるんだから。

 

 

 

 

 

 

「いつかバレるとは予想してましたけど…予想外に早かったですね」

 

事件の後保護の名目で火影様に宛がわれた部屋にカナタがいきなり押しかけてきました。

正直一週間は固いと思ってたのですが。

甘い見通しでしたかね…

 

「いや、実際私も気づかなかったよ。違和感は感じたけど確信持てなかったし……白眼持ちの日向さんまで誤魔化すなんて相当の出来じゃない」

 

「そりゃそうですよ。だってあの『水分身』はもともと写輪眼を欺くことを目標に作り出した代物なんですから」

 

私の中でも会心の作と胸を張って言える出来栄えでした。

もっとも、あまりの繊細さゆえ、耐久性は通常の水分身をはるかに下回るのですが。

取扱い厳禁ワレモノ注意な完全非戦闘用忍術なのですよ。

 

しかしカナタに気取られるとは、私もまだまだですね。

心配かけたくないから、こうして部屋まで押しかけられたくないから使ったのに。

 

「そんな高度な技術を…こんなことに」

 

「勿体ないのう…」

 

しかもイルカ先生や火影様までご同伴とは。

ずいぶんと大事になってしまいました。

高度な技術…ね。

 

「お褒めいただき恐悦至極なのです」

 

「褒めてねえよ!? こんなハイクオリティな代理登校仕立ててまで引きこもる生徒、教師やってて初めて見たわ!」

 

憤慨するイルカ先生。

 

「…授業を受ける気にならんか?」

 

火影様が静かに聞きます。

部屋を貸していただいている身なので正直頭があまり上がりません。

私は正直に答えます。

 

「いえ、授業はちゃんと受けてましたよ?」

 

「どういう意味じゃ?」

 

「これ、実は全自動(フルオート)じゃなくて半自動(セミオート)、つまりは半分手動(リモート)なのですよ。いくらなんでもこんなに自在に動けるような術式は私にはまだ作れないのです」

 

つぶされる直前まではちゃんとノートもとってたのですよ。

つまりあの水分身に仕込んだ札は、自立行動させるためのものではなく、私のチャクラを受信するためのものでもあるのですよ。

いわゆるアンテナですね。

 

「ワイヤレス傀儡の術だとぅ!?」

 

「風の国で特許申請したらそれだけで遊んで暮らせそうな忍術ね……」

 

頭痛を堪えるように頭を押さえるカナタ。

風の国ですか…確か人形作りが盛んな忍び里があるんでしたね。

 

「ハハハ…本当に行ってみるのも良いかもしれませんね」

 

「バカ、里どころか部屋からも出られない引きこもりが何寝ぼけたこと言ってんのよ」

 

カナタは呆れたように私を見つめて

 

「……ひっどい顔。死人みたいじゃない」

 

カナタの声はセリフの内容からは想像もつかないほど労わりに満ちていました。

私はそんなカナタの言葉に「出来れば本当の死人になりたかったですよ」と、力なく返したのでした。

 

 

 

 

 

 

あの事件から、私の生活は一変しました。

木ノ葉病院の病室のベッドで目を覚ました私は、そのまま病院を飛び出してうちは領に直行、『keep out』と書かれたテープを無視して侵入、そして…

 

ゴーストタウンと成り果てた集落の真ん中で私は1人立ち尽くしたのでした。

 

あの時と同じ、人の気配が全く感じられない死んだ場所。

 

後日、生き残ったのは私とサスケ君だけだと聞かされました。

犯人はうちは一族であるうちはイタチお兄さん。

つい最近まで親しくしていた身としては到底信じられる話ではありませんでした。

イタチお兄さんがみんなを殺す? 

バカバカしいにもほどがあるのです。

私の話を唯一真面目に聞いてくれたあの人がそんなことするわけないのですよ…

 

…それなのに。

 

なんで、なんで否定する人が私以外誰もいないんですか!?

