東方幻創録―永人行雲譚   作:鳥語

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 (まる)
 思いつきの外伝的なものです。(一日クオリティ)

※注意点
・原作キャラはほとんど出てきません。 
・おまけ的なものです。
・作品内容に関わる事柄がありません

 それを踏まえて楽しめる人だけご閲覧お願いします。



。と区切りて、最期へ歩く [外付け]

 思い出す。想い出す。

 過去のこと。昔のこと。

 己の歴史。経験の事。

 

 つまりは、今までの日常の話。

 積み上げてきた日々の恒常。

 

 己が己であったのは、それがあったから。

 それがあったから、己は生きて、生き過ぎている。

 

「話すとすれば」

「話すとすれば?」

 

 耳を傾ける少女は、今の友人。

 最近といえる時間にであった新しき人。

 先の想い出として残されるもの。

 

「俺は爺さんだってことですよ」

「何よ、それ?」

 

 花実が散って、葉が落ちて。

 旬が過ぎて、盛りが終わり。

 

 残るは枯れ木と落ち葉のみ。

 

「昔の名残――過去の遺物の、それまたとるに足らない何処にでもあったもの」

 

 路傍の石やら道端の雑草か。

 大衆に入り交じるただの一人に過ぎず、日常何処にも入り交じる当たり前とそこにあるもの。

 いくらでも代わりのきく――それに少しの特別を混ぜたもの。

 よくある、個人個人の少しの特別が、ただそれだっただけ。

 

「それが長い年月を経て、九十九と動き出すように――込められた時間を元に足を得ただけ」

「……」

 

 歩くことを覚え、話すことを知り、見聞きして、見様見真似で生きようとした。

 生き抜いて、生き続け、生き過ぎた。

 

「時代遅れの古狸。使い古しの擦り切れ調度」

 

 骨董品ともいえない古道具。

 価値のない、ただ時間を経ただけの日常品。

 

「それじゃあ、何でずっと生き続けているのかしら?」

 

 問われるのは、その意味か。

 疑われるのは、その意義か。

 

 何を持って、生きる理由とするのか。

 その答えを考えるとすれば。

 

「壊れていない。なら、壊れるまでは使ってみよう――ただ、それだけだ」

 

 生き続けるのに理由はいらないように、死に急ぐべき理由もない。

 それは放っておいてもいつかくる。なら、走っていくこともない。

 遣り残し。やりたいこと。やらずにいたこと。

 終わらずずっと、干上がらずに水は沸く。

 

 わざわざ、井戸を壊すこともない。

 

「いつかは終わる――なら」

 

 

 

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 ドンッ、と鳴る。

 煙を吐き出し、煤を巻き上げ、空気を汚して吹き上がる。

 

 白煙。黒煙。

 灰の色。黄色の火花。

 熱さ。痛さ。息苦しさ。

 

「うきゃあ!」

 

 吹き飛ばされて飛んでいく。

 弾け飛んで落ちていく。

 

 そして。

 そして――

 

「ぬおわっ!」

 

 ぽすりと、柔らかく。

 ふわりと、温かく。

 

――うん?

 

 なんだろう。

 いつもなら、この辺りでさらなる痛みと衝撃が私を襲い、「ああ、またしばらく動けないだろうな」という考えと共に、意識が飛んでいってしまう。

 そんなはず。

 

 けれど、今のはそれと全然違う。

 

 人肌に温かく、着物のような感触で、誰かに持ち上げられているような浮遊感。

 とうとうあの世まで飛ばされたのか、と閉じていた瞼を持ち上げてみると――

 

「なん、だ。一体?」

 

 まさに、その状況だった。

 誰かが私を受け止めて、私の体を抱えて、衝撃全てを止めてくれていた。

 痛みを逸らしてくれていた。

 

――……?