 

里の偉い人たちはまるで初めからそのつもりだったかのような手回しの早さでイタチお兄さんを指名手配の抜け忍にしちゃうし、私には過剰なほどの暗部の監視が付く始末。

護衛ではなく、監視です。

向こうは気づかれていないつもりみたいですが感知範囲が広がった私には丸わかりなのです。

ひょっとして私まで疑われますか?

するわけないでしょう!

誰が好き好んで自分の家族とその一族を殺すんですか!

 

サスケ君なら私と一緒にイタチお兄さんの無実を信じてくれるかと思いきや、どういうわけかイタチお兄さんを一族の仇だと完全に信じ込んで視野狭窄の思考停止状態で大暴走。

イタチお兄さんを殺すと息巻いているのです。

どうしてそうなっちゃうんですか、あの時の「兄さんを悲劇から守れるくらい強くなりたい」という誓いはどこに消えましたか!?

聞くところによれば、イタチお兄さんがフガクさんやミコトさんを殺すところを目撃したそうですが……私は信じません!

イタチお兄さんは殺してなんかないです、仮に一兆歩譲って犯人がイタチお兄さんだったとしても誰かに脅されて無理やりやらされたに違いないのですよ!

 

…誰一人として信じてくれませんでした。

良いんです、主張を否定されるのは慣れっこです、全然平気ですよ~と強がっていられたのも最初だけでした。

 

思えば、誰も話を聞いてくれないなんてウソでした。

本当はちゃんと私のことを理解してくれる人がいたんでした。

お父さん、お母さん、ミハネお姉ちゃん、そしてイタチお兄さんにシスイお兄さん……

 

……みんな死んで本当に誰も話を聞いてくれる人がいなくなってしまったのだと気づいたとき、私は部屋から一歩も出られなくなってしまいました。

 

思えば、ナルト君は凄かったんですね。

こんな孤独を生まれたその瞬間から……私ごときでは想像もつきません。

私は弱い……サスケ君みたいに犯人に復讐しようとする気概すら湧きません。

みじめです。

 

こんなことならあの時ミハネお姉ちゃんと一緒に死んだ方がマシでした……

 

 

 

 

 

 

「……本当に、なんで私生き残っちゃったんでしょう?」

 

私の空気の抜けたようなつぶやきは思いのほか大きく響き、カナタも火影様もイルカ先生もみんな黙り込んでしまいました。

ああ、嫌な雰囲気です。

沈み込んでジメジメした空間。

 

私は家族と同じ緩くて温い性質だったはずなのに暗い奴になっちゃってます。

……どうして家族で私1人だけ置いて行かれちゃったんでしょうか…

 

もう私を信じてくれる人は誰もいないのに…

 

「コト…死にたいの?」

 

「……」

 

私は否定を返せませんでした。

というか、今の私は生きているとは言えないのかもしれません。

ただ死に損なっただけなのですから。

そして死ぬ度胸もありません。

結果、ここでこうしてウジウジと蹲っているのです。

 

「私じゃダメ?」

 

「……?」

 

「私がいる。誰も信じないっていうなら私が信じる。それでもコトは独り?」

 

「信じるってイタチお兄さんと会ったこともないのに?」

 

「そりゃ私はイタチお兄さん? とは面識はなかったけど……コトが信じるなら私も信じるよ。イタチお兄さんを信じるんじゃくて、コトを信じる。コトは間違ったことは言わないからね、間違ったことはするけど」

 

カナタは頬をかきながら照れくさそうにして言います。

 

「…信じてくれるのですか?」

 

「そもそも私はコトのこと疑ったことは一度もないし。呆れたことは多々あるけど。私こと空野カナタはうちはコトを信じます。忍びたる者仲間を信じて行動せよってね」

 

でしょ? とイルカ先生に視線で問いかけイルカ先生は大きくうなずきました。

 

「本当に?」

 

「本当」

 

「絶対?」

 

「うん。コトは独りじゃないよ。というか危なっかしくて1人にしておけないし」

 

カナタは照れつつも私から眼をそらしませんでした。

まっすぐに見つめてきます。

私は1人じゃない?

そういえば、私は恵まれていたんでした…カナタだけじゃありません。

ナルト君やヒナタさんだって…

 

「なぜ生き残ったか。その問いに答えられるものはこの場には誰もおらんだろう」

 

火影様が厳かに語ります。

 

「だが、確かなことがある。コトよ。お前は独りではない」

 

火影様の言葉にカナタが、イルカ先生がうなずきました。

 

「失った家族を忘れろとは言わん。死んだ一族の分まで精いっぱい生きろとも言えん。ただ、忘れてくれるな。お主だけでも生き延びてよかったと思っている者がいる。お主が死んだら悲しむ者がいる。努々忘れるな」

 

だから死にたいなどと悲しいことを言わないでくれ。

私はその言葉に何も言い返せませんでした。

私はなんて…

 

「コト、私は「俺もいるってばよ!」うずまき君!? あなたどっから?」

 

「ナルト君?」

 

「「ナルト!?」」

 

見慣れたツンツン頭の金髪少年が窓から飛び込んできました。

ここ3階…いや、関係ないですね忍者だし。

 

…これまた思わぬところから思わぬタイミングで現れたのですよ。

良くも悪くも空気をぶち壊しなのです。

 

ナルト君は私の両手をガシィ!とつかんで

 

「コトちゃん! 俺ってば、コトちゃんの気持ちすげ~分かるってばよ! 俺もずっと独りだったから…」

 

だから! とナルト君は最初に飛び込んできた勢いのまま私に詰め寄って…って、え? あれ? ちょっ、近い近い近い!

気づけばナルト君の顔が度アップです。

超近いのです。

どのくらい近いかというと、ナルト君の碧眼に移り込んだ私の顔が見えるくらいなのですよ。

うわ~

 

「俺は、コトちゃんに感謝してるんだってばよ!初めての友達だから!だからコトちゃんに生きていてほしいってばよ!」

 

死にたいなんていうな!とナルト君。

 

 

たぶん、私の顔は真っ赤です。

 

 

(うわお直球…うずまき君、私が恥ずかしくて言えなかったことをこうもあっさり…)

 

カナタが何やら畏怖の籠った目をしてるのです。

おかしい、空気が変です。

 

いや確かに沈んだ空気はノーサンキューでしたけど、だからってなんでこんなピンク色に!?

いくらなんでも変わりすぎでしょう!

イルカ先生! そこで息子の成長を見守る父親みたいな表情してないで止めてください。

火影様も朗らかに笑うな!

 

「まあ、そんなわけでコトは独りなんかじゃないってことよ。まだ死にたい?」

 

「別の意味で死にたいのです」

 

なぜこうなったし。

でもまあ、よかったです。

 

思えば南賀ノ神社の生家からここに移った時から、自分の居場所がなくなってしまったような気がして自暴自棄になっていたかもです。

 

私の生きる意味はちゃんとここにあったのです。

 

なんで私は生き残ったのか、今なら理解でき―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら今までが心の余裕がなかったせいで頭が上手く働いていなかったようで。

ここにきて安心したせいかようやく冷静な思考が戻ってきたようです。

 

そしてその冷静になった頭で先の事件を振り返ってみます。

 

うちは一族皆殺し。

 

生き残ったのは私とサスケ君だけ…のはずです。

実際私もサスケ君も生きてますし。

 

でも待ってください。

私の記憶が確かなら、私あの時()()()()()()()()

 

あの首を切り裂かれて血とか命とか魂とかいろいろな大事なものが体から抜けていく感覚は忘れようにも忘れられません。

間違いないのです。

私はあの時確かに死んだのでした。

 

 

でも、それじゃあいったい…

 

 

私いったいなんで生き残っちゃってるんですか?

 

 

急に様子が変化した私を周囲がいぶかしげな様子で見つめてきますが、正直構っていられません。

 

 

そういえば、私のすぐ近くでこと切れていたミハネお姉ちゃんの死に様も変だったそうです。

他のうちは一族の人が、首を切り裂かれたり心臓を一突きにされたり、何者かによって即死させられているのに対し、ミハネお姉ちゃんだけがどういうわけかチャクラ枯渇による衰弱死だったのですよ。

 

何故に下手人はミハネお姉ちゃんだけ手口を代えたのか…そもそも衰弱死させるなんてどんな術を使えばそんなことに……ひょっとして変えてない?