 

 よくわからない。

 誰だか知らないけれど、私を助けてくれたのだろうか。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、はい……大丈夫、です」

 

 「そりゃ良かった」と頷いて、誰かは私を地面へ下ろす。

 そして、何やら険しい顔をして私が方を飛んできた方を眺めて、「事故か事件か」やら「手を出すべきか……いや」やらと小さく呟いて、思案気な顔をしている。

 私を助けたことなど、ほとんど気にしていない様子で――煙の方を気にしている。

 その心配そうな姿に――ああ、この人は苦労してそうだな、なんて見当違いのことを考えた。

 

――ああ、いや、そうじゃなくて……。

 

「あ、あの!」

 

 顎に手を当てて悩む様子の男の人に向けて、慌てて声を出す。

 

「あれは違う……大丈夫なんです!」

 

 驚きもやっと落ち着いて、状況を呑み込めてきた。

 この人が考えていることは違う。間違っている。そんな問題はないのだ。

 あれは、ただの――

 

「ただの実験の失敗で――だから、すぐに」

「実験?」

 

 首を傾げる男。

 そうだ。私はこの人のことを知らない。そして、この人も私のことを知らない。

 なら、きっと彼はよそからここに来た人間だ。

 だから、しらないだけで。

 

「はい。だから、大丈夫」

 

 だって、こんなことは。

 

「いつものことなんですから!」

 

 大きな声で行った言葉に、その人は、ますます首を傾げた。

 それに必死で説明する。

 誰に言っても通じないことを。誰に話しても解かってくれないことを――みんなに及ばぬ、私がなそうとしていることを。

 

――多分……。

 

 この人も信じてはくれない、

 まして、私は先ほど盛大に失敗をしてこうなったのだ。

 

 ただの危ないこと。ただの危ないもの。危ない人。

 そう思われて、いつも終わる。

 

――それでも……。

 

 私は信じている。

 この海を渡ってきた書にのった様々を――理の先にある神秘の奥を。

 いつか実現してやると、活きこんで、ずっと続けているのだ。

 

「私は、新しいものをみたい」

 

 だから――

 

 

「そりゃあ、面白い」

 

 

 その人はそう言った。

 その男の人は、笑っていった。

 

「それが叶ったら――また、見せてくださいね」

 愉しみにしてます。

 

 

 そういって、何処かへと通り過ぎていった。

 

 

 

 

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「ちょっと……ちょっと待っておくれ!」

 

 視線の先。

 その先にある籠の中で寝息をたてる赤ん坊。

 間違いなく。嘘偽りなく私と血の繋がっている可愛い赤ん坊。

 

 けれど――

 

「は、早く起きて!」

 

 私は怯えている。私は危機に立っている。

 それは、辺りに浮かぶ見えない何かが、私を囲っているとわかるから――あの眠った赤子が、それを邪魔させまいと、力を使っていることがわかるから。

 

――ああ、もう。

 

 私には理解できる。

 生まれたときより、己の赤ん坊が力を持っていることは感じていたのだ。己の身もそうだったから、そういう感じは知っていたのだ

 だから、それはわかっている。その力が使われていることは――

 

「でも、でもさあ」

 

 それを感じることはできても、私はそれを避けられないのだ。

 だって、私はそれを感じることができても、見ること操ることもできない。ただ、あるかどうか。いるかどうかが判るだけなのだ。

 ただ、それだけで――けれど、産まれた赤ん坊は私を遙かに超える力を持っていた。まだ赤子に関わらず、その力を使って、何かをできる能力を持っていたのだ。

 その噂を聞いてやってきた法師様が言うには、千人に一人の才をもっているという。

 それを素晴らしいことだと、将来が有望だとみんな喜んだ。私も喜んでいた。

 

 けれど――

 

「何も、こんな道端でさ」

 

 それは、まだ道理も知らぬ幼児には過ぎた物だった。

 言葉も通じず、制御も利かず、赤ん坊は感情のままに力を放つ。わがままを通し、泣き声と共に、その力を周りに行使する。

 幼いそれは、まだまだ弱くてそれほどの脅威にはならない――ならないのだが。

 

「いっ!」

 

 チクッと痛い。

 透明なそれは無数に空中に浮かんでいて、当たるとチクっとする――しかも、そこら中にまき散らされて、赤ん坊を守ろうと蠢いている。

 

――勘弁しておくれ……。

 

 眠り込んだ赤子がそれを邪魔させないように。

 こんな道端で、母親である自分を追い出して、自らの揺り駕籠を作る。眠りたいと、わがままを言う。いや、思った感情そのままに従って、そのまま力が飛び出してしまっているのだ。