 

思い出すのですうちはコト!

確かあの時私はお姉ちゃんを見つけて駆け寄って、お姉ちゃんは血まみれで…つまりミハネお姉ちゃんは最初は他の人たちと同じようにして死にかけ、否、殺されかけていたわけです。

そして私はそんな血まみれのお姉ちゃんをなけなしの札と素人医療忍術で助けようとして…そのあとに後ろからザクっと……この後何かが起きたのですか?

 

普通に考えるなら犯人はそのまま立ち去ったはずです。

その場にとどまる意味はないですし。

 

でも実はミハネお姉ちゃんはこの時息を吹き返していたとか…

 

いやいやいやそれなら今この場で生きているのは私ではなくミハネお姉ちゃんのはずなのですよ。

でも実際生き残っているのは私なわけで…

 

う~んチャクラ枯渇の衰弱死ってことは、お姉ちゃんはあの時チャクラを命に係わるレベルで大量消費したということですか?

 

そしてその結果、死んだはずの私がなぜか生還。

それも傷1つない健康体で。

 

 

……ということは、つまり……

 

私は信じられないような結論にたどり着きました。

 

いや待ってください。

いくらなんでもそれは…ありえないのです…でもそうとしか……

 

「あの…火影様? 1つ聞きたいのですが…」

 

「なんじゃ?」

 

「この世には()()()()()()()()()()なんてものがあるんですか?」

 

 

火影様の表情が崩れました。

ほんの一瞬、本当に一瞬でしたのですが、私は見逃しませんでした。

 

 

 

あ る ん で す ね ?

 

 

 

「ちょっ、コト、あなたいきなり何言ってるのよ? いくらなんでもそんな術あるわけないじゃない」

 

「そうだってばよ。それにそんな術なくても俺が火影になってコトちゃんを守るってばよ!」

 

「あ、はい。そうですね、ありがとうございます。そしてご迷惑をおかけしました。私はもう大丈夫なのですよ」

 

ええ、本当に大丈夫なのです。

希望を見出しましたからね。

 

「よし、こっちの問題はさておきナルトはこのまま補習室に来い。今日という今日は許さん!」

 

「ええ~!? そんなぁ~」

 

「そういえば、うずまき君、今度は何したの?」

 

「ああ、聞いてくれよ、実はな―――」

 

私は周囲の雑音をシャットアウトして独り思案します。

 

実際問題は山積みです。

私に使えるかどうかなんて分かりませんし。

仮に使えてもとんでもないリスクをはらんでいるのは確実でしょう。

実際、お姉ちゃんは力尽きてしまったみたいですし。

火影様が隠そうとするのも納得のデンジャーな術なのです。

 

でもあると分かっただけで大きな収穫なのです。

 

目指せ、うちは復興なのですよ!

 

 

 

 

 

 

1人静かに黙考するコトを、火影・猿飛ヒルゼンは愕然とした顔で見つめていた。

賢く優しい白い少女、闇に落ちる素養なんてどこにもない…はずだった。

 

ひどく危うい少女の姿は、かつて里を抜けた1人の弟子の姿と重なって見えた。

 




主人公はサスケみたいに昏い野望を抱くことはありませんでした。
代わりに希望を手にしましたから。

やめて~
鋼錬の真理君が手招きしてるよ~
金遁・人体錬成の術とか使っていろいろ持っていかれそうです。

まあ、そんな冗談はさておき。

ナルトにフラグが立ちました。
大蛇丸にもフラグが立ちました。

そして地味にオリキャラも増えてます。
名前自体は前にも出てましたけど。

そんなこんなで転換点にもなった話でした。

ちなみに、ワイヤレス傀儡の術。
原理はペイン六道と同じです。
無論本家本元とは比べ物にならないくらい小規模版ですが。

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