 子供は我慢が利かぬもの。気持ちのままに叫ぶもの。

 この子は、使えてしまうから、それが大げさな力となってしまう。

 悪いことをやっているが、悪いことをしたいわけではないのだ。

 しかし――

 

「そんなこと言ったって……」

 

 これでは、邪魔となってしまう。

 里の道一つを遮断して、その眠る場所にしてしまうなんて――たとえ、子供のやることでも、誰かに迷惑をかけてしまう。

 許してくれても、罪となってしまう。

 

――それじゃあ、みんなに顔向けできない。

 

 解ってくれるはずだ。

 けれど、それでこの迷惑がなくなるわけじゃない。恥でもあるし、罪でもあるし――何より、子供の重荷となる。

 何もわかってない子どもに、最初から重さを持たせてしまう。

 

 それは、嫌なのだ。

 

 だから――

 

「やめておくれよぉ」

 

 この先、きっとこの子は辛い想いをする。厳しい世界に生きることになる。

 だからこそ、なるべく荷を軽くして送ってやりたい。迷惑をかけても、笑えるほどにすませてやりたい。

 

 だからこそ――

 

「――れ」

「ちょっとすいませんよ」

 

 その名前を呼ぼうとした所に、不意の声。

 低い、落ち着いた声が聞こえて――誰かが立っていた。

 

「はいはい、泣かない泣かない」

 

 赤ん坊が泣いている。

 自分の場所に踏み入れられて、のんびりとした眠りを邪魔されて――それでも、何もできずに泣いている。

 

 あったはずの感覚が、なくなっている。

 

「えっと、そちらのお子さんですか?」

「え、ええ、そうです」

 

 籠を大事そうに抱えて、私の前に立つ男。

 知らない顔の、知らない人間。

 

「随分、力をもっている――大事にして上げてくださいね」

 

 優しくそれを渡して、ほがらかに笑む。

「あ、ああ」と呆気にとられたままに答えると、「うん」と嬉しそうに笑って――楽しそうに通り過ぎた。

 

 まるで、雲か風の何かのように、つかみ所なくふらりと行った。

 

 

 

 おぎゃあおぎゃあと泣く赤子。

 その手に握られた小さな袋。

 

 

 あの不思議な感じは、すっかりとなくなっていた。

 

 

 

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「はあああ!」

 

 裂帛の気合いを持って拳を叩きつける。

 鋭く研いだ力を込めて、磨き上げた肉体を全霊で稼働させ、命を込めて拳を振るう。

 

「うがあああ!」

 

 獰猛な牙が並ぶその中心。

 堅い硬質化した皮膚と鱗の並ぶそのただ一つの柔らかい場所に向け、己ただ一つだけの武器を振るう。

 咬み切られる寸前、喰いちぎられる瞬間を抜け、生死の合間をこじ開け進む。

 

 鍛え上げた己の拳。

 

「ああああ!」

「ぐがああ!」

 

 

 瀬戸際での、気迫の声。

 互いに既にぎりぎりで、殺すか殺されるかの最期のやりとり。

 

――勝つ。絶対に勝つ!

 

 

 終わりの一押し。

 

「あああああ!」

 

 

 互いの声が重なって――ー

 

 

 

「――――!!」

 

 

 断末魔。

 声なき声で、それは終わる。

 

 つまり――

 

 

 

「お、終わった……」

 

 

 己の勝ちだ。

 

「やった、やった!」

 

 やり遂げた。

 あの凶暴な化け物を――里を荒らす悪逆な妖を、己の手で倒しきった。

 この拳。

 ぼろぼろになりながらも、己の信念全てを込めたその一念の一撃を持って、その敵を討ち果たした。

 

 己は、全てをやりきったのだ。

 

 

「はあっはあっ」

 

 その代償は、とても大きなもの。

 己の命――流しすぎた血に、傷だらけの体。もはや、里まで保たぬだろう。そう実感できる痛みと寒さ。

 

――ああ、でも、やったんだ。

 

 人知れず里に近づいて、襲いかかろうとしていた非道の妖怪。その魔の手から、里を守りきった――みんなの命を、守ることができたのだ。

 

――ああ、嬉しいな。

 

 拳を振るうしか能のない己。

 それが、里のみんなを――家族や友人を守れたのだ、

 こんなに、嬉しいことはない。

 

「ああ、でも……」

 

 最期に見たい顔。

 終わりに会いたい人が次々と浮かんでくる。

 親不孝してごめん。迷惑かけてごめん。喧嘩ばっかりしてごめん。

 一緒にいてくれてありがとう。助けてくれてありがとう。笑ってくれてありがとう。

 

 伝えたい。

 伝えたい言葉が、次々と浮かんでくる。

 どうしても、届けたい想いが沸き上がってくる。

 

――ああ、これが走馬燈ってやつかな。

 

 涙があふれる。

 顔がくしゃくしゃになる。

 

 どうしても、我慢できない。

 

「生きたい……生きたいよぉ」

 

 もっと、一緒にいたい。

 もっと、誰かと笑っていたい。

 

 助かりたいと。生きていたいと。

 心が、叫ぶ。

 

「もっと――」

 

 もっと、強ければ。

 もっと、力があれば、みんなと一緒に。

 

「――――!」

 

 手を伸ばす。

 拳をあげる。

 

 その先に――生きていたいと願う。

 

 

――強くなって……。

 

 ずっと、先まで。

 みんなを守って、進みたかった。

 

「ごめん」

 

 最期に謝るのは、その相棒。

 もっと先まで連れていってやれなかった、ずっと一緒にいてくれた己の命。

 

 

 こみ上げる涙。

 悔しいと想う気持ち。

 

「……」

 

 最期まで、無くならない生への渇望。

 そうだ。私は――

 

 

「なら、生きてみなさい」

 

 

 誰かの声。

 僅かに聞こえた、誰かの言葉。

 

 

「どうせなら、飽きるまで、ね」

 

 

 

 その声を最後に、意識が閉じた。

 

 

 

―――

 

 

 

 ゆらゆらと、誰かに揺られた気がした。

 ぽかぽかと、何かが温かかった気がした。

 

 そして、光が射した。

 

「ここは……」

 

 気づいたら、私は里の医家にいて、治療を受けていた。

 あれだけ酷かった傷にも、包帯がぐるぐるに巻かれていて――痛いけれど、ちゃんと痛かった。

 生きているのだと、理解できた。

 

「おう、若いの。何とか生き残ったみたいだな」

 

 いつも世話になっている先生が、横で笑っている。

 どうして、とわけもわからずおろおろとしていると、先生は笑って説明してくれた。

 

 

 町外れで倒れていた私を、見慣れない男が背負って運んできた。傷だらけでぼろぼろだったけれど、既にいくらかの治療がされていた。応急処置が良かったのもあって、何とか助かった。

 そんな感じらしい。

 

 私は、生き残ったのだ。

 

「ほんとに、奇跡のようなこった」

 

 先生は嬉しそうに笑っていった。

 その目に、少し水滴があったのは……きっと気のせいだ。そういうことに、しておこう。

 

 私は、そう思って笑った。

 

 そして

 

 

「それで」

 

 

 私を助けてくれた人は――

 

 

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「随分な、変わり者ね」

「失礼な」

 

 己のなんとなくの人生論に、けちをつける少女。

 確かにその場その場で考えついたままに生きてはいるが――お天道様に顔向けできないことはない。

 悪いことは、ちゃんと日陰で細々とやっている。人にどうしようもない迷惑をかけるようなことはしていない。

 

「俺は――」

『あれは――』

 

 

 過去のこと。最近のこと。未来のこと。

 やったこと。やらなかったこと。やりたいこと。

 

 

「好き勝手に――生きてるだけですよ」

 楽しくね。

 

 軽い調子に笑った己に、呆れたように少女も笑う。

 ふざけた様子で、腑抜けた調子で――今を生きている。 

 

 それが己の『らしさ』というもので。

 

「今日も今日とて――」

 

 死ぬまで生きる。

 そう決めている。

 

 

 

 

 

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『通りすがりの変わり者』

 

 

 そういうものに、私は助けられたらしい。

 そんな、随分とおかしな話だった。

 

 

 




 最期まで、ちゃんと歩き続ける、と。

 そんな感じの気ままに外伝短話です。
 思いつくままに書けば、主人公より主人公らしいキャラがいたと、そんなお話ですね。


 お楽しみいただけたら光栄でした。

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